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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【人助け】スーパービッグバーガー店でございます

ライター:東圭真喜愛

■オープニング■
 ああ、キミ、ここが都市マルクトでも有名な、スーパービッグバーガー店って聞いてやってきたのか。私が店長の、ニューマンだが……この通り、事故で怪我をしてしまって臨時休業にしてるんだ。
 注文は全部却下せざるを得ないんだが、どうしても届けたい、私の顔なじみの一家のところがあってね。届けてくれる人を探しているんだが、中々こない。
 毎日うちのバーガーを楽しみにして来てくれている人達にも、申し訳がなくてね……。
 どうだい、キミ暇があったら、私の手伝いをしてくれないか?
 その一家のところへのバーガー類の配達と、この店の切り盛りと、だ。勿論、報酬は出すよ、少ないけれどね。
 私もあちこちに顔がきくから、キミがほしいものがあれば、言ってくれれば、キミのバイトが終了する頃にはあんまり無理なもの以外は揃えられると思うんだが、どうかね?
 その一家への配達ポイントはこのマルクト内にあるんだが、その一家の付近には何の目的があるか不明の武装を固めて集団となっている者達がいるから、くれぐれも気をつけてくれ。




■親と子の理由■

 時を、少し遡る。
 ジェミリアス・ボナパルトは朝、気持ちよく目を覚ました。
 ぽかぽかと、カーテンの隙間から射し込む陽射しは冬なのに暖かいほどだ。
 だが、どこか心許なく振り返ってみると、いやに雰囲気がしんとしている。予感がして一緒に泊まっているはずの息子の名を呼んでも、返る声はない。
「───まあ、あの子。見事にやってくれたわ」
 そんな彼女は、ベッドの上にある点検済みのバッグに視線を落としつつ、冷たい微笑みを浮かべていた。
 手には、テーブルの上にあったものを発見した───「いつか返す」という走り書きのメモがある。間違いなく、息子、アルベルト・ルールの筆跡のものである。
 アルベルトはこの母親、ジェミリアスの財布から5万レアル、レビーのネックレス。それに指輪を数点持ち出していたのだった。
 だが、彼女はふと、小首を傾げる。
 いくら自分がお金に厳しいとはいえ、何も言わずこんなことをするアルベルトではない。多分に理由があったのだろう。
 心配になったジェミリアスは息子の足取りを追い、この街でも有名な「スーパービッグバーガー店」でバイトをしている姿を見かけた、との噂を聞いて、この店にやってきたのだった。



「いや、大分治ってはきたんだが、複雑骨折は年寄りには色々とキツくてね。しかし、そういう理由で来たのならバイトも頼めないなあ……」
 と、ジェミリアスから事情を聞いて難しい顔をする、ニューマン店長。
「いいえ、私でよろしければ、是非お役に立たせてください」
 にっこりと、ジェミリアス。
「え? いや、しかし」
「複雑骨折は本当に大切にしなければいけませんもの。制服、ございます?」
 優雅な物腰の彼女に、果たして勤まるだろうか。
 前回アルバイトを頼んだアルベルトが息子と聞いたニューマンは、あの時のお客達の反応を思い出し、心配を隠せなかった。こんなに美人がバイトときたら、アルベルトの時であれだ。お客達がどんな反応を示すか、目に見えていた。
「あるにはあるが、女性用の制服は今から発注しなければな」
「男性用ので構いませんわ。動きやすそうですし」
 逆にジェミリアスに半ば押されるように、ニューマン店長は彼女を雇うことにしたのだった。



 店のことを考え、ジェミリアスはサングラスを外し、また、光偏向も解いて、ため息混じりに「本当の姿」に戻った。
 男性用の制服だったため、豊満な身体の彼女の胸元は当然ながらきつく、やむなくボタンを外して客達の前に出ることになったのだ、が───。
「ニューマン店長、昨日といい今日といい、最近いいバイト雇ってんじゃないの!」
「よォ、ねぇちゃん歳は幾つだい?」
「バッカだなーお前、女性に歳を聞くもんじゃないぞ」
 わいわいと騒ぐ男性客の視線は、当然とばかりにジェミリアスの大きく開いた胸元に行っている。ニューマンは彼女がその騒ぎの中てきぱきととってきた注文の品を作りながら、先行きを憂いてため息をついた。
 しかし、あまりに美人なのでアルベルトの時のように誰かがセクハラをすることはなかった。
 憧れのような視線が、どちらかといえば多い。
 それを知ってか知らずか、ジェミリアスは実に優雅にきらきらと眩しげな微笑みを振りまきながら、注文をとっては出来上がったハンバーガーやポテト、ピザセット等を間違わずに客に渡したりテーブルに持っていったりしている。
「ふむ」
 これはいいバイトを雇ったかもしれない、とニューマンがもう一つテイクアウトのビッグバーガーセットを紙袋に入れた時、電話が鳴った。
 急いで出ると、ニューマンの相好が崩れた。
「おや、あなたかね。どうだい、調子は。ん? 今月分のあなた方への宅配は昨日、終えているはずだが───」
 ふむふむ、と電話の相手に相槌を打っていたニューマンだが、暫く考え込み、ちらりとジェミリアスを見てから、ちょうど視線の合った彼女に手招きをし、小声で尋ねてきた。
「お前さん、料理の腕前はどんなもんかね?」
「お料理ですか?」
 思わず、ジェミリアスは聞き返した。



 ジェミリアスがまだ寝ている間に、走り書きのメモを置いて件のものを持って行ったアルベルトのほうは、というと。
「説得してる時間、今回なかったからなぁ」
 朝から開いている、とあるバーで茶髪の彼女との甘い時間を過ごしつつ、呟く。
 実は彼は、自慢のバイクのサイドカーに、対タクトニム用に自動照準連射バルカン砲を搭載したいと思い、今回の「親子の事件」を起こしたのだった。
 ネックレスは、今隣に座っている、茶髪の彼女への贈り物である。
 ふと時計を見た彼は、茶髪の彼女の頬にひとつ、キスをした。
「ごめんな、時間だ。また会おうぜ」
「えぇ、もう行っちゃうの?」
「俺も一秒でも多くきみの傍にいたいよ……でも仕事なんだ、分かってくれ。な?」
 髪の毛の一房を手に取り、更に甘くくちづけると、茶髪の女性の瞳がとろんととろけた。
「またねぇ、アルベルト。絶対よ」
 手を振る彼女に手を振り返すと、アルベルトは外に出た。
 不要品を直して売ったお金も多少手元にあったので、昨日の「約束どおり」、バイトで働いて泥棒道具一式を報酬としてもらった「スーパービッグバーガー店」に行く。
 気のせいか、昨日よりももっと店が繁盛している気がする───特に男性客が。
 その彼の目にふと、ニューマン店長と話している、後姿の美しい女性が映った。
 後姿でこれだけ美しいのだ。しかも彼はとんでもないフェミニストときている。声をかけない理由はなかった。
 後ろから近付いていくと、「店のバイクを貸すから───」だの、「この家に行ってその家の客に料理を───」と、どうやらバイト内容の話をしているようだ。
「ごきげんよう、お嬢さん。俺も一緒にやってやろうか?」
 笑顔のアルベルトのその言葉に、ふと、ぴくりと女性の肩が動いた。
 えっと思う間もなく、女性は振り返り、アルベルトが「まずった」という顔をした途端、その頭に鉄拳が下った。
「相変わらずだわ、うちの息子は」
 にっこりと、母親───ジェミリアスが視線を投げかけてくる。
「なんだ、おふくろかよ」
 鉄拳は喰らうし実の母親ときた。
 二倍損した、とぼやいた彼に、その母親が極上の笑みを見せて、言った。
「バイト、手伝ってくれるんですってね。優しい息子を持って、私は幸せだわ」
 もはや後には引き返せなかった。



■ミンヤ家で仲良く出張バイト■

 ニューマン店長が引き受けた依頼とは、こうだ。
 昨日アルベルトが配達を引き受け、「どうしても届けたい顔なじみの一家」のところへ「超特製メインディッシュスーパービッグバーガーセット」を一家のひとりであるティコ・ミンヤという男の子を通して届けた、その一家からの電話で、
「今日緊急の大事なお客が来るのだが、一家揃って流行り風邪にやられてしまったので、かわりに接待する人間、料理も出来る者をよこしてほしい、お礼はいくらでもするから」
 との必死の頼みだったという。
「それなら、おふくろならうってつけの人間だよなぁ」
 店の自動二輪を走らせて母親を後ろに乗せ、昨日と同じく店の制服を着て「男装の麗人」と見まごうばかりのアルベルトが言う。
「食材も向こうで揃っているようだし、何を料理するかは向こうで決まっているということだし、うまくすれば狙っている報酬も頂けるかもしれないもの」
 引き受けない手はないわ、と風に吹かれ顔にかかる長髪を後ろに追いやりながら、ジェミリアス。
「けど、ティコか……。寒い日にアイスなんか食う趣味があるから、風邪なんか引いちまったのかな」
 呟くアルベルト。
 ジェミリアスが「それなんの話?」と聞く前に、ミンヤ家に辿り着いていた。
 普通の家よりも少し大きな、感じの良い白い家である。
「ごめんください」
「スーパービッグバーガー店の者ですが」
 チャイムを鳴らし、親子揃ってインターホンに向けて言うと、やがて扉が開かれ、マスクをつけてひどく顔を赤くし、しきりに咳をしながら白髪の老人が出迎えた。
「すまんのう、ニューマンにもこんなに滅多なことは頼むことはないんじゃが……一家揃って風邪を引くとは、まったく災難じゃよ」
 さ、入っておくれ、と促す老人に、素直に家に入る二人。
 そして、どちらからともなく、視線を合わせる。
 家の中の雰囲気が、何かおかしい。
 二人とも、家の中に入るのは初めてではあったが、「普通の家の雰囲気」より数段、殺伐としているのだ。
「こっちが食堂で……食材もあるし、メニューはこれじゃ。ここから真っ直ぐのところにある部屋が接待室じゃから、そこに運んでくれるといい」
 そこでまた、咳き込む老人に、ジェミリアスが微笑んだ。
「了解致しました。確かにお客様は大切に接待致しますので、ご心配なく。それよりも、お身体に障りますので、ゆっくり横になっていてください」
 ホッとしたような老人が、「すまんのう」と本当に申し訳なさそうに去っていくと、ジェミリアスは早速メニューの書かれた紙に目を通すと、下ごしらえを始めた。
「お客様にお水をお出ししてちょうだい、アルベルト」
「あいよ」
 母親の意図は分かっている。伊達に親子ではない。
 綺麗な水を汲み、人数はメニューを書いた紙に3人と書いてあったので、三人分お盆に乗せて持っていく。
「お邪魔しまーす」
 どこか間延びした声でアルベルトは扉をノックし、開けると、いかにも危険な雰囲気を身に纏ったヤクザ風の男達が雁首揃えてテーブルについていた。
「一家揃って風邪のところに、どんな接待したってミンヤ家は『賭け』に勝てやしねぇよ」
 ボスの風格を見せているサングラスの男、その左側の青い蛇模様のネクタイの男が口元を歪ませて笑った。
「はぁ……賭け、ですか」
 水を置いていきながら、様子を見るアルベルト。
「何もしらねぇできたのか、お前」
 反対側の椅子の、赤いハート型模様のネクタイの男。
 ボスと思われる男は、何も喋らなかった。
 一礼して部屋を出て、厨房に戻ったアルベルトは逐一母親に報告する。
「何かあると思ったけれど、そういうことなら……ね?」
 微笑む母親の考えは分かるが、アルベルトは「待った」と手を挙げる。
「どんな『賭け』かも事情も分かってないんだぜ。まずは情報収集からってな」
「あら、それはあなたがやってくれるのでしょう? 期待してるわ、自慢の息子ですもの」
 この笑顔を向けられては、何も言えない。
 さてどうやって情報するか、やはりニューマン店長に電話して聞いてみるか、と考えていたアルベルトが視線に気がついたのは、ジェミリアスが奥のほうの棚に食材を取りに行き、視界から消えた時だった。
「おにいちゃん」
 コホコホと咳をしながら呼びかけてきたのは、ティコ・ミンヤだった。
「お、元気……そうじゃねぇな。そういや一家全員風邪だったっけ」
「この風邪の細菌、わざとあいつらがこの家だけに、まいてったんだよ」
 ティコの言葉に、食材を持って戻ってきたジェミリアスの足も、思わず止まる。
「ティコくん、って言ったわよね、あなた。もっと詳しく聞かせてくださらない?」
 しゃがんで彼と目線を合わせるジェミリアスとアルベルトとを見比べ、熱でつらそうにしながらも、ティコは情報を話してくれた。


 この家は、以前から「サナン一家」と呼ばれる大組織のほんの一握りのヤクザ達に目をつけられていた。それも、この家の主である先ほどジェミリアスとアルベルトを出迎えた老人、ティラス・ミンヤが昔、有能な科学者だったからで、今も衰えていないその腕を買うために、今回ここら辺を仕切っている「小ボス」、レナス・ミツミヤが「賭け」を持ちかけたのだ、それも強引に。
 というのは、まず、風邪に症状のよく似た細菌を家の中に入れ、ミンヤ家全員が風邪引いちゃったね、と困って話しているところへ、「明日ティラス・ミンヤを迎えに行く。俺達を接待している間に俺達にお前達が今『かかっている細菌』と全く同じ細菌にかけることが出来なければ、『賭け』に負けたということを認め、ティラス・ミンヤを連れて行く。もしもの場合だが、『賭け』に勝つようならティラス・ミンヤのことは諦めよう」と、レナス・ミツミヤから電話が入ったのだった。


「でも、あいつら、なんていうんだっけ、その細菌のこうたい? めんえきだったかな、そういうの、もう注射して、うっちゃってるんだ。だから、賭けは負け、って、おじいちゃんはあきらめちゃってるんだ」
 ティコが、咳をしながら苦しそうに話す。
 アルベルトの頭が、ピンと冴えた。ちらりとジェミリアスを見ると、母親も同じ事を思いついたようで、緩やかに微笑んでティコの頭を撫でた。
「坊や、どうもありがとう。とても助かったわ。あとは私達に任せて、大船に乗ったつもりでいてください、とおじいちゃんに伝えてくれるかしら」
 きょとんとティコが見上げると、アルベルトがウィンクした。
「『賭け』には勝てる。俺達を信用しろって」
 ティコはこくんと頷き、熱でふらふらしながら階段を上がっていく。
 さて、と、親子は微笑み合った。こういう時は特に、気が合う。
「おふくろは『料理』のほう、頼んだぜ」
「あなたもドジを踏まないように頼むわね」
 そしてジェミリアスは料理の腕を振るい始め、アルベルトはそっと家を抜け出し、携帯をかけて今朝方いたバーに電話をかけ、何事かを話すと、その数十分後、ちょうど料理が全て出来上がる頃に、バーの顔なじみから何かを受け取り、礼を言って戻ってきた。
「どうぞ、ミンヤ家の接待料理の一つ、自慢の合鴨料理をたんとご賞味くださいませ」
 にこやかに、食器が乗せたカートを押しながら、アルベルトが開けた扉をくぐってくるジェミリアス。
 料理も確かに目を瞠るものだったが、男達は何よりもジェミリアスの美しさに思わず唾を呑み込んだ。
「では、頂こう」
 サングラスの男、レナス・ミツミヤだけは態度を変えず、冷静に料理を口に運ぶ。その間にもフォークを取り替えたりと、ジェミリアスとアルベルトは働いた。
「ワインは如何でしょう?」
 柔らかな物腰のジェミリアスにも、レナスは静かに首を横に振っただけだ。
 ───だが。
 その5分後には、そのレナスを筆頭に男達は深い眠りに落ちていたのだった。
「無味無臭の睡眠薬。効っくねぇ」
 アルベルトが先刻バーの顔なじみから受け取っていたのはその「睡眠薬」で、それを料理に仕込んだのはジェミリアスであった。
「さ、さっさとすませてしまいましょう」
 同じくアルベルトが睡眠薬と一緒に顔なじみに頼んで渡してもらった注射器とその中身を見ながら、ジェミリアス。
 三人の首の後ろにプツプツと軽く打つと、「はい、終了」とアルベルトはにやりと笑った。



 数十分後。
 確かに自分達の身体には「この細菌」の抗体は出来ているはずだったのに、と酷い咳をしながら、三人の男達は接待室で苦しみつつも悔しがっていた。
「でも、賭けは賭け。あなたがたはそういう世界でございましょう? ルールは守らないとしまりがききませんわ」
 ジェミリアスの言葉に、レナスは驚いているミンヤ家の者達、特に老人ティラスをサングラス越しに見て、言った。
「分かった。どんな手を使ったか分からないが、確かに賭けは賭け。俺達の負けだ。お前からは手を引く」
 帰るぞ、と言うレナスの言葉に、咳をしながら熱のためふらふら千鳥足のようになりながら、二人の男が続いて家を出て行く。
「やったぁ! ありがとう、おにいちゃんたち!」
 ティコが嬉しそうにはしゃいで、また咳をした。
「これこれティコ、まだ治ってはいないんじゃから、安静にしていよう。じゃが、本当にどうして奴らにわしらと同じ細菌がきいたのじゃ……?」
 不思議そうにジェミリアスとアルベルトを見る、ティラス。
 ジェミリアスは「私は料理の後片付けをしておくから、説明お願いね」と、息子に任せてせっせと働いた。
 アルベルトが説明するところによると、以下のようなことだった。


 まず、ごく稀に「抗生物質に耐性のある細菌」というのがある。
 ジェミリアスとアルベルトは家に入り、ティラス老人やティコ少年の症状を見て、自分達に覚えのある細菌にやられたな、と感じていた。
 その細菌というのが、幸運にもその「抗生物質に耐性のある細菌」だった。
 そういう細菌が潜伏期間を置いている間は、「免疫が出来ている、または抗体が出来ている状態」に見えるが、潜伏期間を越えると、一気に細菌にやられるのだという。
 つまりアルベルトはその細菌を、薬オタクのバーの顔なじみに取り寄せてもらい、彼ら親子がレナス達が眠っている間に打った注射により、潜伏期間を縮め、結果、数十分で細菌が活性化し、ミンヤ家に彼らがばら撒いたという同じ細菌に彼らはやられてしまった、というわけである。


 たくさん礼を言われ、食事までご馳走になってしまい、ニューマン店長にもこのことを伝えておくと大変感謝されて送り出されたジェミリアスとアルベルトだった。



■そして母子(ははこ)の向かう先■

 自分が恩もある一家に予想以上のことをしてくれて助かった、と、ニューマン店長はにこにこ顔で二人を出迎えた。
 ちょうど夜に差し掛かるところだったので、店は閉店してしまい、二人に報酬をそれぞれ聞くと、ジェミリアスはちらりとアルベルトを見て言った。
「私は欧州に戻るのをやめて、セフィロトで息子のパートナーとして塔に一緒に行くことにしたのです。ですから、出来ればバイトの報酬は、セフィロトの塔が出来た当時の設計図なんかがあるととても助かりますわ」
「俺は自動照準連射バルカン砲かその弾を5万発、それが無理なら良心的な販売店の紹介をしてほしい」
 ニューマンは、さすがに目を丸くした。
「どちらもかなり困難なものだな……それに設計図は……うちは元々はバーガーショップだし、そんな当時の技術者の客は知らないんだよ。いたとしても設計図なんて見せてくれるわけがない。だが今回はとても助かったのは確かだし、ちょっと待っていてくれ、伝手を当たってみる」
 そして、奥へ行くとあちこちに電話をかけ始めた。
 電話を切ってはまた別のところへかけ、一生懸命掛け合っている。
 やがてニューマンが戻ってきたのは、それから実に一時間を過ぎた頃だった。考えてみれば当然のことだが、思っていたよりも手に入りにくいものらしい。
「セフィロトの塔の設計図はやっぱり無理だった。すまないね。アルベルトくんの希望のものは残念ながら同じくらい難しくてね……すまないが、私が知っている裏家業の者の伝手で分かった良心的な武器の販売店の紹介状しか渡せない。今晩はホテルかここにでも泊まっていてくれ、私は明日までにその紹介状を書いておくよ」
 二人は頷き、ホテルに泊まることにした。
 風呂に入ってゆっくり疲れを取り、ベッドに潜り込む。
「なあ、おふくろ」
 隣のベッドから、アルベルトが声をかけてくる。うとうとしていたジェミリアスは、寝返りを打って息子を見た。
「マジに一緒に来るのか?」
「一度決めたら変えないわよ、私は」
 そうきっぱりと微笑み、ジェミリアスは今度こそ、眠りについた。



 翌朝、早目に二人はスーパービッグバーガー店を訪れた。客が来てしまっては話がしにくいと思ったのだ。
 ニューマンは既に待機していて、手に二つの普通の形の封筒、だが片方は真っ黒の封筒を持っていた。
「これがアルベルトくんに渡す武器屋への、一般人は知らない道の地図だ。中に入っているから、くれぐれも誰かに盗まれたり渡したりしないよう、気をつけてくれ。伝手の者からつい今しがた届いたばかりだ」
 黒いほうの封筒を、まずジェミリアスに渡す。そして次には、表側に「DEAR.M」と書かれた普通の大きさの封筒をアルベルトに渡した。
「これは武器店『MIYAMA』というところの店長への、私からの紹介状だ。これを持って行けば、希望のものが一つは手に入ることになっている。裏世界も色々と厳しくてね」
「いいえ、これでも充分ですわ」
「ありがとな」
 ジェミリアスとアルベルトがそう礼を言うと、ニューマンはホッとしたように微笑んだ。
 そして、二人は客が来る前に、と、彼に別れを言ってその場を離れた。
「俺はまずここに行って、手に入れてこなくちゃな」
 どこか明るく、アルベルト。
「私もこの地図を誰にも盗られないよう気をつけながら頭に叩きいれる必要があるわ」
 こちらもどこか楽しそうに、ジェミリアス。
 果たして塔では、二人をどんな冒険が待ち受けているのだろうか。
 二人は朝ごはんはどこで食べようか、等と話し合いながら、冒険の入り口へと歩いていくのだった。




《END》
■━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━□
【整理番号(NPCID)】
0544/ジェミリアス・ボナパルト (じぇみりあす・ぼなぱると)/女性/38歳/エスパー
0552/アルベルト・ルール (あるべると・るーる)/男性/20歳/エスパー

【NPC】
☆ニューマン店長☆
☆ティコ・ミンヤ☆
☆ティラス・ミンヤ☆
☆レナス・ミツミヤ☆
■━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━□
こんにちは、いつも有り難うございますv ライターの東圭真喜愛(とうこ まきと)と申します。
この度はご発注、ありがとうございましたv
今回は諸々の事情、特にセフィロトの設定等でプレイングをアレンジさせて頂いた部分が多いのですが、そのかわりにちょっと配達先にてスカッとするものがないかな、と考え、あんなシチュエーションを入れてみましたが、如何でしたでしょうか。
また、今回の報酬ですが、「設計図」。これは少しオープニングでも書いておりました通り、「無茶な報酬」に入ってしまいます。スーパービッグバーガー店は飽くまで「元は普通のお店」ですので、その店長が設計図を持っているのもおかしいですし、まずセフィロトの塔の設計図が手に入る事は不可能ということを担当様からもお聞きしましたので、申し訳ありませんがこれは報酬としてお渡し出来ませんでした。その代わり、アルベルトさんの報酬、「紹介状」と提携した武器屋「MIYAMA」への地図、こちらも結構なものですので、こちらをジェミリアスさんにお渡しすることにしました。ご了承くださいませ☆
今回NPCがとても多かったので、頭の中がごちゃごちゃしてしまったらすみません; 専用オープニングはこれから、次のものも考えております。

何はともあれ、少しでも楽しんで読んで頂けたなら、幸いです。
ご意見・ご感想等ありましたら、お気軽にお寄せくださいませ。
これからも魂を込めて書いていきたいと思っておりますので、どうぞ宜しくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2005/01/20 Makito Touko