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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


同人誌即売会を守れ!

 狭い室内をきょろきょろと見回すと、あちこちで思い思いの衣装に着替える女性が目に映った。半分は連邦騎士やアイアンメイデンの制服。残りのうち半分はUME軍の制服。その他、自分達には分からない部類の衣装を持った者がちらほら‥‥。
 赤と白の衣装をしっかりと胸に抱いたアデルハイド・イレーシュが、何かを探すようにうろうろきょろきょろと視線を動かしている。
「ほら、こっちにおいで」
 カーテンが閉じられた窓際で、オルキーデア・ソーナはイレーシュに手を振った。ふわりと笑顔を浮かべ、イレーシュがオルキーに駆け寄る。
 オルキーは既に、鞄から自分の衣装を取り出していた。イレーシュが持っているのは、白い上着に赤いスカートの東洋の衣装。オルキーは、青いスカートでイレーシュより少し地味。
 オルキーは以前日系のUME兵から聞いた、“巫女”という神官の衣装を是非来てみたくて、図書館でその衣装について調べた。それを見ながら夜な夜な手作りする事十日。ついに完成した。
 しかし完成したはいいが、着方は全くわからない。当然イレーシュも知る訳がない。写真のコピーを持って来はしたが、これを見ても全くわからなかった。
「ねえオルキー、これって‥‥ちょっとその写真と違わない?」
 イレーシュは、自分の衣装を広げて見せた。やたらと脇が開いているし、胸元だって小さすぎて谷間が開いて見えてしまう。
「イレーシュ‥‥うち等、どこに場所(スペース)取ったっけ」
「どこって‥‥ええと、たしか成年向けの本を売っているスペースのうち、美少女物の区画だったと‥‥」
「そうよ」
 オルキーは、ぐっと拳を握りしめた。
「うち等は、えっちな本を売ってるの。イレーシュとの愛の日々を綴った本を売っているの! だから売り子もえっちな格好をする。それが当然でしょ」
「いや‥‥」
 イレーシュは、沈黙した。とても嫌そうな顔をしているが、イレーシュはじいっと衣装を見て、しぶしぶ上着に袖を通した。
 イレーシュの胸があらわになるように作ったのだから、当然上着の襟元からイレーシュの胸の谷間が覗いていた。次にスカートを履こうとしたが、このスカートについた紐はどう結ぶのか、よく分からない。
「‥‥なんなの、これ‥‥」
 イレーシュはちらりとオルキーを見たが、オルキーも履けていない。オルキーは苦笑を浮かべて、スカートをひらひらさせた。
 彼女の表情が凍り付いたのは、次の瞬間だった。
 長い間戦場に居た経験か、敵意を持った者の視線には敏感になっている。オルキーは、視界の中にそれを感じ、思わず手を腰にやっていた。
 ふうっ、と風が吹いたと思うと、イレーシュの横に人が立っていた。一人は、ブロンドのロングヘアの女性。服装は連邦のアイアンメイデンが着ているような、ゴスロリ。もう一人は、背がすらりと高く冷たい印象の女性だった。
 どちらもオールサイバーだ。
「動くな」
 イレーシュの後ろに立たれ、オルキーには手出しは出来ない。オルキーは、反射的に手を腰にやってしまった事を後悔しながら、苦渋の色を顔に出した。
「‥‥何の用なの」
「とぼけるな、UME兵だな。‥‥連邦女子は、お前のように日焼けしていない。それにその物腰、反射的に手を腰にやる癖、戦場に居た者の仕草だ」
「くっ‥‥それが何だというの。今は退役しているわ。だからイレーシュの後ろに立つのはやめて。‥‥それとも、連邦騎士はそういう方法がお好きなのかしら?」
 ロングヘアの女性は、ふるふると首を振った。視線をちらりと後ろにやると、長身の女性がオルキーの荷物に手を伸ばした。オルキーは、彼女が荷物チェックをしているのを、黙って眺めている。
 やがて長身の女性は、振り返った。
「何も持っていない」
「そう‥‥」
 彼女は、ようやくイレーシュから離れた。オルキーはほっと息をつき、イレーシュを引き寄せて後ろに庇った。
「さあ、何の用だったのか聞かせてもらえるわよね。‥‥UMEに関係がある事なら、私に話して損は無いはずよ」
「‥‥わかった」
 ロングヘアの女性は、自らをディアーナ・ファインハルトと名乗り、長身の女性をフレイヴ・ディスターナーと紹介した。
「我々は、テロリストがこの周辺に潜伏しているという情報を得てここに来た。彼らは二名の元UME兵で、オートライフルと予備弾を所持している。国籍性別、ともに不明だ」
「今その情報が会場に流れれば、パニックが起こる。だから、極秘裏に奴らを始末しなければならない」
 フレイヴが、ディアーナに続けてオルキーへ言った。
 まだUME兵が、潜伏して戦いを起こしている。イレーシュは悲しみに表情を曇らせ、ぎゅっとオルキーの服を握りしめた。
「分かったわ、見つけたら知らせる。うち等だって、戦いを続けたいとは思っていないわ。そういう奴らは‥‥亡くなった閣下の名において、うち等が始末をつける」
「‥‥期待している」
 ディアーナは、くるりとオルキーに背を向け、歩き出した。フレイヴもそれに続こうとしたが、着かけたイレーシュのスカートの帯に手をやり、それをイレーシュの腰に巻き付けた。
「これは、こう着るんだ。それと襟も逆。日本では、その襟の着方は死人がするものだと思われている。‥‥これでいい」
 フレイヴはイレーシュの衣装を着せてやった。どうやら、彼女も何らかの衣装を持ってきているようだ。この会場では、普段着で居るよりもその方が、かえって目立たないかもしれない。
 イレーシュの衣装を参考にしながら、オルキーもようやく衣装を着終えた。
「さあ、行くわよイレーシュ」
 この衣装で、男性客を集めて、本を売りまくるの。オルキーはぐっ、と拳を握りしめた。

 総統閣下の写真数枚(連邦市民と物々交換用)と、UME本と、先の戦争について書かれたレポート‥‥オルキーは、大量に仕入れた本やアイテムを見下ろして、満足げに笑った。
 会場に居るのは連邦市民が殆どである。UMEの兵士や市民が居る事は期待していないが、規制もされずにこうして開催されているのは、いい事だ。
(みんな、来てみればいいのに)
 そうすれば、おもしろさが分かる。オルキーは次のスペースの出し物を見ながら、そう考えた。視線を動かして、出されているものを確認する。
 その時、視界に何かが走った。それは人混みの中を駆け抜け、オルキーにぶつかってきた。
「あ‥‥ごめんね」
 それは小さな女の子のようだったから、オルキーは怪我をしなかったか、彼女に声をかけた。黒い長髪をなびかせ、少女は顔を少しだけ上げ、無言で通路の向こうに視線を向ける。
 どうやらここを抜けたいらしい。
「どうしたの、一人で来たの? ‥‥ここ、大人向けのスペースだから、来ちゃだめよ」
 オルキーはかがみこんで、少女の顔をのぞき込んだ。しかし彼女の着ている服を目にして、オルキーは顔色を変えた。
「‥‥それは‥‥」
 オルキーの表情が険しくなる。すると少女は、オルキーの感情の変化に反応するように、するりと横に身を押し込んだ。あっ、と思う間に少女はオルキーの背後に回り、人の間に潜り込んでいった。
「ちょっと‥‥待って!」
 あの服は‥‥彼女が着ていた軍服は‥‥。
 オルキーは声をあげ、彼女の後を追いかけようとした。
 ぐい、と誰かが背後からオルキーの腕を引く。ちらりとオルキーがそちらに顔を向け、視線を前に戻すと、もうそこに少女の姿は無かった。雑踏の中に目を凝らすも、少女のあの黒髪も軍服も見つける事が出来なかった。
「どうした」
 振り返ってオルキーが、声の主と視線を合わせる。先ほど会ったディアーナという女性が立っていた。ディアーナは、オルキーが見ていた方を、確認するように見つめる。
 いや、この人混みではいくらサイバーとてあの少女を見つける事は出来まい。
「女の子が居たのよ‥‥本物のUMEの軍服を着ていたわ。西部方面軍だと思う」
「どこの隊か分かるか?」
「ううん‥‥大佐の部隊じゃないとは思うんだけど、後はどの隊だか‥‥アンドラで閣下に付いて撤退した部隊の者か、スパイ活動をしていた者か‥‥部隊から離散して離れる機会は、そう多くないから」
 確かなのは、あの少女はUMEの軍人では無いという事。UMEには、あんなに小さな少女は居なかった。EGからやって来たエスパーの少女の中にも、居た覚えが無い。
 あの少女は、一体‥‥。
 オルキーとディアーナが少女を捜して会場を走り回って十数分。異変に気づいた二人は、足を止めた。誰かが騒いでいる声が聞こえる。続いて、乾いた銃声が天井に向けて響いた。
 銃声を聞きつけたのは、サイバーであるディアーナだった。
「あっちの方で、銃声が聞こえた」
「行こう!」
 オルキーが駆け出すと、ディアーナが続いて走った。
 場内は騒然としていたが、スタッフがイベントだと伝える放送をうけ、次第に静まっていった。
 もしかするとイレーシュに何かあったのではないか。心配するオルキーの視界に映った舞台上の異変に、オルキーとディアーナは足を止めた。
「‥‥何だあれは」
 ディアーナも呆然と、事態を見つめている。
 舞台上に居たのは、不審な男に抱えられたあの少女、そして空に浮いて背中から黒い翼をはやした少女だった。
 しかも、どう見てもその翼は本物に見える。
「相神、何やってんだっ」
 舞台の下から、仲間らしき男が声をかけた。しかし相神という少女は答えない。
「離せ!」
 少女の口から、少年の声が漏れた。
「あれは男だ」
 ディアーナに言われ、オルキーはようやくその少女が、ゴスロリドレスを着た少年だと認識した。‥‥あんまり美人だから、女かと思ったというのは秘密だ。
 少女を抱えた男は、無言で銃を構える。
 男が銃を発砲すると、相神は上空に飛び上がって避けた。火花が相神の周囲に散り、その火花は凄まじい光となって男の側に落雷した。
「くっ‥‥エスパーか、あいつは」
「ディアーナ、うちはあの子を確保する。あいつは頼むよ」
 オルキーはディアーナと素早く手順を打ちあわせると、舞台に上がった。
 ディアーナは低い姿勢で銃を避けながら、様子をうかがう。
「私は連邦から派遣されて来た、ディアーナ・ファインハルトだ。貴様が元UME兵のテロリストだという事は、調べがついている。速やかに武装を解除し、投降せよ!」
「煩い、退け!」
 兵士が銃をこちらに向けた、その隙に背後から接近したオルキーが、少女を引き寄せた。少女を背中に庇うオルキーに、銃を向ける兵士。しかし兵士の視線がそれ、オルキーに銃が突き付けられたその危険を埋めるべく、ディアーナがスピードを上げて差を詰めた。
 その動きに、かろうじて銃を前に向けなおす事で回避する兵士。
 少女はぎゅうっと目を閉じて体を震わせている。
 よほど怖かったのだろう。オルキーは彼女を安心させるように、優しく声を掛けた。
「もう大丈夫よ」
 少女がそうっと目を開ける。オルキーはぎゅっと少女を抱きしめた。もう大丈夫。オルキーは少女に言い聞かせるように、彼女の体を抱えた。
「ソーナ、そいつ頼むぞ」
 戦いの合間に、ディアーナがオルキーに声を掛けた。
「分かったわ」
 オルキーは少女を連れ、舞台の端に避難した。
 少女の大きすぎる軍服は、この混乱の中ですっかりずり落ちて脱げてしまっている。少女は自分の服を見下ろした。
「服、何とかしなきゃいけないわね」
 オルキーは、少女の着ていた軍服を引き上げて苦笑した。
 この少女に、UMEのこの血に汚れた軍服は似合わない。こんな小さな少女が着るものじゃないから。
「私が服を持ってくるから、ここで‥‥」
 オルキーがイレーシュの居るスペースの方に視線を向けた時、舞台に異変が起こった。
 兵士が放つ銃、そして高速機動による床への負担、そして雷撃。
 それらに耐えきれなかった舞台が悲鳴をあげ、崩れたのだ。とっさにオルキーは、少女を抱え込んで伏せる。しかしオルキー達の立っていた床も、崩壊に巻き込まれていった。
 次々と降る機材や柱の欠片、幕から少女を護るように、オルキーは自分の体を少女に覆い被せ、しっかりと抱えていた。
 やがて崩落が止み、静寂が戻る。
 意識を失っていたオルキーの耳に、あの相神という少年の声が聞こえてきた。
「‥‥よかった、無事だったんだな」
 相神はしっかりと少女を抱きしめていた。
 あの少年は、この子を助ける為に戦っていたのか。オルキーは静かに体を起こすと、ディアーナの元に戻った。
 ディアーナは、あの崩壊のショックで失神したらしい兵士を、見下ろしていた。
「‥‥やれやれ、死ななかったのは幸いだったな」
「それは自分の事、こいつの事?」
 腕や足についた傷の具合を見ながら、オルキーが苦笑した。
「どっちもだ」
 ディアーナの答えに、オルキーはくすくす笑った。

 じいっと本を凝視するフレイヴの手元をのぞき込む、ディアーナ。イレーシュに聞いたところによると、オルキーが作った本は、あの騒ぎで幾つか使い物にならなくなってしまったようだが、残ったうちの一冊をディアーナ達にプレゼントした。
「UME兵も百合本を作るとはな。‥‥本隊は何も言わないのか」
 フレイヴが聞くと、オルキーは笑って答えた。
「ああ、もう辞めたからね。女同士の恋愛は、御法度なんだってさ」
「それが理由で辞めさせられたのか?」
「そうよ。でも、幸せだからいいの」
 オルキーはそう言うと、イレーシュの腰に手を回して引き寄せ、頬にキスした。
「もう、オルキーこんな所で」
「いいじゃないの。‥‥ご苦労様、イレーシュ。後でたっぷり疲れを癒してあげなきゃね」
 オルキーが耳元に囁くと、イレーシュは顔を真っ赤にして俯いた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0038/オルキーデア・ソーナ/女/21/元UME兵
0063/アデルハイド・イレーシュ/女/19/元UME兵
0185/ディアーナ・ファインハルト/女/22/連邦騎士
0239/フレイヴ・ディスターナー/女/21/連邦騎士
0247/キウイ・シラト/男/24/連邦アイアンメイデン
0425/リディアーヌ・ブリュンティエール/女/12/一般人
0379/相神黎司/男/16/一般人

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■         ライター通信          ■
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遅くなりまして、申し訳ありませんでした。
オルキー、イレーシュ、ディアーナ、フレイヴ、キウイの内容はリンクしています。しかし内容は総入れ替えなので、それぞれのものを読むと分かる事、さらに相神くんとリディアのシナリオを読んで分かる事もあると思います。読んでも、本人PLさんにしか分からない部分もあるとは思いますが。