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EP1:The First Contact
人気のない薄暗い路地裏を少女は歩いていた。
「近道だと思ったんですけど……こっちでしょうか」
少女の名前は響月・鈴音。十代前半のボディを使用しているために、12、3歳に見えるが現在21の年を数える列記とした成人女性である。
マルクトの片隅、ジャンクケーブと呼ばれるガラクタでできた街の路地裏で鈴音は途方に暮れていた。
「困りました」
此処はどこでしょう?治安の良くない薄汚れた街。多少腕に自身があるとはいえ、彼女も女性。不安なものは不安なのだ。
「あれ……?」
路地の先から歌が聞こえた。歌に導かれるように、路地を進んだ鈴音は開けた空間で足を止めた。
廃墟になった教会。周りに廃棄されたガラクタが積み上げられているとはいえ、マルクトの中において珍しい広い土の広場が広がっていた。
『う〜な〜』
広場に集まっていた猫が鈴音の姿を見て、警戒の声を上げる。
「えっと、ボクは怪しい人物じゃないです」
猫達の警戒に慌てて、手を振った。
「だぁれ?」
猫たちに囲まれて、地面に何かを描いていた少女が顔を上げた。ふわふわの肩までの髪の間から覗く瞳は、金色。鈴音よりも1つか2つ幼く見える少女。
「ボクは響月 鈴音です」
キミは…?鈴音の問いかけに、小さくはにかみながら、少女は名前を告げた。
「アシャ」
この辺りでは珍しい、真っ白なワンピースを着た一人の少女。
「アシャクンですか」
「鈴音、迷子なの?」
「え?」
「此処に来る人は大抵、迷子さんなの」
パンパンとスカートの埃を払い、アシャは立ち上がった。
「アシャもそろそろおうちに帰るから、鈴音の分かるところまで一緒に行ってあげる」
「ボクは迷子じゃないです」
「そうなの?」
「そうです。少しだけ、遠回りをして家に帰る途中で、新しい道を通っているだけです」
もごもごと、言い訳をする鈴音にアシャが不思議そうに小首をかしげる。足元では真似でもしているつもりなのか、同じように少し大柄な三毛猫が首を捻る。
「この辺は危ないから、ボクが送っていってあげます」
女の子の一人歩きは危険です。と、鈴音は迷っていたことをごまかす様にアシャの手をとった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
外見につられているのか、実年齢に比べてやや幼いところがある鈴音と、アシャはすぐに打ち解けた。
「この猫クン達は、アシャクンのお友達ですか?」
「うん。しっぽと、みみと、ひげと、にくきゅう」
きちんと自分達の名前が分かっているのか、個性的な名前を呼ばれた猫が1匹ずつ『な〜ん』と返事をする。
「アシャクンは、学校に行っていますか?」
「?」
気になっていたことを、鈴音は切り出した。高校の非常勤の講師をしている彼女はアシャを見た時から、そのことを気にしていた。真剣な眼差しになった鈴音に困惑しながらアシャはふるふると首をふった。
「がっこうってなぁに?」
足元を一緒について歩く、猫を一匹抱き上げ無邪気に尋ねる。
「勉強をするところです」
「べんきょ?」
なんだろうねと、猫の喉をくすぐる。ある意味で無法地帯ともいえる、マルクトでは彼女のように学校に行かずにいる子供も少なくはない。
その言葉に鈴音の教師魂に火が付いた。
「これが『あ』で、これが『し』こっちの小さいの文字が『や』です」
先生の後に付いて言ってみてください。地面に書いたアシャの名前を指差しながら声を出す。
鈴音が名前を書いている横に並べられた、頭でっかちの猫や花の落書きはアシャのもの。
「これがアシャのお名前?」
落書きをしてた手を止め鈴音の手元を覗き込む。
地面に書かれた文字をなぞりながら、アシャが小さく呟いた。
「そうですよ」
猫たちも興味深そうに、二人の指元の地面の匂いを嗅いでいる。何度も、声を出しながらアシャは自分の名前を繰り返し地面に書く。
「鈴音のお名前は?」
「先生の名前は……」
アシャの名前の横に、『す』『ず』『ね』と書き添える。
「ねぇ、鈴音。せんせぇってなんのこと?」
この子は何も知らないらしい、少しだけ胸に小さな痛みを覚えたが、鈴音はにこりと微笑みアシャの頭を撫でた。
「ボクのお仕事のことです。学校にきてくれるみんなに勉強とかいろいろなことを、教える人を先生っていうんです」
知らないのなら、教えればいい。まだこの子は幼いのだから。
アシャの指の動きをおって、傍で見てた猫たちがふんふんと顔を動かしている様子を鈴音は複雑な心境で見つめていた。
みてみてと猫たちに自分が書いた名前を見せる。
「アシャのお名前だよ」
多少形が崩れていたり、『や』の点の位置がおかしかったりするのはご愛嬌だ。
「こっちが鈴音のお名前」
こちらは見事に『す』の丸める方向が逆になっている。
じーっと、アシャに文字を教える鈴音の様子を見ていた猫のうち、一番体格の良い猫がおもむろに地面に体をこすり付けた。丁度そこは砂の地面に書かれた文字上。ほこりで体が汚れるのも気にせず、猫はごろごろと転がり文字を消してしまう。それを見ていた、他の猫たちも真似して地面に体をこすり付けた。
「あー、ひげ!消しちゃだめ」
アシャのお名前なんだから。初めて書いた自分の名前を消されて少女は頬を膨らます。体格の良い猫は、そんな少女の抗議に耳を貸さずまるで撫でろ、というようにその太い腹を鈴音とアシャの前に晒した。
「今日はここまでみたいですね」
遊べと主張する猫たちの姿に苦笑しながら、鈴音は立ち上がった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ヘブンズゲートの近くでアシャは足を止めた。
「ここまで来たら、鈴音大丈夫?」
「えぇ、ここからなら……」
なんとなく分かります、見慣れた道にほっとしたのか思わず本音が漏れる。
「やっぱり、鈴音迷子さんだったんだ」
くすくすとアシャが無邪気に笑う。
「アシャのお家ここから近いから、もう行くね……そうだ、鈴音にアシャの宝物あげる」
小さな袋を無理やり鈴音の手の中に押し込み、少女は手を振りながら猫たちと一緒に路地の向こうに駆け去った。
『アシャのお名前教えてくれてありがとう、またいろいろ教えてね。せんせ♪』
鈴音の耳元にそう囁き、駆け抜ける風のように、姿を消した。
静止の言葉をかける間もなかった。慌てて少女の後を追って、駆け去った路地に走りこんだがそこは行き止まり。まるで幻のように姿を消していた。
「あの子はいったい……」
荒んだこの地に似つかわしくない程、純粋な心の少女。
「また会えるでしょうか……?」
きっとまた会える、彼女から受け取った袋の中が今までの事が現実にあったのだと告げていた。
今度あったら……どんなことを教えてあげようか?鈴音は手の中の袋を暫く握り締めていた。
【 To be continued ……? 】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0499 / 響月・鈴音 / 女 / 21歳 / オールサイバー】
【NPC / アシャ】
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■ ライター通信 ■
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響月・鈴音様
初めまして、はると申します。
この度は、ゲームノベルに御参加ありがとうございました。
学校の先生ということで、アシャに名前の書き方を教えて頂きました。勝手に迷子にしてしまって申し訳ありません(汗)
ギャグ……というよりもほのぼのしてしまっていますが、楽しんでいただければ幸いです。
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