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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


イノセンス・ノワール/後編


■少し前■


 …その場は意外な程あっさりと治まった。
 エウメニデスの正体であろう少年が、ひとりの男を殺した、直後。
 目に見えて周囲の連中が怯んだからだ。
 白神空やクリストフ・ミュンツァーも積極的に戦闘に参加してはいた、いたが――その明らかな実力の差から、全力でとは到底言い切れないやり方で叩きのめしているのみだった。やられた方もすぐには立ち上がれないだろうが、それでも深刻な怪我は無い程度。
 そんな中、エーリッヒ・ツァンと来栖コレットが庇う中から飛び出して、いきなり為された少年――エウメニデスの行動。
 ち、と舌打つクリストフがすぐに少年の元へ走ったが、ひとりを葬った後はわざわざ横から制止しようとするまでも無く立ち竦んでいるのみで、動かない。少年は自分が何をしたのかわかっていなかったようでもあった。
 周囲の、貧民街の連中も、呑まれたのか動かない。
 …そこに、声が響いた。
 貫禄ある低い声と共に現れたのは、『審判の日』にも立ち会っただろう年の、ひとりの年配の男性――爺さんと言ってしまっても特に文句は言われそうに無いような――で。
 彼の登場によって、怯んだ連中の戦意は、途惑いながらもぽつぽつと消えていた。
 その年配の男性、貧民街の側の人物である事は、纏っているぼろぼろの衣服からして確かなようだった。
 だが何か、毛色が違う。
 …そして彼は静かに告げた。


 ここにはもう来ないでくれ。
 これ以上、お前さんたちは襲わせん。
 その子にはかわいそうな事をした。そうは思うが…それに関し、俺たちには何も出来ない。
 俺たちも今、こいつが殺された事は――構わん。
 これは、こいつら自身の、罪だろう。…そもそもこいつは未登録だった筈だ。連邦の厄介にはならんさ。
 グリゴールの事もあの夫婦も俺が何とかする。
 だから、構わんでくれ。


 と。
 …それっきり。
 年配の男性は無防備に後ろを見せ、戻って行った。
 少年ら――空もクリストフもエーリッヒもコレットも――は放り出されて、彼らを襲っていた連中も武器を捨てて引っ込み始めている。安堵した様子の者もいれば渋々と言った様子の者もいる。ともあれ、戦意が消えたのならば、空もクリストフもこちらから手を出す理由はなくなる。未登録と言われれば殺されたどころか生きていた記録さえもない事になる。…どうしようもない。
 取り敢えず場を預る必要はあるが、結果どう扱われるかは別の問題だ。
 …貧民街の連中も、どうも、一枚岩では無さそうな印象が見える。今のあの男性もまた、纏める立場に近い人間なのか。


 その後。
 事に、緊急性があると判断したのか、クリストフはエーリッヒを一旦引かせる事にした。
 貧民街の顔役夫婦の身元や家族構成を――今現れた男性や、エウメニデスらしい少年の事も、改めて、調べさせる為に。これ以上、曖昧なままでこの件を置いておいたら、早晩、今以上に良からぬ事が起こるだろうと判断したらしい。
 …そもそも、既に、ひとり死んでいる。



■経過■


 この少年を知っているのか。
 その問いには年配の男は殆ど有力な答えを返しはしなかった。あの女に【映像送信】で少年の姿を見せられ、これは我らに害を為すもの、見掛けたら出来る限り処分する事、と言い聞かせられただけだと言う。少年自体は何なのか知らない。エウメニデス? 知らんよ。…だが、この子はきっと、友の仇を取りに来たのだろう、とだけ告げている。グリゴールが絡んでいるのならここまで実行に移せる子供も居るだろう。…あの女――あのふたりは、その子と大して年の変わらぬ幼子をひとり殺したのだから、と。
 男性の言う、女と言うのは今の貧民街のボスの片割れ。
 そして、昔――彼らをボスにしようと画策し実行したのが――この年配の男を中心とした勢力だと言う。言わば、昔の纏め役とでも言えば良いのか。…だから彼の声で連中はあっさりと退いたのだろう。現在のボスであるふたりの男女が居なければ――まだその威は充分ある。
 記憶を失ったのは不幸な事だ――だが、その子の為にもそれで良かったのかもしれぬ。
 …男性は、そう言っていた。


「組織間の争いに巻き込まれてる気がするわねー、やっぱり」
 貧民街も一枚岩じゃ無さそうだし、グリゴールの方もそうっぽいし。敵対してるのとくっつきたいのに分かれてるって事かな? ま、この手の話は多いけどー、と、のほほんと口に出す空。
 貧民街を後にして――少年がひとり殺してしまっているた以上、さすがにあのまま御厄介になれるような状況には無かったので――少年を連れ、取り敢えず引いてから。
 クリストフの判断により帰されたエーリッヒを除いた一行は道々考え込んでいる。
「で、そうなると…不本意ながら巻き込まれてるのか自分から首突っ込んでるのかも気になるところよね?」
 記憶が無いとその辺はよくわからないから――少なくとも今は不本意ながらと考えた方が良い訳か。
 …空にすればそれにより動き方が随分変わってくる。取り敢えずこの男の子の意向第一なので。
「さっきのあれ…頭で憶えてないけど身体が憶えてるってのは良くある事だよね…」
 うーん、と考え込むコレット。
 …ひとり殺している事に関しては、あまり気にしていない。無論、いきなりだったので驚きはしたが――そもそも殺されたと思しき相手、少年は特に選んでいたように感じた。コレットとエーリッヒが庇っていた位置から、少年が殺した男の位置まで――間はそれなりに空いていた上、そこに至るまでに他の人間が誰も居なかった訳でもない。…手当たり次第…と言うには特定の人物を狙い過ぎである。
 その上に、殺された人物の最期の声。
 …『あいつを殺させてたまるか』。
 何やら、明らかな心当たりがあるような科白でもある。
 けれど。
 襲って来ていた貧民街の連中を退かせた年配の男性の科白を信じるなら、殺された男の断末魔にこんな科白が出るような心当たりは無さそうではなかろうか。
 ならば、心当たりがある以上、殺した事については特に気にする事もない。…コレットとしてはそんな発想である。この御時世、人死には結構多い。
 ただひとつ気になると言うなら――むしろ同行者。
 連邦所属の者が直に目にしている。言わば法を作り、守る側の者が。これは、今は良いにしろ…後々厄介になるかもしれない要素。…幾ら殺された相手が未登録の市民でも。
 コレットが密かに思う中、空が口を開く。
「…頭で憶えてないけど身体で憶えてる――それなんだけど、この子って多重人格の能力者じゃないかな?」
「え?」
「で、人格によって使用出来る能力が違って、記憶野も人格によって分断しているとすれば」
 今のこの子からは、『エウメニデス』が知っているだろう記憶は読めない、とか。
 ぎゅー、と少年を抱き締めつつ空は言う。
 少年の方は貧民街の男をひとり殺した時点からひとことも言葉を発していない。…自分のした事に怯えたか、はたまた驚いているのか何なのか、とにかくショックを受けた事は確かな様子。空の行為はそれを宥めようとしている部分もあるのか、はたまたそうしたいからしているだけか。
「テレパス系の攻撃受けて、そのバランスが狂ってしまった為に今、こう言う状況にあるんじゃないかな?」
「その可能性も、無くは…ないか」
「実際、あたしが居た研究所にも似たようなのが居たしね」
「ふむ。…【過去見】で何かテレパス系の攻撃を受けていた――って言っていたよね、来栖さん?」
 …それは、具体的なところが見えた、と思って良いのかな?
 クリストフの問いに、うん、と頷きつつコレットは自分の額にちょんと指を当てて見せた。
「貧民街の誰かふたりと――多分ボスって夫婦の両方と――何か話してたなと思ったら、こんな風に女の方が額に指を当てたんだ。直後にこの子いきなり何か凄い衝撃受けたみたいに仰け反っちゃって。叫んでて――とにかく、混乱してるみたいな感じだった。それで、そこから逃げ出した――んだよね。僕が【過去見】で映像として見ただけだと詳しいところはわからないけど、これはテレパスが原因だと思ったよ」
「【サイ攻撃】って訳じゃないんだね?」
「うん。赤い火花は無かったし。他に――エスパーが能力使ってる時みたいな負荷が掛かってる気配は殆ど無かったから――具体的に何されたかはよくわからない。…実はね、印象からするとそれ程攻撃的なものとも思えなかったんだ。受けた側の反応からして大ダメージには見えたけど、テレパス自体は【サイ攻撃】みたいな攻撃的な感じは全然無かった」
 この子の記憶喪失って、そのテレパス攻撃…が原因になってたのかなあ? 『記憶』に直接働きかけてるって言うんなら…僕が出来るのは逆だけど…記憶を操作する能力ってのはある訳だし、喪失ってのも出来そうだよね…。
 コレットは考え込む。
 と。
「…【映像送信】」
 少しして、クリストフがぽつりと呟いた。
「顔役の女の方がそれを使うとは――さっきの貧民街の年配の人、言ってたよね」
「確かに【映像送信】ならそれ程負荷は掛からないと思うけど――」
「うん。その能力自体に攻撃性は無いね。でも…送られた『映像』によってはかなりのショックを受ける可能性もあるんじゃないかな?」
 視覚は人間の感覚の中でも特に頼られる強い感覚だからね。【映像送信】と言う能力自体は攻撃で無くとも、その能力で取り扱う材料によっては充分攻撃になる可能性があるよ。
「…それに、使えるのが【映像送信】だけとも限らない――」
 クリストフはそれだけ提示し、また沈黙が落ちる。


 暫し後。
「…グリゴールに連絡取る手段って無いかな?」
 どーしよっかー、と、落ち込んでしまっている少年を囲んで空とコレットが考えている中、何やらぶつぶつとひとり話していたクリストフが改めて一行に向けて話しかけていた。
「連絡取るって…直接?」
「うん。…どうも引っ掛かる事が出てきた。グリゴールで、つい最近死亡した幹部が居るらしいってエーリッヒが見付けてきたんだよ。年齢はこの子と同じくらい」
 と、クリストフは少年を指す。…クリストフがひとりでぶつぶつ言っていたのは前に帰したエーリッヒと【遠距離会話】をしていたと言う事らしい。
 そのクリストフの科白に、え、と驚いたように声を上げたのがコレット。
「って、さっきあの貧民街の年配の人――」
「『友達の仇を取りに来た』んじゃないのか、って言ってたわね」
 引き取って続ける空。
 コレットは頷いた。
「うん。で、エウメニデスの名前からグリゴールの名前が出て来て――」
 エウメニデスはグリゴールの近くに居る、って白神ちゃんは言ってたんだよね。そう情報屋が言ってたって。
「そう。それで――これはあくまでこちらの推測に過ぎないけど――この子の反応から考えて来栖さんがこの子の記憶の鍵になる人物と何処か似てるんだと思う。で、来栖さんから連想出来るグリゴール関係者となると頭のアザゼルになると僕は思うんだよね。つまり、エウメニデスは――末端の兵隊よりも幹部の方がより近くにいた可能性が高い。で、その死亡した幹部の死の理由は不明――出回ってるニュースとしては今回の件とは何も繋がって無いんだけどさ」
 その死亡した幹部と今回の件、仮に、繋げて考えたらどう思う?
「…って、え、そうなると…その死亡した幹部ってのがこの子の友達で、その幹部は貧民街のボスに殺されて死んだ、で、この子はその仇を討とうとしていた…?」
「…だよね。勿論全部仮定の話だけど」
 クリストフはそれだけ返し、黙り込む。
 …エーリッヒから聞いてはいるが、その『幹部の素性』まで今の段階で明かす気にはなれない。
「その幹部の名前は調べが付いてるの?」
 ふと空が問う。
「うん。ペネムエだって。とは言えグリゴールの連中は皆仮の名前だけどね。戸籍の登録名は不明だよ」
 と。
「つ…」
 急に少年が額を押さえ込む。
 慌てて、コレットは少年の顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
「…うん。ペネムエって名前…記憶にあるかなって…考えてみた、だけ」
「そんなに思い詰めて考え込まない方が良いって。…絶対思い出さなきゃならないって訳でも無いし」
 さっきのじーさんが言ってた通りなら、思い出さない方が良いのかもしれないし。
 宥めるようコレットはぽつりと言うが、途端、少年はぶんぶんと首を振る。
「でも、友達の仇だって…それが本当にそうなら、僕はその友達の事すらも忘れてる――」
 そんなの、嫌だ。
「…んじゃこれからどうするかってのは――記憶を取り戻そうって方向だよね、やっぱり」
 暫しうーんと悩むと、はぁ、とコレットは溜息を吐いた。
「何にしろ、ひとまず何処かで一旦休んで体勢立て直した方が良い気がするんだけど」
 ぼそりとコレット。
 …って言っても休むようなところが思い付かないんだけどね、と続く。
 と。
「だったら結構近いからカガリのとこでも行こっか?」
 空があっさりと「休むようなところ」の候補を上げた。
「カガリ?」
「天才博士で名前が知られてる御前崎カガリの科学研究所。知らない?」
 節操無く発明やってるエキスパートの子の家でね、色んな人の出入りがとにかく多いんだよね。つまりその子の発明求めて訪れる顧客層がめちゃくちゃ幅広いのよ。で、結果としてお偉いさんでも結構逆らえなかったりするんだよね。…本人はふつーの女の子なんだけど。頭が良過ぎる以外は。
 あそこならカガリの研究の邪魔さえしなければ勝手に寛いでても文句言われないし、あそこの顔の広さなら色々情報も入ってると思うし件のグリゴールとの関係もひとつやふたつ持ってると思うし。ひょっとすると直接連絡取れるかもしれないよ?
 …それに、取り敢えず、カガリのとこならある意味完全中立で治外法権って事は間違いないしね。
 ちらりと悪戯っぽくクリストフを見ながら、コレットに告げる空。
 クリストフは苦笑した。
「今の状態でこの子を逮捕しても何も状況変わらないでしょうからしませんって」
 それに、現状では公式には被害者も居ない事になってしまうし。
 …強いて言うなら僕がここに居る事で保護観察みたいな状態になってる、と思って下されば。
 この少年――それは、目の前で人ひとり殺してはいるが――その理由も、動機も何も今の時点では掴めない。そもそも、記憶も何も無いとなれば、色々とややこしい問題もまた出てくる。
「それより、ちょうど休めそうな場所だと言うのなら――ひとまず僕もそこに行く事を勧めるよ」
 グリゴールと連絡が取れる可能性があるって言うなら、それもそれで都合が良いしね。
 …本部設置のデータベースより、『人』を相手にした方が新しい情報を得られる可能性は高い。



■遭遇■


 カガリの元に向かう道で。
 再びクリストフはエーリッヒとの【遠距離会話】で何か話しているようだった。
「…ふぅん、御大自ら出張って来られるとは、ね」
 少々意外そうにクリストフは呟く。
 と。
 コレットがそんなクリストフをじーっと見ている。
「ねーねー、何話してるの?」
「ん? や、エーリッヒがこっちに戻って来ようとしてる途中で、グリゴールのアザゼルにサタナエルのふたりと偶然遭遇したらしくってね。彼らも連れて行くからカガリさんの研究所とやらで合流しようってさ」
「じゃー、グリゴールの連中直接捕まったんだ? 良かったじゃん記憶の手掛かりが増えて」
 ぽむぽむ、と少年――先程、クリストフから戸籍登録名はシナらしいと教えられた――の頭を軽く叩きつつ空があっけらかんと言う。
「…と、それから、名前はシナ君…って言うよりエリニュス君って呼んだ方が良いらしいよ?」
「そうなんだ?」
「記憶を無くす前の当人がそう名乗ってたみたいだから。エリニュス・ストゥーピッドって」
「ふぅん。…思い出せる?」
 クリストフの科白を聞き、コレットはそのまま少年に――エリニュスに振る。
 空もエリニュスのその顔を気遣わしげに覗き込んでいる。
 が、何も返って来ない。無言。
「そう簡単には行かないか」
 はぁ、と溜息を吐くコレット。
「こーゆー場合って記憶喪失を治すにはやった超能力者の方を何とかしなきゃ駄目かなあ?」
「だったらあたしが何とかしても良いけどー?」
 コレットの呟きに、にこっ、と笑って自分を指差す空。
 テレパスの超能力者くらいなら軽く捻れるし。…【天舞姫】とかでこっちのスピードを予め上回らせとけば読まれても何も関係無いしね。すぐ殺せるよー?
「…ちょっとちょっとふたりとも、不穏な事言うのはやめようって」
 コレットと空の会話に、がく、と項垂れるクリストフ。…このふたり、簡単に考え過ぎる気が。
「でもどーしよーも無いんだったらさー」
「ってまだそれが直接の原因だって決まった訳じゃないんだから。【記憶操作】みたいな直接の原因か、テレパス系の『何か』をされた事で自分の本能的な判断としてショック起こした――とかの間接の原因かも良くわからない訳だし…そもそも、もし殺したりして、それで効果が解除されるどころか永久にその時点のままで停止しちゃったりしても困るでしょ」
「…んじゃ解除させるように脅迫するとか。何か良い材料あるかな?」
「適当に痛め付けても良いわよね? 半殺しとかー」
「…おーい」
 考えるまでなら良いけど実行したら逮捕するからね?
 と、エリニュスを囲む三人が本気でか冗談混じりで(?)か話していた時。
 …ふ、と。
 何かに気付いたようにエリニュスは天を仰ぐ。頭の上に乗っていた空の手が浮かせられ、どうしたのー? と問いかける。が、そんな空の声にエリニュスは何も答えない。…それどころか。
 次の刹那、エリニュスは唐突に走り出した。一行が向かっていた方向――つまりカガリの科学研究所とは全然別の方向。けれど、何か目的があって走っているような。
「と、エリニュス君!?」
 コレットが叫ぶがエリニュスが動く方が早い。すかさずクリストフと空が追い掛ける。少し遅れてコレット。取り敢えず走るのを止めさせはしない。ひょっとすると彼の記憶に関係するかもしれない。だからこそ警戒を怠らないままで一行はエリニュスを追うだけに留めている。
 クリストフはサイバーアイでエリニュスの向かうその先を確認するが、まだ見えない。エリニュスはいったい何に反応したのか。
 空はある意味クリストフを警戒している部分もある。エリニュスの目的が記憶を取り戻す事――延いては、ひょっとしたら誰かを殺す事に繋がるのでは無いかと思った為。そうなると、このクリストフはちょっと厄介な立場の人間に思えてくる。
 コレットは追い掛けるだけで精一杯。旅暮らしではあるが特に鍛えている訳では無いので走るのは慣れていない。と言うかそもそも前を走っている三人の身体能力がコレットより明らかに高い。思わず【時間停止】を使おうかともちょっぴり考えたがそれはつまるところ別の部分が疲れるだけでもある訳で、止めた。その力は特に今必要としているものでもない。…それでも追いかけるのは止めない。エリニュスの事を思うなら。放っておけない。
 少し走って、クリストフのサイバーアイにいち早く複数の姿が映り込む。ぼろぼろの服装の人間。だが何処か特徴がある。貧しくて襤褸を纏うにしろ『見れる』ように色々と考えて組み合わせて着る者たちは多い。それは流行か何かなのか地域によってある程度見た目に差が出てくる。そしてこの連中は――件の、貧民街の者と同じ傾向で。
 クリストフは目を細めた。
「…貧民街の連中が店襲ってる。銃まで持ってるね? …まるっきり野盗じゃないか」
「まじ?」
「それでこの子が追っ掛けてるって事は――」
 ――今のこの子の状態は、ひょっとして、『エウメニデス』の方?


 ■■■


 エリニュス――否、エウメニデスは衒いなく、襲われているらしいその店に突っ込む。一拍置いて周囲に居た野盗――貧民街の連中から殺気が湧いた。急な話でもその姿は忘れもしないボスを襲い来た少年。咄嗟に乱射されるサブマシンガン。けれど当たらない。銃口を向けられるその前にエウメニデスは先に向かっている。突進と言って良い。ただただエウメニデスは一点を目指して走っていた。何が目的か? そんなのはわかっている。…エウメニデスは疾うに『噂』で予告している。
 部屋の隅にへたり込み、怯えて縮こまっているこの店の主らしい小男。その側、男がふたり、女がひとり。その姿を捉えるなり、エウメニデスは加速した。低い位置から肉迫する。目前、あと少しで手が届く――。
 が。
 凶器と化したその手が届く前に、いち早くクリストフの腕が伸びていた。
 エウメニデスの手を掴んでいる。
「離…せっ」
「…駄目だよ。離したら君は彼らを殺すだろう?」
「当然だ! こいつらは死んで当然なんだよっ!!!」
 ――ペネムエを、ペネムエを殺したんだっ!
 エリニュスは凄まじい目つきで今殺そうとした相手を見ている。
「!…記憶が?」
「戻ったよ。…どうして何も憶えて無かったかわかった、『その瞬間を見せ付けられた』からだ」
 ペネムエが殺された、その瞬間を。
 それも、こいつらの――殺した立場からの映像を、僕の頭に送り込んで来たから!
 殺したその時その瞬間の。頭が真っ白になったよ。ペネムエがどうやって死んだのか。凄くリアルにこの手にあった。信じていた者に殺された。それは奴ら? 僕? わからなくなった。僕は混乱して僕自身がペネムエを殺したとさえ考えた。
 記憶を喪ったのはただの現実逃避。僕は僕である事さえ放棄した。頭の中が混線してた。まともな思考が作れない。手には感触が残ってる。目の前は赤くちらつく。僕は自分が何処に居るのかもわからなくなってた!


 …けれど僕の本能の部分はこれはすべて誰の仕業かは知っていた。
 だから戦える僕――『殺人を復讐する為の僕』だけは正常に動いてた!
 ペネムエの――大切な友達の仇を取る為に!
 ――血の絆を踏み躙ったあんたたちを断罪する為に!


 ペネムエはあんたたちを信じた、けれどあんたたちは――信じなかった!


 ………………襲撃された店の中、エウメニデスの――エリニュスの慟哭が響く。



■血の絆/友の絆■


 刹那。
 店主の脇、すぐ側に居た男のひとりが警告も威嚇も何も無く至近距離でいきなりクリストフに発砲した。クリストフが捕まえていたのはエリニュスの腕。エリニュスは真っ直ぐ発砲した男ら三人の方へ向かっていた。発砲した男の位置関係はクリストフの背後になる。撃鉄の音、反応速度はサイバーならではか。普通なら外す筈のない位置関係と距離。それをクリストフはあっさりと避け――すぐ側で自分が自由を封じていたエリニュスを庇いつつ、銃弾が向かうだろう方向に生体が居ない事を確認しながら――咄嗟に高周波大鎌を引き抜き構え、その三日月の刃を発砲した男の首の後ろに回していた。牽制。銃を使う相手に素手で対する事もない。
「…いきなり人を後ろから発砲するかな?」
 それも成り行き上とは言え自分を助けた事になる相手に向けて。
「く…」
 男は唇を食い締めている。相手はオールサイバー。そう簡単に動けない。…と、今度は逆に高周波大鎌を持つクリストフの腕に唐突に強烈な負荷が掛かって来た。発砲しなかった方の男の髪が僅か浮き緩くはためいている。男の視線は真っ直ぐにクリストフに向いている――サイコキネシス。クリストフのその腕を、身体を味方から押し退けようとでも言うのかその力を思い切り叩き込んでいる。クリストフはそれに抗しようとエスパーの男――恐らくボスの片割れ――へと意識を向けた。ほんの僅かな間だが、エリニュスの腕を捕まえていた手が緩む。
 その隙に。
 エリニュスは転がるようにクリストフの腕から逃れ出た。獣染みた低い姿勢で部屋の隅誰もいない場所まで駆け抜けると振り向き様に急停止する。ほぼそのタイミングと同時、表に近い方から貧民街有志――最早野盗と言って良い――の連中が雪崩れ込んで来る。今し方飛び込んで来た者は。敵は何処にいる。刃の切っ先を向けようと、銃口を定めようとガチャガチャ動く音。それなりに戦い慣れた気配はあるが訓練された動きはほぼ無い。
 そこに白銀の何かが横から突っ込んで来ている。スピードに付いて行けない。何者かがわからない。そんな中、最後に見えたのは鋭い爪――爪? 認識した途端血飛沫と共に倒れる貧民街の者が服数。停止した白銀の何か――狐の獣人【玉藻姫】状態の白神空。…賑やか過ぎてこのまんまじゃどーしよーもなさそうね、少し静かにさせないと――とばかりに彼女は爪に付いた血を楽しそうにぺろりと舐め、鼻歌混じりで再び残った者たちを攻撃に向かう。
 エリニュスはそれを横目にかはたまた殆ど見ていないのか、空が向かったのとは逆方向の相手に再び地を這うような低さで走り出す。…邪魔をする者は排除する。銃口を向けて来た相手、認識する前にエリニュスは跳躍した。銃口が跳ね上がる――が、次の瞬間にはエリニュスのスライディングが相手の足許に炸裂していた――のだが、その時には何故か倒れた相手の手から銃が消えている。
 エリニュスは目を瞬かせる。と、大丈夫? と声がすぐ間近で聞こえた。コレットの声。今エリニュスが倒した男が持っていた銃がコレットの手の中にある。…エリニュスが危ないと見たか【時間停止】を発動し銃を奪ったらしい。とは言え時間を一時停止させた後の結果を見ればどちらにしろ相手は倒れていたように思えるが、それでも銃を奪った事は大きい。コレットはその銃を追撃して来ようとする別の相手にすかさず向けた。そちらの持っている得物は飛び道具で無い。コレットに銃口が向けられて相手の足は停止する。
 再び数名を片付けてコレットとエリニュスの側に走り込んで来た白銀の影――空。血に染まった爪先も気にしないで、大丈夫、怪我してなーい? と何処かのんびりした様子でエリニュスに訊いている。
 クリストフは殆ど時を置かぬ間に自分に向けられていたサイコキネシスに抗しきっていた。自分のサイバーボディを押し遣ろうとするひどいGが掛かっているような中、何とかそのサイコキネシスを扱っている源、ボスらしい男の方を無造作に掴み上げ、気合いと共に放り投げている。投げられればさすがに集中は出来ない。その時点でクリストフに掛かっていたGは消えた。投げられた男は容赦無く床にめり込むよう叩き付けられている。場所が屋内と良かったせいか致命傷では無さそうだ。がふ、と空気を吐き、立ち上がっては来ない。
 クリストフに発砲した男の方は再びその銃口を上げようとする、が、クリストフの目を見るなり、そのままで停止した。オールサイバーの飛び抜けた戦闘能力を見せ付けられて呑まれている。
 他の者――空の獣人化しての容赦無い戦い振りや、コレットが急に銃を手にしていた理由を察したり、エリニュス当人の戦闘能力も相俟って――その場が俄かに膠着する。下手に動けない。動かない。
 そこに。
「…僕は初めは話を聞きに来た」
 ぽつりとエリニュスが口を開く。空のとことんマイペースな様子にでも幾らか落ち着かされたか、今度は激情に駆られ突進する訳で無く、静かに、だが表面一枚でだけ冷静さを保っている様子で――話し始めた。
 ペネムエが死んだ事。信じられなかった。殺された――それも実の親になんて。
 だから僕は、ペネムエが話し合いを求めていた――そして結局そこで死んでしまった――貧民街に行った。何かの間違いだろうと、そうでなければ何かの事故だったのだろうと。
 説明が聞きたくて。
 …信じられなかったから。
 なのに。
 あんたたちは、悪かった、こんなつもりじゃなかったんだと僕に謝ってきた。やっぱりそうなんだと僕は思った。だけどそれは――僕を、『エウメニデス』を油断させる為だった。
 僕を無防備な状態に置いて、記憶を、感情を、僕にとってのペネムエを読んだ。そして――僕にとって一番ダメージになるだろう映像を、自分の『見た』ものの中から探して――送り込んで来たんだ。
 ペネムエの死の瞬間を。
 思惑通りに僕は壊れた。
 他の何より一番の説明だったよ。
 あんたたちは端から利用する為だけにペネムエに近付いた。
 …だから僕は――あんたたちを赦さない。
 そこまで話すと、エリニュスは自動小銃を携えたボスらしい女の方をぎ、と睨む。
 女は何も反論しない。
 クリストフが小さく息を吐く。
「…まさかさっき仮定で言ってた話が正しいとはね」
「知ってたねクリストフ?」
「グリゴールの死んだペネムエって幹部と貧民街の顔役夫婦が親子だって事は。…それ以上は仮定だったよ」
「でも予想は付いていた」
「…まぁね」
 空に切り返され、渋々と言った風に肯定するクリストフ。
「だったらやっぱり仇討ちはさせてあげたいなっ、と」
 軽く言いつつ、空は、ぽん、とエリニュスの肩を叩く。
「僕も白神ちゃんに賛成。…大切な人の想いが踏み躙られ殺された、だから仇を討ちに来た。いったいそれの何が悪い事? 出来る力、持ってるなら僕だって使うよ」
 奪った銃を構えたままでコレットもそう告げた。
 …クリストフは空やコレットの言葉にももう何も言わずにただ、場を窺っている。


■■■


 そこに。
 乱暴に人間がふたり投げ込まれた。痛め付けられた貧民街の者。投げ入れたのはプラチナブロンドに黒レザーのライダースーツの対比が目立つ幼い少女――グリゴール幹部、サタナエル。
「そこまでだ」
 無言のままの彼女の行動の後ろから発されたのは良く響く声。
 赤い髪のグリゴール首領、アザゼルの。
 更にそのアザゼルの後ろに――庇われるような形で、エーリッヒの姿も現れた。
 その場に居た者の視線が集中する。刹那、女が身を翻して影に――入って来たのとは別の扉が比較的近くにあった――その向こう側に消えた。ヒィイッ、と腰を抜かした店主が悲鳴を上げる。そちらを宥める声を掛けつつ、女を追おうとするクリストフ――そしてエリニュス。刹那の判断で空にサタナエルもそれに続いた。
 残された者は方向を確認する。扉、廊下の位置、裏口か。その間にコレットの姿も消えているのにいったい何人気付いたか。ぱらぱらと追う者が出る。新たに来たエーリッヒやアザゼルを警戒する者もいる。倒された者――特にボスの男の方に声を掛けている者もいる。アザゼルはその、仲間らしい者に声を掛けられ、床にめり込むように倒れているのが件のボスの片割れだと気付くなり冷笑した。
「良い様だな」
「アザゼルさんっ!」
 あまりの言いようにエーリッヒは思わず声を荒げ男を庇う形に入り込む。グリゴールが貧民街のボスをどう扱うか――最悪の可能性が一番高い。
 と、アザゼルはエーリッヒの態度に小さく肩を竦めた。
「そんなに警戒なさらず。連邦の方の前で人殺しをするつもりはありませんよ。そもそも今日はあの子を止めるのが目的で来たんですからね」
 余計な事で目を付けられてはどうしようもない。
「…」
 途惑いながらもエーリッヒはアザゼルの顔を見る。
 アザゼルは静かに頷いた。
 そこに。
 ………………残っていた貧民街の者の銃口や切っ先が一斉に向けられた。


■■■


 暗い廊下の先、転がっているのは貧民街の者。誰が潰したか――後から来た者?
「――逃げてもムダだよ」
 考えつつ逃げる女の真正面で銃を構えていたのはコレット。いつの間に現れた。【時間停止】。その時間に連れて行かれなかった者にすれば瞬間移動としか思えない動き方。絶対に置いて来ていた筈の赤い髪の少年がそこにいる。赤い髪。不吉の印。…それは異端などと言う象徴的な意味合いでもなんでもなく、女にとっては『グリゴールのアザゼルと同様の髪の色』その意味だけで不吉過ぎるくらい不吉になる。初めから負い目がある。恐怖心がある。『そこで赤い髪の子供が自分に銃を向けている』。女は思わず足を止めた。
 そこにクリストフと空が同時に走り込んで追い付いていた。同時だと気付くなりふたりは女を確保しようとしたそこから一旦離れ、構えて対峙する。
「どうしても邪魔するんだね? クリストフ」
「例え仇討ちでも。…殺してはいけない。公の裁きを受けさせる」
「んじゃあいっちょやりますか」
「…仕方ないね」
 短く言い合うなり、空とクリストフは同時に動く。狭い中で互いに攻撃を仕掛け弾き、打ち合うがほんの数瞬で白銀と黒の素早過ぎる動きが膠着した。…互角か。
 けれど空の余裕は変わらない。
 何故なら…こうやって邪魔者を止めている間にエリニュス本人が動ける。
 そして女の方の動きはコレットが止めている。
 即ち、御膳立ては整いつつある。
「…く」
 視界を横切り、僅か遅れて走り込んで来たエリニュスを見、クリストフは焦る。それは幾らサイバーとしての超人的な力があろうが、相手が相手。これでは純粋に手数が足りない。
 と。
 そこに飛び込むように現れたのは黒い小柄な影――サタナエル。彼女はエリニュスではなく女の方を狙って動いていた。サタナエルの腕が女を掠めた瞬間、女の身体が倒された。次いで達したのがエリニュスの拳――但し、女が倒れなければ達していた位置と注釈が付く。つまりは透かされ、エリニュスは何も無い位置に着地した。
 が。
 倒れた女は起き上がらない。
 クリストフは声を荒げた。
「サタナエルさん…っ!」
「殺してはいません。連邦の方の前で人殺しをする訳には行きませんから」
 気絶させただけです。
 静かに言い、サタナエルは一旦透かされたエリニュスを見る。コレットに近い位置に居る。と思ったらコレットの姿が一瞬消えていた。次にその姿が同じ場所に現れた時にはサタナエルの肩口、関節部、至近距離に銃弾があった――と思ったらその瞬間に直撃している。ほぼゼロ距離からの比較的弱い部位への狙撃。軍事用オールサイバーの装甲でも衝撃のひとつやふたつはさすがに来る。咄嗟に動けない。その隙にエリニュスは再び倒れた女の元へ疾駆する。邪魔する者は届かない。エリニュスが女の脇で立っていた。冷たい目で見下ろしている。自分どころかサタナエルの位置でも追い付けない――クリストフがそう思った時。


「血の絆を踏み躙ったのは――『母』の方だ! それでも君は動くのか!?」


 咄嗟に口に出た言葉。
 クリストフのその科白が、耳に届いたその時に。
 ………………砂色の小柄な身体から、引き裂かれるような絶叫が木霊した。



■帰着■


 …片付いているとは御世辞にも言い難い部屋で。
 凄まじいノイズが途切れ途切れに響いている。
 相当の電磁波をも放出しそうな威力の改造無線。それが部屋の一角にある。
 その無骨な無線機の端末で、誰かと連絡を取っているのはひとりの少女。
 何処ぞの制服のような服装の、無愛想な。
「…そ。見付かったんだ。決着も付いたんだね」
 淡々と返す声には何の感慨もない。
「わざわざこちらにまで連絡をくれるとは律儀だね。うん。…結局私は何もしてないし。話を聞いて頼まれただけで何の結果も出してない。…それでもそんなに気になるんだったら後でニスロクの店で丼物の一杯でも奢ってくれればそれで良いよ」
 最後、再びザザッ、と音が膨らみ、消える。
 少女は通信を終えた端末を置いた。
 通信を切った少女――カガリは、先程置いて行かれた写真をふと手に取る。
 朗らかな少年。砂色を纏う、エリニュス・ストゥーピッド。
 カガリはそのままで暫し見ていたかと思うと、その写真を指先で弾くように放り出す。
 はらりと空を舞い、音も無く写真は床に――ガラクタの中に、落ちた。


 ――それっきり、もう何の興味も向けられる事はない。


■■■


 部屋の外まで声は聞こえた。
 エリニュスの絶叫は、家屋の奥の部屋、残されたエーリッヒらにも届く。エーリッヒとアザゼルに銃口を向けていた連中も何事かと俄かに動揺した。
 刹那。
 しゃがんでいて下さい、とアザゼルに小さな声で言われ、エーリッヒは何事かわからないながらも咄嗟にその場に屈み込む。それを確認したかしないかと言うタイミングで、アザゼルは両腕を大きく薙ぎ払うように動かした。【ソニックブーム】? エーリッヒは咄嗟に思うが効果が違う。何処か凶々しいものさえ思わせる黒いプラズマを纏ったアザゼルのその腕が銃や剣に触れるか触れないかと言うところで、銃や剣の方が唐突に形を無くした。砂で作ったものが壊されるように、解けるように崩れている。…ぎょっとした顔が周囲に居る。分解されるように半分だけ壊された得物はそれこそ何の使い物にもならない。否、こんなものを見てしまったら、この相手を何かで攻撃しようと言う頭がなくなる。
 そして。
「…行きましょうか、エーリッヒさん」
 今為した事など気にせず平然と言うアザゼルに、エーリッヒは茫然としている。


 …血を吐くような叫び声。
 悔しくて堪らないとでも言いたげな。
 そんな叫びを発していたのはエリニュス。
 倒れた女の傍らで。
 ………………殺すどころか、触れられもしないままに。
 見ている者は何が何だかわからない。
「…君の『力』は…そう言う事なんだね」
 あまりの反応にさすがに一時驚いたが、すぐに納得したよう静かに告げるクリストフ。きょとんとしてその様子を見ている空。何やら戦う理由が無くなったと見て空は取り敢えずクリストフから離れる。クリストフも特に逆らわない。
「ちょ、ちょっと。エリニュス君?」
 コレットはよくわからないながらもエリニュスを宥めようと試みる――が、エリニュスは聞く耳持たないと言う感じで。嘆きが強過ぎて周りが見えて、聞こえていない。
「…どう言う事なのよ、これ?」
 空は頭の中に疑問符だらけ。
 受けてクリストフが答える。
「神話の――特に古い方の伝わり方から思い付いただけだよ。…エリニュス女神は豊穣の女神の復讐者としての異相、の方からね」
 …簡単に言うと、エリニュスが復讐者として反応するのは女系の家族限定なんだよ。
 特に『母親』の代わりに復讐する者。
 古代にあった、母権の守り神…とでも言うかね。
「…その名前が異名として冠されている事、エリニュス君の…シナ君の家族にあった――これもエーリッヒが調べた中にあった事だけど――『女系の家族にのみ現れる』本人以外の人格がある、って部分から考えて、ひょっとしたら…程度の駄目元で指摘してみたんだけど」
 エリニュス君が『エウメニデス』として動いている――動けているのは、ひょっとしてこの『女系のみに表れる筈』の人格を持っていたからなんじゃないかと思ってね。
 クリストフのその説明を受け、サタナエルは静かに続ける。
「そんな伝わり方もあったんですね。…確かにエウメニデスは『母殺し』に特に反応します」
 エリニュスの『力』が本能的に追い立てるのは『母殺し』だけなんですよ。うちの構成員でも母親が殺され孤児になったような者が大勢居ます。エリニュスがそれを知ると凄い怒り方をするんですよ。…更には全然見当も付かなかった筈の犯人さえも何処からか探して来ます。…反面、父や男の肉親が殺された者に対する場合、それ程の反応は無い。気の毒がりはしますが、そこまでの目立った反応は無いんです。
「ですが、さすがにそれを指摘しただけでエリニュスが止まるとは思いませんでした」
「…辛そう、だけどね」
 クリストフはエリニュスを見ながら言う。
 と。
「『感情』では友達の仇、でも『力』は振るえない」
 だったら、と空は――漸く叫ぶのを止めたエリニュスに歩み寄り、その足許で倒れて動かない女の持っていた自動小銃をひょいっと取り上げ、はい、とエリニュスに差し出した。
「今なら、ちょっとこれの銃口合わせて銃爪引けば、簡単に死ぬよ?」
「…うん」
 頷くが、エリニュスは空に差し出されている自動小銃を受け取ろうとしない。
「いいの?」
 再度言われるが、今度はエリニュスは何も言わない。
 …言わないままで、ぎ、と唇を噛み締めている。
「じゃ、これでやりたい事は完了?」
「…」
 終わっていない。
 けれど、出来ない。
 そんなジレンマ。
 …だから、答えられない。
 そんなエリニュスの姿に、空は仕方無さそうに軽く息を吐く。そして自動小銃を放り出し、【玉藻姫】への変身を解いた。…取り敢えず一仕事終わったと見たらしい。
「じゃあ、もう、エリニュス君は――仇は取りたくても取れないって言うの!?」
 空とエリニュスのやりとりを見、コレットは先程容赦無く銃撃した当の相手にも関らず、訳知り風なサタナエルにそう詰め寄る。が、サタナエルの方もサタナエルの方で撃たれた件についてはあまり気にしていないよう。…結局はエリニュスの為を思っての行動だと判断しているが故か。元々あまり気にしない性格なのか。
「…恐らく。『エウメニデス』に『同じ相手を標的として仕事の依頼』をしない限りは」
 コレットの問いに静かに頷き、サタナエルは淡々と告げる。
 と。
 何処からともなく大型のキャリアが走る音が近付いてくる。近い。壁一枚隔てた向こう側。凄まじいブレーキ音を立てて荒っぽく急停車したようだった。続いて扉が開く音。…数人、降りた。
 程無く人の声が飛んでくる。…気が付けば今の位置関係は店の入口の極近く。
「――無事ですか皆さん」
 現れたのは背の高い二十歳前後の青年と、何故か――貧民街に居た年配の男性。
 そこに。
「…ちょうど良いタイミングでした。エリニュスは諦めてくれたところです」
 エリニュスたちの後ろ、部屋の奥の方から現れたのはアザゼルとエーリッヒ。エーリッヒはエリニュスの姿を見付けるなり慌てて駆け寄り気遣っている。俯く姿に、励まそうと声を掛けているようだった。
 一方のアザゼルは貧民街に居た年配の男性を見上げている。
「御足労頂き有難う御座います」
「…ああ」
 それだけのやりとりを残すと、男性は倒れている女を静かに一瞥し、ひとり店の中へと歩いて行く。
 現れたもうひとり、青年の方はアザゼルと目を合わせると頷き合い、次には皆さんこちらへ、と呼ばわって店を出た。
 そこにあったのは――コンテナ内部が改造してあると思しき大型トレーラー。
 …グリゴールの持ち物と言う訳でも無い。この大型トレーラー、知っている者は知っている――移動する食堂、『ニスロクの店』。
 運転席には店主その人が乗っていた。
「皆さん、どうぞ」
「?」
「…乗って下さい。こんな場所です。用が済んだのなら早めにおいとまするべきでしょう。誰か来るかもしれませんし――って予め連邦の方が居るならあんまりそっちの問題は無いですか」
「どう言う事?」
「御礼ですよ。…言ってしまうとこちらの関係者の逃亡用と御礼用を兼ねてニスロクさんにお店の貸し切りお願いしてたんです。エリニュス探しに尽力して下さった方々の為にね」
 保護していて下さった、と言うのなら同じ事ですから。
「…貴方は?」
「シェムハザと申します。グリゴール側の人間と思って頂ければ」
 青年――シェムハザがそう名乗る間にも、アザゼルは真っ先に大型トレーラーのコンテナに乗り込んでいる。別に警戒なさる必要はありませんよ。このトレーラーもうちの物じゃないですしその持ち主もうちの構成員じゃありませんからね。そう告げつつ。
 エリニュス、帰るよ、とひどく優しい声だけがコンテナの外に残された。
 コレットはそれを聞き、目を瞬かせてエリニュスを見る。エーリッヒに気遣われているエリニュスの姿。改めてトレーラーを見、信じるべきか信じないべきか考えている。サタナエルの態度からしてエリニュスに危害を加える気は無さそうだが――今更になって自分がサタナエルに思いっきり発砲した事に気が付いた――エリニュスの行動を妨げようとしていた事も事実で、他方、エリニュスが自分を懐かしいと思った理由はアザゼルではないかとも取れる訳で――。
「折角だから、いこ?」
 そんな悩んでいる中、コレットにひとこと投げてあっさりとアザゼルに続こうとする空。え、ちょっと待ってよとコレットは俄かに焦るが、これで行った方が後払いきっちりもらえそうだもん、と軽ーく答える空。しかもその手はエリニュスの手を引いている。あ、あの、とエーリッヒも惑っているが、そんな取って食う訳じゃないんだからだーいじょーぶだって。そもそも場所がニスロクの店なら全然問題無いし、とすたすたコンテナの内部へと入っていく。手を引かれているエリニュスも、途惑うような顔をしながらも、抵抗はしない。
「…ま、いっか」
 いざとなったら【時間停止】で逃げれば良いし。
 空とエリニュスがとっとと入って行ってしまったのを、コレットも結局追う事にする。
 次いで、おろおろしながらも、エーリッヒもコンテナに乗り込んだ。…やはりエリニュスが心配、と言う部分が勝ったのだろう。
 最後に、クリストフに向け、どうぞと誘うシェムハザ。
 が。
 彼がそう言う少し前。
 クリストフはシェムハザがサタナエルと微かなやりとりをしているのに気が付いた。
 シェムハザとサタナエルの間で交わされた、損傷は? 問題無い――と言う短いやりとりを。
 しかも、少し考えてコンテナに足を掛けたクリストフを確認するなり、サタナエルは踵を返している。
 瞬間。
「待った」
 当然の如くのその行動――サタナエルを置いていく――に、浮かぶ僅かな疑念。
 クリストフは小首を傾げ、中に居るシェムハザに問い掛ける。
「どうしてサタナエルさんだけ置いていくの?」
「後の事を任せる為ですよ」
「…」
 無言のままでクリストフはコンテナ内に居るエーリッヒを見る。
 エーリッヒの目がサタナエルの姿を捉えた。…【記憶読破】で確認している。
「孔雀さん――アザゼルさんが殺すなと言っている以上は殺しません」
 承知の上か、サタナエルはじっとエーリッヒを見返し、ぽつり。
 エーリッヒはクリストフを見ると、こちらもこくりと頷いてみせた。…嘘はない。
 が。
「…わかった。僕も残ろう」
「ミュンツァーさん?」
「…詰所に連絡を入れておいてくれるかな、エーリッヒ。殺人容疑と野盗の現行犯、サイバー騎士として放っては置けないし。…逆に今のエリニュス君ならひとまず危険は無さそうだし。そっちはエーリッヒに頼むよ」
 クリストフはそう残し、改めてコンテナから降りる。
 が、エーリッヒの出した嘘はないと言うその結論で、自ら残ると言う選択肢が出るとは思わなかったのだが。


■■■


 少し走った先。
 皆を乗せた大型トレーラーは停車していた。
 程無く店としての形が展開される。
 手早く出された料理は食材を活かした物で。野菜にしろ肉にしろ魚にしろ、その時点でかなり珍しいと言える。相当厳選した、自信のある食材を使っていないとこんな事は出来ない。今時、天然でこれを望んだら正直、高望みも良いところである。大枚叩けば食べられると言った問題では無く、そもそも滅多に手に入らない筈だ。
「…これ天然?」
「ええ。合成食材は使っていませんよ」
「…すご」
 驚いて感動しているコレット。コレット程の反応では無いがやっぱり驚いている様子のエーリッヒ。あまり気にしていない空。一方、コレットにエーリッヒの反応を見てきょとんとしているエリニュス。…後者二名はそれ程特別な事とは思っていないらしい。
「これ本当に食べて良いの?」
「どうぞ。…エリニュスも、皆さんも。ちょうど御飯時かとも思いましたしね」
 今回の…エリニュスを保護してくれていた報酬の一端とでも思って下されば。
 と、当然の如くアザゼルは料理を勧める。
 コレットも途惑いながらも手を付けだした。エーリッヒは、それを見てから、フォークだけは取り上げてみる。が、思い切れない。
 ちなみに空は特に途惑う事無く、頂きますと言ってから普通に食べている。
 エリニュスは――食べていない。ちょっと考えてから、他の面子に自分の割り当てを勧めている。…さすがにさっきの今では物を食べる気にはなれないのか。
 勧められた方も、気遣わしげにエリニュスを見てしまう。
 そんな中、アザゼルやシェムハザだけは様子が変わらない。
「…いきなり食事に御招待と言うのも少し不向きでしたかね? …ではそうですね、今後も皆さんは…このニスロクの店で食べる限りは、無償でと言う事で。…ニスロクさん、彼らが来た場合は、いつでもグリゴールに請求を回して下さい」
 さらりと厨房部に向かって言われた科白に、わ、とコレットは驚きの声を上げる。
「え、本当に?」
「はい。そのくらいは」
「…うわ助かっちゃった」
「そうですか?」
「だって、暫く食費の心配しなくて良いって事になるもん」
 それもこれって結構ぜーたくな感じだし。
「暫く…と言う事は旅でもなさってるんですか? でしたら…旅費代わりにある程度の貴金属でも御用意しますが」
「え、いや、悪いよ、そんな、そこまで…」
「いえ。それだけ感謝していると言う事ですから」
「ねーねー、コレットでそーゆー話になるんじゃ、あたしはゴハンだけ、って事はないわよね?」
「勿論です。白神さんにはまた別の何か――流通しているお金や何らかの物資、もしくは一晩のお相手…何かお望みの物がありましたら、言って下されば御用意しますよ」
「わぁお。太っ腹♪」
「どうぞ御自由に、お選び下さい。…エーリッヒさんはどうしましょうか? クリストフさんの分も…」
 そうですね、受け取って下さらないかもしれませんから、連邦に寄附でもしましょうか?
 と、アザゼルは提案する。が、それを遮るようにエーリッヒが口を開いた。
 気になる事がある。
「あの」
「何か?」
「さっきの年配の方…貧民街の元纏め役の方の事なんですが…」
「ああ、それがどうかなさいましたか」
「どうして貴方たちと一緒に居たんですか」
 あの、今回の件――と言うよりペネムエさんの件で、貴方がたグリゴールとは――敵対関係にある相手なのでは。
 エーリッヒがそう問うと、アザゼルは小さく頭を振った。
「仰る通り貧民街とは敵対しています。ですが、『貧民街の者個々人と敵対しているとは限らない』」
 あの人はペネムエを信じた人ですから。
「…あの人にはちょっと覚悟をしてもらったんですよ」
 そう続けたのはシェムハザ。
「貴方の動き方によっては話は変わると。――『我々の同士を殺した者』の『血の贖い』さえあればグリゴールは再び貧民街を向いても良い。同盟を結んでも構わない。今回そちらに流れた物資の行方も問わない。否、力を貸して下さるのであれば今後も付き合わせて頂く事を考える、と説明しました。決めるのは貴方だと」
 とは言え、それだけ託してあの場に丸腰でひとり置いていくのは少々危ないかもしれないと思いまして、見届け役がてらサタナエルを付けました。
 と、シェムハザがそこまで説明すると、再びアザゼルがその後を続ける。
「クリストフさんまで残ったのは予定外でしたが――それももう構わない」
 それ以上はもうこの件に関して何も言わない事にしました。ペネムエの為にも、エリニュスの為にも。
 …貧民街の連中がこの話を受けようが受けまいが構わない。
 それは最早我々の問題では無い。
 だが、受けないのならば――うちの物資がそちらに行った事には、また別の説明を付けなければならなくなる事を覚えておいて欲しい…とは付け加えておきましたよ。
 そこまで告げると、驚いたようにエリニュスが目を見開いている。
 それは、つまり。
 直接では無く別の形ではあるが――エリニュスの望んだペネムエの仇、は。
「やったじゃん」
 に、とエリニュスに笑い掛けるコレット。
 同様、隣に座るエリニュスに軽く肘を突きつつ嬉しそうに笑う空。
「…アザゼルさん」
 茫然とエリニュスが呟く。
「損になる事ばかりでも無いしな。…エスパーを担ぎ上げようとする程強かな連中だ。それにああ言った連中は独自の情報網がある。ある意味『超能力』に近いものだって持っていると言える」
 適材適所、持って来れれば悪くない。
 そこまで言われればすぐわかる。
 …グリゴールの頭から直接そんな条件を出されれば、その話――受けない訳は、無い。


 血の、贖い。
 …つまりは、『敵対する事を決めた代表』を――自分たちの手で始末するのなら、と言う事。


「そんな…」
 ひとり蒼褪めたエーリッヒは咄嗟に【遠距離会話】でクリストフに通話を開く。が、その時帰ってきたのは遅かったよ、と言う苦しい返答。サタナエルを注視しつつクリストフが店に戻ったその先では――既に貧民街の仲間たちの手で、女の方も男の方も、ボスと言われていたふたりは命を奪われていた。元々気を失っていた――殆ど動く事も叶わなかった相手。悲鳴を上げる訳でもない。抵抗も殆ど無いに等しいだろう。…やる気ならば簡単だ。
 エーリッヒはクリストフからその話を聞き、持っていた食器を静かに置く。
 …物を食べる気になどなれない。


 そこに。
「…どうなさいました? 顔色が悪いですよ、エーリッヒさん」
 素知らぬ振りで静かに微笑む深い藍の瞳。
 何でもない事のような態度。
 それらが、薄ら寒く思えたのは気のせいだったろうか。


【終】


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/クラス

 ■0233/白神・空(しらがみ・くう)
 女/24歳/エスパー

 ■0234/クリストフ・ミュンツァー
 男/32歳/オールサイバー

 ■0235/エーリッヒ・ツァン
 男/15歳/エスパー

 ■0279/来栖・コレット(くるす・-)
 男/14歳/エスパー

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 ※以下、公式外の名のある関連NPC

 ■エリニュス・ストゥーピッド
 男/12歳(程度)/殺し屋『エウメニデス』の正体

 ■アザゼル
 男/14歳(程度)/年少無法集団『グリゴール』の首領・エスパー(詳細不明)

 ■ペネムエ
 男/(享年)12歳/年少無法集団『グリゴール』の幹部・故人

 ■サタナエル
 女/15歳/年少無法集団『グリゴール』の幹部・軍事用オールサイバー(外見年齢9歳)

 ■シェムハザ
 男/22歳/年少無法集団『グリゴール』の幹部

 ■ニスロク
 男/?歳/大型トレーラーを移動店舗に食堂を経営している料理人

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          ライター通信
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 今回は前編からの継続御参加有難う御座いました
 ………………遅れました。
 初日に発注下さった方の納期の曜日が日曜で…出来れば金曜の内にと思ってたんですが挫折しまして。
 納期が土日休日にならないように逆算して募らねばと思う今日この頃でした(って毎度思うだけで終わる/汗)
 申し訳ありません。
 …と言うかそれどころか実はここを書いている現時点で、細かく言うなら白神空様のものの納期は約一時間強程遅れていたりします(汗)

 それから何やら振り返れば前編では色々失礼をしてしまっていた様子。
 申し訳御座いませんでした(平伏)
 …皆さんに守ってもらってましたNPCがNPCだったので、何処まで味方して頂いて良いのやらと悩んでしまったと言うのが正直な話だったりします。極端なところでは…さすがに騎士さんが人殺しは手伝わないだろうと思ったりしまして(汗)。後編では明確な指針を頂き、有難う御座いました。

 今回は別行動になったエーリッヒ・ツァン様だけ個別部分が多くなり、他の方は全面共通…と言った形になってます。色々不明な点があると思いますが超能力が普通に存在する世界と言う事で、敢えて情報が唐突になっているところも多いです。他の方――エーリッヒ・ツァン様は他の参加者様のものを、白神空様、クリストフ・ミュンツァー様、来栖コレット様はエーリッヒ・ツァン様のものを見ると、複雑ながらもある程度わかりやすいかと思います。

 そして内容は宣言通りひねくれまくっております。
 …やっぱりすみません…。

 それから…これを受注と言うか執筆と言うか、とにかく発注を受けてお預りしている間に――現実の世界で起きてしまった小学生の痛ましい刑事事件がありますよね。
 今回のノベルでは年端も行かぬ子が殺し屋をしていたり汚い事をやっている…と言う大元の設定がありますので――それはこのノベルの場合世界観が現在ではありませんし超能力とか出回ってる荒れた世界ではありますが、子供が、と言うこの設定自体を不快に思う方も中にはいらっしゃるかもしれないと思います。なるべく、読んで下さった方を不快にさせたくはないのですが、そうならないとは限らない訳ですんで(けれど受注タイミング上今納品せざるを得ない訳で/汗)
 その場合は、読んでしまった方には申し訳ありませんとしか言えません。ライターとしては悪意はありませんしそれを意識して作った訳でもありません。
 …発注下さった方には要らん話かもしれませんが、特にタイアップゲームの場合は公式ホームページでの公開納品なので発注者以外の方の目にも触れる可能性が高い訳なので一応書いておきます。

 では、そろそろ失礼したいと思います。

 深海残月 拝