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消えたペットを探してください。
町のいたるところに、手書きの張り紙がはられていた。
それは行方不明のペットの情報を求める張り紙で、普通ならば「微笑ましい」の一言ですませられるはずのものだった。
だが、その張り紙は少々事情が違った。
探しているのはヘビらしい。しかも、体長1mの。
毒などはない、とのことなのだが……。
探し出してくれれば謝礼をお出しします、と最後にあり、依頼主の連絡先が添えてあった。どうやら、この近くに住んでいるらしい。
栗栖コレットは、張り紙を見上げながら大きくうなずいた。
「いいなあ、こういうの」
そう、コレットにとって、このような依頼は都合がよかった。
エスパーとはいえ、コレットは14歳。さすがに、盗賊などを相手にすることはできそうにないし、大人でなければできないような仕事は無理だ。
当面の生活資金を援助交際などで稼いでいたコレットにとっては、まさしく、渡りに船な話だった。
「よーし、それじゃ、飼い主のとこに行こうかなぁ」
コレットは元気よく、跳ねるような足どりで張り紙に記載されている住所へ向かった。
一方、その頃。
「え、ええ〜っ」
兄からペットのヘビを探して欲しい、と書かれたポスターを手渡され、森杜彩は涙目で声を上げた。
猫や犬を探せと言われればなんの問題もないが、1mもあるヘビを探すというのは恐ろしすぎる。なにしろ、彩は小柄で華奢な少女なのだ。ヘビといえば、小さなものでも恐ろしい。
けれども、兄に言われれば、うなずかないわけにもいかない。
「がんばります……」
彩は、悲愴な決意を胸に秘めて、涙目でうなずくと、ポスターに記載されている住所へと向かったのだった。
目的地の家のドアの前で、見知らぬ赤毛の男の子にばったりと出会って、彩は目をぱちくりとさせた。
もしかしたら、この家の人だろうか。
でも、インターホンに手を伸ばしているということは、多分、お客さんなのだろうとも思う。
と、すると、やはり、自分と同じようにヘビを探しに来たのだろうか。
そんな思いが、彩の頭の中をぐるぐるとめぐる。
「えっと、もしかして、ペット探しをしてる人? 僕もそうなんだよね。よろしく」
彩がそうやって硬直しているうちに、相手はにこにこと話し掛けてくる。
「あ、そ、そうなんですか? 私もそうなんです! その、森杜彩と申します。よろしくお願いします」
彩はぺこりと頭を下げた。
「ヘンな人だな〜。僕は栗栖コレット。よろしくね、彩ちゃん」
けたけたと笑って、コレットは彩に手を差し出してくる。
彩は顔を上げると、コレットの手を握り返した。
「その、がんばりましょうね!」
彩は力いっぱい言った。コレットは一瞬きょとんとしたものの、すぐにまた、おかしそうに笑う。
「まあ、とりあえず、依頼人の人に話聞こうよ」
そうしてドアを指さすと、勝手にドアを開けて、ずかずかと家の中へ入っていく。
「ヘビをつかまえるの、手伝いに来たんだけど〜!」
コレットのその傍若無人な様子にびくびくとしながら、彩もそのあとに続いた。
その家は、ヘビをペットにしているというだけあって、なかなかに広い。なんとなく、勝手に入ったら怒られてしまいそうな気がして、彩は胸をどきどきさせながら歩いた。
「おーい、人がせっかく来てやったってのに、いないの?」
コレットは不服そうに口にしながら、目の前にあったドアを開ける。
「え? ああ……お客さんですか?」
すると、中には白衣を着たおとなしそうな感じの男性がいて、目をぱちくりとさせている。
「あの、張り紙、見て来たんです」
コレットがなにか言う前にと、彩は口を開いた。
「おふたりが……タローくんを?」
「タローくん……?」
彩が首を傾げると、男性はあわててつけ加える。
「張り紙に書いた、ヘビのことです。タローくんって言うんですよ。人懐っこいんですよ。……たまに、巻きつきすぎて窒息しかけますけど」
「ち、窒息……!」
彩は真っ青になって、あわあわと口をぱくぱくさせる。
体長1mのヘビということだから一応覚悟はしていたが、それでも、そういう話を聞くと足が震える。
「まあ、それはいいけど。そのヘビ、普段はどこにいたの? あと、いついなくなったかも聞きたいんだけど」
「あ、そう、そうです! もしよかったら、写真もあったらと思うんです」
彩の怯えた様子などまったく意に介さずに、コレットが訊ねる。彩はその言葉に目的を思い出して、言葉をくわえた。
「タローくんの写真はこれです。普段いたのはあそこですね」
男性はまだら模様のヘビの写真を彩に渡すと、部屋の片隅に置いてある巨大な檻を指差した。
「あんな巨大な檻に……」
その大きさを想像すると、やはり足がすくむ。彩は震えを必死にこらえた。「でも、ふたりだけで本当に大丈夫ですか?」
男性が心配げに問うと、コレットは大きくうなずく。
「大丈夫だって。任せといてよ。報酬は、ちゃんと払ってくれるんだったよね?」
「ええ、それはもちろん」
「だったら大船に乗ったつもりでいてよね」
コレットはぱちりとウインクする。
彩はそれを見て、不思議と、頼もしい気持ちになった。
「本当に、こんなとこにいるんですかぁ……?」
自信たっぷりに地下水路を歩いて行くコレットのあとを、彩がとことことついてくる。
どうしてコレットがこんなに自信たっぷりなのかわからないから彩は不安がっているのだろうか、コレットには、ここにヘビがいることがわかっていた。
「大丈夫だってば。ほら、ちゃんとトリモチも持ってきたんだしさ」
だが、彩の不安がわからないわけでもなかったから、コレットは手にしたトリモチを振りながら明るく言う。
コレットは実は、エスパーなのだ。他人には隠しておきたい能力だから、口にはしない。けれども、能力を使えば、過去を見ることができるから、ヘビのたどってきた道筋を正確にたどることができるのだった。
「でも、こんなトリモチで、本当に大丈夫なんでしょうか……?」
だが、やはり彩は不安げだ。
「ほら、行こう!」
コレットは彩の手を引いて、小走りに駆け出す。
過去見によると、ヘビがいるのはこの近くなのだ。
「……あそこだ」
そして、ヘビの近くまで来ると、コレットは立ち止まった。
「え? ど、どこですか?」
彩が小声で訊ねてくる。
「ほら、あそこ」
コレットが指さした先から、なにか大きなものがはいだしてくる。写真で見たのと同じ、まだら模様の巨大なヘビだ。
ヘビはかま首をもたげると、ふたまたに分かれた舌をちろちろと出して、つぶらな瞳で見つめてくる。
「え、えっと……どうしましょう?」
彩が困ったように訊ねてくる。
「決まってるじゃないか、つかまえないと!」
コレットはトリモチをかまえた。彩も、しぶしぶといった風情でトリモチをかまえる。
「大丈夫だって、この季節、ヘビはニブいんだしさ!」
「そ……そうですよね!」
コレットの言葉に勇気づけられたのか、彩もトリモチをかまえる。
コレットの合図で、ふたりはそろってヘビへとおどりかかった。
「まさか、本当につかまえてきていただけるとは……ありがたいです」
ふたりがヘビを無事に送り届けると、男性は笑顔で迎えてくれた。
そしてヘビを受け取って、元通りに檻へ入れる。
「でも女の子ふたりでよくやってくださいましたよね」
にこにこと男性が言った。
「……あはは」
コレットは曖昧に笑った。
愛らしい容姿のためか、コレットはよく女性に間違えられる。あまり気にしてはいないし、自分でもネタにしているくらいなので、否定したりはしないけれど。
「それで、報酬なんだけど」
コレットが笑顔で口にすると、男性は、ポケットをごそごそと探ると飴玉を取り出す。そして、それをコレットのてのひらの上に乗せた。
「……飴?」
コレットは眉を寄せてつぶやく。
すると男性は笑顔でうなずいた。
「うん、ありがとう、助かりました」
「……それだけ?」
あてがはずれて、コレットは既に爆発寸前だ。
「あ、そんな、ちょっと抑えてください……!」
あわてて彩が止めに入る。
コレットは彩を振り払おうと必死にもがき、男性はどうしてコレットが腹を立てているのかわからないのか、きょとんとしながら頬をかくのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢】
【0284 / 森杜・彩 / 女 / 18】
【0279 / 来栖・コレット / 男 / 14】
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■ ライター通信 ■
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はじめまして、発注ありがとうございます。今回、執筆を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹と申します。
彩さんはなにやらつらい過去のある方のようで、けれどもやはり可愛らしく健気な方に違いない! と思いましたので、そのようなイメージで書かせていただきました。いかがでしたでしょうか。
実はアナザーレポートで書かせていただくのは初めてで、そう言う意味ではなんとなく記念のような気もしている一作です。お楽しみいただけていれば、大変嬉しく思います。
もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お気軽にお寄せいただけると嬉しいです。ありがとうございました。
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