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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【ヘルズゲート】出陣
百花繚乱〜機心一体〜

ライター:本田光一

 さて、こいつが地獄への入り口。ヘルズゲートだ。
 毎日、誰かが門をくぐる。そして、何人かは帰ってこない。そんな所さ。
 震え出すにはまだ早いぞ。
 こっちはまだ安全だ。敵がいるのは、この門の向こうなんだからな。
 武器の準備は良いか? 整備不良なんて笑えないぞ? 予備の弾薬は持てる限り持てよ?
 装備を確認しろ。忘れ物はないか? いざって時の為に、食料と水は余分に持て。予定通りに帰ってこれるなんて考えるな。
 準備は良い様だな。
 じゃあ、行くぞ。地獄へようこそだ。

●門の向こうに
 ヘブンズゲートを潜ると、そこは既に周辺の密林とは異なる世界、セフィロト。
かつての科学文明が生み出した最新鋭の技術の集大成、軌道エレベーターの根幹を成す施設に、今は失われて久しい技術を求める『ビジター』達。
 私、「ティファ・ローゼット」も、その一人だ。

--アラートNo132--

「ん?」
 聞きなれない雑音、聴覚器官が妙な電波を拾ったのかと思える程の僅なノイズに顔をしかめる。
 こんなことは初めてだ。
 区内に残っていたシンクタンクの撤去、それが今回の簡単な『依頼』のはずだった。
 手段、経路、細かい一切は全て任されていて、施設破壊だけは厳禁、いつもの仕事には付きものの契約内容だった。
 その筈なのだが、今私はパーティを組んでいたはずの仲間から離れて単独行を強いられている。ヘブンズゲートを潜る際に感じていた高揚感は未だに消えていないのだが、それにも増して今は見知った仲間とはぐれたことに対する焦燥感が先に立っていた。
「で、どうする? ここからなら、ヘヴンズゲートまでは簡単に戻れるけど?」
 単独といったが、実のところ内部で私と同じように仲間からはぐれた(本人は、仲間のほうがはぐれたのだといって譲らないのだが)男が一人。
 中距離、近距離戦闘用の武装を持ったエキスパートらしき男は名乗らなかった。
「ここでおめおめ引き下がっても、何も利するところが無いじゃないか」
「あ、そ? 別に止めないけれどね」
 軽薄にも聞こえる軽い口調だが、男の視線は隙無く周囲を観察している。
 任務には一切妥協しない、もしくは仕事に慎重な存在、と私には映った。
「……なぁ、ここのメンテナンスツール、いじったのか?」
「いや。どうして?」
 フロアの中央に近い位置にあるデスクには、大崩壊時代から残っているのか、それともその後にここを訪れたものが残したのか知れない、ありふれた工具があった。
 それを見つめて考え込んでいた男がまずいなと呟いて顔を上げた次の瞬間、その表情に焦りと驚愕、そして口から言葉が飛び出る前に「私」は床を蹴って跳躍していた。
「敵なら敵と!」
 一瞬前まで「私」のいた場所には、天井の一部から顔を覗かせた警備システムのひとつ、麻痺銃-パラライズガン-が放った電子銃の紫電が走った。
「すまん!」
 先に言えっ、と言おうとする前に男が小銃を引き抜いて撃ち込みながら謝罪の言葉を漏らす。
 天井の隅めがけて放たれたその初弾で一機が沈黙し、残る一機も壁を蹴って飛び上がったまま手刀で沈黙させるので十分だった。
「終わりなのか?」
「いや、この手のセキュリティが沈黙したら、次がある」
 私の問いに律儀に答えるのは、初めに『先に言え』と言ったためだろうか?
 確かに彼の言葉にも一理ある。
 周囲を警戒するのには訳は無いが、自分一人だと荷が勝ちすぎる。
 特に仲間とはぐれている今は、見ず知らずといっても一応身元の知れた存在が居るのはありがたかった。
「左!」
 聞いた次の瞬間、いや全て聞き終わるより先にティファの身体は反応していた。
 シンクタンクだった。
 小型だが、その動きは人並みの速度と安定性があり、恐らくは敵対行動をとる私達にも非協力的且つ攻撃的な行動をとってくるもの――と、思考する前に体が動いた。
「本気?」
 こんなにヘブンズゲートから近いはずなのにと、敵の攻撃を見てうなる。まだ最奥部に来ているという訳ではないのに、こうも簡単に『脅威』に出くわすとは思っていなかった。
 そう、敵の攻撃は一撃一撃が必殺の、容赦無いものだったからだ。
「硬そうだな、あれ」
 リボルバーからのマズルフラッシュが暗い室内を瞬間照らす。
 一発目、装甲で跳弾。
 二発目、稼働部に着弾。
 三発目、硬質な輝きの部位に着弾。
 四発目、装甲で火花を散らして跳弾。
「終わりっ!」
 瞬きする間に4発の銃声を響かせると、クイックローダーで次の弾丸を装填するのか、いったん身を引く男。
「効率悪いね!」
 二発目に穿たれた小さな穴を突破口にする為に、叩きつけた拳がシンクタンクのボディを凹ませる。
 一度受けたダメージで、組まれたボディの構造的な硬度が落ちているのは明らかだった。
「囮になるから、一撃で決めてくれよ!」
 金属音がして、サブマシンガンにマガジンを叩き込むようにして装填した男がホルスターに拳銃を入れて遮蔽物から走り出す。
「効いてないし!」
 火花だけで、相手には一切のダメージになっていないのが傍目にも判る。
 だから――焦燥が
「だから、囮なんだって!」
 焦りの色合いをティファの声に聞いたのか、男が再び叫ぶ。
 シンクタンクに言語の解析能力が有れば、まったくもって意味がない、それ以上に、自分達の首を絞めかねない行動だが、どうやら敵シンクタンクにはそこまでの機能は搭載されていない様子だった。
「頼むぜ、こっちもそろそろ弾が……」
 情けない声。悲鳴まであげそうになっている男を余所に、低く構えた位置でシンクタンクの動きをじっと見つめるティファ。
 目標であるシンクタンクを視線で捉え、それに向かって重力に身を預けるようにゆっくりと身体を倒し……
 倒れる直前に一歩、足を踏み出した。
 しかしそれでも足りない。
 彼女を支えるに足りないだけ、重力がティファの身体を熱烈な愛情で引き寄せている。
 だから、次の、そしてまた次の一歩を踏み出す。
 出すと言うよりは既に脚を上げるといった状態の姿勢で、蹴り出す脚が床を確かに蹴り抜いた。
 同時にティファの視界は低く、低くなる。
 地べたをすれすれの這う如き、しかし滑らかに地面を駆ける頃にはティファの視野には酷く動きの鈍い自律機械、その動きが捉えられた。

 回転――
 着弾から身を守る角度に移動、放電で火花が見える程のスタンガンらしき装備が襲いかかるのをかろうじて逃げる『囮』の動きに反応する時間、そして次への行動にかかる刹那を『視た』と思った次の瞬間にティファの腕が伸ばされ、敵の腕を捉えた。

 ――ドクン!

 跳ね上がる鼓動。
 落ち着け。
 大丈夫だ。
 私はやれる。

 ミチッ――
 音?
 そう、音。
 ティファの拳が掴んだ敵の『脚』が上げる悲鳴。

 掴んだ敵を引き、その反動で己の身体を矢のような速度から一気に引き寄せて弧を描く様に旋回する。
 弧の終点を、先程弾丸が穿った穴、その一点に目がけて叩き落とし、強固な装甲を貫くことに賭ける。
 僅か数秒。
 瞬きする間にティファの身体が位置を変じ、勢いを増す。
 彼女に掴まれたシンクタンクは円心の歪んだコマのように、脚が床を捉えきれずに楕円を描くように回転した。
 見失った、認識装置のエラーでは無いのかと回路が演算を求めた時には、人であったはずの敵の身が直ぐ横に、暴力的な破壊の力を持って我が身を蹂躙するのをシンクタンクNo.SB02Tは認識し、そしてそれが最後の『思考』として送信され、引き裂かれ、貫かれた。
「これで終わり、だよね」
 小爆発を残して停止したシンクタンクを見下ろしながら、ティファは生きていることを実感していた。
 勝てた、と言うよりも生き延びたというのが正解だったのかも知れない。
 警護用シンクタンクにしては対象へのレスポンスも遅い、内部処理も非常にずさんな物だったのが幸いしたとしか言えなかった。
 そして……
「良い囮だったわ」
「膝笑ってるけどな」
 尻餅をつく恰好でいた男が立ち上がり、私に向かって手を差し出した。
「初めてにしては上出来だぜ?」
「……ありがとう」
 本当に。
 呟くように言って握手した男とはゲートの前で別れた。
 単独では生還できたかどうかも判らない。
 セフィロトの塔……謎と、脅威の閉じ込められた旧時代のパンドラの筺。
 今はただ、無事の生還を心から喜んでおこうとティファは見慣れた顔の仲間達が先に塔を出て待ってくれているのに駆け寄って行くのだった。

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号0450】ティファ・ローゼット

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして。
 今回の依頼、有り難うございました。
 サイバーと女性という、個人的には非常に描く(書く)のに悩む素材でしたので、遅くなってしまったことをお詫びします。