 |
都市マルクト【整備工場】武器マーケット
目利き
ライター：高原恵
整備工場名物の武器マーケットだ。
自分にあった新しい武器を探すのも良い。
頼めば試し撃ちくらいはさせてくれる。弾代は請求されるけどな。色々試してみたらどうだ？
新しい武器がいらないとしても、今使ってる武器の弾や修理部品を探す必要もあるだろう。
まあ、楽しみながら色々と見て回ってくると良い。売り子の口上を楽しむのも面白いぜ。
それに、ここで目を鍛えておかないと、いつか不良品を掴まされて泣く事になりかねないからな。
何事も経験と割り切りながらも慎重にな。
あと、掘り出し物だと思ったら、買っておくのも手だ。商品は在庫限りが基本で、再入荷なんて期待は出来ないぞ。
●ここは名物マーケット
「さあさ、見てゆきな！ 見るだけなら、いくら見てってもお代はいらねえ！ リボルバーからランチャーまで、何でも揃ってるぜ！」
「兄さん兄さん、そこの兄さんっ。どうだいちょっと寄ってかねえかいっ？ 隣近所より、ほんの少しまけてやっからよ。なっ？」
「お客さん、バッテリーは足りてんのかい。万一だ、タクトニムに囲まれた時に切れたら洒落になんないだろ。これも縁だ、うちで買ってきゃどうだい？」
威勢のいい声やら道行く者に語りかけるような喋りやらが、そのマーケット一帯に満ちあふれていた。といっても、そこに立派な市場がある訳ではない。前に『フリー』がつくマーケットの方が、この場の状態を表現するには適切であるだろう。
もっとも……並んでいる品物は古着や食器といった可愛らしい品物でなく、銃器にサイバーパーツや場合によってはマスタースレイブなどのいかつい品物ばかりなのだけれども。
さて、ここは都市マルクト――セフィロトの第１フロアであり、都市区画『マルクト』の入り口に新しく作られたビジターの街である。
街といっても、タクトニムの排除が終了した地域の周囲を、無骨で頑丈な外壁で取り囲んだ区域であるに過ぎない。『審判の日』以前はどうだったか知らないが、今の都市マルクトの街並みは廃虚同然である。それでも上下水道や電気が今も生きている分、廃虚よりは遥かにましであるのだが。
そんな都市マルクトの中に、整備工場と呼ばれる区画があった。といっても、やはりそこに立派な工場がある訳ではない。整備工や闇サイバー医師たちが集まっていることから、自然とこういう呼び名がついたのだ。
前述のマーケットは、この整備工場と呼ばれる区画の中で行われていた。整備工場名物の武器マーケットである。
多くの商人たちは地面に敷いた敷物の上で、客に対しにこにこと笑みを浮かべているが、それに騙されてはいけない。相手は腕の立つ商人だ、下手すりゃ安いけれども不良品なんて物をつかまされることも珍しくはない。
この場合、売った商人に文句を言っても仕方がない。ここでは品物を見る目が利かない客の方が悪いのである。まあ同じことは商人の方にも言える訳で、本来高価な品物を客が口八丁手八丁で安く買い叩いていったなんて話も時折耳にする。何とも面白い話である。
「おじさん、このバッテリーは？」
今の説明の間にも、商人からバッテリーを買おうとしている者が居た。背丈１３０センチほどの、黒髪ストレートロングな少女が缶ジュース大のＨＢ（ハイドバッテリー）を手に値段を尋ねている。見た目１２、３歳といった所だろうか。
「ああ、そいつかい？ そうだな……４５レアル、それ以上でも以下でもないぜ」
商人は手をぱっと開いて答えた。標準的なレートで、１ＨＢはおおよそ５０レアル。ほんの少しだけお買得といえよう。
ちなみにレアルとは、旧ブラジルの通貨である。都市マルクトを含むセフィロト近辺では、このレアルが使われていた。ここでは貨幣の方が便利なのだ。無論、貨幣が通用する背景はきちんとある訳で……信用経済と言えば、何となく理由を察してもらえるだろうか。
「じゃあボク２つ買うから、もう５レアル安くしてもらえませんか？」
少女――響月鈴音はＨＢをもう１つ手に取って、にっこりと微笑んだ。５レアルといえば、卵５個分に相当する。何とも買い物上手である。
「ちっ、分かったよ。２つで８５、それでいい。……たく、子供にゃ弱いんだよなあ、俺ぁ」
髪の毛を掻きながら、商人は鈴音から差し出された８５レアルを受け取った。
「おじさん、どうもありがとう♪」
鈴音はほくほく顔で買ったＨＢをバッグに仕舞うと、足早にその場を離れていった。
●ディストロイ
ちょうどその頃、別の店では――。
「あっ！！」
短くそう叫んだ黒髪おだんご頭の豊満な少女の手から、バラバラと銃のパーツがこぼれ落ちた。
「わーっ、あんた何てことすんだよ！！ 言っただろ、そっと扱ってくれって！！！」
商人が慌てて身を乗り出して、地面に落ちたパーツを拾い集める。幸いなことに、ただパーツごとにばらけただけのようで、砕けたり欠けたりということはなかった。
「あは……ははは……ははぁ……」
おだんご頭の少女、ティファ・ローゼットはその様子を強張った笑みとともに見るしかなく……。
（やっちゃった……）
そして、ティファはがっくりと肩を落とした。
ティファの手の中にあるほんの少し前まで銃だった物を見付けたのは、近接専用の武器を探して敷物の間を歩き回っていた時のことだった。ちと珍しい形をしていたので、ふとティファの目に止まったのである。
それでその銃だった物に手を出し、今必死にパーツを拾い集めている商人から注意を受けつつ触っていたのだが――この有り様だ。
（……変なとこ触っちゃったかなあ……）
思案するティファ。ぺたぺたとあれこれ触っていたことは否定しない。けれども、それだけでここまでバラバラになる物なのか少し不思議であった。
「お待たせ……って、どうしたの？」
そこにＨＢを買ったばかりの鈴音がやってきた。ティファは鈴音にくっついて武器マーケットに来ていたのだ。
ティファは苦笑いしたまま、無言で自分の手の中にある残骸を鈴音に見せた。それを見て、大きく頷く鈴音。何があったのか、たちまち理解したようだった。
「おいこら、姉ちゃん。せっかくの品物をこんなにして……きっちり弁償してもらうからな。文句ないなっ？」
ようやくパーツを全て拾い集めた商人が、すくっと立ち上がってティファに凄んでみせた。
「あの、すみま……」
ティファが商人に謝ろうとした時である。鈴音がそれを制して、商人が拾い集めたパーツをじーっと見たのは。それからまた、ティファの手の中にある残骸に目を向ける。
「でもこれ……弁償する必要はないでしょう？」
やがて、鈴音がさらりと言った。
「え？」
きょとんとなるティファ。
「なっ……何ぃっ？ こらガキ、ふざけたこと言ってんじゃねえぞ？」
商人は今度は鈴音に凄んでみせた。けれども鈴音は怯むことなく、商人にこう言った。
「先生が見た所、ちょっとしたことですぐ壊れるような造りでした。それにこのタイプの銃にあるはずのパーツもいくつか足りないですし。先生は騙せませんよ」
すると商人、たちまち顔が真っ赤になった。鈴音にずばり指摘されて、怒りと恥ずかしさでいっぱいになってしまったのだ。
「こ、このガキ！ いい加減に……！」
顔を真っ赤にした商人はせっかく拾い集めたパーツを投げ捨て、鈴音につかみかかろうとした。その瞬間、ティファが間に割って入り、商人に向かって手のひらを突き出した。
「ハァッ！！」
気合いとともに突き出されるティファの手のひら――掌底の一撃だ。
「ぐあぁっ！！」
商人はティファの掌底をまともに喰らうと、そのまま敷物の上に吹っ飛んで倒れてしまった。手足をぴくぴくさせて起き上がってこないが……まあ、気を失っただけだろう。
ティファは鈴音と顔を見合わせると、２人とも一目散にこの場から逃げ出したのだった……。
●掘り出し物あった
「かっかっか、ありゃあいつのよくやる手でな。わざと壊れやすくして、客から金を巻き上げようって魂胆じゃよ」
と、笑いながら言うのは、しばらくして２人が立ち寄った店の老人である。一旦武器マーケットを離れほとぼりを冷ましてからまた戻ってきたのだが……先程の騒動を、この老人は見ていたようである。
「ああ、よかったぁ。私が壊したかと思っちゃって……」
ほっと胸を撫で下ろすティファ。しかし、老人はそんなティファにちくりと言った。
「いや、お主の触り方もちとあれじゃったぞ。気を付けぬと、また何か壊しかねんな。もう少しあれじゃ、デリケートに扱ってやらんといかんぞ。そうじゃな、これからは仔猫を扱っていると思うといいじゃろ」
「……はーい、分かりました」
肩を竦めるティファ。老人は鈴音の方に向き直った。
「さてさて、こっちの娘はハンドガンに夢中のようじゃが……」
「はい？ お爺さん、何かボクに言いましたか？」
じっくりと見つめていたハンドガンから目を離し、鈴音は老人に聞き直した。
「お主、そのハンドガンをじっと見ておったが、どんな物か分かるかの？」
「ええと、そうですね……ずいぶんと整備が行き届いているハンドガンですよね。それなりに使われているけれど、むしろ精度は上がってそうな……」
自分の感じたことを、素直に口にする鈴音。すると老人は、満足げに何度か頷いた。
「おお、よく分かっとるの。同じ使われるなら、お主みたく分かっておる者に使われる方が銃も幸せじゃろうて。どうじゃ、買ってゆくかね？」
「あ……じゃあ、これをいただけますか？」
「いいともいいとも。一緒に何か必要な物があれば言うといい、まとめて安くしてやろうかの」
かくして鈴音は、そのよく整備されたハンドガンの他に、サブマシンガン２丁と弾薬、さらにはライト付きヘルメットや工具なども老人から購入したのだった。
一方ティファはあれこれ迷っていたようだが、結局アイアンナックル２つとナイフを購入した。ごく普通の品物だが、いざという時には役立ってくれることだろう。
これら全部合わせた値段は、標準的な値段よりも１割ちょっと安かった。今回の２人の買い物は途中に騒動もあったものの、全般的にはよい結果に終わったのである。
【ＥＮＤ】
■━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━□
【整理番号（ＮＰＣＩＤ）】 ＰＣ名：クラス
【０４９９】 響月・鈴音：オールサイバー
【０４５０】 ティファ・ローゼット：オールサイバー
■━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━□
・『サイコマスターズ・アナザーレポート ＰＣパーティノベル・セフィロトの塔』へのご参加ありがとうございます。本パーティノベルの担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてＰＣを名で表記するようにしています。
・お待たせいたしました、武器マーケットでの様子をここにお届けいたします。買おうと思っていた物は無事に全て買えたようです。ちょくちょく武器マーケットを覗いていると、時には非常に珍しい物が見付かるかもしれませんよ？
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。
|
 |
|
