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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【ショッピングセンター】救援

ライター:青猫屋リョウ

【オープニング】
 ラジオビジターを聴取中の皆さん、番組の途中ですけど、ここでレアに緊急通信が来てますよ〜
 報告者はラジオネーム『恋するビジター』さん。えーと‥‥ショッピングセンターで偶然、救難信号をキャッチ? 救援に行きたいけど、弾薬がもう少ないから自分は行けないと。
 ふみふみ、リスナーの皆さん、ショッピングセンターから救難信号の発振を確認しました。
 余裕のある方は、救援に向かってくれると、レアは嬉しいです。
 敵の罠って事もあるし、助けに行ったら大戦力がって事も有り得るから、十分に注意してね?
 では、救援に向かう皆さんへ、レア一押しの曲をプレゼント。
 と、その前に、救援に向かう皆さんは、今から言う周波数に通信機をあわせてね? それで、救難信号をキャッチできるはず。


 通信機に繋いだイヤホンからは耳障りなノイズの混じる甲高い信号が絶え間なく響いている。廃墟の角を一つ曲がるたびに音は高く低く波を刻み、不快に鼓膜を刺激した。
 白神空は顔をしかめて、耳に蓋をするように掌でぎゅっと押さえた。
 ゲートを出て歩くこと数十分、向かっている先はショッピングセンターと呼ばれる一角だ。そこでタクトニムに襲われているであろう人間を助けに、空はわざわざ出向いている。
 ラジオ放送中に入った救難信号に反応してのことだが、ラジオを聴いていた人間が少なかったのか、薄情な人間が多いのか――遺憾なことに救援に向かう人間の姿はほとんど見られない。
「まったく、ろくでもない奴ばっかりね」
 そう、自分で言った台詞に自分で受けて笑う。コンクリートに笑い声がころころと反響した。
 「人道」やら「助け合い」やら。そんなことは空にとっても建前だ。空が自分から動く時は十中八九、本能に従っている時だ。もちろん今回もその法則に違わない。
 くすりと笑って空は信号のノイズに耳を傾ける。
「……襲われてるのが可愛い子だといいんだけど」
 不謹慎な願望を胸に、空は身軽に瓦礫を飛び越えた。


 センター内に入ると、信号はよりノイズを増した。
 危険度が高いと言われているこの場所だが、その名に恥じず、大手を振ってタクトニムが徘徊している。空は早々と「玉藻姫」に変身し、気配と痕跡を消して行動していたが、そのせいで探索は遅々として進まない。加えて、妨害電波でも出ているのか、救難信号がノイズばかりになる。
 ――役にも立たない。
 チッと軽く舌打ちをして、空は耳からイヤホンをもぎ取った。
 信号の間隔からして、だいぶ近くまでは来ているはずなのだが――。
 辺りを見回すが、右も左も代わり映えのしない灰色の壁だ。違いは崩れているかいないかくらいのもので、空でさえ方向感覚が狂いそうになる。道順を良く覚えておかないと、脱出するにも差し支えるだろう。
 タクトニムの動きと目印に目を配りながら、空は慎重に進んで行った。


 しばらく進むと、空の耳は反響する銃声を拾った。
「……あっちね」
 音を追って走り出す。
 元はホールか広めの売り場だったのだろう、少し開けたフロアに、何体ものタクトニムが集まっているのが見えた。
 そして、銃声。
 タクトニムの輪の中に人影が見える。
「…………」
 空は足を止め、状況を見定めるべく目を凝らした。
 二人――いや、三人いるうち、生きているのは一人のようだ。残りの二人は床にくずおれてぴくりとも動かない。おそらく、既に冷たい屍と化しているのだろう。
 タクトニムは五体ほど。ケイブマンと小型のシンクタンクが入り混じっている。絶え間なく発射される銃弾のせいでなかなか生き残った一人のところまで行き着けないようだが、それも時間の問題だろう。
 そして、空にとってはもっとも重要な要素である、襲われている人間の外見はと言うと――。
「……合格」
 唇を左右に吊り上げ、満足げに赤い舌でぺろりと舐める。
 タクトニムを相手に必死の防戦を繰り広げているのは若い男だ。空の好みからすれば少し年は行っているが、世間ではまだまだ若造とされるような年頃だろう。顔も悪くない。
 俄然やる気が出た、と言う風に空は髪をかき上げる。
 一息に床を蹴ってタクトニムの側に飛び出し、尖らせた爪で一体のケイブマンの腕を切り裂いた。
 ぶしゅ、と切断された血管から気味の悪い色の体液が噴出す。濁った色の骨が見えるほど深く切りつけられたケイブマンは、巨体に似合わない甲高い咆哮を上げて飛び退る。そしてバランスを崩し、床に倒れ込む。タクトニムたちの隊列が乱れる。
 突然現れた空に困惑するケイブマンたちとは違い、さすがにシンクタンクは反応が早い。いち早く空を危険だと認識し襲い掛かってくる。
 鉄は爪では切り裂けない。空が飛び上がって身をかわしたところで、シンクタンクに銃弾が打ち込まれた。
 男はマシンガンの振動で覚束ない舌で叫ぶ。
「助けに来てくれたのか!?」
「そうよ!」
 うるさいほどの銃声に、空も叫び返すと、身を翻して別のケイブマンに切り付けた。
 剥き出しの筋肉に覆われた喉元がぱくりと裂け、体液が噴き出す。叫びはごぼごぼと体液の漏れる音にまぎれて消えた。
 ケイブマンたちに混乱が広まったその隙に、空は男の下に駆け寄る。
「大丈夫?」
「あ、ああ……なんとか」
「逃げるわよ。掴まって」
 男に肩を貸して立ち上がると、混乱するタクトニムたちをやり過ごして、枝分かれする通路の一本に逃げ込んだ。


 フロアをいくつか移動してしまえば、タクトニムたちもさすがに追っては来ない。
 瓦礫の影に男を座らせて、空はひとまず安心してため息をついた。
「う……」
 男が低く呻く。空は慌てて男の側にしゃがみこみ、怪我の具合を看始めた。
 それほど深い傷ではないが、とにかく数が多い。大量の血を失っているらしく顔色が悪かった。
「……俺は、死ぬのか?」
 縋るような目つきで見上げてくる男に、空は笑って首を横に振った。
「大丈夫よ、すぐ、マルクトまで連れ帰ってあげるから」
「……すまない……」
 蚊の鳴くような声で呟くと、男はがくりとうなだれた。血を失いすぎて意識が飛んだようだった。
 ――とは言ったものの。
 大の男一人を担いでマルクトまで連れ帰る労力を思い、空は軽くため息をついた。ショッピングセンターを出れば天舞姫で飛んで帰ればいいが、ここを出るのが一苦労だ。
 空は両手で男の頬を挟んで自分の方に向けると、
「高くつくわよ、判ってるの?」
 当に聞こえていないだろう相手に向かって言い、くすくす笑う。
「――まぁ、身体でたっぷり払ってもらうけど」
 空は笑いながら顔を寄せ、男の頬に軽くキスを落とした。


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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0233】 白神・空


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつも有難うございます。青猫屋リョウです。
 今回は救出劇ということですが、アクションシーンがあまり得意ではないので、お気に召していただけるか少し不安になっております。なにかまずいところがございましたらお知らせください。
 それでは、またお会いできることを願って。