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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【人助け】スーパービッグバーガー店でございます


ライター:

東圭真喜愛

■オープニング■
 ああ、キミ、ここが都市マルクトでも有名な、スーパービッグバーガー店って聞いてやってきたのか。私が店長の、ニューマンだが……この通り、事故で怪我をしてしまって臨時休業にしてるんだ。
 注文は全部却下せざるを得ないんだが、どうしても届けたい、私の顔なじみの一家のところがあってね。届けてくれる人を探しているんだが、中々こない。
 毎日うちのバーガーを楽しみにして来てくれている人達にも、申し訳がなくてね……。
 どうだい、キミ暇があったら、私の手伝いをしてくれないか?
 その一家のところへのバーガー類の配達と、この店の切り盛りと、だ。勿論、報酬は出すよ、少ないけれどね。
 私もあちこちに顔がきくから、キミがほしいものがあれば、言ってくれれば、キミのバイトが終了する頃にはあんまり無理なもの以外は揃えられると思うんだが、どうかね?
 その一家への配達ポイントはこのマルクト内にあるんだが、その一家の付近には何の目的があるか不明の武装を固めて集団となっている者達がいるから、くれぐれも気をつけてくれ。




■引き受けた長身の男■

 声をかけられて、金もなく暇つぶしにと「名物」である、このスーパービッグバーガー店に立ち寄ってみたアルベルト・ルールは、メニュー表から視線を上げた。
「……俺?」
 すると店長のニューマンが、こくりと頷く。
 道理で都市マルクトの中でも知名度が高い、と言われているにしては客の入りも普通だと思った、と彼は思う。
 ニューマンは本当に困っているようだった。
「じゃ」
 だから、軽い気持ちで彼は引き受けたのだ。
「報酬は1ヶ月間ここのハンバーガー多べ放題と2mmレーザーと言いたいけど、泥棒用道具一式でどうだい?」
 と。
 早速、特注で用意していたアルバイト男性用の制服を出しながら、ニューマンはギョッとする。
「泥棒? キミは泥棒なのか? ───まあそんなことはどうでもいい、助けてくれるのだから、それくらいは用意しよう。具体的にどんなものが欲しいんだい? ああ、着替えは店の奥で」
 着替えを受け取り、泥棒用道具一式を挙げ連ねてから、アルベルトは店の奥に行き、着替えてきた。彼らのやり取りが耳に入っていなかった「Closed」の札にがっくり来ていた客達が、「Open」と引っくり返された札と共に出てきた「男装の麗人」としか表現できないアルベルトの美しい制服姿を見て、おお、と一斉に歓声を上げた。
「さあみんな、助っ人が来たから店はいつもどおりオープンだ! どんどん注文してくれ!」
 まさかアルベルトが飲食接客業経験が0とは知らないニューマンが、にこにこ顔で客達に言うと、アルベルトに向けて一斉にメニューを言う声が沸き立った。
「ちょ、ちょっと待て。待てっつの! 俺はどっかの聖人君子みたく一度に全部のメニューなんて聞き取れられないんだよ。並べ」
 だが、騒ぎは止みそうにない。
 無理もない、バイトを今までこの店で見たことのない常連達ばかりなのだ。
 しかも、「初めてのバイト」がこんな容姿ときては───。
「っ! てめえ!」
 アルベルトは急に振り向き、一人の男性客の手首をがしっと掴んでひねりあげた。
「いてて、なんだよ、女じゃないのかよ」
「当たり前だ! 間違ってセクハラしてんじゃねぇ!」
 そのまま、その男性客を「投げた」。壁に突進し、男性客は気絶する。
 一瞬客達が静まり返る。
「よし、静かになったな。───で、注文は?」
 怯えつつ、「スーパービッグバーガーとビッグコーラとミニポテト3人分」等と言って行く客達が言うとおり、注文書に書き留めていくアルベルト。
 男性客が吹っ飛ばされた時点で言葉がなくなっていたニューマンだが、
「おっさん。これだけ注文。早くしてやれよな」
 と、注文表を渡され、「ああ」と我に返り、書き留められたものを作っていく。
「作っている間、水をお客様にお出ししてくれないか?」
 と、何十人分だと言いたくなるくらいコップを出されたが、器用に水が零れないようにそれを持ち、座っている客達の前に出していく。テイクアウトではない客達用の水である。
 ふと、若い女性客を視界の端に認めたアルベルトは、制服をピシッと正し、今までの客と正反対に、そっと水を差し出した。
「どうぞ、お客様。当店自慢の飲料水でございます」
 がーん、と、男性客達がショックを受けているがお構いなしである。
「アルベルトくん、スーパービッグバーガーとビッグコーラ、ミニポテト3人分お待ち!」
 ニューマンの声に、サッと身のこなしも素早くそのセットを取り、持って行った席は当然とばかりに今の女性客のところ。
「あ、でもわたしが頼んだのはミックスバーガーひとつとオレンジジュースですけれど……」
「ご心配なく。お代はいりません」
「いるいる、アルベルトくん」
 困り顔で、それでも客達のために微笑みを絶やさないニューマンの心を思うと、痛い。
 そんなこんなで、怪我人も「何故か」たくさん出たが、一通り注文客がいなくなると、
「それじゃ、メインの出前───私の顔なじみの一家のところへ、これを届けてくれ」
 と、アルベルトは大きな紙包みを渡された。
「中身は?」
 尋ねると、
「超特製メインディッシュスーパービッグバーガーだ。昔その一家に私は救われてね、せめてもの恩返しが一ヶ月に一度だけ作るこれなのだが、こんなものではまだ足りないくらいだよ。───さ、そこにバイクがあるから行ってきてくれ」
 配達用のバイクと違い、本格的な自動二輪だ。
「あ───運転はできるかね?」
 ニューマンが心配そうに尋ねると、アルベルトは紙包みを片手に、振り返ってにやっと笑ってみせた。
「もちろん」



■「邪魔」する奴は鉄拳制裁■

 バイクを走らせ、都市マルクト内を走る。
 出前ということを思わず忘れそうなほど、風が心地よい。
 片手運転で自動二輪は本来ならば危険なのだが、運動能力に優れているアルベルトには、正に御茶の子さいさいといった感じである。
「っと」
 バイクを止め、ニューマンに渡されていた地図を見る。
 赤いペンで丸印がついている部分が、配達先の一家の場所だ。
 見ているところへ、右足にコツンと何かが当たり、アルベルトは地図から目を離して見下ろした。
 小さな男の子が、三段アイスをぶつけてしまい、怯えたように見上げてきている。───これがそこら辺に普通にいる男共ならばただではおかないところだが、アルベルトは子供好きだった。
 バイクを降り、紙袋をシートの上に置いて男の子と目線を合わせて、頭を撫でてやる。
「ごめんな、アイス駄目にしちまった。えーっと」
 本当ならばかわりにアイスを買ってやりたいところだが、金がなかったことを思い出し、三本くらいならいいだろうと、紙袋の中からビッグポテトを三本取り出し、男の子に渡してやった。とたん、ぱっと男の子の表情が明るくなる。
「うわあ、これ、スーパービッグバーガー店のビッグポテトだ!」
「正真正銘、本物だぜ」
「友達みんな食べたことあるのに、ぼくだけなかったから、すごく嬉しいよ、ありがとう!」
 ぱく、と一本を口に入れる。スーパービッグと名のつくだけはあり、一口でもこのくらいの年齢の男の子の口がいっぱいになる。
「熱くてしょっぱくて甘くておいしい!」
「うんうん」
 普段は不良っぽい言葉遣いのアルベルトも、子供相手には優しい。
「けど、この寒いのになんでアイスなんか食べようとしてたんだ?」
 そのアイスをすっかり染み込ませてしまったズボンの汚れを取ることも忘れて、彼は尋ねてみる。
 男の子は、もごもごとポテトを頬張りながら、言った。
「冬にアイスがいいんだ。寒いときに食べるのが、おいしいんだ」
 なるほど、確か自分の昔の子供時代にもそんな変な奴がいたなと思い出す。
 ───と、そこへ。
「よう坊主。昨日はよくも俺様のズボンにアイスぶつけてくれたな」
 如何にもゴロツキといった風体の、でっぷり太った男と、取り巻きなのか仲間なのか分からないが他三人、人々が目をそらしていく中、建物の陰から出てきた。
 全員武装していることと、もうすぐ出前の一家という地点であることから、こいつらがニューマン店長が言っていた「武装を固めて集団となっている者達=チンピラ」だと判断出来た。
 震える男の子を背後にやり、アルベルトは半眼になる。
「悪いけど、この子は俺の友達でね。今から一緒に配達に行くトコだったんだ。邪魔するとタダじゃすまないぜ?」
 途端に笑い出すゴロツキ達。
「たかだか飲食店のバイト如きが何ホザいてんだ?」
「丁度いい、その配達のモノ、昨日のその坊主の侘びに受け取ってやるよ」
 ちょっと離れてろ、と男の子に大事な配達の紙袋を預けて言い、アルベルトはベキベキッと指を鳴らした。
「10秒×4人」
 にやっと笑った彼に、一瞬ゴロツキ達の背筋がゾクッとしたのは間違いない。
「な、なんだその計算はぁ!」
「な、ナメてんじゃねえぞ!」
 既に腰が引けているのは、アルベルトの周囲の凄まじく強力な闘気を感じ取ったからだろう。
「ナメねぇよ」
 アルベルトはそう言いながらも、こいつらには得意のテコンドーの中でも大業を使うまでもねぇなと思っている。
「潰すけどな?」
 40秒で。
 そしていつの間にか集まってきていた民衆の声援が盛り上がる前に、キッチリ40秒で、4人のゴロツキ達は揃って地面に倒れ、気を失っていたのだった。



■配達(ミッション)終了■

 男の子はすっかりアルベルトのFANになったようで、自分の名前を「ティコ・ミンヤ」と名乗った。
「ん───ミンヤ?」
 聞き覚えがある。
 アルベルトは制服のポケットから、出前に行く家の名前が書いてある配達表を出してみた。
「配達先はミンヤ一家───なんだ、お前がその家の子だったのか」
「うん、ビッグポテトは一ヶ月前には、まだなくて、でも出歩けるのはぼくだけだし、とても買いにいけなかったんだ。おにいちゃん、ありがとう!」
「ん」
 微笑んで、アルベルトは頭をもう一度撫でてやってから、そのまま紙袋をティコに持って行かせた。
 地図通りの角を曲がるとき、
「落とすなよ!」
 と声をかけると、ティコは一度振り向き、両手が塞がっていたので、満面の無邪気の笑みを返事とした。
 ゴロツキを倒していい運動にもなったし、配達はきちんと出来たし、と清々しい気分でアルベルトはバイクに乗って、スーパービッグバーガー店に戻って行った。
「ああすまん、アルベルトくん。キミ、一体何をしたんだ?」
 戻った途端ニューマンが血相を変えてきた。悪い雰囲気ではなさそうだ。
 見ると、とんでもない人数の客で、店が押されそうなほどになっている。
「あっ、ゴロツキ倒してくれた男装の麗人だ!」
 なるほど、それが原因か。
 大方、あのゴロツキを倒した時にいた野次馬達が、アルベルトのバイクについていた店のマークと紙袋のマークで、ここのバイトだと分かり、店に押しかけてきたのだろう。
 ───だが。
「俺は男だって何度言ったら分かるんだ!」
 ドガッとさっきのゴロツキを倒した勢いがまだ精神的にも余っていたのか、うっかりその男性客を殴ってしまい、店のカウンター部分に、その客の後ろにいた何人かも巻き添えに突っ込ませてしまった。
「あ……」
 出前に行く前にも少し暴れたせいか、カウンターはへこみ、こちらも勢い余ってカウンターの中にまで突っ込んで行った客により、バーガーなどの食材が、ガラガラガシャン、と食器ごと大量に落ちていく。
 それでもめげない客達は、武道に憧れる者達なのだろうか。それともアルベルトの美貌に惹かれてしまって後戻りできなくなった者達だろうか。
 どちらにしろ、アルベルトに悪気がないと分かっていたし、客足も増える一方だったので、ニューマン店長はその人柄もあるのだろう、結局彼を怒ることは出来なかったのだった。



 やっと客の最後の一人にテイクアウトのバーガーセットを渡し終えると、ニューマンは急いで店を閉めた。客が増えたのはいいことなのだが、疲労で倒れては元も子もない。
「よし、なんとかカウンターを直して無駄に消費してしまった食材を補充してもかなりの黒字だ」
 ふう、とニューマンは、椅子に腰掛けたまま安堵のため息をついた。
「アルベルトくん、きみが出前に行ってきている間、例の頼まれたもの、注文してもう届いているよ」
「えっ、もらえんの?」
 悪気はないとはいえ、これだけ店を損傷させたのだから、てっきりお流れになると思っていたのだが、ニューマンは微笑んで、びっこを引きながら布袋を持ってきた。わりと小さいが、中に入っているものはどれも高性能だという。
「暇があったら、今度はお客としておいで」
 別れ際、月が照らす中、ニューマンはアルベルトの背中に声をかけた。彼は一度振り返り、「金があったらな」と、悪戯っぽく笑って、去って行った。
 すっかり姿が見えなくなるのを見届けてから、ニューマンが、さてと、と、店の掃除を始めるために中へ入ろうとしたところへ、声をかけてくる者がいた。
「お忙しい所すみません。ここで最近雇ったアルバイトの事で聞きたい事があるのですが、少しよろしいですか?」
 背の高い、女性だった。




《END》
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】
0552/アルベルト・ルール (あるべると・るーる)

【NPC】
☆ニューマン店長
☆ティコ・ミンヤ
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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、または初めまして。ライターの東圭真喜愛(とうこ まきと)と申します。
この度はご発注、ありがとうございましたv
内容には、アルベルトさんの設定を見て思いついたネタも取り入れながら書きましたが、如何でしたでしょうか。また、ご要望の「泥棒用道具一式」については、アイテムとして今回納品と共に加わっていると思いますので、お暇な時にでも確認してみてください。なお、このアイテムについて詳しく書かれていなかったため、内容や外見等はわたし独自の判断で作成したものとなっておりますので、ご了承くださいませ。
オチをつけるのがわたしのノベルの殆どの形態なのですが、ご指定通りのエンディングとさせて頂きました。

何はともあれ、少しでも楽しんで読んで頂けたなら、幸いです。
ご意見・ご感想等ありましたら、お気軽にお寄せくださいませ。
これからも魂を込めて書いていきたいと思っておりますので、どうぞ宜しくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2004/12/29 Makito Touko