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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


同人誌即売会を守れ!

 狭い室内をきょろきょろと見回すと、あちこちで思い思いの衣装に着替える女性が目に映った。半分は連邦騎士やアイアンメイデンの制服。残りのうち半分はUME軍の制服。その他、自分達には分からない部類の衣装を持った者がちらほら‥‥。
 自分自身も赤と白の衣装をしっかりと胸に抱き、アデルハイド・イレーシュはどこで着替えようかと場所を探した。
「ほら、こっちにおいで」
 カーテンが閉じられた窓際で、オルキーデア・ソーナがイレーシュに手を振っていた。ふわりと笑顔を浮かべ、イレーシュはオルキーに駆け寄る。
 オルキーは既に、鞄から自分の衣装を取り出していた。イレーシュが持っているのは、白い上着に赤いスカートの東洋の衣装。オルキーは、青いスカートでイレーシュより少し地味。
 オルキーはこれを“神官の服”だと言って、図書館の資料を見ながら夜な夜な手作りしていたけど、イレーシュにはその着方すらさっぱりわからない。
 着方が分からないのはオルキーとて同じで、実際着た写真を更衣室に持ちこんでいる。‥‥が‥‥。
「ねえオルキー、これって‥‥ちょっとその写真と違わない?」
 イレーシュは、自分の衣装を広げて見せた。やたらと脇が開いているし、胸元だって小さすぎて谷間が開いて見えてしまう。
「イレーシュ‥‥うち等、どこに場所(スペース)取ったっけ」
「どこって‥‥ええと、たしか成年向けの本を売っているスペースのうち、美少女物の区画だったと‥‥」
「そうよ」
 オルキーは、ぐっと拳を握りしめた。
「うち等は、えっちな本を売ってるの。イレーシュとの愛の日々を綴った本を売っているの! だから売り子もえっちな格好をする。それが当然でしょ」
「いや‥‥」
 それはどうだろうか。と言いたいが、これはオルキーが徹夜をしてまで作ってくれた衣装だ。オルキーの気持ちを無駄にしたくないイレーシュには、着たくないとは言えなかった。
 しぶしぶ、イレーシュは上着に袖を通してみたが、やっぱり胸が開く。次にスカートを履こうとしたが、このスカートについた紐はどう結ぶのか、よく分からない。
「‥‥なんなの、これ‥‥」
 イレーシュはちらりとオルキーを見たが、オルキーも履けていない。‥‥何故自分で着られないものを作るの、オルキー。オルキーは苦笑を浮かべて、スカートをひらひらさせた。
 彼女の表情が凍り付いたのは、次の瞬間だった。
 長い間戦場に居た経験か、敵意を持った者の視線には敏感になっている。オルキーは、視界の中にそれを感じ、思わず手を腰にやっていた。
 ふうっ、と風が吹いたと思うと、イレーシュの横に人が立っていた。一人は、ブロンドのロングヘアの女性。服装は連邦のアイアンメイデンが着ているような、ゴスロリ。もう一人は、背がすらりと高く冷たい印象の女性だった。
 どちらもオールサイバーである事は、至近距離から見ているイレーシュには分かった。
「動くな」
 イレーシュの後ろに立たれ、オルキーには手出しは出来ない。オルキーは舌打ちすると、苦渋の色を顔に出した。
「‥‥何の用なの」
「とぼけるな、UME兵だな。‥‥連邦女子は、お前のように日焼けしていない。それにその物腰、反射的に手を腰にやる癖、戦場に居た者の仕草だ」
「くっ‥‥それが何だというの。今は退役しているわ。だからイレーシュの後ろに立つのはやめて。‥‥それとも、連邦騎士はそういう方法がお好きなのかしら?」
 ロングヘアの女性は、ふるふると首を振った。視線をちらりと後ろにやると、長身の女性がオルキーの荷物に手を伸ばした。オルキーは、彼女が荷物チェックをしているのを、黙って眺めている。
 やがて長身の女性は、振り返った。
「何も持っていない」
「そう‥‥」
 彼女は、ようやくイレーシュから離れた。オルキーはほっと息をつき、イレーシュを引き寄せて後ろに庇った。
「さあ、何の用だったのか聞かせてもらえるわよね。‥‥UMEに関係がある事なら、私に話して損は無いはずよ」
「‥‥わかった」
 ロングヘアの女性は、自らをディアーナ・ファインハルトと名乗り、長身の女性をフレイヴ・ディスターナーと紹介した。
「我々は、テロリストがこの周辺に潜伏しているという情報を得てここに来た。彼らは二名の元UME兵で、オートライフルと予備弾を所持している。国籍性別、ともに不明だ」
「今その情報が会場に流れれば、パニックが起こる。だから、極秘裏に奴らを始末しなければならない」
 フレイヴが、ディアーナに続けてオルキーへ言った。
 まだUME兵が、潜伏して戦いを起こしている。イレーシュは悲しみに表情を曇らせ、ぎゅっとオルキーの服を握りしめた。
「分かったわ、見つけたら知らせる。うち等だって、戦いを続けたいとは思っていないわ。そういう奴らは‥‥亡くなった閣下の名において、うち等が始末をつける」
「‥‥期待している」
 ディアーナは、くるりとオルキーに背を向け、歩き出した。フレイヴもそれに続こうとしたが、着かけたイレーシュのスカートの帯に手をやり、それをイレーシュの腰に巻き付けた。
「これは、こう着るんだ。それと襟も逆。日本では、その襟の着方は死人がするものだと思われている。‥‥これでいい」
 フレイヴはイレーシュの衣装を着せてやった。どうやら、彼女も何らかの衣装を持ってきているようだ。この会場では、普段着で居るよりもその方が、かえって目立たないかもしれない。
 イレーシュの衣装を参考にしながら、オルキーもようやく衣装を着終えた。
「さあ、行くわよイレーシュ」
 あ、やっぱり‥‥。イレーシュは、この恥ずかしい衣装で売り子をしなければならない事を考え、憂鬱な気分になった。

 沢山の若い男性の視線にさらされ、イレーシュは緊張と羞恥心で爆発しそうだ。撃っている本が成人向けであるばかりか、その登場人物は自分なのだから、さらに人目はイレーシュに集中する。
 あの子が本の‥‥とか、裸エプロンとか、話し声が聞こえてくる。裸エプロンはやむを得ない事情だったのよ、と言いたいが、オルキーの小説の中ではイレーシュがオルキーを喜ばせようとしてそうした事になっている。
 こんな時にかぎって、オルキーは居なくなっていた。
『見回りよ、見回り。さっき言っていた事が気になるから、テロリストを捜しに行くの』
 オルキーはそう言ったが、その割にしっかり財布を持っていた気がする。
『まさか、本を買いに行く為の言い訳じゃないんでしょうね』
 イレーシュはオルキーをそう言ってにらみつけたが、はは、と笑いながらオルキーは後ずさりをし、そのまま人垣の中に消えてしまった。
「これ、キミがモデルなの?」
 誰かが聞いた。イレーシュは真っ赤になりながら、こくりと頷いた。
「は、はい。あの‥‥頑張って作ったので、宜しくお願いします」
 イレーシュが肩をすくませて縮こまれば、それだけ胸が強調される。そしてますます、人目を引くわけで‥‥。
 とにかく、はやく居なくなってもらう為には、はやく本を売るに限る。イレーシュは彼らの手に本を押しつけ、お金を貰い、そして次の人に本を渡していった。
「‥‥あの‥‥お買いあげですか?」
 イレーシュは、右端でじっとこちらを見ている青年に声を掛けた。男は、トレーナーにGパン、そして上から茶色いコートを着ていた。コートの前は閉じられている。
 何ともいえない、鋭い視線でこちらを見つめていた。
 イレーシュは、そっと本を差し出した。
「私達が作った本なんです」
「‥‥UME‥‥西部方面軍だと?」
 イレーシュは、男がつぶやいた言葉を聞いて、少しだけ笑みを取り戻した。自分達と少しでも記憶を共有出来る仲間‥‥戦友が来てくれたのかと思って。
「はい。オルキーは、元西部方面軍の軍人なんです。私はEG出身ですけど、オルキーと一緒に‥‥」
 男が本に近づいた時、コートがテーブルに触れた。コト、と堅い音が微かに響く。エアコンの風で浮き上がったコートの中から見えたものは‥‥。
「あっ‥‥」
 イレーシュは、思わず声をあげていた。彼が持っているのは、本物の銃だと分かったから。コートの襟と前髪の間で光る、鋭い視線。彼はもしかすると、あの連邦の人が言っていた‥‥。
「あなた‥‥UMEのっ」
 素早く、男が銃を引き抜き、イレーシュに向けた。
 彼は、眉をしかめてイレーシュを睨んでいる。
「連邦の悪魔の文化に毒されおって‥‥亡き閣下に代わって、我等が貴様を始末する!」
 男は銃口を天井に向け、一発放った。
 おおっ、イベントかなんかが始まったのか?
 誰がざわざわと話しはじめ、イレーシュのスペースの前を空けた。
 違う、これはイベントでもショーでもないんだってば!!
 イレーシュは、泣きたい気持ちで一杯になった。
 この男はどうして怒っているのか、何故銃を自分に突きつけなければならないのか、考える。
「あなた‥‥連邦の方が言っていたUMEのテロリストですね」
 イレーシュが聞くと、男は無言でイレーシュに、スペースの外に出ろと合図をした。仕方なくイレーシュは、テーブルをくぐって外に出る。
 銃を突きつけられていても、イレーシュは毅然とした態度で、兵士の前に立った。
「もう戦いは終わったんです。武器を捨てて、投降してください」
「いや、終わっていない。‥‥カルネアデスを破壊するまで、連邦の言う事など信用出来るものか!」
「カルネアデスを破壊するだと? ‥‥それにしては、ずいぶん寄り道をしたもんだな」
 低い女性の声が、群衆の中から聞こえた。イレーシュと兵士は、群衆に視線を向ける。人の波をかき分けて出てきたのは、ちょっと変わった格好をした、女性であった。
(あれ‥‥さっきの連邦の騎士さん‥‥)
 たしかフレイヴという女性だ。
 フレイヴは兵士の前に立ち、見据える。兵士はフレイヴをじろりと一瞥し、眉をしかめた。
「貴様‥‥連邦の騎士か? 何のつもりだその格好は」
 至近距離から見れば、彼女がオールサイバーだという事は分かる。兵士の問いに、フレイヴは首を振った。
「騎士ではない、コスプレだ。私は‥‥まあいい、世界最強たるこの私に勝てば、戦利品をやるぞ。どうだ、戦って見るか?」
 にやりと笑うフレイヴ。
「ふん、逃がしてくれるとでも言うのか」
「私の全て、というのはどうだ」
「連邦の、しかも悪魔の文化に染まった騎士になど興味は無いっ」
 そりゃあオールサイバーだからたいした事は出来ないが、その言いようはちょっと酷い。フレイヴはむっとした表情で、兵士をにらみつけた。
 ちらりとフレイヴの視線が、兵士の背後に向けられる。イレーシュはそれに気づいたが、兵士は気づいていないようだ。
「舐めた真似を‥‥侮辱しおって!」
 兵士が銃を発砲した。後方の民間人に当たらないよう、フレイヴはあえて銃弾を受ける。無数に、体に弾が食い込み、またはじいて天井や床に跳ね返る。
 周囲に居た一般客は、わあっと声をあげて飛び退いた。
 しかし、被害はそれだけでは収まらなかった。
 跳弾した一発が、イレーシュの背後のテーブルに命中したのだ。テーブルと、置かれていた本が無惨に飛び散る。
 イレーシュは呆然と、本を見つめた。
 オルキーと徹夜して作った本、オルキーが考えてくれたストーリー、そして自分とオルキーの記憶でもある、この本が‥‥。
「な‥‥何て事を。オルキーと私が作った愛と努力の結晶を‥‥」
 拳をぶるぶると震わせるイレーシュを、兵士とフレイヴは硬直したまま見かえした。イレーシュの体から火花が飛び散り、それらがイレーシュの体が触れているテーブルを青白く光らせる。
「ゆ‥‥許しませんっ!」
 すさまじい稲妻が、イレーシュから兵士に向けて走る。雷の直撃を受けて兵士が悲鳴を上げ、ばったりと倒れた。
 兵士の背後から忍び寄ろうとしていたキウイが、恐る恐る人混みの中から顔を覗かせる。
 ピクピクと弛緩している兵士を、こわばった顔つきでキウイはじいっと見つめた。あまりの出来事に、出ていく事すら出来ずに。
 しいん、と場内が静寂に包まれる。と、どこかで何かが崩れる音が聞こえた。
 人々の視線が一斉に、舞台に向けられる。何が起こったのかしらないが、舞台はガラガラと音をたてて崩壊していた。
 ふう、と一息つきながらフレイヴは兵士の側に座り込み、彼の手首に手をやった。
 しばし考え込む。
「‥‥生きているな。キウイ、会場スタッフのメイデンに言って、本部から人を寄越してもらってくれ」
「は‥‥はい‥‥」
 しゅたっ、とキウイはダッシュでこの場から消えていった。
 それで‥‥とフレイヴが、イレーシュと視線を交わす。イレーシュは恥ずかしさで顔を真っ赤にし、俯いた。

 じいっと本を凝視するフレイヴの手元をのぞき込む、ディアーナ。イレーシュに聞いたところによると、オルキーが作った本は、あの騒ぎで幾つか使い物にならなくなってしまったようだが、残ったうちの一冊をディアーナ達にプレゼントした。
「UME兵も百合本を作るとはな。‥‥本隊は何も言わないのか」
 フレイヴが聞くと、オルキーは笑って答えた。
「ああ、もう辞めたからね。女同士の恋愛は、御法度なんだってさ」
「それが理由で辞めさせられたのか?」
「そうよ。でも、幸せだからいいの」
 オルキーはそう言うと、イレーシュの腰に手を回して引き寄せ、頬にキスした。
「もう、オルキーこんな所で」
「いいじゃないの。‥‥ご苦労様、イレーシュ。後でたっぷり疲れを癒してあげなきゃね」
 オルキーが耳元に囁くと、イレーシュは顔を真っ赤にして俯いた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0038/オルキーデア・ソーナ/女/21/元UME兵
0063/アデルハイド・イレーシュ/女/19/元UME兵
0185/ディアーナ・ファインハルト/女/22/連邦騎士
0239/フレイヴ・ディスターナー/女/21/連邦騎士
0247/キウイ・シラト/男/24/連邦アイアンメイデン
0425/リディアーヌ・ブリュンティエール/女/12/一般人
0379/相神黎司/男/16/一般人

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■         ライター通信          ■
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遅くなりまして、申し訳ありませんでした。
オルキー、イレーシュ、ディアーナ、フレイヴ、キウイの内容はリンクしています。しかし内容は総入れ替えなので、それぞれのものを読むと分かる事、さらに相神くんとリディアのシナリオを読んで分かる事もあると思います。読んでも、本人PLさんにしか分からない部分もあるとは思いますが。
今更な気もするのですが、プレイングでは「オルキーさん」とあるので、オルキーさんと呼ぶ方が良かったんでしょうか?