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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【繁華街】ヘブンズドアのクリスマス

ライター:東圭真喜愛

■オープニング■
 いらっしゃい。
 今日は店の中が寂しいでしょう?
 クリスマスは皆、自分の家で過ごす事が多いですからね。お客さんは少ないんですよ。
 この繁華街でも、半分くらいの店は閉まってますし、いつも五月蠅い客引きや売人も姿を見なかったでしょう? 彼等も、今頃はクリスマスを祝っている筈です。
 ヘブンズドアは、来て下さるお客さんがいる限り、こうして開いてますけどね。
 さて、一杯どうですか? クリスマスプレゼントと言うわけではありませんが、店からのおごりです。
 では、クリスマスを祝って……とっておきの一杯をお出ししましょう。




■望むは穏やかなクリスマス■

「ごめんなさいねえ、ヒカルさん」
 たおやかな声で、繁華街の街角に立ってあちこちを見ていたジェミリアス・ボナパルトの言葉に、ヒカル・スローターは「いや」とかぶりを振りつつ短く答えた。
「本当に、息子が帰ってこないからと私を連れ出しておいて、うちの孫は───」
 はあ、とため息と共にジェミリアスは、容姿と似ても似つかぬ台詞を吐いた。
 孫がいるといっても、彼女はまだ30台。顔も若く、今日はこの都市マルクトの繁華街に食事をと孫を連れて来たのだが、その服装たるや胸元は大きく開き、スリットはばっちりの赤いドレスがよく似合う美女である。
 本当ならば、クリスマスは家族全員で過ごす予定だったのだ。
 それが、息子のアルベルト・ルールは旅行に出たまま、ちっとも帰ってこない。
 アルベルトにとても懐いている孫の一人のピンク・リップに泣きつかれ、一緒に都市マルクトまでのこのこと探しにやってきた。
 留守番をしている者へのプレゼントは既に郵送済みで、アルベルトの手がかりもなく、暇だったので護衛達をホテルに押し込んでおき、いつもかけている窮屈な大きなサングラスも取り、いざ繁華街へとピンクと二人で出かけた───筈なのだが。
 いつの間にか、そのピンクがいなくなっていた。
 昨夜のバーでちょっと知り合い、目星をつけていた店がほぼ満席で自分と相席になったという、このヒカルとはバッタリ再会し、事情を話して一緒に探しているところなのである。


 ヒカルのほうは、彼女は彼女でクリスマスには思い入れのようなものがあった。
 彼女はいつも、聖夜は一人で過ごすと決めていた。
 彼女の「時」が凍てつく以前は、日本、ドイツ、ロシア、コンゴ、パキスタン他、世界中の友人達とクリスマスを迎えたものだが───。
(今は、取り残された自分を思い知らされるだけだから)
 毎年クリスマスを迎えるたび、「あの時」から───そう自分に呟いていた気がする。
 ジェミリアスの「迷子探し」に協力しているのは、特に予定がなかったこともあるが、それだけではない。昨夜相席した縁もあるし、見れば同類、種類は不明だが超能力者(エスパー)のようだ。
 ヒカルよりも彼女のほうが多く喋っていたのだが、それでも多少なりとも楽しい時間を与えられた。相席の縁、そして同類。
 たまにはこんなのもありだろうと歓談したのだが、再会した時も何かの縁と思ったものだ。
 袖刷りあうも多少の縁と、昨夜のうちに携帯の番号を交換していたのだが、今はそれが役に立ちそうだった。
 それにしても本当に───昨夜彼女と一緒にいた小さな女の子、ピンク・リップは一体どこに行ってしまったのだろう?


 ガシッと拳が何かに当たる音がして、ヒカルは慣れたように、「またか」とジェミリアスを振り向いた。
 彼女の容姿ならば無理もないだろうが、昨夜から酔っ払いやチンピラに絡まれているのである。
 始めは自分が手を出そうとも思ったのだが、この美女、なかなかに腕が立ち、今のところ全てのハエを自分の拳や脚で沈めていた。
「ピンク殿も、そんな目に遭われていなければよいのだが」
 ヒカルの言葉に、ええ、と、神妙な面持ちでジェミリアスは頷いた。





 決して楽しいとは言えない長期治療を終えて、初めて家族と過ごすクリスマス───だというのに。
(お気に入りのアールがいない)
 その思いが日ごとに大きくなり、ついにはジェミリアスを都市マルクトまで引っ張り出したはいいが。
 初めて見る美しいネオンに彩られた街で、まだ小さい彼女は目を輝かせていた。
 可愛いピンクのワンピースを着た彼女は、そしてふとした瞬間に、うっかりウィンドウに飾られた、大きなリボンのついた熊のぬいぐるみに見惚れてしまい、迷子になってしまったのだ。
「どうしよう……」
 さっきジェミリアス、「マザー」と一緒に歩いていた時は明るく賑わいを見せていた街も、独りぼっちになってみるとかえって心細い。
 辺りを見渡しても、人、人、人。
 しかも見知った顔は一人もいない。
 ワンピースのスカートを両手でぎゅっと握り締めていると、男の子の声がかかった。
「どうしたの? もしかして、迷子?」
 見上げると、優しそうな、ピンクよりは年上の男の子が立っている。何かのおつかいの帰りなのだろう、手には紙袋を提げていた。
 気がついた時には、こくんと頷いていた。
 すると男の子は右手を差し出してきた。
「ぼくはティコ・ミンヤ。きみの名前は? きみの家族、いっしょに探してあげるよ」
 ピンクは少しホッとして、その右手を握った。
「あたしは、ピンク・リップ。マザーとアールをさがしてるの」
「マザー? アール?」
 男の子───ティコは不審そうな顔をしたが、ピンクは気付き、
「マザーはあたしのおばあちゃん。アールは、本当の名前はアルベルト。ふたりとも、大好きなかぞくなの」
 と、なるべく分かりやすいようにと解説した。
 ティコは微笑んで、
「わかった。いこう」
 と、ピンクの手を引っ張った。



■うちの子に限ってあり得ます■

 もしかして、と、ふと立ち止まったジェミリアスに、ヒカルも足を立ち止めた。
「もしかして、ピンク───誘拐にでも遭ってるんじゃないかしら」
「まさか」
 ヒカルは、だが、この雑踏を改めて見渡してみた。
 この人数、様々な人種。
 確かに、どこにどんな人間が歩いているか分かったものではない。
 いや寧ろ、こういう場所こそ、犯人が堂々と闊歩する「解放」された場所なのかもしれない。
「ピンクはとっても可愛いの」
 更にジェミリアスはハンカチで口元を抑えて言う。
「うちの子に限って、誘拐犯が目をつけないはずはないんです」
「───そうであるか」
 一瞬何かを言いかけてやめ、ヒカルは言葉を選んで彼女特有の言い方で答えた。
 ともかく、身内の勘というものは時に超能力と匹敵するほどのものがある。
「『くさそうな』場所をもう一度。ジェミリアス殿。最後に記憶にある、お孫さんと歩いた地点は?」
 これで何度目かと思う質問を、ヒカルは敢えて、した。
 ジェミリアスはこちらも正確に、まったく同じ場所を三つほど挙げ連ねた。
 人の記憶は曖昧である。だから今一度、ヒカルは確認したのだ。ジェミリアスの記憶力は、抜群のようだ。
「では、ひとつめの場所からあたってみよう」
 ヒカルは歩き出す。
 ジェミリアスは「レストランの予約に間に合えばいいのだけど……」と、小さく空を見上げて呟き、後を追った。





 家族を探すよりも、待ち合わせの場所があれば、そこに行ったほうが早いかもしれない、とティコが言ったので、ピンクは覚えていた高級レストランの名前を言った。
 その二人が歩いていると、ピンクがティコに言ったそのレストランの名前で彼女らが金持ちだと判断したのだろう、やがて背後からじりじりと近付いてきた三人の男が、ティコとピンクに襲い掛かった。
「なんなの、おじさんたち!」
「はなして!」
 ティコとピンクは掴まえられて身をよじったが、大人の男の力には到底敵わない。
「おとなしくしてな、お嬢ちゃん達。うまくすりゃあ命くらいは残るかもな」
 下卑た笑いを見せる、男達。
 通行人達にまでは、会話は届かない。不審に思って立ち止まる者がいても、男達が一睨みすると慌てたように立ち去っていく。
「うー……」
 ピンクはぎゅっと目を閉じた。
 大好きなアールにはいつまで経っても会えないし、クリスマスディナーをマザーと楽しもうとしても迷子になるし、せっかく親切な男の子に案内してもらおうと思ったら男の子まで巻き添えにしてしまった。
 ストレスが、能力と共に爆発した。
「アールのばかぁ!!」
 という大声と共に。
 空気が一瞬ピンと張り詰め、一瞬後には周囲の街灯が爆破されたように吹き飛ばされていた。





「まったくいいバイトだぜ」
 のんびりと、アルベルトは豪華な部屋の一室に備え付けられた心地のよいベッドに寝転がり、天井を見上げていた。
 ピンクとの約束も忘れ、最近始めたこのアルバイト───いわゆる「ヒモ」を彼女の部屋、つまりこの部屋で堪能しているところだった。
 さっき彼女が出かける前、「そういえば今日はクリスマスね」と言っていたことを思い出す。
 ───何か、忘れている気がする。
 その時、爆発音が聞こえてきて、アルベルトは反射的に起き上がった。
 そう、それこそが、偶然にも彼女の部屋の近くにいたピンクが起こした、爆発だったのだ。



■クリスマスは楽しく■

 ピンクを見つけようとするまでもなく、爆発音で孫の居所が知れたジェミリアスは、ヒカルを置いてけぼりにして真っ直ぐに誘拐犯達に立ち向かって行った。
 その大立ち回りをしている母と娘の姿を見つけたのは、爆発音で野次馬をしにきた、渦中の噂の人物、アルベルト・ルールその人であった。
 いや、よく見ると暴れているのは今やピンクだけで、ジェミリアスは止めに入っている。まあ、ハタから見ればそう変わりはないのだが───仕方ない、ピンクもあまり力を使うと体力が失せるだろうし、母親のあの服装から見ればこれから高級店に向かうであろうことが推測される。
 しかもよく見るとピンクの連れの男の子は、この前ちょっと知り合ったティコ・ミンヤではないか。
 ここは手助けしておいても損はない。
 アルベルトが入ると、ティコとピンクの奪回はアッサリと終わった。
 誘拐犯達は地に倒れ、「さて」とアルベルトが母親ジェミリアスを見る。
「手伝ってやったついでに、何か飯食わせてくれよ」
「マザー、あたしアールもいっしょがいい」
 ピンクに頼まれては仕方がない。説教の一つも言う暇もなく、ジェミリアスが頷いたその彼女達三人の背後で、まだ余力が残っていたのか、誘拐犯の一人が銃を持って立ち上がった。
 ───が。
 それを遠くで見つけていたヒカルにより、超遠距離による狙撃で銃はこれまたアッサリと弾き飛ばされた。
 気付いたジェミリアスが、ヒカルに向けて手招きをする。
「このお方、一緒にピンクを探してくださったの。皆で最高級クリスマスディナーといきましょう? ほら、今から走ればちょうどお店の予約時間に間に合うわ」
「私はただ、昨夜の相席の恩義に報いただけ」
「いいから行こうぜ、オネエサン」
「いこいこ!」
 一般から見れば滅茶苦茶な「一家」に腕をとられ、ヒカルも走り出す。
 そしてその一時間後には、実に優雅な振る舞いでクリスマスの料理を楽しむ一同の姿があった。
「アルベルト、いい加減に帰ってきなさいね」
 と、さり気なくジェミリアスが言ったものだが、アルベルトは肉を頬張りながら、
「そのうちな」
 と、曖昧に返事を濁した。
「アール、いつかは、ちかいのがいいな」
 ピンクのねだりに、頭を撫でておき、アルベルトはシャンパンでヒカルと改めて乾杯した。
 彼は、セフィロトの塔の深層部でシンクタンクの調査をするまでは帰る気はなかった。
「ま、今日くらいはいいじゃねぇか。クリスマスは楽しく! な」
 慣れた感じでウィンクを送ると、ピンクは笑い、ジェミリアスも「それもそうね」と苦笑のような笑みを浮かべ、新しい友人となったヒカルを加え、この一家のクリスマスは楽しい思い出と共に晴れやかに胸に残った。
 もちろん、今まで「時」が凍てついていたヒカルの胸にも、知らず小さい灯火が灯っていたのだった。



《END》
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】
0544/ジェミリアス・ボナパルト (じぇみりあす・ぼなぱると)/女性/38歳/エスパー
0541/ヒカル・スローター (ひかる・すろーたー)/女性/63歳/エスパー
0552/アルベルト・ルール (あるべると・るーる)/男性/20歳/エスパー
0565/ピンク・リップ (ぴんく・りっぷ)/女性/5歳/エスパーハーフサイバー

【NPC】
☆ティコ・ミンヤ☆
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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、または初めまして。ライターの東圭真喜愛(とうこ まきと)と申します。
この度はご発注、ありがとうございましたv
内容には、なるべくPC様其々の個性、主に性格を重んじて取り入れて書いてみましたが、如何でしたでしょうか。今回はクリスマス独特の暖かなオチがつけられまして、書き手としてはとても満足のいくものとなりました。

何はともあれ、少しでも楽しんで読んで頂けたなら、幸いです。
ご意見・ご感想等ありましたら、お気軽にお寄せくださいませ。
これからも魂を込めて書いていきたいと思っておりますので、どうぞ宜しくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2005/01/06 Makito Touko