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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


飛行船を取り返せ!

 たまには優雅に空の旅。
 そんな考えは、響いた爆音と飛行船ジャックの犯人らしき男のアナウンスで脆くも崩れ去った。
 ――この船は我々が占拠した。大人しくしていてもらおう――
 爆音に続いて船内アナウンスで告げられた宣言の直後、客室の入口に三人の武装した男がやってきたのだ。
 もともと大人数を乗せることを想定していない船の客室は一つ。本日の一般客は全部で十人――客室は一つなのだから、当然一般客は全員ここにいる。
 他に人が居る部屋といったら倉庫と操縦室のみ。だが一般客でしかない自分は、他の部屋の状況も人員も、まったく知らない。
 そして、他の部屋にどれだけジャック犯の仲間がいるのかも。
 今はまだ攻撃に出るべきではない――情報が少なすぎる。
 ゆえにウィン・シュミットは、とりあえずジャック犯の言葉に従い、客室に据えられている椅子の一つに腰掛けた。
「さて、と」
 小声で呟き、ジャック犯の一人に目を向けた。
 座った椅子からは、入口で客の動きに目を光らせる男たちの姿がよく見える。
 まさかあそこにいるのがリーダーなんていうことはないだろうが、人数や目的くらいはわかるかもしれない。幸い、思考読破ならば見た目に発動はわかりにくい。
 この場合は記憶読破のほうが情報収集には良さそうなのだが・・・思考読破と違い相手を見つめていればわかるというものではない。これは、思考読破で情報が得られなかった時の手だ。
 じっと見つめて意識を集中する――それだけで、彼の思考が流れ込んでくる。
 だが『今考えていること』しかわからない思考読破では、欲しい情報はほとんど得られなかった。
 連邦を敵とする者か、もしくはたんなる物資目当てか・・・どちらかだろうとは思っていたが、どうやら後者らしい。
「・・・・・・・」
 小さく息を吐いて、ウィンはこっそりとジャック犯たちの死角に入るよう移動した。記憶読破は見た目に異常がわかるが、その代わり自分から相手が見えている必要もない。
 額を指にあて、ほんのついさっき思考読破をしたばかりの男を思い描いて強く念じる。
 目的は――思考読破で読み取れたのと同様、物資が目的。空中ならばそう簡単に増援はこないだろうと考えてのことだったらしい。
 人数は二十人。リーダーは操縦室。驚くことに、今回警護に雇われた五人はこの一団とグルらしい。まあ、襲われる可能性の低い――飛行船を作っているのは基本的には連邦のみだ――飛行船だから、警護にあまり力を入れていなかったのだろう。
 一人一つは武器を持っており、真っ向から立ち向かうにはこちらが不利。
「まずいわね・・・」
 確実に助かるためには、自分でなんとかしなければならないということだ。
 ウィンは、さっさと行動に移ることにした。欲しい情報はだいたい得られた。ならば、あとは行動あるのみだ。
 おそるおそるといった感じにゆっくりその場に立ちあがると、男の銃口がこちらに向けられた。
 一言でいって、ウィンは美人だ。その雰囲気は知的で妖艶。背中まで伸びた、癖のあるプラチナブロンド。魅惑的な青い瞳。
 そのウィンが、本気になって堕とせなかった相手など一人もいない。
「お願い、あたしだけでも助けて」
 瞳を潤ませて、震えた声で告げれば、男の表情が少し緩んだ。銃口が少しだけ、下に向く。
 一歩、近づく。
 男がごくりと喉を鳴らしたのが見えた。
 ゆっくりと。あくまでも怯えた様子を崩さずに。
 また数歩近づけば、男の持つ銃口はさらに下へと下がった。
 チラリと横目で見れば、残る二人の男の視線もウィンへと向いていて、乗客への注意が散漫になっている。
「お願いします」
 思いきり鼻の下が伸びている男に抱きついて――ウィンの顔は、彼から死角の位置に入る。
 こっそり指を額に当てて・・・あとは一瞬。額にパチッと緑色の火花が迸ったら、もう彼はウィンの術中にはまっているのだ。
 一人に、『人質を傷つけてはいけない』という思考操作を植え付けることに成功したウィンはそのまま残り二人にも―― 一瞬。油断していた相手へ思考操作を植えつけるのはそう難しくはなかった。
 実を言えばとりあえず身の安全を確保して、あとは成り行きに任せるつもりだったのだが・・・・。
 味方は戦力には数えられない操縦員のみ。
 自分でどうにかするしかないだろうと溜息をつきかけた時――女性が一人、立ちあがったと思ったら素早い動作で駆けて来た。
 当然男たちは銃を向けるが。だが彼女も人質の一人。思考操作に縛られて銃を撃てずにいるうちに、あっさりと昏倒させられてしまった。
 すらりとした身体に、綺麗なストレートの銀の髪と、強い意思を秘めた白銀の瞳。
 女性は鮮やかに微笑んだ。
「さっきからチャンスが掴めなくて困ってたの。助かったわ」
「私こそ、助かったわ。とりあえず人質に危険が及ばないようにしたけど、この後どうしようかと思ってたの」
 告げると、女性は訝しげな表情を浮かべた。
「警護の人に伝えて協力すればなんとかならないかしら?」
 ウィンは苦笑半分に溜息をつき、肩を竦めた。
「ダメ。警護の人間も全員グルよ」
 やはり彼女も驚いたのだろう。目を丸くした女性を視界に留めて、ウィンはさらに言葉を続けた。
「警護の人間は全部で五人。全員、倉庫の方にいるわ。三人はここ。そして残りは十二人。五人は通路を張っていて、七人が操縦室。リーダーは操縦室の方にいるようね」
 女性が、考え込むような仕草を見せた。そして、
「客室の方、お願いして良いかしら」
 まあ、妥当なところだろう。
 優先すべきは操縦室。だが操縦室で騒ぎが起きれば他のところにいた人間が客室のほうにやってくる可能性がある。
「ええ、わかったわ」
 ウィンはにっこりと微笑んで答えた。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 幸いなことに、客室に犯人たちが雪崩れ込んでくるようなことはなかった。
 女性が出て行ってから十数分後には操縦室を取り戻したというアナウンスが流れ――メンバーの大半が捕まったことで、倉庫の方にいた犯人たちは諦めたのだ。

 飛行船は無事、当初の目的通りの場所に辿り着いた。
「なかなか、スリリングな旅だったわね」
 そんなこと微塵も思っていない癖に、くすくすと笑いながら大地の上でうんと背伸びをした。
「そうねえ」
 時を同じくして飛行船から降りてきた銀髪の女性も、楽しげに笑みを浮かべて同意した。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス

0421 /ウィン・シュミット / 女 / 52 / エスパー
0233 / 白神・空 / 女 / 24 / エスパー

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、初めまして。日向 葵です。
このたびはご参加どうもありがとうございました。
護衛側で参加する方がいらっしゃらなかったので、今回雇われた警護が全員敵とグルだったという状況に陥ってしまいました(^^;

さて、今回のお話はいかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
お会いする機会がありましたら、その時はまたよろしくお願いします。