PSYCOMASTERS TOP
新しいページを見るクリエーター別で見る商品一覧を見る前のページへ


<アナザーレポート・PCゲームノベル>


屈辱のお茶会に心労の一日を詠みける

 ――珍しく、幸せをほのめかせた声音で、カタリナが遠くを見つめながら神父に語る。
「チェーザレが面白い本を持って来てくれるのだそうで。重たいものだから、持っていってあげるよって――相当珍しいものだそうですけれど、本当に楽しみです」
 何気無く話を聞いていた神父――フォルトゥナーティ・アルベリオーネは、気がつけば刹那、手に持っていたお菓子のトレーを、盛大に大げさに取り落としてしまっていた。
 ――か、カタリナ?!
「ちょっとカタリナ! 今何てっ?!」
 この教会のシスターであるカタリナは、無口で博学で本ばかりを友人としているような少女であった。そんな彼女が珍しく、彼女から自分に話しかけてきた事にも驚きはしたが、
「フォル、そういう事はなさらないで下さいな。床に傷がつくでしょう……」
 幸いトレーの上は空だったものの、しかしカタリナには、フォルの反応よりもそちらの方が気になったらしい。不機嫌そうな声音で、聖堂の長椅子に腰掛けながらフォルに視線を飛ばした。
 フォルは絶句しながらも、腰を屈めてトレーを拾う。その間、カタリナからは一瞬たりとも視線を離さない。
 ……あああ、アイツがっ、
「アイツがやってくるって?! チェーザレがっ?! 僕は嫌だよっ! 嫌だからね! あんなヤツに会いたくないんだってゆーか君もあんなヤツに会っちゃ駄目だよ!」
 どうしてそんなに嬉しそうなのカタリナはっ!
 チェーザレといえば、この町にあるとある本屋の若き店主であった。古英国風の格好に杖を持った、黒髪の青年。彼は、フォルの天敵であり、かつ、カタリナにとっては大切な友人のうちの一人であり、同時に最大の憧れの人物でもあった。
「良いではありませんか。という事で、時間は今日の午後三時。フォル、準備の方お願いしますね」
 取り乱すフォルにも構わず、傍から取り出した本をぱらりと開く。
「ちょっと待ってよ! もう決定事項なのってゆーか何それ! 三時って、今日?! しかもあんなのの為になんで僕がお茶会の準備なんて――!」
 拾ったトレーを強く胸に、迫るかのようにカタリナへと歩み寄る。
 しかし。
「――お願いしますわね」
 フォルを見つめるカタリナの瞳は、貴方には拒否権はありません、と遠まわしに冷たく語るのみであった。


I

 ブルーグレーの瞳が、見知った顔ぶれに微笑んだ。少しだけ短めの前髪に、肩まで伸びる茶の髪をふわりと靡かせ、少女は――藤原 朱月(ふじわら あかつき)は、聖堂の扉の前から明るく声をあげた。
「やっぱり、あんまし直ってないみたいだね〜お久しぶり、シオン、キウィ」
 それなりに広く、美しいはずの大聖堂は、しかし前回のとある事件によって、現在も日曜日のミサすらもろくに行えないような状態のままであった。
 ――カタリナ、お金無いって言ってたもんね、確かに。
 大工の代わりにその二人がいると言う事は、やはりカタリナの言葉に嘘は無かった、という事なのだろう。
 二人は、否、正確に言うなれば一人は、随分と必死になって聖堂の修復に取り掛かっているようであった。
「しかし……やってもやっても終わらないっ! 編み物のギネスに挑戦してるような気分になってくるぞ、キウィっ!」
「シオン、細かい事は得意なんだから……あ、朱月、お久しぶりです」
 床のモザイクの修復に黙々と取り掛かっている父親の言葉に返事を返した息子が――キウィ・シラトが、朱月の声音に長椅子から立ち上がる。
 苦手なボタンは、開けたままに。長い上着にするりとかかる粉雪色の膝まで伸びた髪が、さらりとした黒色の肌に良く映えていた。今日も大切な兎を抱きしめ、暖かな雰囲気を自然と醸し出している。
「うん、お久しぶり、です。今日も弓弦(ゆづる)ちゃんと一緒なんですけれど、弓弦ちゃんは向こうでお茶会のお手伝いをしてるんですよね。あ、勿論キウィもシオンもお茶会、参加しますよね?」
「……そういえば、先ほど神父さんに泣き付かれましたね。お茶会に参加して下さい!――と」
 朱月さん、お久しぶりです、とようやくモザイクから視線を離し、キウィの義理ではあるが父親でもあるシオン・レ・ハイが、少しばかり困った様に微笑んだ。
 見るからに厳格そうな、黒髪に髭の、青い瞳の中年男性。しかしその雰囲気からは、暖かな優しさの色が滲み出ているかのようで、
「泣き付かれた? あたしは弓弦ちゃんから誘われたから、詳しい事情、まだ良くわからなくて、」
 朱月としても、さしたる抵抗もなく付き合えるような人物であった。理論固めの頑固な男は少々苦手な部類に入るのだが、シオンに関してはこの限りではないのだから。
「どうやら、神父の苦手な人が来るようですよ……ほら、マリアさんのおにーちゃん、って人です。マリアは今回来ないみたいですけれどもね、チェーザレさん、って言ったかな。彼の方が、直々にお出ましするようで……」
「……それって、俗に言う修羅場、ってやつ、かな?」
 キウィの言葉に、うーんと朱月が小首を傾げる。
 その一方では、再びシオンがモザイクへと全意識を集中させていた。
 シオンへと向う朱月の視線に、彼女の問いたい事を悟ったのか、キウィが頬を綻ばす。
「早くしないと、プーがクリスマスの飾り付けをする、って言って聞かないんですよ。そのためにも、クリスマスまでには聖堂の方、修理してしまいたいなぁ、と思ってるんです」
 ね、と兎を抱き上げ、大きな手で軽くゆるりと撫でる。
「ええっと、プーって、」
「プティーラさんのことですよ。ほら……丁度、いらしてます」
「藤原さん、キウィさん、それから、シオンさん。お茶会の準備ができましたよ」
 まるでキウィの言葉の間合いを見計らったかのように、愛らしい声音が聖堂へと高く響き渡った。
 ――高遠(たかとお) 弓弦。
 銀色の髪に、色素の薄い肌。アルビノ特有の赤い瞳には、いつでも全てに向けた慈悲の色が――どこか、聖人を思わせるような色が滲んでいる事を、彼女の友人でもある朱月は良く知っていた。
 振り返り、手を振る。
「弓弦ちゃん! えと、それから、」
「プティーラ・ホワイト、だよ、おねーちゃん。プーって呼んでね?」
「僕は来栖(くるす)・コレット。好きなように呼んでくれて、構わないよ」
 立ち上がり、歩み寄ってきた朱月に答えたのは、白色の暖かな服に、ぱっちりとした銀色の瞳の愛らしい少女と、鮮やかな赤い瞳の悪戯めいた少年とであった。
 瞳と同じ色の少し長めのショート・ストレートを揺らしながら、プーはまず、朱月に握手へと握手を求める。その後もう一度駆け出し、シオンへと飛びついて行った。
「ねー、まだ終わらないの? おじちゃんー。早くしないとクリスマスに間に合わないよー」
「む……もう少し待って下さい……」
「毎日毎日もう少しもう少しって言ってるよね? ねー、本当に大丈夫なの?」
「ええ、多分間に合うかと……」
「ねぇ、おじちゃん、プー、色々考えたんだ。何を飾ったら良いのかなぁ、って。リースとか、緑とか白とか色々あるし、ねぇ、フォルも喜んでくれるかなぁ?」
「それはそれは。きっと、神父さんも喜んでくれると思いますよ」
 モザイクを嵌めていたピンセットを置き、シオンはプーへと微笑みかけた。身振り手振りを交え、一所懸命に説明するプーの姿に、ふと、シオンの中にある考えが浮かぶ。
 キウィにも、こんな時代があったのだろうか、と。
 自分の知らぬ息子の過去に、知らず父親の心が動かされる。兎と戯れているキウィの方を振り返り、ふ、と瞳を細めた。
 ――どこか、似ている。
 そう思った事がある。
 兎とあの子は、どこか、似ている、と。
「ピンクとね、白とね、可愛いよね、きっと♪ 小さい子も来てくれるのかなぁ……ねぇ、おじちゃん、聞いてる?」
「あ、ええ、聞いていますよ。リボンのお話、ですよね。確かに緑や赤も大切でしょうけれども、薄い色もきっと可愛らしいですよ」
 呼び戻され、慌ててプーの方へと視線を戻す。その笑顔にふと、キウィの過去も無垢な笑顔に溢れたものであったら良いと、そんな事を考えながら。
「でも、クリスマスの飾り付け、かぁ……確かに面白そうではあるよね。僕もちょっと、やってみたいかも」
 そんな二人の様子を遠くから見つめながら、赤毛の後ろに手を組み、暢気な声音で呟いたのはコレットであった。
 その後ろから、弓弦と言葉を交わしていた朱月がくるりと振り返る。
「僕? そういえばさ、さっきから気になってたんだけど、僕、って、キミ、女の子じゃなくて?」
「あ、うん……まぁ、男、かな?」
 てへへ、と頭を掻いたその様子も、愛らしい。これでコレットの一人称が『私』であれば、
 かんっぺきに女の子、だよね……。
 可愛いワンピースも似合いそうだ、と苦笑する朱月の様子を、何と勘違いしたのか、
「あ、気にしてないよ、僕。もう慣れっこだからね……良く、間違えられるんだ」
 コレットは満面の笑みで、朱月の瞳を覗き込んだ。
 と、
「……皆さん、準備ができましたよ。チェーザレもいらっしゃりました。お部屋の方へ、そろそろ移動をお願いします」
 控えめなカタリナの声音が全員の会話を一先ず遮ったのは、それとほぼ時を同じくして、の話であった。


II

 ――まずは全員で、簡単な自己紹介を終え、全員で会話する事暫く、フォルは相変わらず不機嫌そうではあったが、会話の輪は、意外にもすんなりとチェーザレの存在を受け入れていた。
 古本屋の店主、という職業上か、はたまた本人の興味、関心の深さの所為なのか、チェーザレの話は、水準は高いが奥が深い。
 その所為か、最初は今回の来客に野次を飛ばして楽しむつもりでいたプーも、この入り組んだ教会でどう遊んで帰ろうかと考えていた朱月も、随分と気持ち良さそうに寝息を立てていたが。
「あら、こういうのにもですね、色々と歴史の裏側が見え隠れしてますのよ。それを野蛮だ野蛮だって、一括りにする事はいけ好きませんね。――ねぇ、チェーザレ」
「ああ、確かにな。そういえばカタリナちゃん、そこの気の弱い神父にはこの本、見せないでくれたまえよ。失神でもされたら、後々カタリナちゃんが苦労する」
 お茶会が始まるなり、キウィはまずチェーザレへと、医学書や興味深そうな本の話を投げかけていた。実はそれと同時に、どのくらいの人柄かを見破ろうとしていたのだが、どうやら考えるに、さほど悪そうな人でもないようであった。ただし、例の如く、一癖か二癖はありそうではあったが。
 コレットの方も、興味深くチェーザレの話しに耳を傾けていた。どうやらエスパー嫌いでもあるらしいチェーザレから、最初は少しばかり距離を置こうと考えていたのだが、いつの間にかぐいぐいとその話しに引き込まれてしまい、気が付けばそのような仕切りも無くなってしまっていたのだ。或いはたまに、うっかりと自分の正体をばらすような発言をしない事に気を配るのが、精一杯であった。
 そうして、今。
 しかしフォルを含めた会話の参加者達は、あまりにも、な展開にぎょっとした沈黙を守っていた。
 ――切欠は、シオンの一言。
「ええ、わかっています。それにしてもチェーザレ、本当にありがとうございました。これで又、時間を有意義に過ごせそうです」
「いやいや、カタリナちゃんの為なら」
 『どんな本なのですか?』と、そう問うたのがいけなかったのかも知れない。その一言で、話に夢中になり、カタリナへと本を渡すのを忘れていたチェーザレが鞄の中から分厚い本を取り出したのだから。
 果して、その題名を、誰が考えていた事だろうか。
 珍しく、抱きしめている本さえその本でなければ、普通の愛らしい少女にしか見えないような笑顔を浮かべているカタリナの姿に、フォルは知らず、頭を抱えざるを得ずにいた。
「死刑大全集だなんて……」
 チョコレートドリンクを片手に、深く、深く溜息を付く。
「チェーザレも又、変な物持ってきてくれちゃって……!」
 更に、その本の内容で二人が意気投合してしまっているのだというから性質が悪い。フォルは一気にチョコレートドリンクを飲み干すと、いつもよりは乱暴に、カップをテーブルへと打ちつけた。
 その様子に、カタリナお手製のクッキーを摘んでいた弓弦が苦笑する。
「神父様、そうお焦りにならなくとも……」
「いっつもこうなんだよね……アイツが来ると……! それに、お茶会の準備も片付けも僕だし! あーもう、本当参っちゃうよね……!」
「何を言ってるの、フォルちゃん。お茶会の準備なんて、ほとんど僕と弓弦ちゃんとカタリナちゃんとでやったようなもんじゃない。あ、あとプーちゃんも手伝ってくれたよね」
 弓弦の持ってきた毛布に暖められ、クッキーを片手に握ったままで何やら寝言を呟くプーの方へと視線をやりながら、コレットは向かいのフォルへと容赦なく事実を突きつけた。
「そこのクッキーはカタリナちゃんの手作り、そこにあるお菓子はプーちゃんがわざわざ買って来てくれたお菓子、それから、フォルちゃんのチョコレートドリンクだって、僕のココアだって、他の人達の飲み物だって、ぜーんぶカタリナちゃんと僕と弓弦さんとが用意したやつだよ? フォルちゃんは何もやってないでしょ? プーちゃんはお菓子を並べていたけど、フォルちゃんったら、随分と不機嫌そうに遠くから見てるだけだったし」
「コレット君のいじわる……」
「イジワル、じゃなくて事実なの。ねぇ、弓弦ちゃん? 弓弦ちゃんも、そう思わない?」
「ですがほら、どなたにでも、気乗りしない時というものは、あるでしょうし」
「弓弦ちゃんは優しいんだね〜……うん、それじゃあ、そろそろ、かな?」
「「?」」
 突然身を引っ込めたコレットの言葉に、フォルと弓弦とか顔を見合わせた――その瞬間、
「ねぇ、カタリナちゃん」
 チェーザレとカタリナとの会話を遮るような形で、コレットがすっと手を上げた。
 話しかけられ、カタリナが振り返る。
「何ですか?」
「カタリナちゃんは、チェーザレちゃんのコト、どう思ってるの?」
 途端。
「なっ?! な、何をっ?!」
 がたんっ! と音を立て、平和に沈黙していたテーブルが大きな音をたてた。揺れる食器の音に、はた、とプーと朱月とが目を覚ます。
 フォルはテーブルに手を付くなり立ち上がり、それから暫く、自分が思わずながらにもしている事に気がついたのか、体裁を整えるかのように一つ咳払いをすると、冷静なふりで再び椅子へと腰掛けた。
 しかしその視線は、きちんとカタリナの方へと向けられている。
 その様子に、コレットはにっこりと微笑んだ。
 ――思った通り、だね。
「チェーザレのことを、ですか?」
「そう、カタリナちゃんは、どう思ってるの?」
 子どもながらの無垢な装いで、もう一度きょとん、と問い返す。勿論内心では、色々と計算高い事を考えてはいたのだが。
 同じ本好き同士、おそらくカタリナがこの問いに、悪い答えを返してくるはずもあるまい。勿論、本当の目的は、
 ……第一、何の為に僕が、こんなに一所懸命お茶会のお手伝いをしたと思ってるの? フォルちゃん。
 今日はどうフォルをからかおうかと、お茶会に呼ばれてからの短い時間で色々と考えてきたのだ。折角の機会を、
 無駄にするなんて、勿体無いし。
「どう、って……悪い人だとは、思いませんよ」
「好きなの? それとも、嫌いなの?」
「どちらかと言いますと、好き、の類なのではありませんか?」
「へぇ……やっぱりそうなんだ♪」
 満足な答えに頷き、カタリナへと微笑みかける一方で、ちらりとフォルの方へ視線を投げかける。
 そこには、今にも泣き出しそうな雰囲気を醸し出した、なさけない神父の姿があるのみであった。見かねたプーに慰められる事によって、辛うじて泣き出しはせずにいたが。
「……でもこの質問ですと、神父の場合を問うても『好き』と返ってきそうですが」
「神父さんの考える好き、と、カタリナさんの考えている好き、とには違いがあるんだろうな」
「ええ、まぁ……」
 一方で、台所から拝借してきたニンジンを兎へと食べさせながら、シオンの言葉に、キウィがこくりと頷いていた。
 ――フォルがカタリナへと寄せる想いの種類など、一目瞭然にも等しいものがある。本人がそれについて、どう考えているのかまではわからないが、
「それにしても、やはり若いんだな。私にも、ああいう時代があったと思うと……」
「シオン?」
 ふ、と、過去を懐かしむかのような声音で呟いたシオンに、キウィが名前で問い返す。
 シオンはほっと一息つくと、
「キウィ、キウィも好きな人が出来たら、他の男に取られて後悔する前に告白した方が良い。私にも、好きな人はいたのですよ――大分昔、ずっと昔に。……死んでから後悔しても、遅すぎるだろう?」
 優しく、諭すように、息子の赤い瞳をじっと見据えた――寂しがり屋の、兎のような。
「私はずっと、告白できなかった事を後悔しているのだからな……」
 結果はどうあれ、言えなかったという事実が、今でも突き刺さるように、心の奥底へと取り残されている。あの時、もし自分の想いを告げていたら、
 或いは、今は無かったのかも知れないが。
 それでも――、
 何かが違っていたのではないかと、ふとそんな事を考える瞬間が、シオンにはあった。今でこそ、キウィが――大事な息子さえいれば、それで良いと思う事ができるにしても、しかし息子が一つ成長する度、一つ何かを学んでくる度、シオンはそれだけ、嬉しさと同時に小さな不安に苛まれなくてはならなくなっていた。
 即ち、
 キウィもいつか、私からは――、
 考えたくない、現実ではある。しかし同時に、目を逸らす事の出来ない現実でもあった。
 そんな父親の想いも知らず、キウィはシオンの言葉にどんな想いを感じたのか、じっと兎を見つめていた。
 やおら、ぽつり、と、呟きを洩らすまで。
「……好きな人は、いました」
「――何ッ?!」
 あまりにも唐突すぎる息子の言葉に、シオンは先ほどのフォルと同じ行動を取りかけ、何とか理性で辛うじてそれを圧し止めた。
 ――は、初めて聞いたぞっ?! そんな話っ!
 口には、出さぬものの、
「けれども、遠くへ行ってしまいました。――ですからねぇ、シオン。寂しいのは、」
 一緒です。
 しかし、飲み込まれた言葉の後半を察し、シオンは無意識の内に、一瞬だけ瞳を閉ざしてしまっていた。意外な息子の告白によりも、そこに秘められた寂しさばかりが、妙に心に重く圧し掛かる。
 微笑んではいるが、キウィの視線は遠くを見つめていた。
 遠く、遠く――おそらくはその瞳に、想い人の姿を、映して。
「ねぇシオン、そういえば――、」
 と、あまりにもしんみりとした雰囲気に耐えかね、勤めて明るく装った声音をキウィが発した、丁度その時の話であった。
「プー、それ食べたいなっ! キウィちゃん、取って欲しい〜!」
 丁度チェーザレの話が医学の話しに差し掛かった辺りで意識を手放していたはずのプーが、満面の笑みでキウィを見上げて来たのは。
 キウィは二、三度瞳をぱちくりとさせながらも、やがてその表情を綻ばせる。プーに指を指されたクッキーを、皿ごと引き寄せながら、
「これごと持っていっても良いですよ。まだそっちにも、ありますから」
「うん、ありがとう! カタリナちゃんのクッキーって、本当に美味しいんだもん。プーにはお料理なんてできないから、お菓子も作る事できないけど、カタリナちゃんにだったらお料理、教えてもらっても面白いかも知れないなぁ、って、そう思うもん」
「ええ、それはそれで、面白いかも知れませんね。それにプーでしたら、お料理、きっと上手になると思いますよ?」
 プーの料理も食べてみたいです、と、キウィは少女のふわふわの銀髪を、そっと、撫でる。
 大きなお皿を両手一杯に受取った少女は、どこか心地良さ気に瞳を細めると、そうかなぁ、大きな瞳でキウィを見上げていた。
「プーにもできるかな? うーん、いつかできるようにはなりたいけどなぁ。とっても面白そうだし。お菓子ができると、美味しいしね」
 照れたように、小さくステップを踏む。
 ――その無垢さが、
 今の二人には、どこか暖かく感じられた。


III

 ――唐突に、キウィが話題を切り出したのは、膝の上で兎が眠りかけた頃の話であった。
「ああ、そういえば忘れていませんよ、カタリナ」
「何を、ですか?」
「膝枕の件です」
 途端、
「「「なっ――?!」」」
 三人が一斉に、それぞれの飲み物を吹き出した。
 フォルと、チェーザレと。そうして、シオンと。
「んもう、皆して汚いなぁ、ねぇ、コレットちゃんもそう思うでしょ?」
「大の大人が三人もして……これだから大人って、」
 手にしたクッキーを甘い力で折りながら、プーとコレットとが顔を見合わせる。
 プーの隣では、タオルを取りに行こうと、沈黙のままカタリナが立ち上がっていた。
「なななななっ、なっ?!」
「静かにして下さい、シオン。話が進みません」
 物言いた気に咳き込むシオンに、つん、と冷たく言い放つと、
「そそそそそそそういういういう問題じゃあっ?!」
「いつもなぜか≠アの話になると、話が中断されたり逸らされたりとしてきましたけれど……ね、カタリナ。膝枕、して下さると嬉しいのですが……」
 振り返ったカタリナの視線と、キウィの視線とがぶつかった。途端、その二人の間を遮るかのようにして、シオンが立ち上がる。
「膝枕なら私がするっ! キウィ! だから――!」
「それはイヤ!」
「なっ、何っ?!」
「キウィ君、カタリナはシスターだ。そういう事は、」
「何でイヤなんだキウィっ?! わ、私に何が足りないというのだっ?! キウィが眠って起きるまで、ずーっと膝枕をしてる自信ならあるぞ! というか是非させてくれ!」
「シオン、それじゃあまるで危ない人――」
「キウィっ?!」
 至極冷静に割り込んだチェーザレの声音は、仲睦まじい親子の会話の中へと飲み込まれて消え行った。
 カタリナは既に身を翻し、部屋から出て行ってしまっている。慌ててその後を追おうとしたフォルを、しかし密やかに手早く、チェーザレがその首根っこを引っ掴み、抜け駆けはさせまいと視線で制していた。
 キウィ説得の間合いを見計らうかのように、チェーザレは珈琲を啜る。
 一方カタリナの後を追えなかったフォルは、渋々ながらにも、再び椅子に腰を下ろしていた。
 ――明らかに、分が悪いよねぇ、僕。
 ふとそんな事を、考えながら。
「……どうしていっつもこうなんだろう、僕は」
 キウィたちの会話を聞き流しながら、ふ、と想いが呟きに変わっている事にも気が付かぬまま、フォルは深く息を吐いていた。
 自分がカタリナの事をどう想っているのか、ここまで来てしまえば、決して気づいていないはずもない。彼女と出会って、もう二年にもなるのだ――実年齢はともあれ、精神年齢は遥かに自分より上であろうカタリナを、姉のようにして慕っていたあの頃から、もう二年にもなるのだから。
 出会ってから暫くで、その感覚は、大分和らいでしまったのだけれど。
「……カタリナちゃんは、たまぁに子どもっぽい所が魅力的、だよね? ほぉら、本をもらってた時のあの笑顔とか。いつものカタリナちゃんじゃあ、考えられないよね」
「そうそう、そうなんだよねぇ……最初は『ちょっと怖いかも、このおねーさん』って感じだったんだけど……ねぇ、でもああいうのを見てると、ねぇ? やっぱり年下の女の子相応の可愛らしさって言うか、何ていうか、ほら、やっぱりカタリナってちょっと――ってっ!」
 テーブルに肘を付き、ぼーっとカタリナの帰りを待っていたフォルは、ふと自分が、先ほど聞えて来た言葉に答えるかのようにして考えを口にしている事に気が付き、慌てて後ろを振り返った。
 そこには、
「やっぱりそうなんだ、フォルちゃん。へぇ〜……フォルちゃん、仮にも神父なのに」
「仮にもって何っ?! ってゆーか何でここにいるのっ?! というか君、何を……!」
 向かいに座っているはずの、コレットの姿があった。
 コレットはにっこりと微笑むと、フォルの横から身を伸ばし、お菓子のお皿を引き寄せると、
「何、って、お菓子が足りなくなったから。プーちゃんももっと食べたいだろうし、ちょっと貰っていこうと思って。ああでも、フォルちゃんの本音が聞けるとは思ってなかったなー。フォルちゃん、カタリナちゃんのこと、す――、」
「そんなんじゃないって! ねぇ弓弦さんっ?!」
 慌てるあまり、棒読みの大声と作り笑顔のままで弓弦に話を振ったフォルの目の前に立ち、コレットは振り返った弓弦をじっと見上げた。
「要するにフォルちゃんは、カタリナちゃんの事が大好きなんだって!」
「そ、そんなの当然じゃないっ?! 僕はカタリナのコトだって好きだし、そーだ、うん! 君のことだって、弓弦さんのコトだって大好きだし! ねぇ、弓弦さんっ?!」
 コレットを押し退け、フォルは勢い良く弓弦へと迫りをみせた。朱月がフォルの方をじっと見つめているような気もしたが、それを気に留めている余裕は今のフォルには無いらしい。
「神父なのにっ……弓弦ちゃんに手を出そうだなんて……!」
「朱月、目がこぉわぁい」
 どこまで冗談なのかわからぬ朱月とプーとの会話に、
 しかし、弓弦がふ、と俯いた。
 未だに続くキウィとシオンとの親子の会話の一角に、沈黙が小さく影を落とす。
 弓弦の様子に、朱月もプーも、コレットもフォルも、各々の言葉をひたり、と止めた。
 その沈黙に気がついたのか、弓弦が顔を上げ、四人に向ってふわりと笑顔を向ける。
「来栖さんの仰る『好き』がそういう意味でしたら……ごめんなさい、そういうのは私、良く……わからないんです」
 素朴な言葉に、朱月が苦笑する。
 やっぱり弓弦ちゃんは、とても素直だから……。
 今の話の流れからするに、今の言葉は笑い話として、冗談の一つとして、笑い飛ばすにも値するものであった。
 それを、弓弦は、
「まぁでもほら、弓弦ちゃんは、これからだって。うん、そういう意味でもやっぱり、弓弦ちゃんは神様となんか結婚しちゃあ駄目だと思うなぁ。折角可愛いんだし、絶対モテるって!」
「神様なんか=Aねぇ……」
「ままま、言葉のアヤですって、フォル神父サマ♪」
「いやまぁ、良いんだけどね」
 人の想いというものを、良くも悪くも、軽んじる事ができないのだろう。むしろ冗談の中に隠れていたフォルの感情を、人一倍強く感じてしまっていたのかも知れない。
 弓弦の気分を少しでも盛り上げようと明るく冗談を言う朱月に――そのちょっとした気遣いに、案の定弓弦は微笑を向けてくれる。
「朱月さんの方こそ。この前も一緒にお出かけした時は、四度も声をかけられてたではありませんか」
「一度目は美容室のアンケート、二度目は何か良くわかんないよーなヘンな宗教の勧誘、三度目は胡散臭い雑誌のモデルスカウトだったけどね」
「でも四度目は、あの方は藤原さんのこと、本当に諦め切れないようでしたよ?」
「良くわかんないや。あの人は一体、どういう目的であたしに声をかけてきたんだろ……」
 うーん、と悩み始める朱月の本気さと話の内容とに、朱月を除いた四人がそっと苦笑する。
 ――この人もやっぱり、相当鈍いんじゃあ……?
「朱月ちゃん、きっとそれ、ナンパだと思うけど……」
「ナンパ? まっさかぁ〜」
 皆の言葉を代弁するかのごとく、きっぱりと意見を述べたプーの言葉を、朱月が満面の笑みで笑い飛ばした、
 瞬間。
 かたんっ、と。
 何の前触れも無く、フォルが立ち上がった。
 同時にふつり、と、長く続いていた親子喧嘩の声音も途切れをみせる。
 一瞬にして、部屋の中を沈黙が包み込んだ。
 静けさの帳に、全員の視線がとある一点へと集中する。
 ――帰って来た、カタリナの方へと。
「……何を黙っていらっしゃるのですか? 皆さん。……ほら、フォル、チェーザレ、それからシオンさん、タオルです」
 言うなりカタリナは、手に持つタオルを、名前を挙げた三人に適確に投げてよこした。フォルは歩きながらそれを受取るなり、
「いやぁ、カタリナ、ちょっと遅かったからどうしたのかなぁ、って。本当は僕が取りに行けば良かったんだろうけど、ほら、そこの人がね、どうしても僕と離れたくないって言うもんだから――、」
 すっくと、沈黙を守っていたチェーザレの視界からカタリナを守るかのようにして立ちはだかった。
 あまりにも意図がばればれな行為に、ほぼ全員が呆れているのにも、しかし本人は気がついていないらしい。
 わざと溜息を吐きながら、チェーザレは椅子に座ったままで足を組み替えた。
「退けたまえ神父。俺の視界の目の前に立つな。野郎の後姿など見ていても面白くないだろうが」
「それじゃあ可愛い女の子の方でも見ていればっ?! プーちゃんも弓弦さんも朱月さんも、ついでにコレット君だって十分に可愛いじゃないかっ!」
「フォル、チェーザレがプーに手を出したら、それこそチェーザレちゃん、」
「ロリコン、ってやつになるかも?」
 冗談気味に付け加えたプーと朱月との言葉を遮り、
「俺はカタリナちゃんが良いんだ」
 きっぱりと――あまりにもきっぱりと、チェーザレは言い放った。
 突然神の声音を聞いてしまったかのような形相で、フォルが振り返る。
「な……!」
「前々から言っているだろう。何を今更、だ――」
 焦りを増すフォルとは対照的に、堂々とした出で立ちでチェーザレが立ち上がった。杖を片手に、カタリナの目の前――フォルの背中まで歩み寄る。
 途端、
「おぶっ?!」
 『CUM NUMINE CAESARIS OMEN』――『カエサルの偉大な力への前兆と共に』と彫りこまれたチェーザレ愛用の杖の切っ先が、容赦無くフォルの背中を打ちのめした。チェーザレの見た目からは考えられないほどの強烈な力に、あえなくフォルは床へと撃沈する。
「カタリナちゃん、やはり君は還俗して、俺の所に来るべきだ」
 妻のコルネリアへ向けて、或いは古代ローマの英雄ユリウス・カエサルは、このようにして手を差し伸べていたのかも知れない。チェーザレはカタリナへと右の手を甘く差し伸べると、やおら、戸惑う少女の指先へと触れた。
 ――その靴の下に、もがき苦しむフォルの背を敷かせながら。
「ち、ちょっとチェーザレっ?! 仮にも僕はここの主任司祭だよっ?! 君の教会の主任司祭に、そんな……っつ! 痛いっ?! 痛いって!」
「約束しよう。必ずや、君を幸せにすると」
「なななななななっ?! あーっ?! カタリナっ! カーターりーなああああああああああっ?! あッ?!」
 自分にとっては目を被いたくなるような光景に、フォルは必死にカタリナへと懇願の眼差しを向ける。しかし、
「お黙りなさいなフォル。人の話が聞えませんでしょう……!」
 珍しくうっすらと頬を紅く染めたカタリナは、チェーザレの瞳からは視線を離さぬそのままで、フォルに思い切り蹴りを入れるのみであった。
「あったぁああっ?!……T、Tu quoque, Brute...!(ブルータス、お前もか……!)」
 カタリナへと伸ばされていたフォルの腕が、がっくりと力を失う。
 それとほぼ時を同じくして、
 うわぁ、と。
 観衆が、簡単の声音と共に一点へと集中する。
 まるでそこには、光に照らし出された、舞台があるかの如く、
「――決して世界を、太陽のように、見放しはしない。宵の闇にも、永遠の誓いを。世界の主よりも、深き愛を」
 その視線の先には、一人の忠実な、騎士の姿があった。
 その杖は、姫を守る剣の如く。無為な流れで跪き、カタリナの手の甲へと唇を落とした、チェーザレという名の騎士の姿が。


IV

 ――弓弦の持っていたエチケットブラシでようやくフォルの僧衣の靴跡が落とされた頃、三杯めの飲み物と、最後のお菓子とが、カタリナの手によって並べられていた。
 ちなみにあの後のカタリナは、フォル曰くいつもよりも浮かれ気分だったらしい。元々表情の変化に乏しい為、他の人にはわからなかったのだが。
「だから僕は嫌だったんだっ! 背中は痛いし! 僧衣は汚れるしもう最悪ですよ主よっ! これぞまさしく、Eli, Eli,lamma sabacthani...!(我が神、我が神、どうして私をお見捨てになったのですか……!) とゆー……!」
「フォル、そういうコト軽々しく口にしちゃあいけないって、この前カタリナちゃんが怒ってたよ?」
 まるで何も無かったかのようにして珈琲を啜るチェーザレを睨みつけながら、フォルはなおもぶーたれ続ける。
 ちょこちょこと、再びチェーザレと仲良く話し始めたカタリナへと意識を配りながらも、先ほどの事実上の敗北が相当痛かったのか、今は少女達三人に、多少の文句は言いつつも、黙って慰められるのみであった。
 一方でテーブルの片隅では、唐突な、父親の自分自身の再婚案に、息子が思いきりお茶を噴出す音も聞こえて来たような気もしたが、今のフォルにはそちらに意識を配っている余裕などあるはずもない。
「それにしても、キウィちゃんとシオンちゃんって本当に仲が良いよね。『シオンの好きな人でしたら、きっと素適な人でしょうから』って、これって事実上のキウィちゃんからの再婚許可だよね? まぁ、シオンちゃんはきっと、再婚なんてする気ないんだろうけど――仕返しに冗談を言ってるんだよね? シオンちゃんは、きっと。膝枕の仕返しに」
「プーって本当、敏いよね……本当に6歳? 信じられないなぁ〜」
 朱月に素直に関心を示され、プーが照れたように頭を掻く。
 と、ふと、思い出したかのように小さな手を打ち、
「ねね、朱月ちゃん、そういえば、後で教会の中探検しようよ、ね? プーも色々見てみたいんだ。ね?」
「うん、そうしようねっ♪ この教会、隠し通路とかもあるみたいだし。色々と探索し甲斐がありそうだし……」
「藤原さん、駄目ですよ、あまりそういうことをしちゃあ……怪我でもなさったら、大変です」
「大丈夫だって♪ プーもいるし。ねぇ?」
「うん、大丈夫だよっ! あ、弓弦ちゃんも一緒にどうかな? きっと面白いと思うな♪」
 プーは大きく頷くと、少しだけ顔を顰めた弓弦の手を取った。暖かい手に、弓弦がそれでも、と苦笑したその時、
 不意に再び、カタリナが立ち上がった。
 先ほどと同じくして、後を追おうと立ち上がったフォルが、やはり先ほどと同じくして、チェーザレによって首根っこを捕まれ、そのまま無理やり着席させられる。
 ……カタリナが部屋を後にしたその後、
「もしかして、ホモ、とか?」
 何の前触れもなく、その様子を見守っていた朱月が、きょとん、と呟いた。それも、丁度皆の会話が途切れていた、沈黙の瞬間に。
 フォルが、目を見張った。
「ほ――?!」
「そういえばフォルちゃん、さっき言ってたよね。カタリナちゃんが居なくなる時、『チェーザレが、どうしても僕と離れたくないって言うもんだから――』って」
 クッキーを取るついでに茶々を入れてきたコレットの言葉にも、しかしチェーザレは何も言わずに、珈琲を片手にカタリナのクッキーを味わうのみであった。
 或いはチェーザレはフォルとは違い、こういう場合の最善の対応の仕方を、良くわかっているだけなのかも知れないが。
「そんなっ?! どうして僕があんなヤツとなんか!」
「エム……」
「そんなわけないってえええええぇええええっ?!」
 言われかけた言葉を精一杯遮り、フォルは目の前へと最後の助け舟を求めた。
 チョコレートクッキーを頬張る、プーの方へと視線をめぐらせる。
「プーちゃんなら、わかって下さりますよねっ?! ね?」
 問われてプーは、頬張っていたクッキーを飲み下す。ホットミルクで一先ず口直しをすると、
 にっこりと。
 満面の笑顔で、フォルの方へと視線を返した。
「……やだなぁ、フォル! プーのコトそんなに無粋だと思ってるの? 男同士の禁断の愛とは言え――二人は、こんなにも愛し合っているのに」
 あまりにも――あまりにも大袈裟すぎるプーの一言に、再びフォルとチェーザレとが、飲み物を噴出していた。
 笑いながらも呆れたふりで、プーが腰に手を当てる。
「本当、汚いんだから……だからカタリナちゃんに怒られるんだよ、特にフォル」
「ぷ、プーちゃんがそんな事言うからっ! 僕達がホモなわけっ?! ってゆーか昼メロの見すぎっ?!」
「全力で否定する辺りちょっと怪しかったり? どうなんだろ……ねぇ、弓弦ちゃんは、どう思う?」
「すみません……私、そういうのは……」
「フォル、昼メロって、三角関係は良くやるけどホモなんてやんないって! それにしてもカタリナちゃん、早く帰ってこないかな〜……。色々と聞いてみないと、ね。まだまだ面白くなりそうだし♪」
 プーの悪戯めいた言葉に、フォル、朱月、弓弦とが言葉を続ける。チェーザレの方は飲み物の詰まりどころが悪かったのか、未だ激しく咳き込んだままでいた。

 ――どうやらお茶会は、まだまだ暫く続きそうであった。 


Finis



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
            I caratteri. 〜登場人物
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

<PC>

★ 来栖・コレット 〈- Kurusu〉
整理番号:0279 性別:男 年齢:14歳 クラス:エスパー

★ キウィ・シラト
整理番号:0347  性別:男 年齢:24歳 クラス:エキスパート

★ シオン・レ・ハイ
整理番号:0375 性別:男 年齢:36歳 クラス:オールサイバー

★ プティーラ・ホワイト
整理番号:0026 性別:女 年齢:6歳 クラス:エスパー

★ 藤原 朱月 〈Akatsuki Fujiwara〉
整理番号:0086 性別:女 年齢:16歳 クラス:エスパー

★ 高遠 弓弦 〈Yuzuru Takatoh〉
整理番号:0002 性別:女 年齢:16歳 クラス:エスパー


<NPC>

☆ フォルトゥナーティ・アルベリオーネ
性別:男 年齢:22歳 クラス:旧教司祭

☆ カタリナ
性別:女 年齢:20歳 クラス:シスター

☆ チェーザレ
性別:男 年齢:21歳 クラス:古本屋の店主



□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
          Dalla scrivente. 〜ライター通信
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 まず初めに、お疲れ様でございました。
 今晩は、今宵はいかがお過ごしになっていますでしょうか。海月でございます。今回はお話の方にお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。又、いつもの事ながらに、締め切りぎりぎりの納品となってしまいまして、本当に申し訳ございません。
 今回は潔く(?)お茶会自体をテーマとして取り扱わせていただきました。が、やはりお話の方の肥大化が進んでしまいまして、勝手ながらにも頂いたプレイングの方、かなり削らせていただく事となりました。本当に申しわけございませんでしたと、まずはこの場を借りて、お詫び申し上げます。
 気の所為かも知れませんが、フォル神父、最近虐められキャラになりつつあるような気がします(苦笑)。いえ、あたしの所の神父様NPCは大体揃いも揃って虐められキャラなのでございますが、今回の虐められっぷりは、多分五本の指にも入るのではないかなあ……と。あまりにも可哀相なので、次回くらいは良い目にあっても罰は当たらないのでは? と思う今日この頃でございます。
「ブルータス、お前もか!」は歴史上では結構有名な台詞かと思われますが、実はユリウス=カエサルは暗殺される際、そう言い残してはいないという説もあるようです。とは言え実際、歴史上の台詞には胡散臭いものも沢山あるようです。それが真実かなんて、結局の所調べようもありませんしね(苦笑)

>コレット君
 今回はあまり問題となりませんでしたが、確かにチェーザレはエスパーが嫌いなようです。キャラ設定を随分とお読みいただけたようで、大変嬉しく思います。なお、フォルとチェーザレは一見仲良しこよしのようにも見えなくはないのですが、実際はチェーザレの方が、かなりフォルの事を毛嫌いしているようです。あまりそういう風にも見えませんが(汗)フォル……からかっていただけてさぞ本望だったでしょうと、カタリナが背後から申しております(笑)

>キウィさん、シオンさん
 色々とプレイングの方、削らせていただく結果となりました。何かと足りない部分等あるかとは思いますが、ご理解いただけますと幸いでございます。親子の感情が交差する感覚が、とてもプレイングの方、読ませていただいていて良いなぁ、と思いました。お互いに、言いにくい・言えない過去があるという辺りがまたとっても……。キウィさん、フォルに見方して下さるとの事でしたが、その暇もなくチェーザレに潰されてしまいました(滝汗)ほ、本当にすみません……ご好意を無駄にするような結果に終わってしまいまして……(汗)

>プーちゃん
 実際の出番よりも、今回は他の人の話に挙げられる、という形での登場の機会が多くなってしまいました。やはりプレイングの方、かなり削らせていただいてしまいまして、本当に申しわけございません。何せカタリナがあのような状況でしたので……(汗)フォルとチェーザレとは、ある意味拳で語ってくれたのかなぁ、ともちらりと思います。と申しますか、フォルが一方的に虐められていただけなのかも知れませんけれども(苦笑)

>朱月さん、弓弦さん
 やはりプレイングの方を大分削らせていただきまして、申し訳ない限りでございます。当初は教会探索の予定もあったのですが、書いていく内に収まりきらなくなりまして……(汗)フォルは初中後叫びっぱなしでして、諭す、どころの状況ではなくなってしまいました。本当はあそこまで酷く虐められる予定はなかったのですよね(苦笑)最初はそれでも、互角戦力の対決、という感じな予定だったのですが、いつの間にかフォルが一方的に敗北するお話となってしまいました。

 では、乱文かつ短文となってしまいましたがこの辺で失礼致します。
 PCさんの描写に対する相違点等ありましたら、ご遠慮なくテラコンなどからご連絡下さいまし。是非とも参考にさせていただきたく思います。
 次回も又どこかでお会いできます事を祈りつつ――。


15 dicembre 2003
Lina Umizuki