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<東京怪談ノベル(シングル)>


■私のすいーと・ぱらだいす☆■
 ちゃっちゃらちゃらちゃら、ちゃっちゃっちゃっ〜♪
「皆さんこんにちは。『明日を作る』の時間がやってまいりました」
 最近、人気上昇中のローカルテレビ番組である。
 わざわざローカル番組と断るまでもなく、審判の日にネットワークが崩壊して以来、テレビはローカル放映しかない。その中で、この地域では最大の放映エリアを待つ局だ。
『明日を作る』は、個人・団体を問わず、様々な趣味や研究を紹介している。タイトル通り、社会生活の発展を担う内容を目的としているらしい。
 お堅いものから与太話に近いものまでバラエティ豊かなせいか、視聴者層も幅広い。通になれば、次回予告の司会者で、内容の系統が予測できるようだ。
 番組は、かつて某国で流行した、カルチャースクールを模した構成だった。
「今週の講師はクレール・フェリエさん。テーマは『私だけのシンデレラ城』です。では、講師をお呼びしましょう」
 さっとカーテンが開くと、ショートカットの金髪に眼鏡をかけた、生真面目そうな女性が歩み出た。両手には大きな紙の束を抱えている。
「あれ? この司会の時に、珍しいタイプの講師だな」
 視聴者の一人が首を傾げた。
「ようこそ、クレールさん。早速ですが、クレールさんはアトラクション施設を造る夢をお持ちだそうですね。このシンデレラ城も、その一環でしょうか」
 息もつかずに話す司会者に、クレールはにこりともせずに会釈を返した。
「そうですね。アトラクション施設と言うと子供向けの遊戯施設と考えられがちですが、これは大人も楽しめるエンターテイメント・スポットにしたいと考えています」
「と、言いますと、どのような仕掛けがあるのでしょう?」
 司会は興味津々だが、クレールは変わらず至って冷静だ。
「たとえば、部屋ごとにシチュエーションに合わせた選曲が可能な自動演奏の装置。これは、シャンデリアの調整と組み合わせれば、好みの雰囲気の演出に一役買うでしょう」
「こちらが、その照明パターンの例ですね」
 司会は、クレールが持参した紙の束の一部を広げた。
 デフォルトはお伽話のお城らしく、豪華で煌びやかな照明だ。その他、『ホラーハウス風:今にも消えそうな蝋燭』など、幾つかのバリエーションが提示されている。
「オプションで、不思議ロボットを何体か設置しても良いでしょう」
「不思議ロボット! ステキな響きですね。どんな不思議があるのでしょうか」
「それは、製作者の趣味で不思議と感じる機能です」
 超常現象系なら瞬間移動、便利系なら給仕全般、お茶目系なら歌と奇妙なダンスなどなど。
 例は出せるが、『不思議』という言葉そのものが醸し出す微妙なニュアンスは、なかなか説明し辛い。まあ、要するに不思議なロボットなのだ。
「ところで、クレールさん。このお城における最大のウリは、階段だそうですが」
「シンデレラ城ですからね」
 頷くクレール。それでも表情は変わらない。
「階段の長さや幅は、12時の鐘の音に合わせて決まります」
「すると、たとえば」

      〜イメージ映像1〜
 りーんごーん‥‥。
「いけない、12時の鐘だわ」
 ドレス姿の女性、階上の大広間からダーッシュ!
 階段びろびろびろーん!
「って、うそー!? 来た時の倍? 間に合わなーい!」

      〜イメージ映像2〜
 りーんごーん‥‥。
「いけない、12時の鐘だわ」
 ドレス姿の女性、階上の大広間からダーッシュ!
 階段しゅるしゅるしゅるー! 僅か3段!
 扉がバターン、ゴォォォォォォォォル!
(どうしよう‥‥勢い余って出ちゃったよ。ガラスの靴を落としてないのに)


「いやあ、実にスリリングですね」
 何故、タイムトライアルの脱出ゲームが必須なのかとつっこみたい視聴者もいるだろうが、これはそういうお約束なのだ。
「他にポイントとなるのは、どこでしょうか」
 問われて、クレールは少々考える。
「そうですね。建設予定地の周辺には、洞窟が多数あります。こういった地形を利用するなら、地下牢を併設してみるのも、幻想的ではないでしょうか」
 地下牢。そこは、怪奇と幻想の世界だ。
 恨み満載の亡霊がうろつく回廊、この世のものとは思えない魔物を封じた迷宮、金銀財宝を隠した秘密の小部屋etc.
 お好み次第でドキドキエリアが展開可能だ。
「1日かけても飽きないくらい、各種アトラクションが充実していますね。地下牢エリアなんて、迷ったら1ヶ月くらい放浪できそうで、これまた油断ができません」
 司会の声がうきうきしている。
「新しいタイプのデートスポットとしても注目を浴びそうです。個人の趣味として始められたそうですが、一般公開の予定はないのでしょうか」
 きりりとした緑の瞳は、全く動じなかった。
「これは、あくまで私の趣味ですので。ただ、同様の施設を改良すれば、商業施設としての営業も十分可能でしょう」
 宿泊や休憩の施設を整えれば、観光スポットへの転用もできるだろう。『魅惑の地下牢探検1週間』というツアーが組まれたりするかもしれない。

      〜イメージ映像3〜
「もう10日目か。標準は1週間という話だったが」
 かなりやつれたツアー参加者。どうやら同行者達ともはぐれた様子だ。
「ああ、あれは宿泊ポイントの表示。よかった、今夜はベッドで眠れる」
 よろめきながらベッドに横になり、拳を握る。
「明日こそは。明日こそは出口をみつけるぞ」
 本気のサバイバルゲームに、燃える闘志。ちょっと他では味わえない緊張感だ。かと思えば。

      〜イメージ映像4〜
「こんなゴージャスなダンスパーティーは、初めてよ」
 中世の宮廷風な、豪華絢爛な舞踏会。画面をよく見ると、内何名かは不思議ロボットで不思議な行動を取っていたりする。
 体力に自信がなければここまでだ。自信があれば、不思議ロボットの不思議攻撃をかわしつつ、早すぎず遅過ぎず、丁度のタイミングで大階段を降りるまで挑戦してみるとか。
「それでは、ここでもう一度シンデレラ城製作に必要なものをまとめていただきましょう」
「まず、最も重要なものは、この設計図。これがなくては、建設は不可能です。後は、資金と建設作業員を用意すれば、どなたでもあなただけのシンデレラ城を持てるでしょう」
 すいとクレールは軽く眼鏡を持ち上げた。
「これからクリスマスを迎えますし。この時期、皆さんも、是非挑戦してみてはいかがでしょうか?」
 挑戦? 挑戦って何だ? 城内トライアスロンでもするのか?
 設計そのものも、かなりチャレンジャー精神と遊び心を要求されそうだ。
 出来上がった城をどのように楽しむかは、まさに挑戦だろう。フルコースをクリアするには、相当な知力・体力・運を要求されるに違いない。
 そこまで熱くならずとも、普通にロマンチックな夢に満ち溢れ、心ときめく設備とサービスが行き届いた館にしても良い訳だが。
「ステキなお城ですね。私もぜひ挑戦してみたいと思います。尚、今週の企画はラスト・リゾート株式会社様に協賛していただきました。お問い合わせ先は、番組の後にお知らせします。それでは、また来週」
 ぴろぴろぴろぴろ、ちゃんちゃんちゃん♪

 その後シンデレラ城建設ラッシュが起こったのかどうか。クレール女史が更なるアトラクションワールド建設を進めたのかどうか。
 情報伝達が限られるこの世界では、残念ながら捕捉できなかった。

■ライターより■
 ご発注ありがとうございました。
 番組構成そのものに元ネタがあったのでしょうか?
 普通のクレールさんと、1千万年光年の彼方に吹っ飛んだクレールさんと、どちらが良いのか不明でしたので普通のクレールさんにしました。