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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【ヘルズゲート】出陣
 
千秋志庵

 さて、こいつが地獄への入り口。ヘルズゲートだ。
 毎日、誰かが門をくぐる。そして、何人かは帰ってこない。そんな所さ。
 震え出すにはまだ早いぞ。
 こっちはまだ安全だ。敵がいるのは、この門の向こうなんだからな。
 武器の準備は良いか? 整備不良なんて笑えないぞ? 予備の弾薬は持てる限り持てよ?
 装備を確認しろ。忘れ物はないか? いざって時の為に、食料と水は余分に持て。予定通りに帰ってこれるなんて考えるな。
 準備は良い様だな。
 じゃあ、行くぞ。地獄へようこそだ。

“本能”、というものには幾つか種類があり、知性体は“理性”というものでそれを抑え付けているという。
 “本能”が己自身という生き物は“本能”を表に出して、言うならば“本能”の侭に行動をしているという。
 だが、知性体には“本能”を“理性”で抑え付けている代わりに、“理性”が“本能”と化す場合があるという。よくその意味は分からないが、不必要な“衝動”を持ち合わせているという認識で良いのだろう。
「さて、どうしたものですかね」
 その声は愉しそうに、やはり口元に笑み。
 到底理解出来ぬ侭、彼らはその奇妙な一生を終えた。
 理解出来るほどの知識を持っていた、とは、これっぽっちも思っていなかったけど。

 塔内部へと足を踏み入れ、まず始めに感じたのは言いようのない淀みだった。腐臭やら、汚物やらが散らばっているからという訳でもなく、精神的に感じる不協和音というやつだろうか。主の去った一つの空間を、新たな主が支配するというのはこれまたよくある話だったが、この空間自体は新しい主の存在に満足していないようだ。それがこの奇異な空気の原因。よくもまあ、普通に歩いていられるなと思って、歩いている自分達が“フツウ”でないことを、可笑しそうに笑って自覚した。
 ……さて、と。新しい客のお出ましですか。周囲を見渡して、各々が手に馴染んだ武器を構え直す。アストライア・001は自身の体を武器としているため、改めて構え直すことはせずに“再生変化”によって腕をナイフに変えた。背後からは巨大な“猿”の荒々しい息遣いが聞こえてくる。その距離、数メートル。数、多数。対して、こちらのやる気、微妙。
 一斉に振り返って、兎に角驚いた。
 数が多すぎる。数匹なら兎も角、十も二十もいるとは思っていなかった。
「いきなり、大人数のお出迎えですね」
瑠璃垣和陰が落ち着いた声で言い、
「普段なら喜ばしいことなんですけどね」
龍崎朔夜は溜息交じりに応じた。
 相手の人数に対するこちらのパーティの人数は四人。数だけで見ても圧倒的不利だ。
「一旦、引いた方が良さそうですね」
一応今回のパーティのリーダーを仰せつかったアストライアは残念そうに提案する。
「……賛成」
 同意の声と、溜息、首を縦に振る音が同時に聞こえる。
そして静かに、しかし迅速に行動を開始した。
 流石は元・都市。路地は入り組んでいるし、建物の間は狭い。故に、小柄な人間が逃げるにはうってつけの通路だった。
「そこ。左」
 ……ナビも的確。うん、悪くないですね。等とアストライアが自分達の幸運に感謝した途端、別のタクトニウムが現れて襲い掛かってくる。先陣を切っている朔夜と和陰の攻撃で乗り切っているが、後ろでゆっくりと後を追っているだけなのも申し訳ない。申し訳ない……んだけど、特攻を行うには狭い場所では狙い撃ちにされるし、他に幾つかの軌道ルートがないと、何分行動に制限が多大にかかる結果になる。痛いのは嫌いだ。“再生変化”は好きだが、痛いのはどうも、ね。アストライアは並走するゼロ・J・バドウィックに視線をやる。何か、と問うゼロに、アルトライアはなんでもないと首を振った。
少し残念そうにゼロは前方を向き、前衛に向けて指示を続けた。
「そこの中。そこなら安全だ」
予めどこからか情報を得ていたのだろう。完全ではなく朧に地形を頭に叩き込んでいたというそれは、しかし予想通り堅固そうなビルを指し示していた。
「ラジャー」
朔夜が慣れた様子でビルのロックを解除し、巨大なビルの中に駆け込んで急いでロックし直す。不思議としっかりとロックは掛かったのは、まだ錆び付いていない機械のお蔭だろうか。
「好都合だな」
 息を整えるよりも先に、ゼロは手近な機械からハッキングを開始する。周辺の地形、抜け道、その他諸々のデータを文字通り頭に叩き込む。先程までの曖昧なものとは異なり完全なるデータを目にし、知れずゼロは口元を綻ばせた。
「で、どうでした?」
 ひょいと横から覗くアストライアに、ゼロは少し嬉しそうに顔を歪ませる。表示させた画像を指差し、現在地とゲートを指し示すと、アストライアは同じように嬉しそうに手を叩いた。
「ここからだと、ゲートって結構近いんですね。ぐるぐる回って結局一周してきたみたいですし、全速力で五分もあれば帰れますね」
「だ、そうだ。帰るか?」
 ゼロは他の二人に視線をやる。可、の答えに、
「作戦は?」
 と問うが、
「もちろん、特攻」
 とのアストライアの答えに苦笑して、やはり、可、との答えを受け取る。
 アストライアは満面の笑みで見渡し、指をぴっと一本立てた。
「では、作戦を話します。和陰さんが」
 突然名指しされた和陰は、ゼロと同様機械に走らせる指を止めゆっくりと首を後ろに回した。
「……私が?」
 こくりと大きくアストライアが頷く。
 この場において、立てるべき計画は五分間における頭脳戦をいかにして勝利へと導くか、である。適任者は和陰であると踏んだらしい。
「何で私なんですか。朔夜さんの方が適任ですよね?」
「いえ、ここは和陰さんです」
 訝しげな視線を送る仲間に向けて、アストライアは自信たっぷりに言った。
「この中では、和陰さんですからね、一番勘がいいのは」
答えに複雑そうに和陰は唸り、一つの作戦を数秒もしない内に弾き出した。

「で、結局計画は特攻。内容もただ特攻すべし、か」
 瓦礫に身を隠しながら、ゼロはぼやいた。
「でも悪くはないですよね」
アストライアが愉しそうに微笑み、ゼロも仕方なしに頷いてみせた。
「では、行きます」
四人は同時に瓦礫から飛び出、先程とは変わって先陣を切るアストライアの後ろに和陰が続く。その数メートル後方には、後方支援にとゼロと朔夜が続く。
眼前にいるタクトニウムは十数匹。当然ながらすぐに気付き、動きを開始し襲い掛かってくる。
タクトニウムの攻撃は素早い。殺意だけしか存在しない攻撃を掻い潜り、アストライアは再生変化した腕で容赦なく切り刻む。懐に飛び込むアストライアの背後を護るため、和陰は狙撃によって一瞬の隙を生む。隙は一瞬で充分。その一瞬でアストライアの行動はすでに終わっているからだ。
「はい、次!」
次々と現れるタクトニウムを撃破し、一向は駆け抜けていく。
元より、全滅が目的ではない。通り道を塞ぐ何匹かを撃破出来れば良い話で、それ以上の殺戮は求めない。求めたとしたら、その場でパーティは全滅に向かうだろう。幸いにも、後方支援の二人が後ろから襲い掛かってくるタクトニウムを走りながらも退けているお蔭で、和陰は自身の背を心配することはなかった。
「あと一分!」
ゼロのカウントダウンに全員が頷く。既に全員が誰のとも付かない“血”で汚れていたが、気にする余裕はどこにも存在しない。
今は走るだけ。それだけだ。
「急いでください」
一番に辿りついたアストライアが、ゲートから四人に向けて手を一生懸命振りまくる。一瞬後に遅れて付いた和陰は途中で急ブレーキを掛け、振り向き様に銃を乱射した。ばたばたと音を立てて倒れていくタクトニウムの屍骸を乗り越え、他のタクトニウムが現れるが、和陰によって呆気なく倒れていく。
ふいにその手が止まり、アストライアに向けて声が発せられる。
「ゲートを開いてください!」
アストライアは無言で肯き、ゲートを開けるよう行動を開始する。直後にタクトニウムの山から現れたゼロと朔夜を開いたばかりのゲートに招きいれ、扉はすぐに閉まった。
「…………」
閉まる直前、タクトニウムが何かを言った。それは気のせいだったような気がしたが、そもそも言語を解せぬ彼らの言葉は言葉ではないだろう。故に侮蔑の言でも、哀悼の言でもないはずだ。
「……多分、ね」
なんとなしに口にして、アストライアは仲間と共に太陽の光の眩しい外界へ身を脱した。





【END】

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0539】アストライア・0001
【0540】瑠璃垣和陰
【0542】ゼロ・J・バドウィック
【0543】龍崎朔夜

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。

ゲート内探索です。
タクトニウムとの戦闘メインでしたが、如何でしたでしょうか?
ゲートの中は広く、全てを探索するには時間はまだまだ掛かると思います。
そのスタートラインを書かせていただき、とても嬉しく思います。
随所随所でとある二人の仲の良さを描写してみたので、もし宜しければ探してみてください。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。

千秋志庵 拝