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<東京怪談ノベル(シングル)>


【白狼の軌跡――第二ステージ〜微笑みの為に〜】
「隊長、捕虜の拘束が済みました。本部に連絡をお願いします」
 部下からの急かす声が飛び込み、蒼いバンダナを巻いた青年は視線を流す。視界に映るのは両手を拘束された武装集団の女リーダーだ。トゥバン・ラズリの黒い瞳が冷たい色を放つ。
「武装集団の鎮圧成功。敵パイロットは‥‥」
 感じ取れぬほどの僅かな間に、拘束された少女達が固唾を飲む。このままUMEの基地に連行されるのだろう。後に待つのは如何なる地獄か‥‥。
「敵パイロットは抵抗により全員死亡」
「なっ!?」「‥‥隊長」
 表情を変容させたのは二つ。武装集団の少女達とトゥバン小隊の部下等だ。そんな中、上官との通信を終えたトゥバンが顔を向ける。
「通信の通りだ。武装集団は鎮圧した。俺達は共に戦う意志を見せた村人の娘達と基地へと戻る。以上だ」
「了解です、隊長」「我々には隊長の言葉が事実ですよ」
 部下等が非難しない事からも、隊長である蒼いバンダナを巻いた青年が信頼されている事を彼女達は知っただろう。しかし、訊ねねばなるまい。
「ちょっと! あんた、何を考えてんのさ! アタシ達をどうしようっての?」
「‥‥キミ達を同胞として迎える。UME軍へ強制入隊だ。力が必要なら鍛えてやるさ」
 フッと笑みを浮かべて、蒼いバンダナの青年はウインクして見せた。

●武装集団の裏に潜む者
「MSを運用できる規模の集団を調査だと?」
 刀傷を碧眼に走らせたトゥバンの上官は、鋭い眼光を流した。
「武装集団が動けば罪も無い離村が襲われ、誰かが必ず泣く事になる。‥‥俺は奴等が動くのを待つのは耐えられません!」
――しかし、容易い事ではない。
 ようやくUMEとして機能した昨今、混乱期にMSを確保した氏族も少なくないだろう。
「上層部に調査は申請しておこう。時に少尉、村から勇士として数名の志願兵を連れて来たそうだな? それも若い女ばかりとか」
「志願する者に男も女も関係ありません! 彼女達は俺が責任を持ちます!」
「‥‥ほう、村娘がMSを操れるとは思えないがな。それに普段の少尉なら、別の答えが聞ける筈だが?」
「そ、そんな事は」
 上官は何もかも知っているのかもしれない。内心トゥバンは脂汗を滝のように流していた事だろう。
――そんな時だ。
 突如耳障りな警報が鳴り響き、オペレーターの声が飛び込む。
『武装集団を確認しました! MS小隊、出撃して下さい!』
「トゥバン小隊、出撃します! それでは」
 内心ホッとしながらも表情を固く、青年は敬礼をするとドアから飛び出して行った。

●分かち合う悦び
 荒涼と広がる熱砂の大海を、砂塵のシュプールを描いてジーニー小隊は突き進んでいた。その後を一台のオフロードカーが追う。
「トゥバンより各機へ、間も無く襲撃されている村だ。何時もの様に頼むぞ!」
『了解!』
 部下の淀みない返事を聞き、トゥバンはレーダーに映る後方車両へ通信を送る。
「いいか、俺の戦い方をよく見ておくんだな」
『‥‥いいのかい? 隊長さん。アタシ達、戦闘に紛れて逃走するかもしれないよ』
 僅かな間を置いて飛び込んで来たのは女リーダーの声だ。蒼いバンダナの青年は返答にフッと笑みを浮かべて見せる。
「武装もない車両で逃走したけりゃすればいいさ。尤も、この砂漠で生き残れる保証は無いがな。!! あれか」
 望遠カメラに映る黒炎にトゥバンは表情を固く変容させた。次第に瞳を研ぎ澄まし「行くぞ!」と声をあげると共に、一気にフットペダルを踏み込む。忽ちジーニーは加速してゆき、戦場へとライフルの甲高い咆哮を響き渡らせた。
 威嚇射撃に野盗等が気づき、動揺を見せながらも銃弾を放ち応戦して来る。散開する数台のオフロードカー。規模から察するに、村を襲撃して食料等を強奪するのが目的だろう。白銀に輝くジーニーを中心に、部隊も敵の動きに合わせて散開する。巧みに機体を操り、ホバーザックの特性を活かして敵車両を捉えたまま水平移動で滑り込ませ、タイヤ目掛けて銃弾を叩き込む。着弾と共に派手に宙を舞い砂煙に包まれる車両もあれば、砂柱に視界を奪われ、また或る者は付近の砂に着弾した衝撃でコントロールを誤り、次々と沈黙してゆく。
 その様子を戦線から離れて少女達は覗っていた。
「あの人、本当に敵を殺さないんだぁ」「すごぉ〜い☆」
「はんっ! あれはMSの性能のお陰って奴さ。(‥‥トゥバン、ラズリ、か‥‥)」

――瞬く間に野盗の戦力を奪い、村に平穏が訪れた。
 村人は長老を中心に笑顔を湛えてトゥバン等に感謝した。そんな様子を少し離れて窺っていた少女達に、一人の幼い女の子が駆けて来る。
「お姉ちゃん、ありがとう☆」
「あ、ああ」
 満面の笑みを見せながら両手で差し出したのは、色艶やかな一輪の花だ。戸惑いながらも彼女は受け取った。そんな遣り取りを窺い、蒼いバンダナの青年が近寄る。
「どうだ? 村人の笑顔に溢れた顔は。誰も傷付かないからこそ、得られる笑顔だ。俺はそんな笑顔を出来る限り守りたいと思っている」
「‥‥トゥバン、ラズリ‥‥アタシは」
「隊長! 数台のキャリアカーを確認しました!」
 少女の言葉に割って入るように、哨戒を務める部下の声が飛び込んだ。穏やかな表情を一変させ、トゥバンは機体へと滑り込む。起動スイッチを次々と入れながら、状況を確認する。
「敵か?」
『分かりません‥‥真っ直ぐ向かって‥‥ !! 撃って来ました』
「おい、おまえ達は村人の安全確保を頼む! トゥバン小隊出るぞ!」
「お、おいっ!」
 ローター音と共に砂塵を舞い上がらせ、女ボスは細い腕を翳して彼等を見送るしかなかった。仕方ないと村人の避難誘導を始める。
「‥‥ったく、皆は奥に避難しな!」
『隊長、キャリアカーは拘束した野盗へと向かっています!』
「味方を助けるつもりか? 集団の組織が大きいって訳だ」
 次々とキャリアカーから砲撃が轟く中、砂塵を巻き上げてジーニー部隊が滑走する。放たれる対地ミサイルと響き渡る銃声。再び砂漠の一帯は戦場と化す。と、その時だ。砂塵の煙るキャリアカーの後方から飛び出した漆黒の影が機体を滑り込ませて赤い閃光を浮かび上がらせた。掻き鳴らされたのはバルカンの旋律だ。
「MSだと? 何だ、あの機体は!?」
 望遠カメラに捉えた漆黒のMSは装甲をカスタマイズしており、その原形する判別できない機体だ。例えるなら――
「鬼? 悪鬼のつもりかっ!」
 白銀のジーニーが12.7mm弾の薬莢を吐き出しながら接近を試みる。しかし、雨のように放たれるバルカンを回避するのがやっとだ。スモールシールドに火花が散り、鈍い衝撃音が響き渡る。
『隊長! このキャリアカーは防弾されています!』
「防弾だと!?」
 一から装甲を作るのは難しい。だが、MS用のシールドを溶接する事により、積載量を制限すれば不可能ではない。
 キャリアカーで野盗を救い出した集団は弾幕を張りながら撤退を開始していた。鬼のシルエットを描く漆黒のMSは、滑り込んで来たキャリアカーに飛び乗り、尚もトゥバンへと銃弾を放ち続ける。ジーニーから放たれる対地ミサイルを銃弾の雨で叩き落とし、爆煙に紛れるように集団は地平線の彼方へと掻き消えて行った。
「漆黒のMSか‥‥奴が傭兵か野盗のボスかは知らないが‥‥次に会ったら叩きのめす!」
 蜃気楼に揺れる砂の大海を見つめ、トゥバンは奥歯を噛み締めた――――

●あとがき(?)
 大変遅れて申し訳ありません。第二章お届けします。楽しんで頂ければ幸いです。感想お待ちしていますね♪