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<東京怪談ノベル(シングル)>


【白狼の軌跡――第三ステージ〜熱砂の中に戸惑う誓い〜】
 トゥバン・ラズリは格納庫に佇んでいた。
 白銀のMS――ジーニーを先頭に立ち並ぶは、サンドイエローに彩られた鋼鉄の巨人だ。幾多の戦闘により痛んだ装甲は、メカニック班により修繕作業が繰り広げられている。耳障りな溶接音に鉄の溶ける匂いと漂う煙が周囲を包み込み、中東の気温故か酷く蒸し暑い。
 UME軍として機能したのは数ヶ月前からである。未だに氏族抗争の傷痕は拭い切れず、生活水準が低下したままの中東は、安定と秩序を取り戻してはいなかった。中でも混乱期に入手したMS等の武装を持った集団は、過激な支配と略奪を繰り返し、その度に『ジーニー03小隊』は駆り出されていたのである。無傷で帰還する事は少ない。
「(ゆっくり傷を癒してくれよ‥‥)」
 蒼いバンダナを巻いた青年は両腕を組み、戦場で命運を共にするであろう鋼鉄の同胞を見上げていた。
「隊長、ここにおられましたか?」
 耳に飛び込んだのは部下の声だった。トゥバン少尉が顔を向けると、二人の兵士が歩み寄って来る。一人は部下の青年であり、何気に顔はニヤついていた。もう一人は小柄な女性だ。彼等は傍に寄ると敬礼し、バンダナの青年も敬礼で応える。
「どうした? この娘は‥‥訓練兵か?」
「‥‥はい、俺達、付き合う事にしたんです。それで、隊長には報告しておきたいと思い‥‥挨拶に参りました」
「ぐ、軍曹の任務に支障を来たさないよう務めます!」
 直立不動で告げる訓練兵は些か緊張気味だ。良い女として認めてもらわねばと懸命なのだろう。そんな二人に青年は微笑む。
「そうか、こんな可愛らしい彼女が待ってくれているなら、軍曹の士気も上がる事だろう。よく尽くしてやってくれ」
「は、はいっ!」「では失礼します、隊長」
 後でコーヒーでも飲みながら詳しく惚気てもらおうか、なんて思いながらトゥバンは二人の背中を微笑ましく見送った――その時だ。
 けたたましい警報が鳴り響き、部隊に出撃命令が発せられたのである。

●誓いの代償
 金色に彩られた熱砂の大海を、砂埃を巻き上げ、ジーニー小隊は優麗なシュプールを描いて戦場へと向かっていた。やや遅れて追って来るのは一台のオフロードカーだ。
 時速100キロで吹き抜ける金色の景色を望遠カメラに映しながら、トゥバンはマスターアームに突っ込んだ右腕の操縦桿から巧みに通信機のスイッチを選択する。
「トゥバンより各機へ! 間も無く離村に到着する。何時もの様に仕掛けるぞ! 散開!」
『「「了解ッ!!」」』
 三機のジーニーが広域に散ばって行く中、望遠カメラをズームさせ、襲撃を受けた村を捉える。映し出されたのは野盗らしき人影とオフロードバイクにオフロードカーだ。マズルフラッシュが中と外から覗えるのは、未だ村人が応戦しているのだろう。
――今なら楽に収拾できる!
 白銀に輝く機体は、村の出入り口に密集している車両へと12.7mmオートライフルの咆哮を響かせた。次々にタイヤが射抜かれ、砂煙が小さく吹き上がる。これで連中の足は止めた様なものだ。
『隊長! 三時の方角からキャリアカーが接近中です!』
「キャリアカーだと? まさか‥‥」
『隊長、距離はコチラが近いですから、俺が食い止めますよ』
 通信機に飛び込んだのは、交際報告に来た部下の声だ。ジーニーの楕円形に近い頭部を向けると、一台のキャリアカーに銃弾を浴びせる僚機が確認できた。タイヤを狙っているのだろう事は、車両下部の迸る火花で読み取れる。
『隊長、タイヤ周りに装甲が溶接されています!』
 ザザッと砂飛沫をあげてジーニーがカーゴ部分へと滑り込む。
『くそっ! 後ろも駄目かよ‥‥う、うあぁぁっ!』
 刹那、カーゴ部から銃弾が叩き込まれ、サンドイエローのMSが破片を飛び散らせて赤い炎を噴き上げた。
「おいっ! ‥‥各機、村の解放を続けろ! 俺が行くっ!!」
 部下の悲痛な叫びと共に途絶える通信。トゥバンは慌てて機体を旋回させ、キャリアカーへと向かう。射程距離に捉えると直ちにLH対地ミサイルを発射! 白雲を棚引かせてキャリアカーの傍に飛び込んで行き、大きな砂柱が噴き上がった。更に接近する白銀のMSが捉えたのは、砂煙にガンカメラを赤く輝かせる漆黒のMSだ。
――鬼のようなシルエットに包まれた機体。
「奴か! 貴様は何者なのだぁっ!!」
 左右に旋回させながらライフルを放つジーニーだが、巧みに移動しながらバルカンを雨の如く掃射する敵機に接近できない。射程距離に圧倒的な差があるのだ。刹那、別の方角から銃弾が連射され、漆黒のMSに赤い火花が迸った。
『隊長さん! 仲間の回収は済んだよ!』
 以前に捕らえた野盗の女リーダーが胸部ハッチを開けたまま、大破したジーニーからライフルを放ったのだ。今は予備兵としてオフロードカーで仲間と共に参戦している。
 動けないMSとはいえ、二方向から攻撃されれば対処は厳しい。漆黒のMSは退避していたキャリアカーへと飛び込み、撤退して行く。そのチャンスを彼女は逃さなかった。女豹の瞳がターゲットを捉える。
「はんっ! ミサイルで燃え尽きな!」
『待て! 任務は完了した、俺達も撤退する』
「バ、バカじゃないの!? 逃がすつもりかい?」
『部下が何故直撃を避けたか考えろっ!!』
 任務は成功した。しかし『殺さず』の誓いを守った部下の負傷という代償は大きかった。

●現実を受け止めて
「俺の考えは甘いのだろうか。だが、俺には‥‥」
 トゥバンは空を見上げ、星を仰ぐ。命に別状ないものの、軍曹は重傷と診断された。全ては隊長の『誓い』を守った故だ。迷い、傷心の青年が見上げる満月に、少女の顔が浮かび上がる。
――皆を守って上げて、あなたにはそれが出来るから‥‥
 大切な人の言葉が胸を締め上げた。
「今でも本当にそう思うのか? 俺の所為で部下が‥‥」
「隊長さん‥‥彼が呼んでるよ」
 トゥバンの背後に女リーダーの声が飛び込む。彼は「そうか」と返して医務室へと足を運んだ‥‥。
 医務室の薄汚れた白いベッドに軍曹は痛々しく横たわっていた。傍で見守る少女を退席させ、彼は隊長に微笑んで見せる。
「俺は間違っているなんて思っていませんよ」
「軍曹‥‥」
「この部隊に配属されて気付いたんです。敵にだって家族や大切な人がいるんだって‥‥相手を殺してグッスリ眠れる人間にはなりたくありませんからね。俺は復帰しても誓いは守りますよ。だから、隊長も‥‥」
――皆を守って上げて、あなたにはそれが出来るから‥‥
――ああ、そうだな。俺は皆を守ってみせるさ。
『トゥバン少尉、至急司令室まで来て下さい』
 敬礼と労いの言葉を告げて、トゥバンは司令室へと向かう。そこに待つ司令官の言葉は武装集団の調査結果だった。
「反UME組織?」
「多国籍軍の生き残りが氏族となった過激な思想を持つ組織があると聞く。恐らく、UMEの復活を阻止するべく先手を打って来ているのかもしれん」
 詳細は不明との事だ。
 混乱期に生き残った敵軍がいたとしても不思議ではない。密かに息を潜めていれば、中東でも生きられないとは限らないだろう。トゥバンは、これから大きな戦いになる可能性を予感せずにはいられなかった‥‥。

●あとがき(?)
 ご購入有り難うございました☆ 切磋巧実です。
 白狼の軌跡――第3話をお送りします。いかがでしたでしょうか? ご注文通り、今回も引きを作らせて頂きました。戦闘とドラマの両立に文字数と格闘していますが(笑)楽しんで頂ければ幸いです。感想お待ちしていますね♪