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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


イノセンス・ノワール/前編


■少年■


 …どー見てもやりすぎだよね。
 思うのと声を掛けてみたのはほぼ同時だったよう。赤い髪と瞳。小柄なその『彼女』は――ねーねー、ちょっとお兄さんたち何やってるの? と外見に違わず可愛らしい声で問い掛けていた。何だ? とでも言いたげな訝しげな視線が『彼女』に向けられる。が、その姿がしかと視界に入るなり男たちの気勢は削がれている様子。
 つまりはこの『彼女』――来栖(くるす)コレットはそれくらいの容姿はしている訳で。
 見兼ねて入って来た心優しい少女、って辺りに思った訳だろう。
 ………………その実このコレット、そもそも『少女』でもなかったりするのだが。
 実際の性別は男なのだが、まぁ…要所要所では意図的に間違えられるように振舞っているとも言う。
 その方が世渡りはしやすいもので。
「何だか良くわからないけど、そこまでしなくたって、大丈夫…じゃないのかな?」
「…」
「ほらその子だって、今更お兄さんたちに何か出来るって訳じゃなし」
 …お兄さんたちすっごく怯えてるみたいだけど、それとこの子と何か関係あるの?
 恐る恐る、と言った風にコレットは小首を傾げて見せる。…そのさりげない仕草さえ、意識的にか無意識か、とにかく惹き込まれそうなものがある。
 コレットが話し掛けたそこで、加害者たちの手も一時止まっていた。
 袋叩きにされ、ぼろぼろなその少年も不思議そうにその状況を見上げている。時折けふけふと咳込む声。僅かながら余裕が出来たからか少年は取り敢えずまだ動く自分の手で、口許の血を拭っている。
 が。
 その様子を改めて見ていた男の中のひとりが、ぶん、と思い直すように頭を振った。
「うるさい邪魔すんな…っ…こいつを庇うならお前も殺すぞっ」
 そしてコレットに目を向け直した男の瞳に浮かぶは恐怖の色。
 …つまり、コレットの説得よりも、彼らにとっては砂色を纏うこの少年がまだ動ける、その事実に対する恐怖の方が大きかったらしい。
 コレットにしてみるとその反応は少々予想外だった。
 …だって、何が出来そうって訳でもない。
 もしこの子が攻撃系の強い力を持つエスパーだったとしても、多分にこの状況、ちょっと精神を集中させる事すら出来ないと思われる。そして集中出来なければ、超能力は大抵使えない。それは勝手に発動する類のものもあるが、それでも…『そちら』を恐れているなら、こんな風に嬲る事こそ一番危険な行為になる筈だ。
 結構、その辺りは市井では常識っぽいところがある筈なのだが。…事実、こんな風にエスパーを甚振っていた者が、そんな窮鼠猫を噛む的な場面での超能力で――つまりエスパーである場合は追い詰めた相手が窮鼠どころか臥竜も同然だったりする訳で――逆に返り討ちにあったと言う話は五万とある。
 エスパーが恐れられる所以でもあるが、つまりは…その程度の話は常識の範疇で流れているとも言える訳で。
 また、この子がサイバーであるならば…そもそもここまで痛め付けられる前に逃げる事が出来ている気がする。
 と、なると。
 男たちがエスパーでもサイバーでも無さそうなこの子供に対しここまで恐怖している事にはやっぱり非常に疑問が浮かぶ。
「でも…――って、ち、ちょっと…」
 で、反論…と言うか説得を続けようと試みたコレットだが、男たちはそれを聞こうともせず、離れてろとばかりにいきなりコレットの細い手首を乱暴に掴んでいた。当然、コレットは痛そうな顔をする。…こいつら、女の子だと思っても容赦無し? て言うか意味無いじゃんっ!?
 コレットは焦る。
 が、その刹那。


 ………………男たちとは別の、ふたつの影が乱入していた。
 銀色と黒色の。
 殆ど旋風の如く。だが、ふたつの影は明確に意志を持って男たちの動きを遮っている。…銀色の影は獣のようなしなやかな動きでひとりまたひとりと男たちを痛め付けている様子。一応人型の存在ではあるようだが『ただの人』とは到底思えない。その影に倒された連中は倒れるだけで済んでいるか。…殺していないかどうかが少々気になるくらいの容赦の無いやり方。ふと一瞬だけ止まって見えた指先の鋭い爪から血が滴っている。…一方黒色の影。こちらは何らかの型を身に付けているだろう鮮やかな動き。小さな身体ながらも的確に人体の急所を当て込み、ひとりひとり無難な体術で動きを封じている。…こちらは…少なくとも『間違い』は起こしそうに無い、まだ安心して見ていられるやり方。


「ねえねえねえ、なぁんでその子いじめてるのー?」
 …影の銀色はその身体。腰までの長い髪。軽やかに無邪気に笑う長身の『彼女』は煌く白銀の獣毛に覆われ、ふわふわとした耳と尻尾を生やした狐の獣人。


「これは騎士として黙って通り過ぎる訳には行かないな」
 …影の黒色はその騎士服。金髪に緑の瞳、十五歳程度の細っこい姿――だが、その騎士服は汎ヨーロッパ連邦のサイバー騎士が纏う服でもあり。


 ………………そう、気が付いた時には『彼らふたり』が少年を袋叩きにしていた連中を逆に叩き伏せていた。
 銀色の影は獣人『玉藻姫』の形態を取っている白神空(しらがみ・くう)、黒色の影は汎ヨーロッパ連邦所属のサイバー騎士であるクリストフ・ミュンツァー。無論どちらも方法は違うが、ふたりとも並では無い戦闘力の持ち主、と言う部分だけはお揃いな様子。特に空の方は見る見る内に身体が変化して、狐の如き耳や尻尾が引っ込み獣毛も消え、獣らしさが薄れると、妖艶でいながら爽やかな、何処か不思議な雰囲気を醸す人間の女性の姿になっている。これはエスパーと取ったら良いのか、それにしても鮮やかな肉体変化。
 次いで、何事が起きたのかわかっておらずきょとんとした顔のコレットと、袋叩きにされていたぼろぼろの少年に、大丈夫ですか、と何処かおどおどした態度で声を掛けて来たのはこれまた汎ヨーロッパ連邦に於けるエスパーコマンドの服を纏った少年、エーリッヒ・ツァン。彼は今割って入ったサイバー騎士、クリストフの関係者、である様子。…どうやら共に行動していたらしい。
 エーリッヒとコレットの手により、少年は立てる? と気遣われながらも取り敢えず立ち上がらされている。
 もう、男たちも手を出しはしない…と言うか出せないと言った方が正しいか。
 空とクリストフの存在を見、さすがに不利と見たか、加害者の方の彼らは散り散りに逃げ掛けた――が、クリストフはその中のひとりを捕まえたまま逃がさない。足許にもうひとり転がってもいるが、そちらはクリストフが何もしなくとも足に力が入らなさそうにじたばたともがいている。どうやら先程の『玉藻姫』に足の腱でも切られていたのか、逃げる事が出来ない様子。…で、『玉藻姫』こと空の方はひとまず男たちを放って少年の方に行っているらしい。が、どうもこちらへの『対応』はやり方が手馴れている。クリストフは取り敢えず立つ事すら出来ない男にも目を遣った。都合が良いのでこちらにも問い質してみようか。
「…ただで帰す訳には行かないよ。子供相手に随分不穏当な事も言ってたみたいだし」
「はなっ…離せ…っ!!!」
「…いやそんな怯えなくても。僕は御覧の通りサイバー騎士だからね。そんな無茶しないから安心しなってば」
 ま、そこまで怯えるからには何か理由があるんだろうしね。
「…ほ、本当…か…?」
「行為はとても見逃せないけどね。…でも、真っ当な理由があるなら、場合によっては考えるけど?」
 取り敢えず貴方たちの所属は。
 目的は。
 話に出ていた『グリゴール』と『エウメニデス』の理由。…『グリゴ−ル』の方は何となく納得出来るけど、なんで『エウメニデス』なんて物騒な名詞が出てくるのか興味あるし。


 …で、男たち曰く。
 所属なんて大したモノは無い。ただ、ここから程近い貧民街の有志だと言う話。街の物資の不足を補う為に色々と動いていると言う。出稼ぎとでも言おうか。そんな連中であるらしい。それは盗賊紛いの事も多少はする事もある、が、自分たちが生きる為以上の略奪や殺しは決してしない。…とは言っている。
 そんな中、とある必要不可欠な物資――つまりは食糧やらの所有権を巡って、彼らを含む近隣の幾つかの組織の間でちょっとしたごたごたが起き、そこに絡んでいた組織のひとつ、グリゴールの『勘違い』で、自分たちのボスにあろう事かエウメニデスが差し向けられた、らしい。…エウメニデス、名前だけで恐れられる最凶の殺し屋。標的が正しかろうと間違いだろうと『一度標的を定めたらその標的を殺すまで決して止まらない』――。
 近頃、エウメニデスがグリゴールと懇意にしていると言う噂もちらほら出て来ているらしく、その時期も考え合わせるとその事に信憑性も感じられたのか。
 事実、『見慣れぬ少年』が彼らのボスの側で幽鬼の如き姿で立っていた事があると言う。
 それも場所は、部外者がそうそう近付けない場所。否、近付ける事は近付けるかもしれない。だがそれにしろ、その場所に当の相手が居るだろうとはそう簡単に見分けが付き難い筈の場所。貧民街である以上ボスだろうがなんだろうが住まいのひとつひとつは大差無い。負け惜しみのようでもあるが中心となる人物が『何処に居るかがわからない』のが彼らのような者にとっては強みでもある筈だ。なのにそんな彼らのボスの家にピンポイントで『見慣れぬ少年』が現れたと言う。その時には彼らのボスが何とか撃退したが、その時の『見慣れぬ少年』がエウメニデスだと彼らは確信したらしい。エウメニデスは『何処に居ようと標的の居場所を突き止め、標的を殺す為なら何処にでも現れる』。狙われたら最後、何処に居ようと決して逃れられはしない――と言うのだから。
 で、その時撃退した――取り逃がした『見慣れぬ少年』が、つまりは今袋叩きにあっていた少年と同一人物だと言う。
 つい先程彼らの仲間が偶然見付け、後は…今起きていた通りの事で。
 それで、加害側の方が恐慌状態だったのだ、と。
「だからっ…このガキがエウメニデスなんだよっ」
 グリゴールって凶悪な前例が居るんだ、エウメニデスもガキだって可能性は捨て切れねぇだろっ。
 見間違えやしねえよ、こっちだって命がかかってるんだっ!
「…ふぅん」
 そう来る?
 …確かに、この少年の格好はあまり見かけない気がするけどね。髪も肌も服も全身砂色。服も…サイズからして一見親のお古な古着っぽいけど、布を確り見ると古着じゃないし。それ程疲れてない。むしろ新品に近い。
 だからって、ねぇ?
 今の言い分にも色々と疑問が浮かぶけど?
「…お兄さんも意見は同じ?」
 無様に足許に蹲る男の方も、こくこくとクリストフの科白に頷いている。
 …クリストフは、まず少年の元に行っているエーリッヒの方をちらりと見た。


■■■


「…うわー、あのお姉さんもお兄さんも強いねー」
 ちょっと茫然としつつも、少年の手を取っているコレット。
「やっぱり僕たちみたいな者としては…こう言った場面は見逃せません…から」
 か細い声で答え、近くに来ていたのはエーリッヒ。
 コレットはその姿を見返す。…この彼、軍服と言っても過言ではないその服がどうにも似合わない線の細さがある気がする。純朴そうと言うか優し過ぎるのでは無いかと言うか見るからにそんな感じで。
「…連邦の人?」
「…はい。僕はエスパーコマンドのエーリッヒ・ツァンと申します。で、あちらがサイバ−騎士のクリストフ・ミュンツァーさんで…。で、恐らくエスパー…らしい女性の方は…僕もわかりません」
「そーなんだ。ま、とにかく危ないとこ助かっちゃった。ありがと」
 にこっ、とエーリッヒに微笑みかけるコレット。
 と、エーリッヒはかぁっと赤くなる。
「いえ、僕は何もしてませんし…」
「そこは。君のお連れさんに助けてもらったようなもんなんだから細かい事は気にしない。…て言うかあいつらも僕みたいなこーんな可愛い子にまであんな乱暴に手ぇ出すかねえ。もうっ。…ま、過ぎた事はしょうがないけど。…それより」
 この子。
 エーリッヒの方も、はい、と思いっきり頷き、柔らかく肩に手を置くと少年の顔を窺う。
 先程、特に痛いところや関節等に違和感は無いか訊いた事は訊いたが。
「…えと、大丈夫…です。怪我慣れてますし」
 気遣わしげなコレットとエーリッヒに、ぱんぱん、と埃を払いつつにこっと微笑んで見せる少年。
 口端から血が滲んでもいるが、砂色の身体は特におかしいところは無い模様。立てると言う通り、ちゃんと不自然なところ無く動けている様子。…大した怪我が無さそうだと言うのは喜ばしいが、それにしても…襲われ方からすると、予想外に無傷に近い。妙に頑丈な気がする。
 なら良かったんですけど…。と言いつつ、ひとまずエーリッヒは清潔なハンカチで少年の顔を丁寧に拭っている。ひどく殴られてたから内臓とかも気になってたんだけど、とコレットもぽつり。
 と、いえ、これ多分口の中切っただけだと思います、と、少年。えーと、痛っ…ここ、ですね…と、あー、と口を開けて自分で触って見ている。
 なら良いんだけどさ、とコレットは改めて少年を見る。
「…改めて訊くけど君さ、こんなところでどうしたの?」
 名前も訊いて良い? あ、僕は来栖コレットって言うんだけど。
 コレットのそんな問いに少年はちょっと困った顔をする。
「僕は…」
 そこまでで、停止。
「?」
 コレットは首を傾げる。
 エーリッヒもじっと少年の答えを待ってみる。
「名前…」
 暫し後、それだけ呟いてまた停止。
 …そこから無言がまた長い。
「………………ひょっとして」
 記憶が無いとか。
 ぼそ、と確認するよう呟いたコレットの科白に、少年は申し訳無さそうに頷く。
 あちゃー、と手で顔を包むコレットに、む、と眉間に皺を寄せるエーリッヒ。
 …それはこれからの事を考えると袋叩きにあっていた以上に色々と大変ではなかろうか。
 素性不明となれば、これは関りたく無いと思うのが大方だろう。
 が。
 コレットは、うん。と頷き少年の砂色の目をじっと見る。
「じゃあ…取り敢えず…君自身はどうしたい?」
「え?」
「僕、どーせ目的地無しの旅暮らしだし、何か行きたいところとかやりたい事があるなら付き合うよ。…君さえ良ければ、暫く一緒に居ない?」
「え?」
 コレットの科白に俄かに驚く少年。
「…ホラ、今までの記憶が吹っ飛んじゃってるって言うなら、今の君が何をしたいのか、になるでしょ? …うーん。帰る場所…くらいは探した方が良いかなあ。ま、このままひとりで生活するって言うなら子供のひとり暮らしのコツ、教えたげるけど」
「…ひとり暮らし?」
「うん。付き合うよって言っても、僕もずぅっと一緒に居られる訳じゃないからね。目的地は無いけど、目的はあるし」
「目的?」
「人捜し。…まぁ、よくある話なんだけど…大切な人とはぐれちゃってね」
 戦火に巻き込まれてさ。
 あっさりと話すコレットに、痛ましそうな顔をするエーリッヒ。よくある話、そうは言ってもエーリッヒには割り切れはしない。そんな恵まれない境遇にある人がたくさん居る。…助けられる僅かな手になる為にこの場所に居るのが僕たち連邦の者。
 今度は少年の方が気遣わしげにコレットを見ている。
 それにちょっとコレットは慌てた。
「…や、今は君の方が緊急だと思うんだけど。ほら、名前もわからないって言うんじゃ…」
 放っても置けないし。
「そうですよ。…今の状況を考えると…余計に放って置けません」
 襲われてたんですから。そう続けるエーリッヒ。
「それもそうだよね。…あいつら、何か裏があるように見えるし。…もっとも、荒事になるなら僕よりエリーちゃん――って呼んで良い?――たちの方がずっと適しているかも知れないけど」
「…あの、ちょっと良いですか?」
「?」
「【記憶読破】で貴方の事を読み取れば、何かわかるかもしれないと思うんですけど」
「【記憶読破】!?」
 完全に意表を突かれた顔でコレットはエーリッヒを見遣る。
「…はい。僕はテレパスなので…一応可能です」
「テレパス…なんだ」
「ええ。…ただ…一時的に記憶がなくなっているだけなら探し出す事は可能だと思いますけど、失われてしまっていたとしたら…」
 さすがに拾えませんよね。
「それに、貴方が嫌だと言うなら…テレパスは使えませんけど…」
 どうしましょう?
 エーリッヒは少年の顔を窺う。
 と、少年はこくりと頷いた。
「お願いします。…駄目元でも何でも、僕が誰なのか、わからないとどうしようもなさそうだから」
「わかりました。…じゃ、失礼します」
 と、宣言し、エーリッヒは額に指を当てて、集中する。
 そこに。
「大丈夫ー?」
 まず、にこにこと上機嫌に少年とコレットとエーリッヒの元に来たのは白銀の髪のお姉さん。
「あらあら可愛い男の子がひとり増えてる☆」
「あ、あの、有難う御座いました…」
 ぺこりと礼儀正しく頭を下げる少年。
「…え、っと…僕も、助けてくれてありがと」
 コレットの方も人好きのする笑みを見せたまま、取り敢えず礼。
 で、空の方は上機嫌。
「どーいたしましてぇ。ふふふ。やっぱりかーわいい〜。うん。…ところでそっちの赤い髪の子はなんだかまるっきり女の子みたいよね〜。こっちの黒髪の子もおいしそうかも☆」
 空がぽつりと言った刹那。
 ぎょっとしたようにエーリッヒが目を見開く。…集中が途切れた模様。
 何処となく、今までより更にびくびくしている。
 そんなエーリッヒに、恐る恐るコレットが声を掛けた。
「…大丈夫?」
「えと、あの…はい。…取り敢えず…この子が歩いて来たルートくらいならわかりましたけど、何処の誰かまでは…名前も駄目みたいです…」
 動揺しつつそこまで報告。…集中がさくっと途切れたので、そのせいで読み切れなかった可能性は恥ずかしながら否定出来なかったりする。ついでに言えばコレットに対して『まるっきり女の子みたいよね』と空があっさり言っていた事にもまた少々動揺していたりする。…即ちエーリッヒ、コレットの事をまるっきり女の子だと思っていた模様。
 が、エーリッヒの動揺の原因と思しきお姉さんこと空の方は勿論気付いていない。
 それどころか意外そうに口を開いている。
「あれ、何、ひょっとしてこの男の子、記憶が無かったりするの?」
 空は砂色の少年をひょいっと指差す。
 コレットが頷いた。
「…そーみたいなんだよね、で…」
「今、エーリッヒがテレパスで少々記憶を読んでみようと試みたってところで。…と。あまりウチの子からかわないでやってくれると有難いんですけど、お姉さん?」
 コレットの科白に続けるように、苦笑しながら歩いて来たのは、サイバー騎士のクリストフ。
「あ、ミュンツァーさん…!」
 救いを求めるようなエーリッヒの科白に、まぁ落ち着いて、と肩を叩いてからクリストフは今度は砂色の少年へと向き直る。
「幾つか訊いていい?」
 少年はこくりと頷いた。
「…君は『エウメニデス』なのか?」
「え、ちょっとミュンツァーさん!?」
 予期せぬ質問に思わず大声をあげるエーリッヒ。
「連中の言い分としてはそうらしいんで取り敢えず御本人に確認」
 クリストフは背後を指す。足の腱を切られた相手も、クリストフが先程尋問していた仲間に連れて行かれたかそこにはもう誰も居ない。
 泳がせるつもりか、クリストフは彼らをあっさり逃がしている。あ、と空はちょっと意外そうな顔をしていたが、ま、この子がちゃんと尋問してたみたいだからまぁ良いかとあっさり気にするのを止めた様子。彼女にとっては煩わしい事より少年の方が大事。
「…勿論、裏を取らない事には一方的に連中の話を鵜呑みにする訳には行かないから今は単純に訊いてるだけ。…怖がらなくて良いからね?」
 安心させるようにそうも言いつつ、クリストフは続ける。
 でもやっぱり少年は要領を得ない。本当にわからないらしい。
「…はぁ」
「それからこれも連中の言い分なんだけど、君は『グリゴール』と関係ある?」
「…」
「て言うかそもそもあの、君を襲っていた相手に覚えはある?」
 少年は無言のまま、最後のこの問いだけには明確に頭を振る。
「ミュンツァーさんっ」
「…駄目だね。やっぱり憶えも何も無さそうか」
「いきなりそんな事訊きますかっ!?」
「本人に口はあるんだし、直に訊いてみるのが一番手っ取り早いでしょ」
「でも、この子は…」
「何の記憶も無いようだ、と」
「はい…」
「…具体的な名詞を出した方が記憶に引っ掛かる可能性は高いと思ったんだけど。…そもそも記憶が無いならグリゴールの意味もエウメニデスの意味もエーリッヒが気にする程この子の頭には無いんじゃないかな?」
「…それも…そうですけど」
「だったら、ひとまず、この子が来ただろうルートを辿ってみるのが良いかなと思うんだけど? そこのところは比較的確り判明したみたいだから」
 クリストフが提案する。
 曰く、少年は頭で憶えてなくても身体の方が確り憶えていたらしい。…彼自身の足が歩いた道を、目が見た景色を、鮮明に。…まぁ逆を言えば、エーリッヒが【記憶読破】で読み取った事はそれ以外には幾つかの断片的なものだけだったようなのだが。
 そして、エーリッヒの得たその情報はテレパスで逐次クリストフに渡されている。実はクリストフが男たちにした尋問も、彼らの言い分が本当か嘘か、密かにエーリッヒが【記憶読破】で確認していたりした。…そして、連中の言い分には明確な嘘があるとそこのところもわかっている。
 …だからこそ泳がせたとも言うが。
「ねーねー、それ、あたしも、もらうもんもらったらお付き合いしてあげてもいーよ?」
 にこっと笑い空は近場にあった安ホテルをついでのように指す。
 その安ホテルの用途は…えーとそれはつまり。
「…え?」
 ちょっと冷汗たらりのコレット。
「あ、あの、そこって…」
 コレット同様焦るエーリッヒ。
 うん。とあっさり頷く空。
「だってこの子おいしそうなんだもん☆ イイ思いが出来ればやる気に違いも出てくるし。前金代わりにね♪」
「…」
 空曰くこの子――こと、砂色の少年はちょっと考える。
 コレットとエーリッヒは空の科白と態度に俄かに硬直。
 一方のクリストフは、気が無さそうにその様子をちらりと窺っている。…特に止める事もしない。
 暫し、考えるような沈黙の後。
 少年は空に向けちょっとはにかむように微笑んでから――これまた素直にこくりと頷いた。


■■■


 …少年と空が安ホテルに消えて暫し後。
「あ、あの、大丈夫…なんでしょうか…」
 顔を真っ赤にさせつつ、エーリッヒ。
「…確かに引っ掛かるけどさ、ちょっとあのお姉さんに抵抗するのは怖いなあ」
 ま、あの子自身が構わないって言った訳だし、そんなに気にする事無いんじゃない?
 コレットは小首を傾げつつエーリッヒに答えて見せる。
 エーリッヒはそれでもおどおどと落ち着かない。
「でも…」
「…お付き合いしてくれるって言うなら、味方にしておいて損は無い相手だと思うけどね?」
 あの銀髪のお姉さんは、事が起きれば強いと思うよ。僕ひとりより心強いって。
 クリストフもあっさりとそう言う。
 …それに、あの子は僕たちみたいなの相手だと警戒される立場の人間である可能性も否定できないみたいだし。そうなるとああ言う人が居た方が都合が良いかもしれない。
 エーリッヒは、う、と言葉に詰まった。
「…それは…確かにあの子、ワケありみたいな感じですけど…だからって、ううん」
 悩むエーリッヒ。
 クリストフは苦笑する。
「あの子がそれで世間を渡る気ならば僕たちがとやかく言う事じゃないでしょ?」
 もっとも、本人が本気で嫌だと言うのならさせないよ。当然、庇うけど。
 助けを求める手を払う気は無いし。本来、子供は守らなきゃならないからね。
 そんな風に言いつつ、クリストフは特に気にしている気配無し。
 それどころか、何処か悪戯っぽい瞳でそこにいるふたりを見た。
「…つまりこの待っている時間がどうしても気になるって訳なのかな?」
「気にならない方がおかしいですってミュンツァーさん…」
 がっくりとエーリッヒ。
 まぁ、実年齢が外見年齢の倍以上な方ならともかく、見た目通りに十四、五歳のコレットやエーリッヒにすると…確かにちょっと気まずいのもわからないでもない。


■■■


 暫し後。
 何やら満足げな空と、ちょっと困惑したような顔をしている少年の姿が安宿から出てきた。
「ごちそうさまでした〜☆」
「…さて、そろそろ構わないですかね」
 さらりと言いつつ、クリストフは少年の顔を窺う。
 と、少年は静かに微笑んだ。クリストフもそれにはさすがにちょっと驚く。
 コレットにエーリッヒも目を瞬かせている。


 …今、つまりは空に『食われた』訳だろうにその朗らかさや無垢さに何の変わりもなく。
 健全に過ぎる笑顔。
 その時点で疑念も浮かぶ。
 一見、全然スレたような気配は無い。
 …だが、だからと言って世間の荒波に揉まれた事が無い訳では無い、と。
 否、むしろ。
 それが処世術だと言うならば。


 ………………皆が彼へ抱いた印象はまったく逆になる。


 …でも、本当に記憶が読めないです。
 再度【記憶読破】を試みていたエーリッヒは困惑気味にクリストフへとテレパスで告げる。
 歩いてきたルートはこの子の身体が憶えているみたいですからわかります。でも、この子が何者かまではわからない。記憶が無いと言うのはやはり一時的な物じゃなくて、本当に欠落してしまっているのかもしれない、と。
 エーリッヒにわかるのは、何か、精神的にひどく強烈な衝撃に晒されたようだと言う事くらいで。操作系テレパス等で人為的にいじられたものではなく、ショック故に、であるような。
 後読み取れるのはひどく断片的なものばかり。襲って来た連中が言うようにこの少年がエウメニデスなのかどうかを確定するには情報が足り無さ過ぎるよう。
 テレパスで伝えられたクリストフも何処か難しい顔をしている。
 かと思うと一転、少年を安心させるように、にこりと笑って見せた。
「…ま、乗り掛かった船だ。沈むまで面倒見るよ。僕たちも」



■ひとまず移動■


 で、道行がてらクリストフは連中から尋問した事柄、エーリッヒはそれの真偽を確かめた結果を一行に伝えていた。誰かが何かに気付くかもしれない。自分たち以外の誰かが何か有用な新しい情報を持っている、もしくは入手できる可能性も否定はできない。色々探るのは幾つか手があった方が見付かりやすいだろう。
 そんな思惑で。
「…ふーん」
 ふむふむと頷く空。
「それでこの子にエウメニデスかって訊いた訳なんだ…」
 ぽつりとコレット。
「まぁ、そう言う事。そもそも連中の言う物資に関する話は、連中の方がグリゴールから掠め取ったってのが本当らしいし。と、なると、グリゴールから恨まれるのは勘違いでも何でもなく、まぁ自然ななりゆきだね。ってグリゴールみたいな組織に喧嘩売る事考える辺り結構度胸あると思うけど。幾らちょうど良い内通者ができたからって言ってもね。報復考えたら一般人は怖いと思わないかなあ」
 ま、それだけ切羽詰まってたって事かもね、とクリストフ。
「それと、あの人たちのボスは、意外な事に一組の夫婦みたいなんですよ。それもエスパーの」
 恐る恐る言い出すエーリッヒ。
「え、エスパーの夫婦!?」
 コレットは驚く。
「はい。エスパーだから逆に奉り上げられたって部分もあるようです」
 迫害されるのは恐るべき力を持つ化け物だから。化け物は強い。強い者は味方にすればこれ程心強い事は無い。だからその力を逆に利用すれば、自分たちこそが強い者として立てる。周囲へ知らしめれば畏怖の対象にさえなる。使い切れれば一番手っ取り早い都合の良い道具。そして手厚い庇護を代償にするならエスパーの方も協力する為の力の出し惜しみはしない。…大概のエスパーの実情を知っている者がひとりでも居さえすれば、その辺りに突け込む事は恐らく、容易い。
 ただ…利用されている部分もありますが、この夫婦も元々貧民街出身の人間みたいなんで色々納得の上らしいです、とエーリッヒは説明。
「でもさ、それで無抵抗の相手を袋叩きにして良いって事はないでしょ」
 コレットが言う。
 確かに、だからこそ一行は今ここに居る訳で。
 で、改めて一行は通りすがりのお店の人にも聞き込みを。この砂色の少年を見掛けた事が無かったか。わからないと言う答えが大半。だが、居たような気がするかもしれない、と、あやふやな証言はちらほらと出ている。
 一番有力な証言で、ここを通りすがるのを見たよと当然のように答えてくれたひとりの浮浪者、って辺りだ。
 曰く、何やら魂が抜けたみたいにふらふらしていたらしい。
 その程度。
 …ちなみに、ついでにエウメニデスの名を訊いたら、畏怖の態度と今回の標的は貧民街のボスだ、と言う事を大抵の人が速攻で答えていた。確実に噂にはなっている。
「…君自身が何か、引っ掛かりそうな事は無いかな?」
 ふと、コレットが振る。
 少年はうーん、と首を傾げた。
「…来栖さんって…何となく懐かしいんですよね」
「…僕が?」
「はい。…似てるのかな」
 僕が知ってるだろう『誰か』に。
 少年はぽつりと呟く。
 その反応に、コレットも小首を傾げた。
「…それは記憶の取っ掛かりになるかもしれないね。君がいったい誰なのか」
「コレットで連想できる…って言うと、その引っ掛かるって相手は女の子なのかしらねえ?」
 ふむ、と考えるようにコレットを見る空。
 同じく、難しい顔をしてエーリッヒもコレットをじーっと見ていた。
「来栖さんの雰囲気…とかでしょうか。それとも年頃…とか…って年頃だったら僕も来栖さんとあまり変わりませんし、ミュンツァーさんの外見もあまり変わりませんよね…」
 エーリッヒの科白に、まぁ年頃に関してはそうだけど、と断りを入れてから、クリストフ。
「たださ、単純に、髪や瞳の色って事もありそうじゃない? 赤って印象に強く残るし。…それとか…声とかも印象には結構強く残ると思うけど」
「…うーん。僕に似てる人って、正直見掛けた事ないよ」
 腕を組んで悩むコレット。
 特に、この髪と瞳の色は珍しい。…コレットにとってはエスパーである事が判明した際の、迫害の理由のひとつにも数えられてしまったくらいだ。そのくらい、見掛けない色彩だった。
 少年を囲む四人は、コレットが懐かしい気がすると言う少年の言葉に、それぞれ可能性を考えてみる。
 静かにクリストフが口を開いた。
「…『グリゴール』のトップはちょうどそんな赤毛なんだよね」
「え?」
「その子を痛め付けてた男たちが言ってたよね、『グリゴール』って名前。…関係あるかな?」
「ぐりごーる…」
 ぽつり、と呟いて少年は考え込む。
 それは先程もクリストフに訊かれた組織の名前。…だがやっぱりわからない。
「ちなみにトップの名前はアザゼル。僕もあまり知らないけど、その程度はまぁ聞いた事がある」
「あたしも知ってるよー。あ、そのアザゼルって子の写真とか手に入れてみると都合良いかな?」
 はいはーい、と手を上げながら、空。
「…出来るんですか?」
「うん。写真くらい情報屋もタダでくれるかもしれないし。…全然隠されてないみたいだから」
「情報屋?」
「蛇の道は蛇って言うでしょ? 『エウメニデス』とか『グリゴール』って方面の話なら裏の情報屋に聞くのが手っ取り早いじゃない♪」
「まぁ、そうだと思うけど…白神ちゃんって顔広いんだね」
「ん。じゃ、ちょうどこの近くだったと思うから、ちょっと行って来る」
 あっさり言うと空は今度は鳥のような姿――『天舞姫』に変身し、ひらりと飛び上がる。周囲のぎょっとした視線も構わない。
 エーリッヒは思わず茫然と見送ってしまい、クリストフの方は、はぁ、と溜息を吐いた。
「…天真爛漫と言うか何と言うか」
 同じく見送っていたコレットもぼそりと呟く。
「そう言う問題じゃ無いと思う…」
 頭が痛そうな顔をしているクリストフ。
 わー、凄い…とやけに素直に感嘆している砂色の少年。…どうやらエスパーに対する偏見は全然無い模様。


■■■


 暫し後。
 程無く戻って来た空は、鳥女な『天舞姫』から人身に戻りながら首を傾げている。
 で、一応グリゴールのアザゼルの写真ももらって来たよー、と少年当人に手渡していた。
 皆がそれを覗き込む。
「…うわ、初めて見た…本当に僕みたいな感じの髪の色じゃん…」
 目の色は違うけど。これじゃー、クリスちゃんが反応するのもわかるわ…。
 と、写真をまじまじと見ていたコレットは、ふと、空に目をやる。
「ところで白神ちゃんが首を傾げてるのはどうかした訳?」
「うん。ええとね、…おかしいのよ。グリゴールはエウメニデスを動かしてなんかいないって」
「…その情報屋は信用できる筋ですか」
「信用出来なきゃそれでも構わないわよ?」
 あっさりと言う空の声。
 その意志の強そうな瞳を見、クリストフもすぐ頷く。他人に強いはしない、だが、空当人は信用に足ると思っているとわかったからだ。
「わかりました。信用しましょう。…他に何かありましたか?」
「ただね、グリゴールはエウメニデスを動かしてはいないけど、エウメニデスがグリゴールの近くに居るのは間違いないって話なの。どうやら客人待遇みたいな状況らしいんだけど…。だけどね、今回の件に限ってはエウメニデスに頼んではいないってすっごく強く言ってるらしいの」
「…何か理由があるのかな?」
「そこまではあの情報屋、掴んでないみたい。あたし今回、エウメニデスとグリゴール、敵対してるのかなーって思ってたんだけど、どうも聞いてみると…少なくとも今は味方みたいね、これら。…でも、誰もエウメニデスに標的を与えてないなら、なんでエウメニデスが動いてるのかが謎じゃない? エウメニデスは噂が動いてればその時点で動いてるのは確実だし。…言わば噂を逆利用して正体を隠してる、って感じなのよね、エウメニデスって。
 で、今、グリゴールが表立って敵視してるのは件の貧民街有志だけだって話だし。逆も然りみたい。現状、貧民街の連中が恨み買ってるのも取り敢えずグリゴールくらいみたいだから。…横長し先、速攻で気付かれてるらしいわよ」
「だろうねえ…何たって面子に関る事だもん。グリゴールだってそこんとこは躍起になるでしょ」
「…狙ってもおかしくない、けれど狙ってはいないと強く言っている…か」
「グリゴールにすればエウメニデスが動いてるのに便乗して狙ってるぞ、って言っちゃった方が都合が良い気がするんだけどねー」
「それ、同感」
「…あの、良いですか?」
「なに? なんでも聞いて良いよ☆」
 にこにこと上機嫌でエーリッヒに優しく接する空。…可愛いと思った事に変わりは無いらしい。
 ちょっと引きつつもエーリッヒは御言葉に甘えて訊いた。
「…ずっと気になってたんですが、エウメニスじゃなくってエウメニデスって呼ばれてる事に…意味は無いんでしょうか、あの、何か御存知なのでしたら…ですけど」
「ひとりじゃない、って事? あ、それはね、仕事振りが『ひとりだとは到底思えない』って事なの。神出鬼没、狙った相手の元になら何処にでも現れる。取り敢えず殺し屋の通り名、とは言われてるけど、近隣に根を張ってる暗殺集団の名称、とでも言われた方が納得行きそうなくらい…なのよねー」
 だから、単数形のエウメニスじゃなくて複数形のエウメニデスで呼ばれてるらしい。
 複数としか思えないような『恐れ』の部分が警告になって複数形で呼ばれてる訳ね。
 実際のところはひとりな可能性が高いみたいだけど。…ま、あたしもよくは知らないけどね。
 名が売れている割りに、正体不明で通ってる事だけは確か。
「ま、グリゴールと関係があるって事は…正体が子供な可能性も高いかもしれないわよね?」
 さらりと言いつつ、空は、ぎゅーと少年を背中から抱き締めたりしている。
「…でも、なんで狙いに行ったのか――って部分を置いておくにしても、他ならぬ『エウメニデス』の噂を考えるとさ、こう言っちゃなんだけど…ろくに戦闘訓練もしていないだろう貧民街有志のボス程度にあっさり撃退出来る程度の奴だとは到底思えないんだよね」
 噂では、対象が強力なエスパーでもオールサイバーでも要人でも関係無く確実に仕事をこなすって言うからね。
 それはつまり、それだけ徹底して標的への対処を考えているプロだと言われてるって事になるでしょ。
 だったら…エスパーふたりが相手だって、特に問題は起きない筈だと思うよ。
 クリストフはそこも疑問に思う。
 だが。
「…それもそうだけどさ…でもね、そもそもこの子があの『エウメニデス』だって言われても…ちょぉっと信じ難いんだけどなあ…」
 ぽつりと漏らしたコレットの科白が、一行の総意を代弁しているようなもので。
 少年の方も難しい顔で悩んでしまっている。



■襲撃の時、起きた事■


 一行は少年の辿って来ただろうルートを戻る形で歩いていた。
 人が多い場所…もあったが、気が付けば、どうも周囲の印象が薄暗い。
「…ここって…」
 周囲を見回しつつ、ぽつりと呟くコレット。
「…どうやら連中の言っていた話が補強されてしまったみたいだね」
 先程からずっと変わらず、サイバーアイとレーダーで密かに警戒しつつ、クリストフ。…真っ当な建物すら減って来ている。人々も、少なからず居る。但し、こちらの前には出て来ようとしない。
「どーもこーいう場所って陰気よね〜」
 ややあっけらかんと言い放つ空。
「それは…仕方ないと思います」
 沈鬱そうな表情で、エーリッヒ。…それはこんな場所に住まう事を余儀無くされている人々の事を思うと。
 とにかく。
 進めば進む程、独特の気配が周囲を包んでくる。
 復興から取り残された貧民街。
 まともな建物があればまだマシ。
 廃墟も同然。
 …そして少年を襲っていた連中は、貧民街の有志だと。ボスを狙う相手だからこそ襲っていたと言っていた。その襲われた当人の記憶を辿り、僅かな恩恵すら届き難い、貧民街に来てしまったとなると。
 さすがに否定材料が少なくなって来た。
「…【過去見】してみよっか」
 ぽつりと言うコレット。
「え?」
 目を瞬かせるエーリッヒと何か物問いたげな少年の顔。
 と、それに対しコレットが悪戯っぽく肩を竦めて見せる。
「実は僕もエスパー。…ごめんね、隠してて」
「…いや、賢明だろうね。下手に明かすと色々厄介になる事の方が多い御時世だし。…でも、確かに今【過去見】をしてくれればこの辺りでこの子がいったい何をしていたのかを探るには有効だと思う。とは言えエーリッヒは【過去見】は出来ないんでね。是非お願いしたい」
 静かに告げるクリストフ。
 …時間はこの少年が辿ったルートを逆算すればだいたいわかる事。ズレたらまた別の時間を見直せばそのうち捕まる。それ程ズレちゃいない筈。
 逆算したその時間を、取り敢えず半日くらい前と大雑把に仮定して、一時間単位で時間を指定し、コレットは【過去見】に入る。身体が淡い光に包まれ、それに反比例するように、すぅ、と赤い瞳から光が消えた。
「…今は、居ない…じゃあもう少し遡ってみる――違う、逆かな。進んでみよう。…あれは――――――…居た。確かにこの子。うん。同一人物。間違いない。なんか思い詰めた顔してる。って――」
 急にコレットが黙り込んだ。
 直後、身体の周りの光が消え、ふっと瞳に光が戻ると、コレットは唐突に走り出す。
 何事かわからぬながらも一行もそれを追い掛け付いて行った。そして彼らの前――とある家の近くでコレットはまた立ち止まると、再び【過去見】。
 そしてコレットは今度もやっぱり何も話さない。
「…何か、見えたんですか」
 恐る恐る問うエーリッヒ。
 空やクリストフに少年も、何も言わないが同じ事を目で問うている。
 コレットの瞳に再び光が戻った。
「…こいつらのボスに…この子、何かテレパス系の攻撃受けてる――」
 言い掛けたそこで。
 ガシャァンと割れたような破壊音が響く。
 鉄パイプのような単純な武器を持った連中がぞろぞろと出てきた。男に限らない。女も年端も行かぬ子供も、老人も居る。皆、恐怖と敵意に満ちた眼差しで一行を見ていた。


 ボトムライン近くのあの場では、若い男たちだけ、それも皆、素手だった。
 だが、今度ばかりは、街を上げて、本気のようで。
 少年を庇う事、それ自体が敵視の理由。
 …連邦も何も、関係無いようで。


 即座に判断し、エーリッヒは【遠距離会話】の能力を発動する。
 額から、僅かな緑色の閃光が稲妻のように迅った。
「…聞こえますか、エスパーコマンドのエーリッヒ・ツァンです。応答下さ――」
 と。
 …エーリッヒは、この場から一番近いだろう連邦詰所の人員に【遠距離会話】を繋いだままで――停止した。


■■■


(ツァン? …何があった? …応答しろ)
 連邦詰所に居る相手からの呼び掛けにも、答えは返らない。
 気が付けば【遠距離会話】は切断されている。相手方が同系統のエスパーで無い以上、エーリッヒが止めれば会話は切れるもの。
 エーリッヒは眼前で繰り広げられたその光景に、動揺していた。
 初めは連絡を入れるつもりだった。だが。
 これは。


 …少年を庇う形で居た筈のエーリッヒの目の前では再び襲い来た貧民街の者。空は待ってましたとばかりに飛び出し、再び『玉藻姫』形態に変わると男たち数名を薙ぎ倒す。締めに行く。クリストフも前に出て貧民街の者を倒す側。貧民街の者、ひとりひとりは大した事がない実力。相手が鉄パイプなんぞ持っていようと、オールサイバーの身である限り素手で充分。だが彼らのその執念は強いようで、正直、しぶとい。更には男ばかりで無く女子供に老人ともなると手も上げ難い。一般人の、それも非戦闘員に毛が生えたような程度の連中である以上、クリストフもいちいち手加減せざるを得ないのがまた面倒で。
 コレットもなけなしの威嚇のつもりか上下二連銃身の小型拳銃――デリンジャーを取り出し、貧民街の連中に向け構えている。その行為はエーリッヒ同様少年を庇いつつ…と言うか見るからに戦闘能力が無さそうなエーリッヒも庇われる方に入っているか。…実力ともあれ、気迫だけならエーリッヒよりコレットの方が確実に年季と凄みがある。コレットがふたりを庇う形に動いたのは瞬時にそれを見切った故で。


 そこまでは良い。
 だが。


 コレットとエーリッヒのふたりに庇われていた筈の少年が、彼らの隙間をすり抜けるように動いていた。
「ちょ、君!?」
「待って下さ…!」
 それも。
 常人の動きではなく見えた。
 …そしてほんの数瞬後。
 少年の姿はひとりの男の前に居た。腕と上半身を撓め、膝を折り腰を落とした――何らかの構えのような体勢で、一度そこで止まっている。
 やや遅れて空とクリストフも気付いた。
 …少年の顔に表情が無い。
 異様に冷たい瞳。
 男の方が少年を見、瞠目する。
 …何か、驚くべき事があったのか。


 刹那。


 ………………少年の瞳が、笑って見えた。


 直後。
 再び少年の姿が消える。
 そして。
 瞠目した男が、身体をくの字に折ってよろめいていた。
「…死んでたまるか…あいつを…殺させてたまるか…っ…!」
 続き、断末魔とも言えるそれ。
 男が最期に、呪うようにがしりと掴んだ身体は、すぐ側に居た小さな影。だがすぐに男の腕の力が抜け、抱え込むような形になっている。
 小さな影のその色は銀色でも黒色でも無く。


 砂の色。


 乾いた黄砂。
 砂漠の如き死の白色
 他の色は纏わない。


 力の抜けた男の身体を冷たく引き剥がしたその影は、倒れた男の居たそのすぐ近く。
 ひとり佇む、表情を失ったひとりの少年。
 ほんの少し前にはボトムラインの程近く、ぼろぼろな姿を晒していた、か弱い筈の存在。
 彼が素早い――とは言え軍事用オールサイバーの高機動運動には当然劣るが――、それでいてあまり見かけぬ異様に柔軟な体捌きでその懐に滑り込んだ、その瞬間に。


 …男の生気は消え失せていた。


 そして、崩れ落ちた時には、もう。
 男の死は確定事項のようで。


「まじ…?」
 腕から力が抜けたか、コレットはデリンジャーをあっさり下ろしてしまっている。
 今、この少年は。
 なにをした?
 息を荒げもしないまま、砂色の少年はその場で茫然と佇んでいる――いや、立ち竦んでいると言った方が正しいかもしれない。
 一方の倒れた男の方は、その時もう既に死んでいた。
「やっぱり、結構やるじゃない♪」
 それを見て、にこっ、と微笑む空。
「…やっぱり?」
 聞き咎めるクリストフ。
「そりゃね。あんなにちっちゃいのにあれだけの無駄がない綺麗な筋肉付いてるんだもん。普通、あの年頃じゃ筋肉付けたがらないでしょ。何かやってるだろーなーとは思ってた訳」
 ほら、『前金』貰った時にね。カラダ見せてもらってるから。
 ギャップがまた可愛かったのー☆
 と、空はやや場違いに、きゃ、と喜んでいる。
「………………それはそれとして、体型に特徴があると言うのは…この子自身の記憶を辿るにも有用な情報だったりするんじゃないかな?」
 体型に加えて今の動き。
 クリストフにして見ても何処のやり方かは具体的にはわからない。
 ただ、今のは…恐らくは古の、マーシャルアーツ――実戦向け体術の一流派だと。そう見極める事は出来た。特にエスパーである必要もサイバーである必要もない。パワードプロテクターも関係無い。…否、そんな余計な物を装着していては却って邪魔になるだろう滑らかな動き。
 …これは『素の人間が身に付ける為の技』。
 威力を見れば脅威的だが、これは恐らく、特別なものでは無い。それは細かい適性は関係するかもしれない。けれど、本質的には修練さえ積めば誰であっても使える技だろう。
 つまりはこの少年――状況証拠に戦闘能力まで確認出来るとなれば、最早エウメニデス当人と仮定してしまっても良いだろう――は、クリストフが見る限り特殊な形であるそのマーシャルアーツの、エキスパートと言う事か。
 …身体に合わないだぶだぶの服は、その鍛えられた体型を隠し、同時に本来よりも小柄に、鈍間げに見せる為?


 ――…空が買ってきた情報によるとグリゴールはエウメニデスを動かしていない。が、エウメニデスはグリゴールと対立していた貧民街有志のボスを直接狙った。そこは確実。エウメニデスが動いてこそ、エウメニデスの噂も動くのだから。
 貧民街有志のボスと言うのはひとりでは無く、それもエスパーであると言う男女ふたり――一組の夫婦だとエーリッヒが【記憶読破】で読み取っている…彼らを中心とした貧民街の連中が、内通者からの手引きでグリゴールから物資を横取りしたとの事。これもエーリッヒが同様にして、少年を襲った相手から読み取った記憶。
 その件の報復でエウメニデスが差し向けられたと貧民街の連中は言っていた。直接尋問したクリストフに対しては『勘違いで』だと建前の嘘を話した上で。けれど実際にはグリゴールからエウメニデスへの依頼は無いと言う。グリゴールの方はエウメニデスを動かしていないと非常に強く言っており、貧民街の連中に対しては別の手段を講じるつもりである、とも空が情報を買った情報屋は聞いていたそうだ。けれどエウメニデスが動いているのも事実であるらしい。…今、貧民街有志のボスを狙うだろう依頼主はグリゴールの他に該当者が存在しないと言うのに。
 グリゴールはそんな意味の無い嘘は言わない。それは必要があれば幾らでも弁を弄する。だが今回は、むしろ状況を利用してエウメニデスを彼らに差し向けたと言ってしまった方がグリゴールにしても都合が良い筈ではなかろうか。エウメニデスを味方としている、と言う噂がちらほらどころでなくもっと大きく立てば、それだけで他への脅威にもなるのだから。
 そして今回動いているエウメニデスにも変な部分がある。その『名』にも関らず肝心の標的を仕留めてはいないと言うのが一番大きな部分。更にはそれどころかその貧民街有志のボスとやらに撃退されていると言うところもクリストフの思う通りに確かにおかしい。後にボトムラインの近くで見付けた、見間違いと言うにはその時の子供と似過ぎた姿の、記憶の無い少年。…放っておくのは貧民街の連中にすれば確かに恐ろしかろう。だが、その時の連中の少年を痛め付ける遣り口を見ても…この程度の事しか出来ない連中のボスが、幾らエスパーと言えども果たしてエウメニデスを撃退できる程の力を持っているのか疑問に思えてくるのも確か。
 また、気に掛かる事もある。…グリゴールの首領と似た髪色でもあるコレットが何処か懐かしいと言う――エウメニデスの正体であるだろう少年の科白。非常に好意的な、人懐っこさ。…どうも他の面子と比較しても、一番コレットに心を許しているような部分があった。
 記憶が無いにしても、何か感覚的な部分は残っていたようで。
 …だがそうなると、エウメニデスは…グリゴールとは相当近くに居た、と言う事にはならないだろうか?
 それに、最後にコレットが【過去見】で見たエウメニデスの姿。思い詰めた顔をしていた、何かテレパス系の攻撃を受けたとも言っていた。…それが記憶を失った理由か。はたまた違うのか。一方のエーリッヒは【記憶読破】の際に、少年の記憶は人為的にいじられた気配は無いと言っている――。
 何にしろ、コレットの見たこれは――最凶の殺し屋と言う物騒な名前にはどうにも相応しからぬ姿に感じる。


 クリストフは冷静に情報を分析しつつ、目の前の光景を見据えている。
 ………………騎士の誇りにかけてこの少年を助ける価値はあるのかな?
 問うように連れのエスパーコマンドを見遣る。
 が、そのエスパーコマンドは茫然と立ち竦むのみで。


 一方の、たった今ひとりの男をその手で殺した少年は、血も付いていない自分の手をただ、茫然と見ている。



■また別の異なる場所で■


 …錆のような赤茶けた短髪が風に靡いていた。
 その身を包んでいるのは荒く編まれた麻布の防塵ケープ。
 十を幾つか過ぎた程度に見えるその少年は、暗がりの中をひとり歩いていた。


 この御時世、それでも危ながられる事はあまりない。
 むしろ。
 儚い姿でありながら暗がりをも平然とひとりで歩く、その事実で既に恐れられる可能性の方が余程大きい。
 エスパーか、サイバーか。
 …どちらも見た目は何も関係無い。
 だが。
 どちらであるにしろ、持ち得たその力は、畏怖の対象で。


 そう、ただの子供であるのなら。
 治安の悪い闇の中、ひとりで堂々と出歩くなど恐ろしくて出来はしないだろうから。


 …歩いている彼の名は、アザゼル。
 ただの有象無象の集まりであった年少無法集団・グリゴールを『組織』として構築し直した立役者。
 その、新生グリゴールの冷徹なる首領。


 その時点でただの子供では無いのは当然だ。
 今のグリゴールは、ただの『子供の集まり』じゃない。
 この世界で生き残る為に力を欲した、ひとつの『組織』だ。
 …最早リトルギャングと言うにも甘い。
 下手に軽んじれば最後、骨身に思い知らされる。


 アザゼルは険しい眼差しでひとり歩いている。
 思う事は、ただひとつ。


「エリニュス…早まるな…」


 ――――――『お前が殺してはいけない。…ペネムエを思うお前の気持ちはわかるが、駄目だ』。


 …苦々しそうに呟いたアザゼルのその声は、誰に聞かれる事も無く風に紛れた。
 御前崎カガリの科学研究所、程近く。


【続】



×××××××××××××××××××××××××××
    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
×××××××××××××××××××××××××××

 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/クラス

 ■0279/来栖・コレット(くるす・-)
 男/14歳/エスパー

 ■0233/白神・空(しらがみ・くう)
 女/24歳/エスパー

 ■0234/クリストフ・ミュンツァー
 男/32歳/オールサイバー

 ■0235/エーリッヒ・ツァン
 男/15歳/エスパー

 ※表記は発注の順番になってます

×××××××××××××××××××××××××××

 ※以下、公式外の関連NPC

 ■少年(=エウメニデス=エリニュス?)
 男/12歳(程度)/殺し屋(?)

 ■アザゼル
 男/14歳(程度)/年少無法集団『グリゴール』の首領

 ■ペネムエ
 ?/?歳/エリニュス&グリゴール関係者(?)

×××××××××××××××××××××××××××
          ライター通信
×××××××××××××××××××××××××××

 この度は発注有難う御座いました。
 初めましての方が大方と思われます、深海残月と申します(礼)
 アナザーレポートの方には滅多に顔を出さない奴で御座います。
 普段は東京怪談でばかりふらついている者で御座いまして。
 即ち、例え窓口が上の方にあったとしても、アナザーレポートでは初心者も同然だったりする訳でして…(なのにいきなり前後編と言う冒険に出る無謀な奴です/汗)
 …そして毎度の如くノベルをお渡しするのが遅い奴でもあったりします…。
 今回、皆様全面的に共通の文章になっております。…共通と言うのもアレですが、ついでにむやみやたらと長かったりもします…詰め過ぎたかもしれません(汗)


 改めまして内容についてですが。
 …御覧の通りです。
 前編と言う通り終わってません。むしろ前編では後編の為のヒントを撒いたような形で御座いますね。
 そして、宣言通り少々黒くなってきております。
 …て言うかライターがひねくれものですみません…(プレイング拝見してしみじみ思いました/汗)
 と、そんな事言った舌の根も乾かない内になんですが、後編は前編よりもっとひねくれる事請け合い(…)かと思われます(おい)
 呆れられてませんでしたら、後編でもどうぞお付き合いしてやって下さいませ。
 …後編用にはこの前編ノベル含め、前編募集時よりはたくさんヒント撒いているつもりです…(汗)


 ちなみに今回の話で使用しております「グリゴール」と言う名前ですが、この「グリゴール」、旧約聖書外典の「エノク書」等で出てくる「グリゴリ(ウォッチャーズ)」と意図的に混合しちゃってたりします。
 いえ、天使階級の一番下(エンジェルス)のそのまた下、って事で、ライターはてっきり言語の違いにより読みが違うだけで元々同じものを指すとばかり思っていたのですが、それにしては改めて手許の資料やらネットでの資料を漁るとそんな説明のあるものもいまいち見当たらず(?)、あれ違ってたかなと一度思考にストップ掛けはしたんですが…どーも一旦設定を決めてあると覆し難く…今回の使用法では意味合いも名前の意味に特に頼った物でもないので、わざと混合しておく事にしました。
 …どうしてそこまでしてグリゴールと言う名にしたかったかと言うと、こちらの趣味で名前の響き優先にしたかっただけの話です。
 と言う訳で結局、実際のところは同じものを指すのか違うものを指すのかライターはよくわかってません(汗)
 同じものを指しているなら特に言い訳は要りませんが、違うものを指しているのでしたら…当方のアナザーレポートでは特にそう言う設定になっている、と言う事で納得してやって頂けると幸いです。

 そんな訳で当方では「グリゴール」の首領の名前が「アザゼル」になってます。
 で、幹部クラスやそちらの関係者も基本的にその筋の名前が多かったりします。
 即ち、ラストで出て来た「ペネムエ」もそっちですね。関係者の人名です。
 この「ペネムエ」に関しては、後編募集時提示シナリオの設定内に、ある程度の説明を記載致します。
 実は鍵な人物なので。

 …但し、「エウメニデス」や「エリニュス」の方は、ギリシア神話からお借りしていたりしますが。
 これは「エウメニデス」も「エリニュス」も根っからのグリゴール関係者な訳ではないと言う暗喩なだけだったりします。
 また、こちらの…ギリシア神話御本家のエリニュス女神関連の『とある話』を紐解くと、ある意味今回の筋が見えてくるかもしれません。…勿論、そのままって訳でも無いですが(汗)


 …以下、個別。

■白神・空様
 初めましてです。
 まず、エウメニデス=記憶の無い少年、と言う部分はずばり当たりのようです。
 …いきなりさくっと看破されていてライターは驚いておりました(汗)
 なので結果ノベルとしては白神空様が一番訳知りっぽい感じになっているかと。更には裏の情報屋使ったり少年当人ホテルに連れ込んだり(笑)してますので、行動的にも一番情報が入り易かったとも言えまして。
 但し、ひとまず正体が大人ではありませんでした。服が大きかったのには他に理由があったようです。…体型隠してたんですね。やっぱり記憶は無いので本人自覚はしてませんが。また、新品と言う部分は素性の問題だったりもします。
 グリゴールも単純に敵では無い模様です。どちらかと言うと味方っぽい気配ですね、今のところ。
 で、後編ではまた状況が色々変わる予定です。
 …しみじみライターがひねくれものですみません…。

 …以上、個別でした。


 このノベルの納品後、一週間から二週間程置いてから後編を募集に入ると思いますが(もう少し具体的にはクリエーターズショップの方で連絡致します)、後編ではこのグリゴールも、前編より表立って出てきます。
 …確りと解決もしてない事ですし(汗)お気が向かれましたらそちらもどうぞ。
 それから、口調やら性格等、違和感がありましたらお気軽に言ってやって下さい。
 このノベル自体には無理ですが(汗)次回以降機会が頂けた時にはそれらも反映したいと思いますので。

 では、また、機会を頂けましたらその時は。


 深海残月 拝