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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市区画マルクト【ショッピングセンター】必ず帰るから
〜ただあなたの為に-for you-〜

ライター:深紅蒼

 ‥‥敵は一時退いたか。だが、また来るだろう。長丁場になりそうだな。
 今の内に休憩しておこう。焦っても仕方がない。
 しかし、散々だな。あんなに山程、敵を見たのは久しぶりだぜ。やってもやっても、次々に攻めてきやがる。
 て‥‥おい、まだ回収品を持ってたのか? 荷物になりそうな物は捨てろとさっき‥‥
 プレゼント? 約束したのか?
 プレゼントを持って必ず帰る‥‥そうだな、待っている相手がいるんだ。生きて帰らないとな。
 と、敵が戻ってきたな。今度は、奴らも本気だろう。
 行くぞ。必ず帰ると約束したんだろう?


 もともとそこは廃墟だった。ココが生まれた時の面影は、もはやどこにもない。かつては美麗であったろう内装も、当時としては最高の技術を注いだろうシステムも、今は見る影もない。本当にずっとずっと前からココは廃墟であった。そしてこれからもそうだろう。人に捨てられた場所は、人に還ることはなく人ではないモノの巣窟となり人に襲いかかる場となった。崩壊した天井も、途中で折れた柱も、戦う者達へ何の恩恵も与えない。守るに難く、攻めるに易い場所だった。ここに迷い込んだ人にとって、死はすぐそこまで迫っているモノだった。

 けれど何事にも例外はある。今、ここに居る者はあまり死にそうにない様子だった。見事な満身創痍でパッと見には死にかけている様にも思える。けれど、その心はこの身体よりもずっと強くたくましかった。
「ったく‥‥想像してはいたけど、こりゃあソレ以上だよ」
 命無きモノが支配する場所で、だが兵藤・レオナはしぶとく生きていた。実際、その身体に無傷なところは何処にもない。愛用のバンダナはまだその黒髪を飾っていたが、ボロ布と変わりない有様であったし、全身埃をかぶって白っちゃけている。服はところどころ破れて皮膚が露出していた。かつての自分であったなら、とっくに10回は死んでいるだろう事をレオナは判っていた。そして今、この身体であっても決して楽観出来る状況ではない事もわかっている。けれど弱音は吐かない。吐きたくもない。そんな事をしても、生存率が上がるわけはないからだ。だから‥‥しない。幸い、無駄な事に拘る性格ではなかった。愚痴れば少しはストレスが発散出来る、という友の言葉もわかる。‥‥まぁそういう人もいるだろう、とレオナは思う。けれど自分には必要ではないのだ。あの『審判の日』以来、人は随分数を減らした。それでも人は絶滅していないし、その個性を論じる事が出来る程には数もいる。その中には愚痴らなくてはいられない人もいるのかもしれない。
「結局、他人は他人だし、ボクはボクだからね。やりたいようにするし、やってみせる。絶対にコレ‥‥あいつに渡さなくちゃ」
 レオナは高周波ブレードを離さない右手ではなく、ギュッと握りしめていた左手の拳に視線を落としそっと開いた。そこにはあったのは小さな『鍵』だった。背のバックのファスナーを施錠した鍵だ。その中には大事な『宝』が入っている。コレの為にレオナは命を賭け、そして危うく命を落としかけている。数分後、ココに屍を晒す可能性も充分にある。そのリスクを覚悟してでも、この『宝』には手に入れる価値があるとレオナは思っていた。だから、コレを持ったまま倒れるわけにはいかない。誰かに渡して貰おうにも、生きている者は自分以外に誰もいない。無理だろうが、不可能だろうが、自分が生きてココを出て‥‥そしてあいつに手渡すしかない。
「‥‥来る‥‥か。やっぱ、見逃してくれたりはしないよね」
 聞こえない筈の距離でありながら、低い複数の駆動音をレオナは聞き分けていた。敵の追っ手が迫っているのだ。3‥‥いや、4はいるだろう。接触するまでにはおよそ3分だろうか。レオナに残された武器はもう右手のブレードしかない。これで相手をするのはちょっと骨が折れるだろう。けれど、このまま門へと進めばそこにいる敵とで挟撃される。この場に留まり追っ手を殲滅し、すかさず門へと向かいそこにいる敵もサクっと倒すしかない。
「しょうがない。やるか‥‥」
 誰の手を借りなくても、1人でも戦って生きる。これまでもレオナはこうした『修羅場』を数限りなくくぐり抜けてきた。それがまた1つ増えるだけだ。大事な『宝』の入ったバックパックを背負い直し、レオナは迫り来る敵との戦闘に備えた。その瞳には、諦めも絶望もない。ただ、前だけを見つめるまっすぐで無垢な瞳だった。

 暗闇を一筋の光が切り裂く。破壊のエネルギーを秘めた光はレオナを捉えることなく壁に当たり破片を散らす。光は次々と廃墟となった空間を貫き、また新たな破壊の跡を刻む。レオナはほとんど勘でその無音の攻撃をかわしていた。小さく首の鈴が涼しげな音をたてた。逃げ回っている様で、実は少しずつ敵との間合いを詰めている。飛び道具のないレオナは敵を捉えるまでに接近する必要がある。髪の先が光に焼かれ嫌な臭いがした。お気に入りベルトにも、黒い焦げ跡が出来る。心の中で罵倒の台詞を吐きながらも、レオナは更に速度をあげる。かつての身体では絶対に出来ない動きだ。敵の攻撃を避けその1体の背後に廻った。
「もらった!」
 敵は小柄な自動機械だった。背後からしっかり胴を捕まえると方向を転じてやる。必殺の光は同じ型の機械に向かって放たれ、あっけなく行動不能になる。
「悪いけど、もう少し付き合ってよね」
 ブレードで機械の中枢をさっくり壊すと、ただ光を放ち続ける機械となった敵を小脇に抱え、レオナは門へと猛ダッシュを開始した。

 と、いうわけでレオナは奇跡の生還を果たした。ただ、この話をすると聞いた者が皆すべて『無謀だ! 馬鹿者!』と怒鳴る。セフィロトの塔は単独で挑むものではないというのが皆の常識らしい。その常識を覆し、単独でお宝をGETしてきたレオナがぴんぴんしているのは面白くなさそうだ。面子をつぶされたと思い怒り出す者も出てきたりして、最近ではこの話はしないようにしている。
「ったく‥‥これがどうしても欲しかっただけなのに」
 レオナは誰にも『何』を持ち帰ったのか言わなかった。照れくさくて、とても言えたものではないからだ。あいつにコレを渡したかった‥‥なんて、誰にも言えるはず無い。今日こそはコレを渡そうと思う。
 そう考えてもう半月も経ってしまったレオナだった。

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0536】 兵藤・レオナ 

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お待たせいたしました。ノベルをお届け致します。大事なレオナさんを預からせていただきました。無事にお返しいたします。ちゃんと描けていたか心配ですが、これからも精進していきたいと思います。また機会がありましたら、ご一緒させて頂きたいと思います。ありがとうございました。