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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


ブラジル【密林地帯】インディオ村

ライター:青猫屋リョウ

【オープニング】
 アマゾン流域の密林地帯には、昔ながらの暮らしを続けているインディオの村が幾つもある。
 インディオは凄いぞ。あの審判の日と、それ以降の暗黒時代、高度なテクノロジーを持ってた奴らがバタバタ死んでいった中、インディオ達は何一つ変わらない生活を送っていたというんだから。
 本当に学ばなければならないものは、インディオの元にあるのかも知れないな。


 アマゾンの空に陽気な歌声がこだまする。歌っているのはカヌーの操縦を頼んだガイドだ。歌の高低に合わせるようにしてカヌーも揺れる。なかなかの美声に、白神空もつい目を閉じて聞き惚れていた。
 セフィロトを出、アマゾンの緩やかな流れを上ること数十分。目指すのはジャングルの奥深く――インディオの村である。ジャングルの奥深くには、今も昔ながらの狩猟生活を続ける部族が住んでいるのだ。審判の日を乗り越えたばかりか、暗黒期にも何ら変わらない生活を続けてきたのだと言う。
 ガイドが最後の音を長く伸ばして歌い終えると、空はすかさず拍手を送った。
「上手いわね」
「はは、褒めても何も出ないよ」
 ガイドはさっぱりと笑ってオールを動かした。
「それより、もうじき着くよ。あと十分くらいだ」
 ガイドが前方を指差すのを受けて空は頷き、軽く背伸びをして息をついた。カヌーの上に縮こまっているのもなかなか疲れるものだ。
 そう言えば、とガイドは唐突に空のほうを振り返り、
「インディオの村なんて何しに行くんだい?周りの村のモンならともかく、セフィロトの人が行きたがるなんて珍しいな」
 理解に苦しむと言った表情で首を傾げた。
「他の人のことは知らないけど、そうね、地形を把握しておきたいってのがまずあるかな。船便だけじゃいざヤバくなった時逃げるの難しいし、ジャングルに詳しい人と仲良くなっておきたいと思って」
「何だい、物騒だねぇ。ヤバい事に巻き込まれる予定でもあるのかい」
「まさか。慎重派なだけよ」
 くす、と笑って、空は頬にかかった髪を払う。
「それに、この間ジャングルでちょっと派手に狩りやっちゃったから、一応筋は通さないとね」
 律儀だねえ、とガイドは感心したように目を見開く。その後に続いた、見かけによらず、と言う呟きは軽く流し、空は内心ぺろりと舌を出した。
 言ったことは全て跡付けの理屈で、動機としては二番目でしかない。一番の目的は地元民との「交流」だ。
 ――可愛い子がいるといいわね。
 少々邪な期待に胸を膨らませる空を乗せ、カヌーはゆっくりと水に尾を引いて進んでいった。


 イメージと違い、と言っていいものか、インディオの村は来訪者に寛容だった。友好的と言ってもいいほどだ。空の、白と銀で彩られた容姿が神がかったように見えたのかもしれない。
 外との交流が皆無と言うわけではないらしく、村の要職と思われる人物は片言ながらも公用語が話せる。――が、大半の村人は単語レベルしか判らないようなので、結局コミュニケーションを取るにはジェスチャーを駆使しなければならなかった。身振り手振りでも相当の意思疎通が可能なのだというところは新しい発見だ。
 セフィロトの人間が珍しいのか、まとわりついてくる子供たちの相手をしつつ、空は村を回っていった。
 技術の粋の集まったセフィロトとは正反対の、昔ながらの生活様式だ。タイムスリップでもしたかのような感覚に襲われる。銃火器も核シェルターも持たないこの人々が大暗黒を生き延びたとは、人間の底力も侮れないものだ。
 空はきょろきょろと辺りを見回す。
 ――と、数人の男がジャングルのほうから歩いてくるのが見えた。狩りの帰りなのだろう、弓や槍を持ち、獲物らしい鳥を手に提げている。彼らは空を見て一瞬警戒する表情をしたが、子供たちが何か説明すると頷いて、屈託ない笑顔を向けてきた。
 空も愛想良く笑いながら、チェックは欠かさない。次々に目を滑らせて行くと、一番後ろにいた少年でぴたりと止まる。
 少年、とは言っても16、7歳だろうか。身体はしっかりと出来上がっているが、丸みを帯びた頬に幼い感じを受ける。目を丸くして空を見つめており、空がにっこり笑いかけると慌てて視線をそらした。
 ――可愛いな。
 くすくすと笑う空の思惑に、狩人たちの一人が気付いたらしい。勘のいいことだ。
 その男が行こうと言うのについて行こうとして押しとどめられた少年は、はじめ怪訝そうな顔をしていたが、男に何事か呟かれてはっとしたように空のほう見た。空がちょいちょいと手招きすると俯いてしまった。
 他の男たちは空にまとわりついていた子供も一緒に連れて行ってくれ、後には空と少年だけが残される。
「こんにちは」
 空がそう声をかけると、少年はびくっと体を震わせて一歩後ずさった。やはり言葉は通じない。
「大丈夫よ、何も取って食おうって言うんじゃないから」
 まあ別な意味で食べはするけど、と言うのは心の中だけに留めておいて、空は少年に一度視線を送ると歩き出した。少年もおずおずとその後に続く。
「どこか、お気に入りの場所でもあったら案内してくれない?」
 空の言葉の中に知っている単語があったのだろう。少年は頷き、今度は先に立って歩き出した。
 空が少し足を速めて隣に並び手を握ると、少年は驚いて振り向いたが、少し照れくさそうに笑って空の手を握り返してきた。
 少年に手を引かれるままに歩いていった。村はずれまで来るとそのままジャングルの、道なき道に分け入っていく。迷いのない少年の足取りに従って、空はただ黙々と歩いた。会話はなかったが気まずくはない。少年の手は暖かった。


 少年が案内した先には、大きな岩がいくつか転がっていた。よく見ると岩絵が描かれている。何かの遺跡だろうか。
 茂った木々が暑い日差しを遮り丁度良い日陰を作るそこで、空は適当な岩を選んで少年と並んで腰掛け、上を見上げた。きらきらとまぶしい木漏れ日に少し目を細める。
 隣に目を移すと、少年はじっと空を見ていた。
「……なあに?」
 空の問いに部族の言葉で何か答えて、少年はすっと手を伸ばした。指先でさらりと空の髪に触れる。
「珍しいの?」
 くるくると指に髪を巻きつけてみたりしている少年を、空はほほえましく思う。銀色の髪が――空の容姿全てが、少年の目には珍しく映るのだろう。
 くす、と笑って空は首を傾げ、
「いくらでも調べていいのよ」
 髪の毛をいじっていた少年の手を掴み、自分の胸元に押し付ける。固まってしまった少年の顔を覗き込み、さっと唇を掠め取る。
「うふふ……」
 ぺろり、と舐めた舌は赤く、瞳は妖しげに光る。
 少年が慌て出す前に再び唇を塞く。少年の肩を押して岩の上に横たえ、空はばさりと上着を脱いだ。


 夕刻の空にガイドの陽気な歌声がこだまし、迎えのカヌーがやってくる。
 村から少し離れた川辺まで、村人の何人かはわざわざ空を見送りにきてくれた。――もちろん、少年の姿もある。
「じゃあね、ありがとう」
 空は村人たちを見回して言い、それから、
「また来るわ」
 少年の目を見てそう付け加えた。
 空の乗ったカヌーが動き出すと、村人たちはこぞって手を振り、子供たちはきゃあきゃあと声を上げて川辺を走り、カヌーを追ってくる。
 下る流れに乗り、カヌーは加速する。子供たちが走るのをやめて大きく手を振る向こう側で、段々と小さくなっていく少年を、空はずっと眺めていた。


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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0233】 白神・空


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつも有難うございます。青猫屋リョウです。

 空さん遠征の巻(笑)はいかがでしたでしょう?
 おそらく言葉が通じないだろう、と思ったので、会話らしい会話がほとんどなくなってしまいました。なかなか難しいものです。
 前回のお相手が女の子だったので、今回は男の子です。渋い親父系も一瞬考えたのですが、さすがに押し留めました(笑)。

 それでは、またお会いできることを願って。