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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


 都市マルクト【整備工場】武器マーケット

 ライター:鴇家楽士


 整備工場名物の武器マーケットだ。
 自分にあった新しい武器を探すのも良い。
 頼めば試し撃ちくらいはさせてくれる。弾代は請求されるけどな。色々試してみたらどうだ?
 新しい武器がいらないとしても、今使ってる武器の弾や修理部品を探す必要もあるだろう。
 まあ、楽しみながら色々と見て回ってくると良い。売り子の口上を楽しむのも面白いぜ。
 それに、ここで目を鍛えておかないと、いつか不良品を掴まされて泣く事になりかねないからな。
 何事も経験と割り切りながらも慎重にな。
 あと、掘り出し物だと思ったら、買っておくのも手だ。商品は在庫限りが基本で、再入荷なんて期待は出来ないぞ。


 マルクト整備工場。
 『工場』とは名ばかりで、整備工や闇サイバー医師達が集まっている一区画のことである。
 武器マーケットは、整備工場の名物のひとつで、無数の武器や弾薬、装備品が路上に無造作に並べて売られている。周囲は売り子と客引きが張り上げる声、値段の交渉をするビジターたちの声などで、喧騒に満ちていた。
 その中を、天嵩律杜とフルーク・シュヴァイツは、周囲を見回しながら歩いていく。
「あんたは何を探すんだ?」
 フルークの問いに、律杜はマーケットに目を向けたまま答える。
「前に乗ってたMSが全損しちゃってさ。新しいMSが欲しいと思って」
「ふーん……でもMSなんて、そうそうないだろ?」
「そんなの、探してみなきゃ分からないさ……ところで、キミは?」
 律杜がフルークの方を見ると、彼は陳列された商品は見ずに、何故か空を見上げていた。マルクトは、イエツィラーの内部にあるため、当然、青い空などは望めない。
「俺はHB」
「へぇ」
 それきり、二人の会話は途切れた。
 雑多な音に、身体が包み込まれる。
「あ!」
 突然、律杜が声を上げた。
「どうした?」
 フルークが尋ねると、律杜は黙って視線の先を指差す。そこには、人込みの中にあっても尚目立つ物体が聳え立っていた。
「MSじゃねぇか!?」
 フルークが驚きの声を上げると、律杜は緑の目を輝かせ、頷いた。
「ああ。こんなに早く見つかるなんてラッキーだ。行ってみよう!」


「いらっしゃい!」
 五十代くらいだろうか。頭が禿げ上がり、厳つい顔をした売り子の男の声も耳に入らず、律杜は真っ先にマスタースレイブに駆け寄る。
 流線型のボディに、淡いブルー。そのフォルムは、どことなく現代では見る術を失ったイルカを連想させた。
「改造はしてあるみたいだが……ベースはディスタンみたいだな。装備品も一通り揃ってる。うん、悪くない」
 そうやって品定めをしている律杜に、店主が再び声を掛けてきた。
「兄さん、どうだい?中々のモンだろう?」
「買うよ」
 律杜は迷わず即答していた。店主に価格を言われ、ポケットから財布を出すと、中身を確認する。
 そこで、動きが止まった。
 財布を隅々まで引っ掻き回してみたり、逆さまにしてみたりするが、それで新たな金が出てくるわけでもない。
「親父、このくらいにならない?」
 引きつった笑みのまま、律杜は指を数本立てる。それを見た店主は、思わずというように吹き出した。
「バカ言っちゃいけねぇよ兄さん。曲がりなりにもMSだぜ?そんな値段で売ったら、こちとら商売上がったりだ」
「そうだよな……」
 律杜は俯くと、大きく溜め息をついた。


「そんな落ち込むなよ。またそのうち見つかるって」
「『MSなんて、そうそうない』って言ったのはキミだろ?」
「まぁ、そうだけどよ……ホントは金貸してやりたいとこだが……俺も手一杯だしな……」
「気持ちだけありがたく頂戴するよ」
 結局、律杜は資金面でマスタースレイブを諦めるしかなくなり、二人はフルークのハイドバッテリーを買うために、移動を始めていた。
「あそこなんかどうだ?」
 律杜が示した方を見ると、ハイドバッテリーが無造作に積み上げられている店がある。
「お、いいかも」
 二人は、その店へ足早に近づいていく。


「これは……ジャンク品だな。あ、こっちは結構よさそうだ」
 その露店の店主は、赤毛の少女だった。無表情で、商売をする気があるのかどうかも分からない。マルクトは、一言で言えば危険な街である。だが、皆生きるのに必死だ。そこには年齢も性別も関係なかった。
「決まったか?」
「ああ、これにする」
 律杜の言葉に、フルークは笑顔で頷いた。
 と、その視線がある一点に向けられる。
「どうした?」
「あれ……何だ?」
 多数のハイドバッテリーの中に、フルークは奇妙な物体を見つけた。律杜もゆっくりと視線をそちらへと遣る。
「ん?竹とんぼ……か?」
「タケトンボ?」
 律杜はその物体を手に取ると、不思議そうな顔をしているフルークに説明し始めた。
「ああ、日本の工芸品……というか、子供の玩具だな。回転させて、空に飛ばして遊ぶんだ。普通の竹とんぼはもっと小さいんだが……どちらにしても、似せて作ってあるんだろうな。塗装とかも竹っぽいし」
 律杜は、日本出身なので、何となく懐かしそうにそれを眺める。
「それ、飛ぶのか?」
「飛ぶんじゃないかな……多分」
 急にフルークの目が輝き出したのに戸惑いながらも、律杜は答える。
「そうか……飛ぶのか……」
 フルークは、灰色の空を仰ぎ、呟いた。


「キミも物好きだな」
 律杜に言われ、フルークは口の端を上げる。
「だって、空を飛ぶんだぜ?欲しいじゃねぇか」
 彼は、小脇にハイドバッテリーを抱え、片手で『竹とんぼ』を持ち、ゆらゆらと揺らしていた。
 結局、フルークはその奇妙な物体に惹かれ、ハイドバッテリーと一緒に購入してしまったのだ。
「空は男のロマンだからな」
「マルクトじゃ、空なんて見えないだろ」
 呆れたように呟く律杜の言葉を無視し、フルークは尋ねる。
「で?これ、どうやって飛ばすんだ?」
 すると、律杜は「仕方ないな」と言って肩を竦めると、横から手を伸ばし、それをひょい、と摘み上げる。
「こうやるのさ」
 そして、柄の部分を両手で挟み、勢い良くスライドさせた。
 その途端。
 微かなモーター音がし始めたかと思うと、『竹とんぼ』は物凄い速さで回転を始める。
「え?」
 律杜の上げた疑問の声を後方に置き去りにし、『竹とんぼ』は大きくカーブを描きながら、人通りの多い方へと飛んでいった。
「何だこりゃ!?」
「うわっ!俺の服が!!」
「痛ぇ!」
 どうやら、怪我人まで出ているらしい。
「とにかく、追うぞ!」
 律杜の言葉にフルークも頷き、二人は駆け出した。


「見つからねぇなぁ……」
「そんなに落ち込むなって」
「だってよぉ……せめて、俺も一回飛ばしてみたかったなぁ……」
 あれから二人であちこち探し回ったが、『竹とんぼ』は発見できなかった。しょげているフルークの肩を、律杜が軽く叩く。
 その時。
 悲鳴が上がった。


「ハッハァ!」
「これもいただきだ!」
 数名の男たちが、拳銃を手にし、露店を次々と襲っている。店主たちは抵抗するものの、拳銃を突きつけられればなす術もなく、売上金と思われるものを、震えながら差し出していた。
 その中には、先ほどのマスタースレイブを売っていた店も含まれていた。そこの店主が律杜の姿を認めると、縋るような声で言う。
「ああ、兄さん!あんたビジターなんだろ?強いんだよな?頼む、何とかしてくれよ!」
 律杜はすぐさま頷きかけたが、ひとつの考えが浮かび、店主の瞳を真っ直ぐに見つめながら言う。
「分かった。ただし条件がある」
「条件?」
「俺たちがあいつらを捕まえたら、報酬として、そのMSを貰う」
「そ、そんな……」
 店主は悲痛な顔で律杜を見ていたが、やがて意を決したのか、渋々ながらも頷いた。
「――仕方ねぇ!俺だってマルクトの男だ!MSは兄さんにやるよ!その代わり、必ずとっつかまえてくれよ!」
「交渉成立だな。了解した」
 律杜はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、犯人たちが走り去った方角へと向かう。フルークもそれに続いた。


「おい、キミたち」
「何だぁ?お前」
 律杜が声をかけると、男たちは一斉に振り向いた。
 ――その数、六名。
「余裕だな」
「ああ」
 フルークの言葉に、律杜が前を見たまま頷く。男たちが下卑た笑い声を上げた。
「何が余裕だって?」
「コレが見えねーの?」
 六人がそれぞれ手に持った拳銃をちらつかせる。
「リボルバー拳銃ごときで、俺に勝てると思ってるとはね」
 鼻先で笑った律杜に、男たちの顔が歪んだ。
「何だとぉ?」
「ぶっ殺す!!」
 その瞬間、こちらへと向けられた銃口が一斉に火を噴いた。
「――何っ!?」
 驚愕の声を上げたのは、男たちの方。
 律杜とフルークを包みこむように、白く発光する球体が発生していた。銃弾は、全て地面へと落ちている。律杜がPKバリアーを発動させたのだ。
「出る」
 フルークの言葉に、律杜がバリアーを一時的に解く。
「殺すなよ」
「分かってるって」
 フルークは律杜に親指を立てて見せると、足に取り付けた飛行補助具を起動させ、素早く一人の男に近づき、腰に帯びていたチェーンで絡め取った。
「ぐはぁっ!」
 男は身体にチェーンを巻きつかせ、芋虫のようになり、地面へと転がる。
「さてと」
 そう呟いた律杜の身体が白く輝いたかと思うと、瞬時に消え去り、次の瞬間には一人の男の目の前に現れる。そして彼が男に向かい手をかざすと、青白い光が解き放たれ、男は悲鳴を上げる間もなく気絶した。
「あと四人」
 フルークが、近くに転がっていた鉄パイプで、別の男の後頭部を殴る。男は悶絶し、その場に蹲った。
 律杜は先ほどと同じように、また別の男にテレポートで接近し、エレクトリックで麻痺させる。
 残りは二人になった。
「キミたち、そろそろ観念したら?」
 律杜が挑発的な言葉を投げかけると、二人の男は、悔しそうに表情を歪め、背中を向けて走り出す。
 その手に、何かが見えた。
「フルーク!」
 律杜が呼びかけると、フルークが再びPKバリアーの範囲内へと戻ってくる。
 その瞬間。
 轟音と共に、何かが破裂した。
「――催涙ガス弾か」
 辺りにはもうもうと煙が立ち込めている。テレポートを使おうにも、視界が遮られているのでは難しい。
「どうする?逃げられちまうぞ」
「とりあえず、追うしかないだろう」
 二人は、バリアーに守られながら、煙の中を移動した。しかし、相変わらず前が見えない。
 その時。
「痛ててて!」
「おわっ!何だこりゃ!?」
 前方から、男たちの情けない声が聞こえてきた。
 やがて、視界が開ける。
「あ、タケトンボ」
 フルークが呟く。
 目の前には、先ほどどこかに行ったはずの『竹とんぼ』が、男たちに襲い掛かっている光景があった。
「とにかく、行くぞ!」
「おう!」


 こうして、強盗たちは全て捕らえられた。
「兄さんたち、やっぱ俺の見込んだ通りだ!強ぇな!」
 先ほどの店主を筆頭に、周囲の人々が歓声を上げる。
 律杜は既に、貰い受けたマスタースレイブに乗り込んでいた。
「これって……武器だったんだな」
 フルークが、動きを止めた『竹とんぼ』を拾い上げ、しげしげと見つめる。
 すると、その姿を眺めていた人々が、急にざわめき始めた。
「あ!それ、俺の腕にケガさせた奴だな!」
「あたしの服もズタズタになったよ!」
 歓声が、次第に非難の声へと変わっていく。
「……帰るとするか」
 律杜がマスタースレイブのハッチを閉める。
「……そうだな」
 フルークも飛行補助具を起動させた。


 人々の声が遠ざかっていく。
 見上げた空は、相変わらず灰色だった。


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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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■0518/天嵩・律杜(あまがさ・りつと)/20歳/男性/エスパー

■0538/フルーク・シュヴァイツ(ふるーく・しゅヴぁいつ)/26歳/男性/エスパーハーフサイバー

※発注順

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして。今回は発注ありがとうございます!鴇家楽士(ときうちがくし)です。
お楽しみ頂けたでしょうか?

初めて発注を頂いた方で、毎回迷うのが、口調と雰囲気です。あのような感じになりましたが、大丈夫でしたでしょうか?イメージ通りに仕上がっていると良いのですが……

■天嵩・律杜さま

今回はMSを手に入れて頂きましたが、フォルムなどは、僕の好みで勝手に決めてしまいました。気に入って頂けることを祈ります。


■フルーク・シュヴァイツさま

竹とんぼのプレイングをどう生かすか、かなり悩んだのですが、あのような感じになりました。そして、アイテム欄をご確認下さい。『竹とんぼ』が追加されています(笑)。

それでは、読んで下さってありがとうございました!
これからもボチボチやっていきますので、またご縁があれば嬉しいです。