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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


■UMEのアイアンメイデン■
 ここは、アデルハイド・イレーシュにとって全く未知の世界であった。いや、イレーシュだけでは無い。UME兵士であったオルキーデア・ソーナにとっても、経験した事の無い熱気で溢れている。
 経験した方がいいのかどうかは、本人の趣味趣向によるだろうが‥‥。
 イレーシュは呆然と会場を見つめつつ、オルキーの手を握りしめていた。ここで離れると、もう二度とオルキーと会えないかもしれない。それ程の人、人、人。
「‥‥何‥‥ですか、ここ」
 いや、何か違う。ここは何かチガウ所だ。イレーシュの本能が告げている。何より、ここには色んな人種が混在していた。しかしよく見ると、それらは全て擬態であると分かる。
「同人誌即売会‥‥平たく言えば、自分で作った本を売る所よ。やっぱり、ベルリンとミュンヘンは大きいわ‥‥うん」
「それって‥‥UMEの兵士さん達が“悪魔の文化”って言っていたものじゃないんですか?」
 眉をしかめながら、イレーシュは聞いた。確かに、連邦女史の際限ない想像力に、一時期はUMEから非難が集中したが‥‥どう見てもUME側の人と思しき一般参加者がウロウロしている。
 かくいうオルキーとイレーシュも、UME側で戦っていたうちの一人だ。
 会場には、連邦騎士の格好をした者、参謀の格好、アイアンメイデン、UMEの兵士‥‥。中には偽総統閣下、偽EG代表、偽UME東部方面軍将軍‥‥。
 この中に本物の総統閣下や将軍が混じっていても、気づかれないに違いない。本物の総統閣下が自分をネタにした同人誌を買いに来る光景なんてのも、見たくないが‥‥。
「ちょっと、イレーシュ見てよ!」
 大きな声を上げてイレーシュの肩を揺すったオルキーを、イレーシュが振り返る。オルキーはパンフレットを凝視している。
「アイアンメイデン・ベルリン参謀本部、ってのサークル名なの? 単なる所属名じゃないのっ。‥‥総統閣下直属隊ってのもあるわよ。‥‥行くわよ、イレーシュ!」
「えっ? ‥‥オ、オルキーって総統ファンだっけ?」
「違うわよ! ‥‥でも、生写真とか売ってるかもよ」
 総統の生写真なんか買って、どうするというのだろうか。自分達はUMEに所属していたというのに‥‥。疑問に思いつつも、イレーシュはオルキーの強引な誘導で、人混みに突入していった。
 本を売ったり買ったりしている者の殆どは、女性だった。中には本物のアイアンメイデンと思われる少女達も混じっており、オルキーが真っ先に行った総統閣下直属隊も、その一つで‥‥。
 総統の顔を間近で見た事の無かったオルキーとイレーシュは、そこで初めて総統の顔を目にした。
 かわいらしい制服を身に纏ったメイデンが、写真を笑顔で二人に差し出す。一つは、私服で参謀と思われる男性と紅茶を飲んでいる閣下。もう一つは、どうやって撮ったものだか、会議中のワンショットだった。長く美しい金髪を後ろでひとつにまとめており、均整の取れた美貌。
「‥‥これが連邦の総統? 若くて‥‥綺麗な顔をしているのね。顔がよくて強くて頭もいいなんて、反則じゃない?」
 オルキーは、じっと写真を見つめた。UMEの幹部といえば、むさ苦しい顎髭中年ばかりだ。新たにリビアのリーダーとなった少年は綺麗な顔をしているが、それも例外だ。連邦の女性が夢中になるのも、少し理解出来る。
 その他の写真に写るのも、いずれも若い少年や青年ばかりだ。
「騎士はオールサイバーですから、若い頃の姿を保ったままの方が殆どですよ。中でも総統閣下は、EU軍で初めてのオールサイバー被験者で、他の騎士より強力な義体を持っておられます」
「そんな大切な情報を、喋ってしまってもいいんですか?」
 イレーシュが聞くと、メイデンはこくりと頷いた。
「だって、みんな知っている事ですから」
「買うわ、これ。‥‥今度みんなに会ったら、みせてあげなきゃ。そうだ、閣下にも差し上げようっと。‥‥あっ、こっちはうち等と戦った部隊の騎士の写真ね、見た事あるわ。こっちも頂戴ね」
「いえ‥‥オルキー‥‥」
 悲しげに笑いながら、イレーシュはため息をついた。
 写真を選びながら、オルキーは(かつては敵であった)メイデンと話しはじめた。
「これって、みんな男性兵士ばかりなのね。どうして? なんか男性参加者って少ないみたいだけど‥‥」
「女性騎士や女性参謀が少ないからです。最近では、やっぱりGFの‥‥」
「西部方面にも居るわよぉ、それにEGを忘れちゃダメっ」
 メイデンは、きゃいきゃいと話しをはじめた。彼女達は、女性兵士の話でも萌えられるらしい。

 最初は、イレーシュを華やかで活気のある場所に連れて来ようと思っただけだった。しかし、今やそんな当初の目的をすっかり横に投げて、オルキー自身が夢中になっているようだった。
 むろん、イレーシュとて嫌だという訳ではないが‥‥。
 イレーシュの手の中には、EG代表の少女の写真があった。イレーシュがEGを離れて一年。彼女は、少しあのころより逞しい表情をしている気がする。自分も、あの人もあれから成長したという事だろうか。
 感傷に浸るイレーシュの腕を、誰かが掴んだ。
 視線を動かすと、何やら白くてヒラヒラしたものが目に映る。それを、小麦色の腕がしっかり抱いていた。
「‥‥どうしたんですか、これ」
 イレーシュは、嬉しそうに白い衣装を抱いたオルキーを見つめる。オルキーは、抱いた衣装のうち、ヒラヒラした方をイレーシュに差し出した。おずおずとイレーシュはそれを受け取り、両手で広げてみた。
「オ‥‥オルキー、これって‥‥」
 嬉しそうにオルキーが出して来たのは、連邦のアイアンメイデンが来ている制服だった。しかも超ミニ。オルキーが持っている方は、アイアンメイデン男性服だ。
「可愛いでしょう? 今日着ようと思って、徹夜で作ったんだから」
 ここ最近、夜中に起きて何かしていると思ったら‥‥。イレーシュは、涙目でふるふると首を横に振った。

 結局あちこち会場をうろつき、イレーシュの手には懐かしいプラハのメンバーの写真や本が‥‥オルキーの手には、ベルリン・シュヴァルツリッター・UMEの本や写真が沢山抱えられて、会場を後にした。
 キャリーに戻ったオルキーとイレーシュは、その写真を見ながら戦場での話しをした。アンドラの事を思い出すのは辛かったが、それでもイレーシュが逃げ出すような事は、もう無い。
「こっちはねえ、今度UMEのみんなに会ったらあげる写真よ。UME本は‥‥非関係者(本の内容の)だけにこっそり、ね。それでこれがメインよ」
 オルキーが出したのは、連邦やUMEの女性兵士を扱っていた、数少ない本で‥‥いわゆる‥‥。イレーシュは、ちょっとうわずった声で聞いた。
「オルキー、その人連邦の人でしょう? そんなに興味があるの」
「‥‥イレーシュ、やきもち?」
 オルキーは本をベッドの上に投げ出すと、イレーシュに身を寄せた。イレーシュはぶんぶん首を横に振り、そっぽを向く。
「何ですかやきもちって。‥‥私はやきもちなんて焼きませんよ」
 努めて冷静に言ったつもりだったが、片づけようと手を伸ばした本を床に落とし、顔は真っ赤。振り返ると、オルキーはベッドに転がったまま、くすくす笑っていた。
 仏頂面のまま、オルキーに背を向けると、オルキーは手を伸ばして後ろからイレーシュを抱きしめ、ころんとベッドに転がした。
 イレーシュを抱え込んだまま、オルキーは本をぱらぱらと開く。
「男同士抱き合うの見るより、こう‥‥もっと自分が感情移入出来る本の方がいいじゃない? そりゃあ、面白いけどさ‥‥女同士っていうのがあっても、いいんじゃない」
 ちらりとオルキーは、イレーシュと視線を合わせる。
「それは、女性向けのサークルばかりだったから‥‥」
「まあね‥‥兵士の殆どは男だから、男同士の本が多いのは仕方ないけど。UMEも連邦も‥‥EGは別だけどね」
 テレビ放送などでの娯楽供給が殆ど無い為、連邦市民の関心は伝わって来る戦地での情報や、時折巡回する騎士達との交流がメインだった。
 最近になって連邦は各地方との通信回線の復旧を始めたが、それも主立った都市に限られ、使用しているのも軍や政府関係者のみだった。
 兵士の殆どが男だから、娯楽となる同人誌等も必然的に男メインとなる。
「楽しそうでしたね、みんな。やっぱり戦争しているより、こうして笑って楽しんで居られる方が‥‥一番ですよね」
「そうね‥‥」
 オルキーはぎゅっとイレーシュの体を抱きしめ、沈黙した。何を考えているのだろうか。イレーシュは真剣に考え込んでいるオルキーを、見つめる。
 すると、しばらくして急にオルキーが起きあがった。
「決めた!」
「‥‥は?」
 きょとん、とイレーシュはオルキーを見上げる。
 何か、大きな決意をしたという表情だ。
「うち‥‥うち、また行く」
「行く‥‥って、同人誌即売会?」
「そう」
 嬉しそうに、オルキーは頷いた。いや、嬉しそうにしている場合と違うでしょうが。イレーシュは、声を上げた。
「また行くんですか?」
「なあに、嫌? ‥‥今度はね、売る方で参加するのよ」
「本気ですか?」
 売る方って言う事は、何か書くのだろうか。イレーシュは吃驚して、聞き返した。
「‥‥手伝ってくれないの?」
 しゅんとした顔をして、小さな声で聞く。こんな顔をされれば、嫌とは言えないではないか。それに‥‥全然楽しくなかった訳じゃなかったし。
 イレーシュは、苦笑を浮かべてオルキーの頬に手をやった。
「もう‥‥程々にしてくださいね」
「分かってるわ‥‥じゃ、イレーシュとうちで、百合本作るのよ」
 オルキー×イレーシュ本、出すのよ。と、オルキーは拳を握りしめた。オルキーは、自分で自分の本を出す気なんだろうか‥‥。
 となれば、どんな顔でイレーシュは自分の本を売ればいいんだ。
 イレーシュは、ますます顔が真っ赤になった。
「わざわざ‥‥百合でなくとも」
「だって、やっぱり感情移入したいでしょ? それに、もっと男性向け同人誌を増やしてあげないと!」
 何故わざわざ、男性にサービスしなきゃならないのだろう。イレーシュは反論しようとしたが、もう本の事で頭が一杯のオルキーは、嬉しそうにイレーシュに覆い被さった。
 どさどさと、本がベッドから落ちていく音が聞こえる。
 オルキーの手は、滑るようにイレーシュの上着に滑り込んだ。
「あ‥‥ちょっ‥‥」
「ダメ。イレーシュには、本のストーリー作りに協力してもらわなきゃならないもの」
 紅潮した白い素肌を露わにしながら、オルキーは優しくイレーシュにキスをした。

(担当:立川司郎)