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お仕事一緒に探してください。
「ああ、今日も……仕事が見つからなかった……」
少年は、落ち込んだように両手を目の前で合わせた。
ここは寒村の役所だ。
彼は、子どもの頃の事故で両手両足をサイバー化し、莫大な維持費がかかっていた。それなのに、仕事が見つからない。
彼は、優秀なエスパーでもあるので、それでも何とかしてきた。
(だけどもう……限界だ)
幾ら人口が少ない寒村とはいえ、いや寒村だからこそ、異端者には厳しい。それでなくても、何十年と変わらない姿であるのに、時折、煙のように蒸発していては、人々の視線は強くなる一方だ。
彼は、情報を求めた。
エスパーである彼らにしか読み取れぬ音波数で、今どのように生活しているかを聞いた。
そして、彼は待つ。何か良い仕事を斡旋してくれる仲間を。
粗末な木彫りの扉を叩く音がした。少年は、ハッと振り返る。そこには、赤い髪、赤い瞳の少女がいた。少し生意気そうに吊り上げられた口元が逆に魅力的でその細い腕とともに何か小悪魔的な雰囲気を漂わせていた。少年は驚く。目を二、三回しばたかせて、それから思いついたように二、三歩後ずさりをした。少女は笑む。
「こんにちは〜♪電波受け取って来てみたんだけど、ちょーっと迷っちゃったよっ。遅くなってゴメンね?」
「あ、あの君もエスパー」
「うん。そうだよっ。じゃなけりゃこんな田舎にまで来ないって。んで、早速本題に入るけど、仕事、探してるんだって?」
「う、うん」
「そうだよね。エスパーってことを差し引いても、子どもを雇ってくれるところって少ないもんね。…僕もいっつも仕事がなくってさ」
少女はそこで少しだけ俯いた。しかし、少年が手を伸ばす前にすぐ起き上がる。
「まあ、でも僕にはこの可愛い容姿と天使の笑顔があるから食べ物にはあんまり困ってないけど、お金はなかなか手に入りにくいよね〜」
少女は、腕組みをした。
「あ、そうだ!なんだったら男を引っ掛ける方法を教えてあげようか?だーいじょうぶ、世の中需要は広いから。男でも充分、オジサンを引っかけられる!」
パンと手を叩いて、少女は少年をじろじろと上から下まで見た。
「う〜ん。僕ほどではないけど、まあ可愛い系の容姿かな?うん!ギリギリOK!じゃ、行こっか♪」
「え、え?……どこへ?」
「もっちろん、街へだよ♪あ、君テレポートとか千里眼出来る?僕も多少、超能力を使えるんだけど、そっち方面はどーも上手くいかなくってさ。あ、そーだ。名前、言ってなかったよね?僕、来栖・コレットです。来栖でもコレットでも好きな方で呼んでくれていーよ」
少年は目を白黒させた。だが、にこにこ笑うコレットを見て、少年もゆっくりと笑った。
「ええーと。僕は深賀・マンスです。えーと……一応、超能力だったら、一般的なものは、全部使えるけど……でもなんで?街に何をしに行くの?」
「もっちろん、マンスちゃんに女装させるためだよ♪」
「は?じょ、女装っ!?な、なんでっ!?」
「それはー女装した方が男引っ掛けやすいからに決まってるじゃん♪」
そう言ってコレットはマンスの肩をポンと軽く叩いた。マンスは首を傾けながら、近くの街へと移動した。
マンスの住んでいる寒村から車で飛ばして二時間ほどにある街は、にぎやかだった。水素エンジンを搭載した二十世紀頃のレトロなものを乗りこなしている好事家や、耳や髪、腕や手首に装飾品をつけたご婦人が闊歩する、まさに娯楽街といった雰囲気が強い。コレットは、その、この世界ではあまり見られないきらびやかなムードに感激しているようだった。大きな瞳を更にキラキラと輝かせて、きょろきょろと動かしている。マンスも呆然としている。コレットは小声で呟いた。
「へえー。変わってないなあ」
「え?初めてじゃないの?」
「うん。僕、色々な所旅してるからね。大抵の街には一回は行ってるよっ。でもねえ〜こんなご時世でしょ?もう一回訪ねた時には、無くなっているっていうのも珍しくないんだよね〜だから、きょろきょろしてただけっ。マンスちゃんの方こそ初めてなの?一番近い街なんでしょ?ここ」
「う、うん……。たまに入る時はあったけど……夜ばかりだったから。こんなに人がいるところなんて、見たことない」
「そっかあ」
コレットはにっこりと笑う。
「じゃ、僕オススメのお店、紹介してあげる♪紹介料は仲間のよしみでナシにしてあげるから、安心して付いてきていーよっ」
そう言ってコレットはスキップしながら歩き始めた。
「じゃーん♪ここだよっ」
コレットは両腕を広げた。マンスは一歩足を退いた。
そこは、ファンシーピンクな乙女御用達の店だった。濃さの違いはあれど、全面ピンクのふりふりな服が壁や店内のハンガーにかけられている。所々の装飾品も茶色いクマだったり、可憐な小花だったりで思わずマンスはよろけそうになってしまった。
「こ、ここ……?」
「うん。ここっ。あ、店員さん〜♪この子、適当に飾ってあげてよ」
「はい。かしこまりました」
「ちょ……ちょっと待って――……」
「はいっ。逃げるのはナシだよっ♪」
コレットはにこっと天使の笑みでマンスの襟首を掴み、店員に彼を試着室に連れて行くように頼んだ。
「あっやっぱり良く似合ってるっ」
「……っ。あんまり嬉しくない」
着せられたのは真っ白いレースのついたワンピースだ。丈は足首まであり、何枚も重ね布がしてあるから、寒くはないが、下半身が不安定だ。不満そうにコレットを軽く睨む。コレットはにっこりと笑った。
「なに?なになに?もーっとキレイなの着たいって?んーじゃあ、店員さ〜んっ」
「ち、違うッ!! ……っ。もう、いい。コレでっ!!」
「あははっ。何でも楽しまなくちゃ、ソンだよっマンスちゃん」
「むー……」
コレットはまだ笑い続けている。マンスはその顔をチラリと見た。軽くため息をつく。
「君が着た方が可愛いのに……」
「ん?なに?」
コレットは指の腹で目尻を掬いながら聞く。マンスは、フイッと横を向いた。
「何でもない」
「あははっ」
コレットはまた笑った。その服のまま、マンスをレジへと連れて行き、買うように勧め、外へと出た。
それから十数分後。
通るだけで肩が当たる繁華街を抜け、コレットたちは、怪しげなネオンが瞬く裏通りへと来ていた。自然、彼ら二人は路傍のあちこちでうずくまる目つきの悪い屈強な男たちのぶしつけな視線を一身に浴びていた。マンスは居心地悪そうにコレットを見やる。彼は陽気に笑っていた。
「じゃ、ここら辺で適当に人待ち顔してぶらつきなよっ♪」
「ひ、人待ち顔?……ってどうやってやるんだ?」
「――……んー。誰か待っている顔?」
「待っている人などいない」
「んー。それじゃ、僕と一緒に立っててくれるだけでいいから」
そこですれ違った中年の男が急にマンスの肩を叩いた。マンスの肩がビクッと震える。中年の男は笑っていた。
「ねえねえ君たち?僕と一緒にどっか行かない?」
「え、えとあの……」
コレットは黙ってにこにこ笑っている。
「じゃ、そーゆーことでボクとイイコトしようよ」
「え……え?ちょ……ちょっと待って」
男の手が、マンスの腕を引っ張った。コレットは、やんわりとその手に自分の掌を重ねる。
「んーおじさん。言っとくけど、ボクたち高いよ?」
「高い?へーどれ位?」
「ざっとコレくらい?」
服を買った時の十倍くらいをコレットは指で示した。男はうろたえる。
「そ、それは幾らなんでも……」
「ええー?おじさんケチだなあ。じゃあ、もっと出してくれるって言う人がいるから、そっち行っちゃおうっと、ねえ、マンス?」
「え……?」
「ここでは「うん」って言ってっ!!」
コレットは肘でマンスを突き囁く。
「う、うん」
「じゃ、そーゆーことでー♪」
「……わかったよ」
男は渋々とお金を出した。それをさっとコレットは引き抜き、枚数を数えた。二回確かめて、合っている事が分かると、更ににっこりと笑った。そのままの表情でマンスの肘を軽く小突く。
「じゃ、逃げよっかっ」
「……は?」
「テレポートっ」
マンスはコレットの瞳をじっと見た。そして指先を額に軽く当てる。脳神経を視覚、目の奥に集中した。だが、すぐにマンスはそれを降ろす。
「……できない」
「え?」
中年の男が笑った。袖をまくる。
「あ、ESP樹脂っ!?」
コレットが叫ぶ。マンスは息を呑み、左胸を掴みうずくまった。
「最近、ここいらは物騒でね。エスパーどもの犯罪が良く起きてる。盗みも多い。……用心させてもらって正解だったな」
「くっ!!」
コレットが素早くデリンジャーを構え、発砲した。男は避けない。逆に、コレットの頬を強く横殴りした。コレットの身体は背中から壁へ叩きつけられる。
「……っ。くそっ」
男の身体はデリンジャーの弾丸をことごとく弾いていた。男の服が風に舞う。その下から出てきたのは、人間のソレではなかった。
「……サイバー」
男がマンスの声に振り返る。コレットが横に飛び転がったデリンジャーを拾い、発砲した。背後の壁が崩れる。うずくまるマンスの手を引き、コレットは走り出した。後ろは振り返らなかった。
何分走っただろうか。何個も角を曲がり、壁も乗り越えた。そして、後ろからの足音がなくなり、元の繁華街に出た後、二人は揃って膝を折り曲げていた。
「はあはあ……やっと……撒けたみたいだね。ビ……ビックリしたあ……」
コレットはそれでも笑っていた。マンスと目が合うと軽くウィンクする。そして、マンスの頭に手を翳した。
「大丈夫?さっき能力の反動がかなりきてたみたいだけど……」
「あ、うん」
マンスはぎこちなく笑った。コレットは少しだけ目を伏せる。
「ゴメンね。僕が勝手にしたことに巻き込んで、失敗しちゃって。……いつもはね、もっと上手くいくんだけど」
コレットははははっと笑った。マンスはそれに目を瞠る。そして大きく首を横に振った。
「ううん。こっちこそ……。ゴメンね。僕のことなのに君にこんな怪我させて」
片手をコレットの頬に翳した。傷口が消えていく。コレットは、気持ち良さそうに目を閉じていた。終わると、またにっこりと笑った。
「ありがとう。じゃ、これお礼っ」
「え……」
それは、先ほどコレットが男から貰ったお金だった。コレットはそれをマンスの胸に押し付けていた。
「も、もらえないよ、こんな……」
「じゃ、半分こ?」
「う、うん」
コレットは笑いながら半分をマンスに渡した。マンスはその金をじっと見ている。コレットは首を傾げた。
「どしたの?」
「う、ううん。僕、何かを人と半分にしたことなんてないんだ。だから……」
「感動した?」
「う、うん」
「あははっ。感激屋さんだね〜」
コレットはマンスの肩を軽く抱いた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0279/来栖・コレット/男性/14歳】
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■ ライター通信 ■
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来栖・コレット
はじめてのご発注、ありがとうございます(^^)
いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたでしょうか。
私個人としては大変楽しんで書かせていただきました!
それで、勝手にですが(>_<)来栖君は女の子としてマンス君は認識しているようで最初の方の表示が「少女」になっております……。すみませんm(__)m
このお話は多分次にも続くと思いますので
もしよろしければまたのご参加をお待ちしております。
それでは、ご感想等、ありましたら寄せていただけると嬉しいです。
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