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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


■リンドブルム極秘指令■
 深夜、突然彼の元に参謀本部からの呼び出しがかかった。戦争が終結したとはいえ、いまだ中東の復興や英国支援など、問題は山積している。この時間の呼び出しとあらば、余程の事なのだろう。
 クリストフ・ミュンツァーは、英国から帰還する早々任務に振り回されっぱなしである事に少しため息を漏らしながら、漆黒の制服をハンガーから引き剥がした。
 ミュンツァーにその命令を伝えに来たのは、ミュンツァーの執務のフォローを行い、英国から彼に従って戻ってきたアイアンメイデンだった。頼まれた仕事はそつなくこなし、ミュンツァーのメンテナンス管理まで行っている。
「今度はまた、一体どんな難題を持ってくるんだ‥‥ローゼンクロイツ卿は」
 ミュンツァーは、半ば諦めぎみに聞いた。メイデンはにっこりと笑みを浮かべて、ミュンツァーに答えた。
「英国での極秘任務と伺っております」
 英国というと、国王関係か‥‥それともプラントを使うのか。ミュンツァーは任務の内容を考えながら、参謀本部内政総長であるエルンスト・ローゼンクロイツの元に向かった。

 騎士であるミュンツァーは、永遠にその外見年齢が変わる事は無い。若くして機械の体となり、騎士として人々を守るという使命を背負った時から、彼はずっと15歳の少年のままである。本来の年齢はそれより上であるが、ローゼンクロイツの年齢はもっと上だった。
 本来、騎士であるミュンツァーの方が参謀のローゼンクロイツより立場は上という事になるが、ミュンツァーは自分よりずっと年齢が上で、なおかつ経験と実力も豊富なローゼンクロイツに、敬意を表して敬語を使っていた。
「‥‥さて、深夜に呼び出した理由をお伺いしましょうか」
 ミュンツァーは、ローゼンクロイツにさっそく本題の答えを求めた。ローゼンクロイツは、いつもの柔らかい笑みをたたえてミュンツァーを見ている。
「‥‥キミに頼みがあります。この任務は、英国ですばらしい成績をあげたキミにしか出来ないと思っています。本国から動けない私のかわりに、この任務をこなして頂きたいのです」
「期待されているようですね」
 ミュンツァーは肩をすくめた。断りきれないローゼンクロイツの視線に、ミュンツァーは軽く頷いた。
「‥‥わかりました。元より極秘任務とあらば、断りは致しませんよ。何なりとお受けしましょう」
「有り難うございます。これで私の肩のにもおりましたよ」
 ローゼンクロイツは頭を下げた。ミュンツァーは、その肩に手を置いて頭を上げさせる。
「止めてくださいよ、ローゼンクロイツ卿。私はそれが任務だから遂行する。それだけです」
「いいえ‥‥本当に感謝しています。これは私情が入っていますから」
 ローゼンクロイツは少し申し訳なさそうな顔をして、デスクの横に置いた箱を持ち上げた。ミュンツァーはローゼンクロイツが重そうにしているので、手を貸してその箱をデスクに置いた。何が入っているのか知らないが、見た目通り‥‥重い。
「‥‥何でしょうか、これは」
「これを英国に持ちこみ、量産して欲しいのです。その上で、市民に浸透させる事‥‥それがあなたの任務です」
 そう聞いて、ミュンツァーは箱を開けようとした。しかし、その手をローゼンクロイツが止める。ここでは開けてはならないらしい。ミュンツァーの中に、緊張が走る。視線を横に向けると、ミュンツァーの秘書のメイデンは、その中身を把握しているかのように、冷静な表情で立っていた。
「何が入っている」
「‥‥今は申し上げられません」
 メイデンは、薄く笑って答えた。
 今回の任務は、秘密だらけだ。ミュンツァーは静かに箱を見下ろした。

 ローゼンクロイツの元に、英国のミュンツァーから通信が入ったのは、数週間後の事だった。英国に戻ったミュンツァーは、ローゼンクロイツの命令通り、カルネアデス代替機の設計図に紛れさせてその箱を英国へ持ち帰り、極秘にプラントで量産を開始した。その手伝いを行っていたのが、ミュンツァーの秘書メイデンである。
 彼女を通じて、ミュンツァーの任務の様子は逐一聞いていたから、ミュンツァーが真相を知ったらば、必ずここに連絡が来るだろう事も想像していた。
 ローゼンクロイツは、何事もなさそうな声で、通信に出た。
「ミュンツァー卿、任務はどうですか」
『‥‥あなたも人が悪いですね、ローゼンクロイツ卿。あなたが食わせものであるのは知っていましたが、今回は本当にしてやられました。‥‥最初から私に片棒を担がせる気だったのですね』
 ミュンツァーは、冷たい声で言った。声は冷静だが、黙って任務に手をつけてしまった事を少しだけ後悔しているようだった。しかしローゼンクロイツは、慌てる事なく答えた。
「だから私情、と言ったじゃないですか。‥‥それに、少し位は想像していたんじゃないんですか」
『‥‥』
 ミュンツァーは答えなかった。ローゼンクロイツは、さらに話しを続けた。
「ミュンツァー卿。あなたも知っての通り、連邦が作り出した文化は、UMEの人々からは西洋の悪魔の文化として排除されようとしています。私は、これが人々の生活や心を豊かにするものだと思っています。だから、あなたに頼みました」
『言い訳ですね』
「‥‥はは、その通りです。しかし、私はこの文化に新天地を与えてやりたいのです。私や‥‥メイデンたちの頼みを聞いてもらえますね」
 通信機の向こうのミュンツァーは、これが正規の騎士の任務外である事を十分に承知していた。私事で、プラントを使用してしまう。それがどういうことか、分かっていた。
 やがて、ミュンツァーは口を開いた。
『‥‥分かりました。あなたに一つ貸しを作りましょう』
「ご理解頂き、感謝します」
 ローゼンクロイツは通信回線を切ると、傍らで心配そうに自分のやりとりを聞いていたアイアンメイデンを見た。
「‥‥これでいいですね。私も‥‥あなたに貸しを一つ作りましたから、覚えておきなさい」
 メイデンは、肩をすくめて笑った。

 そして1ヶ月後‥‥。
 英国で、ミュンツァーは何故か不釣り合いな場所に姿を現していた。不釣り合いだし、とても気が向かなかったが、ローゼンクロイツから命令を受けているから仕方ない。
 ミュンツァーは、憮然とした表情で、秘書のメイデンの後ろをついて歩いた。メイデンはとても上機嫌である。その手には、数冊ほど本が抱えられていた。
「あー良かった‥‥あのアル様本が買えなかったら、どうしようかと思いました。さてミュンツァーさま、次はプラハのスペースに行きますよ!」
「‥‥」
 もう、彼女には何も言うまい。言っても無駄だ。
(この会場の警備のつもりで、付いて回るしかないな‥‥。ローゼンクロイツ卿‥‥貸しは大きいですからね)
 ミュンツァーは心中で呟いた。

 事のはじまりは、ローゼンクロイツにメイデンたちが“もっと同人誌を広めたい”“UMEが連邦に居る間は、同人誌を大手を振って売り捌けない”と泣きついたことにある。
 同人誌については理解のあるローゼンクロイツも、メイデンたちを無視出来ず、英国で活動しているミュンツァーで同人誌を広めるように頼んだのだった。
 その同人誌を量産するのに使ったのが、プラントだ。深夜にプラントの警備の名目で入ったミュンツァーは、プラントでなんと同人誌を量産(とても高価な印刷機になったが)。
『あまり市民の娯楽を取り締まるのは、良くないんじゃないかと思いますけどね。‥‥UMEとて、排除しろとか弾圧しろとは言いませんよ』
 ミュンツァーの言葉に、ローゼンクロイツは通信機の前で頷いた。
「それは分かっていますよ。今彼らは、余程の事が無い限り連邦内の問題に干渉したりはしません」
『じゃあ、何故私にこんな事を頼んだりしたんです? ‥‥まさか英国で同人誌即売会がしたかったから‥‥なんて言いませんよね』
 やや強い口調でミュンツァーは聞いた。ローゼンクロイツの事だから、そういう考えが無いとは言い切れない。‥‥いや、そうに違いない。ローゼンクロイツはははっ、と軽やかに笑った。
「さてね、私はメイデンたちの笑顔が見たいだけですが」
『‥‥』
 そういう事にしておきますか。ミュンツァーはため息まじりに、そう言った。

■コメント■
 どうも、立川司郎です。
 モノがモノだけに、コメディ調にならずにというのはちょっと難しかったです。