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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


過去の遺産

■同行者
「かぁくんもいくのー!」
「ガキは帰れ!」
照明を暗く施し落ち着いた雰囲気の店に不釣合いなやりとりが交わされている。
「やだやだ〜いくったらいくの〜!」
ちいさな両手を胸の前で握り締め、よしの かるまは精一杯大きな声でリッチに向かってそう言う。
子供の扱いに慣れていないリッチは渋面でかるまを見下ろし、ダメだと突っぱねる。
だが、それで引き下がる様な聞き分けの良いお子様ではない。
「やー!かぁくんもたからさがしするのー!!」
と、今度は泣き始める。
どうやら、連れて行くと言うまで収まりそうに無いようで、子供特有の甲高い泣き声に耳を塞ぐリッチに店にいる者たちの無言の訴え……早くどうにかしてくれ、という視線がささる。
「……俺にどうしろってんだ」
「連れて行ってあげたら良いじゃないですか」
苦々しげに呟いたリッチに若い男の声がそう言った。
声の方へリッチが目を向けると、青い目を楽しそうに細めている御影 涼がきょとんとしているかるまの頭に軽く手を置いて立っている。
「なんだ?お前は」
「この子と同じ。……あんたに連れて行ってもらおうと思ってね」
穏やかな微笑みを浮かべている涼を値踏みするように、鋭い視線をつま先から頭の先まで走らせたリッチは、かるまと涼の顔を見比べ憮然と言った。
「ガキのお守りはまっぴら御免だ」
その言葉にまた目に涙を浮かべ下唇を噛み締めるかるまに、ぎょっと目を見開き身体を引いたリッチ。
それとは対照的にかるまの側に膝を付き、優しく宥める涼はどうします?と視線だけをリッチに投げかけた。
渋顔をますます深くし、苛立たしげに髪を掻いたリッチは不機嫌な声で言った。
「あー分ったよ。連れてきゃいいんだろ!」
「ほんと?」
ころっと梅雨空が晴れたような笑顔を向けるかるまにリッチは諦めたように肩を落としながら、首を縦に振って見せた。
「わ〜い。やった〜☆」
「よかったなぁ、ボク」
うん、と嬉しそうに頷くかるまの頭を撫でている涼に、リッチはぼそりと
「……お前が面倒みろよ」
と、言うと立ち上がり涼が何か言い出す前に店の外へと歩き出した。
「あ、りっちのおにいちゃんまって〜」
重心の高い子供の身体は走るとまだ少し危なっかしいが愛らしい。
もうすでに扉から半分体を外へ出しかけているリッチに、身体を左右に振るように駆けるかるまの背中を見ながら、涼は楽しくなりそうだと心の中で呟いた。

▲屑の山?
目の前には崩壊した建物が昔は道路と思しき場所を挟み左右にその身から錆色の骨を剥き出しにしている。
そして、その周りには過去の乗り物の残骸や電子機器、使い物にならないただのクズなどが積まれ、広がっていた。
「いや、これはまた立派な屑山だなぁ」
「ちがうよ。たからのやまなの〜。ね〜」
「…………」
可愛らしく首を傾け同意を求めるかるまだが、リッチはあまり相手にしたくないらしく二人を置き歩き出す。
かるまもリッチの後を足場の悪さに何度もバランスを崩しそうになりながら付いて行く。
まだ三歳の少年の身体に三歩で追いつくと、涼は少年の身体を高く抱え挙げ自分の肩の上に降ろした。
突然の肩車に驚くも、元気で無邪気な少年はすぐに喜び、小さな手で軽く涼の茶色い髪を握る。
「ありがと〜りょうおにいちゃん」
「いいえ。どう致しまして」
かるまを肩に乗せ、足元に気を配りながら大股でリッチに追いつくと涼は改めて周りを見渡しながら尋ねた。
「で、何を探すんだ?」
「……何でも。金になりそうなもんだったら何でもいいさ」
リッチはそう言いながら目に付いた足元のICチップらしきものを拾い上げ観察していたが、元のクズ山に捨てた。
「ふぅん……」
「かぁくん、おかねしってうの。おかしをかうのにおみせのひとにハイ、するのでしょ〜」
「そうだよ。かるまは物知りだね」
「うん!かぁくんおにいちゃんだもん」
ほのぼのとした二人のやりとりにうんざりと小さく舌を出したリッチは、数メートル先に見える一際広い敷地と大きさを持つ廃墟へと足を向けた。
崩れた低い石垣に囲まれた廃墟はその昔はさぞ立派な外観をしていたのだろう。
今は半分だけ残った硬いオークの扉にはこの建物のシンボルマークが施されていたが、ひびが入り所々激しく何かがぶつかったような痕が目に入る。
色褪せた壁面には建物周辺に設けられた花壇から伸びた濃緑の蔦が這い、自然の強さがくっきりと日の下に影をつけ、窓という窓はすべて砕け荒涼とした雰囲気が流れている。
かるまを地面に下ろし、涼は廃墟の屋根を見上げた。
「……ここは何かありそうだ」
先ほどより明らかに弾んでいる声で呟くと、リッチは軽く入り口の扉を一回叩いた。
「うわぁ、おっきいね〜」
数歩建物の中に入りながら言ったかるまの声が不思議と響く。エントランスホールに微妙な変化を伴って聞こえてくる自分の声に面白がるのが素直な子供の反応だろう。
胸いっぱいに息を吸い込んだかるまは小さな身体を折り畳むように叫ぶ。
「あ〜〜!!」
一呼吸遅れて戻ってくる声にきゃらきゃらと喜ぶかるまの頭に拳骨が落ちる。
「何しやがるこのチビ!ここが崩れたらどうする気だ」
「いたい〜」
殴られた頭を両手で押さえながら涙目で上目使いにリッチを見るかるまに一瞬気まずそうな表情をするが、すぐに仏頂面をし廃墟の奥へと進んで行ってしまった。
「……まったく。不器用な人だなぁ」
苦笑する涼はかるまの背中を軽く押すと、にこりと微笑んだ。
「さ、俺たちも何か探そう」
「うん!」
目的を思い出したかるまは瞬き一つで表情を変えると元気に頷き楽しそうに駆け出した。
涼はゆっくり視線を天井、二階部から床へと動かし歩みを進める。
エントランスホールにはいくつものビニール製の長椅子がカウンターらしきところの前に雑然と置かれ、奥には上り階段。左右には隣接する別の建物へと続く廊下が真っ白く伸びている。
左の廊下の先を進むかるまの後をゆっくり追いながら、涼は微かに壁に触れてみた。
記憶が流れてくる。
テレパシー能力の強い涼は時に制御する事が出来なくなる時があるが、この建物に残る感情はそれほど強くなかった。だが、ここが何であったのか。それを知るには十分だった。
「病院、か……」
元病院の建物は廊下の先にたくさんの診療室があった。
今はその機能を果たす事はないが、いまだに医療器具や書類が散乱しており、安全とは言い難い。
「りょうおにいちゃん、りょうおにいちゃ〜ん!」
診療室の一つから涼を呼ぶかるまの声が聞こえ、涼は顔を覗き込んだ。
「なんだい?」
「みてみて〜きれいだよ〜」
しゃがみ込んでいたかるまは無邪気な笑顔で手に持った何かを涼に差し出した。
小さな手の平の上には見ただけで身体に毒であろうと思われる液体の入った注射器。
シリンジの中で薄い緑色と黄色の液体が揺れ、注射針の先からも僅かに垂れそうになっている。
流石にこれには慌てる涼だが、それでも笑顔で平静を装いながらかるまから注射器を取り上げた。
「きれいだね。でも、これは危ないから触っちゃダメだよ。いい?」
「そうなの?……うん。わかった」
ちょっと不満そうに、だが渋々頷いたかるまは別のものを見つける為また駆け出した。
「大丈夫、かな?」
少し心配になりながらも、涼は手の中の注射器を書類が散乱した机の上に置いた。
昔はここで様々な患者が医者を頼って……信頼して訪れていた。
頭の中に浮かんだ患者に真摯に対応する医者の姿は何故か自分だった。
そんな自分が可笑しく小さく笑った涼はかるまの後を追いかけ診療室から出た。
「かるまー?」
数秒しか経っていないはずなのだが、かるまの姿はどこにも見えない。
おかしいと感じた涼は額に指を当て、かるまの姿を強く思い描いた。
入って来るかるまの記憶、感情。
指を離した涼は眉を寄せ、やれやれと肩を竦めテレポートで二階へ跳んだかるまを迎えに行く為に上にあがる道を探した。
陰になるように作られた非常階段を昇り、二階へ着いた涼の耳にかるまの泣き声が聞こえる。
「こっちか……」
だんだん大きくなってくる泣き声に安心すると共に苦笑する涼だが、すぐに声の方へ駆け出した。
空気が変わったのだ。
そして、一際大きな泣き声と放電する音。
部屋に飛び込もうとした涼は弾かれるように立ち止まった。
かるまのエレクトリックの強い力に室内は青白い光ばかりが走り抜けていた。
「かるま!」
部屋の中にいるはずのかるまに向かって呼びかけた涼に、すぐ声が戻ってきた。
「りょうおにいちゃん!」
そして、恐ろしい音を立てていた電気が消え、涼は中へと飛び込みかるまの姿を探した。
「かるま!」
すぐ横にある気配に振り仰ぐと、涙と鼻水に顔を汚したかるまが黒くぼろぼろになった棚の上にへたり込んでいる。
ほっと胸を撫で下ろした涼はかるまに向かって腕を広げると、かるまはすぐに腕の中へ飛び込んできた。
「まったく……心配したんだぞ」
「ご…っごめんなしゃい……ヒクっ」
しゃくり上げるかるまの頭を優しく撫でた涼は、焦げて朽ちかけた棚から何かを見つけた。
「おや?」
それは無機質だが金属のような冷たさを感じない、黒と煤けた白に塗られた丸い筒状のものだった。

■過去の遺産
「なあリッチ。火星って知ってるか?“今”の火星じゃない、コレで見てた頃の火星だ。まだ火星人がいるんじゃないかって言ってた頃のだよ……」
手にした今は持ち主のいない天体望遠鏡を見ながら涼は続ける。
「いまや月面に基地があるような時代だ。つまらないよな。これを覗いてた人はサイエンティストであると同時にロマンチストだったんだ。俺もそんな時代にうまれたかったな……」
目を細め、赤焼けが薄紫に変わり始めた空を見上げた。
かるまと涼が見つけたものは天体望遠鏡だった。
組み立て式のそれはレンズが壊れ、少し筒が歪んでいたが組み立てると元の形に近く組み上がった。
そして、同時に涼の手から持ち主の感情も流れ込んだ。
宇宙飛行士を夢見た少年はこの望遠鏡を通して何をみていたのか……
「ロマンチストね……ま、それで食って行けるんならいいがな」
あの廃墟で何を得たのか、上機嫌のリッチは肩にかるまを乗せながら自嘲的な笑みを浮かべた。
「あのね。かぁくんしってうよ。かせいにはねーたこさんがすんでるんだよ」
「はぁ?」
星が瞬き始めた空を見上げて楽しそうにかるまは続ける。
「それでね、おつきさんにはねーうさぎさんがすんでうのー」
と、まだ白くぼんやりとしか見えない月を指差して、かるまは二人を見た。
涼とリッチは互いに顔を見合わせ、そして苦笑した。
「たとえ今火星に誰かが住んでようと、月に基地があろうと夢見る奴は見るし、現実しか見ねぇ奴は見ねぇ。要は自分の心だろ」
「……わかってるよ、言ってみただけだ。」
肩を竦め、涼は空を見上げた。
「別に、“今”を否定するわけじゃないさ」
小さく口の中で呟くと、天体望遠鏡を軽く掲げリッチに訊いた。
「なぁ、コレもらっていいか?」
「好きにしな。そんだけ壊れてちゃ金にならねーからな」
軽く肩眉を上げて言ったリッチの上から、にこにこ顔のかるまは涼に言う。
「よかったねーおいちゃん。またおてつだいしたげうねー」
「ははは。ありがとう」
「たのしかったねー。またこようねー」
ご機嫌なかるまの言葉にぼそりと聞こえないように、やなこった、と言ったリッチは懐から煙草を取り出し口に咥えた。
すっかり星が増えた闇夜に涼は目を細めた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0398/御影 涼(ミカゲリョウ)/男/23歳/エスパー】
【0388/よしの かるま/男/3歳/エスパー】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、壬生ナギサです。
今回は初のご参加有難う御座います。

■で始まる段落は共通シナリオ。
▲で始まる段落は少し内容の違う個別シナリオとなっております。

御影 涼様
優しく面倒見の良い近所のお兄さん、のイメージで書かせて頂きましたが
如何でしたでしょうか?
涼さんが想像していたものとは違った感じになってしまったとは思いますが、
もし感想など頂けると嬉しいです。

では、また機会がありましたらお会いしましょう。