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<東京怪談ノベル(シングル)>


本日、大ハズレ。


 あー本日も金が無い。

 はぁ、と道端で溜息を吐いていたのはひとりの少女。
 その様は可愛らしく、人――特に男の気を引くのに良さそうな容姿と言える。
 但し、考えている事には色気無し。
 と言うか、そもそもこの人物、『少女』ではなく『少年』である。
 来栖コレット。
 彼は、戦火により数ヶ月前にはぐれてしまった――とある女性を捜しての旅の途中。
 そろそろ路銀も少なくなったしね。
 稼がないとなあ。
 思いながら仕事を探す為、そこらの店に顔を出す。

「済みませー…ん」
「なんだい? 施しなら余所へ行きな」
「いえ、表の貼り紙見て来たんですけど」
「嬢ちゃんがかい?」
「はい。えと、大した事は出来ないけど、出来る事ならなんでもやりますし。皿洗いとか」
「でもねえ…やっぱお嬢ちゃんじゃー、ねぇ」
「…そう…ですか」
 言葉はやんわりとだが態度は完全な拒絶。
 粘っても無駄かとコレットはあっさり退いた。

 ちなみに、この町に来てから…今の店で何軒目だったか。
 やっぱ僕みたいなの使ってくれるところってないのかなあ…。
 はぁ。
 …腹減った。

 思いながらふらふらと周辺をぶらつく。確かさっき頃合な広場――があったからそこででも。
 こうなったら取り敢えずナンパ待ち。
 …僕の見た目なら誰か来るだろーし。
 今時の大人の男って『餓えてる』莫迦多いしね?
 内心含み笑いつつ、コレットは広場へ。
 そして、手持ち無沙汰げに佇んでみる。
 やり方は…いつの間にか慣れた。
 そんな目的の奴らが声を掛け易いように、具体的に待っている相手は居ないのだが、人待ち風に。
 と。

 程無くゲット♪
 声を掛けてきた男たちににこやかに応対しながら、それとなく相手を窺う。
 一応一般人みたいだね。
 って言っても…さすがにこの御時世でナンパするだけあってそれなりに腕に覚えはあるようで。
 数を頼んでるってのも安心材料としてある訳か。
 僕みたいなのひとりだけだったら力尽くでなんとかなるってね。

「…でさ、誰か親切な人居ないかな、って待ってたんだ」
「だったらちょうど良いじゃねえか、俺たちちょうどメシ食いに行くところだったんだもんなあ?」
「本当!? 僕の事連れてってくれる?」
 可愛らしく小首を傾げ、コレットは人懐っこい笑みを見せる。
 これは脈ありと見たのか、男たちも特に警戒する様子無し。
 …さて、これでメシにはありつけるか。


 暫し後。
「ありがと。すっごく美味しかった☆」
 にこにこ。
 愛想良いままコレットは言うと、席を立つ。
「どうした?」
「…えと、ごめんちょっと良い?」
「トイレか?」
「やだー、そんなはっきり言わないでよー」
 きゃらきゃらと笑いつつコレットは馴れ馴れしく男のひとりをばんばんと叩く。
「おう、悪ィ」
「デリカシー無さ過ぎだぜお前」
「行って来な」
「うん。待っててね☆」
 言い残し、コレットはたったったっ、と足取りも軽く店内を歩いてトイレに向かう。
 が。
 実は別にトイレに行きたい訳ではない。
 トイレ経由で当然の如く外へと出る。

 …どーも路銀が掴めそうなノリじゃ無くなってきたからね。
 昼間だからって関係無しで次は僕の方が『連中の御馳走』になっちゃいそうな雰囲気あったし。
 ま、腹ごしらえだけでも出来たって事で万々歳か。

 欲張っちゃロクな事無いし。
 よし、その辺のおじさん引っ掛けてお小遣いでもせしめよっと。

 お腹が膨れたからか、御機嫌でコレットは通りをたったったっと走っていく。


 が。
 …どーも、今度は運悪くカモが見当たらない。
 やぁっぱ油断無さそうな奴が多いなぁ…。
 それに人自体少なくなってきてる気がするし…。

 て言うかそろそろ薄暗くなってきてるって。
 この調子じゃいいカモなんか見付かりそうも無いよなあ。
 はぁ。
 またも溜息が出てしまう。
 どうしよっかなぁ…。
 悩みながらとぼとぼと歩いている。

 と、そこに。
 何やら聞き覚えのある声がした…気がした。
 居たぞ、とか何とか、少し離れたところから。

 ?

 ふとコレットは声のした方――自分の前方を見る。
 そこにはかなり最近に見覚えのある連中――先程のナンパ男どもが居た。

 げ…。
 コレットは一旦停止するが、くるぅりと振り返ると――そのまま一目散に駆け出す。
 が、そんなコレットの態度を見るなり当然の如く、待てっ、だの、手前このままただで済むと思うなよ、だのと怒鳴りつつ追って来る音がする。

 待てと言われて待てるかよっ。
 ぜってぇ連中に捕まっちゃやばいって!
 追ってくるのに武器らしい武器掲げてないってのもある意味逆にやばいし(…何か思惑があるようにしか見えない。そう、コレットの身体を下手に傷付けては連中の『目的』が達成出来ないとでも言うか…)
 コレットはひたすら逃げる。

 が。

 荒々しい走る足音は遠ざかるどころか近付くばかり。
 コレットは、ち、と舌打ちした――舌打ちした、その直後。コレットの細い肩にゴツい手が掛かる。

 離せっ。

 思うなり即座にコレットは上下二連銃身の小型拳銃を取り出し、振り返りざまに時間停止の能力を発動した。
 瞬間、怪訝そうな顔をする男。
 そのままで、男は不自然に停止した。
 ブゥン…と淡い青の光を纏ったコレットは、自分の身体に手を掛けた男の腕から抜けると、その触れた腕の位置を慎重に確かめ、銃口を向けると、発砲。
 そして時間停止の能力を解除する。
 と、発砲された弾が男の腕に命中した。

 ぎゃあああと叫ぶ声。
 一拍置いて、どよめき、退く周囲。
 それは追って来ているナンパ男たちだけでは無く。
 たまたま居合わせた周囲の人も。
 瞬間移動したかの如くのコレットの位置の変化と、そうなる直前に見えた、青の光を纏った姿。
 超能力の発現のひとつ。
 …それを使うとなれば。

「手前…化け物かよ…っ」

 ――昨今、化け物とエスパーは置き換え可能な言葉になっている。

「…そうだよ。運が無かったなアンタらっ!!!」

 言ってまた時間停止の能力を発動した。
 スゥ…と青い光の尾を引かせつつ、コレットは今自分に対し化け物と言った男の前まで移動した。
 そして真正面、至近距離で男の顔――頭に銃口を突き付ける。
 時間停止を解除した。
 刹那、正面に居た男の顔色が変わる。
 …男の目の前にはいつの間にか、件の――赤い髪と瞳の小柄な『少女』が居る。
 そしてその『彼女』に真っ直ぐ拳銃が突き付けられている――その事に。
 男は時間停止の力故にでは無く、自発的に固まっていた。

「…死にたくなかったら、もう二度と僕に構うな」

 コレットはぼそりと宣告する。
 男は青褪めた。
 こくこくとただただ機械的に頷く。
 それを見てコレットは小型拳銃――デリンジャーの銃口を少しだけ、逸らした。すると男はよろよろと後退り、それでもコレットが何もしないと思うと一目散に逃げて行く。
 …気が付けば他の連中も男を置いてとっくの疾うに逃げていた様子。

 はぁ。
 コレットは今度は安堵の息を吐く。
 助かったぁ…。
 ってうぁ、銃弾て高価いんだよ…。
 ふと我に帰る。
 食事何回分になるだろう。
 と、実際に一発ぶっ放した後になってから内心そっちで泣いていた。

 で。
 どうにか連中を撃退…できたが。
 後味は悪い。

 なぁんかエスパーだって事の逆利用だもんね…結局。
 最後は、それで気味悪がられて怖がられて…逃げられたようなもんだし。
 このデリンジャー如きじゃ、まともに遣り合うには大して役には立たないから…そりゃ、どうしようもない話なんだけどね。
 コレットはひとり苦笑する。

 さて。
 取り敢えずはまた、ナンパ待つかな。
 …いや、今日ここでじゃ、もう誰も僕をナンパなんてする訳ないか。
 周囲をそれとなく見渡すと、慌てて目が逸らされる。関り合いになりたくないと。
 ま、当然か。
 全然構わないけどね。
 …『あの人』以外には僕ももう期待しないから。
 ひとりでも認めてくれるならそれで良いから。
 …小さな胸の痛みは気にしない。
 コレットはデリンジャーを仕舞い込む。
 まったく。男相手に貞操の危機なんて洒落になんないよ。

 ………………って、今日、何処で寝よ?

 はたと気付いてコレットは立ち止まる。
 結局、悩みは尽きず堂々巡り。

 はぁ。

 …ガキの独り旅ってのは、辛いよね。


【了】