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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


片付けに埋もれる一日を詠みける
〜セフィロトにて

「♪Vide 'o mare quant' e bello! Spira tantus sentimento,〈うるわしのソレント、海原遙かに……、〉♪」
「――何ですの、暗いですね」
 神父の自室に洗濯物を干しながら、歌う神父を振り返ったのは、教会のシスター、カタリナ・ルイージャであった。
 『Torna a Surriento〈帰れソレントへ〉』――すなわち、故郷でもあるイタリアの歌を口ずさむ部屋の主、フォルトゥナーティ・アルベリオーネは、あ〜……と、色々なものが所狭しと積み上げられている机の上から顔を上げると、
「陰干しは嫌いなんだよ、カタリナ……しかも、どうして、何が悲しくて、自分の部屋に洗濯物を干さなくちゃならないんだよぅ」
「仕方ありませんわよ。狭いんですもの。まさか神の御前に洗濯物を干すわけにも参りません。となれば、自己責任で、自分の物は自分の部屋に干して乾かすしかありませんでしょうに」
「あのね、知ってる、カタリナ? 陰干しするとね、洗濯物って、臭くなっちゃうんだよ……? それにさ、何ていうか、吊るされた洗濯物見てると、高い所って怖いなぁ……って、そんな気がするわけで、」
「ちゃんと陰干しに向いている洗剤を使っているので、心配ありません。それに、外に洗濯物を干すって言ったって、出入りするのにも一苦労――きゃっ?!」
 と、唐突に。
 悲鳴を上げたカタリナの姿が、フォルの視界からすっかりと消える。
 ……あ、マズイ。
 フォルが思った、その瞬間。
「いっ……いい加減にしてくださいっ!!」
「うわあっ、ごめんっ、ごめんってば! 片付ける! 片付けるから許してっ!」
 確かに、フォルの部屋には、様々なものが何の規則も無く山積みされ、平積みされて落っこちていた。
 ――この神父が片づけを苦手としているのは、イタリアから『セフィロト』に赴任させられてきてからも全く変わってはいない。
 カタリナは、洋服かけに掛けられた残りの洗濯物を、何の前触れも無く振り返ったフォルの方へと投げつけると、
「もう知りません。自分で全部なさってください」
「ちょっと待ってよ! 見捨てないでっ! ねえカタリナっ! あー……!」
 そのまますたすたと、自分の部屋の方へと消えて行く。
 フォルは大きく溜息を吐くと、
「また誰かに手伝ってもらおうかな……」
 無責任に、いかにも片づけを手伝ってくれそうな、教会に来る面々を思い浮かべたのであった。


I

「あれ、フォルったら、いめちゃんしたの?」
 ひっさしぶりっ! と。
 ある日教会の礼拝室には、カタリナに飛びついた暫く後、あ、フォルいたんだ……と思い出したかのように顔を上げる、小さな少女がいた。
 ――プティーラ・ホワイト。
 純白、という言葉の似つかわしい小さな悪戯天使のような少女は、フォルやカタリナにとっては馴染みの顔であった。
「イメチェンって……」
 確かにプーの指摘した通り、イタリアにいた頃は長い僧衣を身に纏っていたはずのフォルが、今はズボンにローマンカラーという装いになっている。
 フォルは、上着を何気無く引っ張りながら、
「この場所であの恰好はちょっと、って、キウィさんやシオンさんからも言われたし、確かにそうかもって思っただけの話ですよ?」
「でも、神父にはこういう恰好も似合うようで、良かったですよ」
 その横から小さく笑って言ったのは、黒めの肌に粉雪色の長い髪がよく映えている青年、キウィ・シラトであった。
 キウィは、フォルがセフィロトに赴任した当初から、暇を見ては教会に顔を出していた。曰く、セフィロト内の先端技術等に興味があり、また、父親のことが心配でここまでついてきていたのだという。
「ちょっと前に、神父が道端の金属片に躓いて転んだ時は、本当に心配でしたから」
「キウィ、人の心配ばかりしていないで、自分のこともきちんと心配しなくてはならないぞ?」
 キウィも人のことばかり言えないのだから……と、心配そうな視線で息子を見遣ったのは、シオン・レ・ハイ――青い瞳にそこはかとなく厳格な色を灯しているようにも見える、髭のよく似合う中年男性であった。
 キウィは父親の言葉に、くすり、と笑い声を洩らすと、
「シオンも心配性なんですから。私は、大丈夫ですよ」
「あまり心配させないでくれ。怪我でもしたら、大変だからな」
「シオンこそ。あまり怪我ですとかは、してこないでくださいよ」
「ん? 私は大丈夫だ」
 父親の言うことは、信用できない――。
 ごく稀にキウィには、こう思うことがあった。
「大丈夫なら、よいのですけれど」
 セフィロトでビジターとしても活躍しているシオンは、キウィによく、部品等を手土産代わりに持ち帰ってくることがある。――ただし一方で、父親自身がどこそこ壊れて帰ってくることも、初中後あるのだ。
 シオンの修理をするのは、大体はキウィの役目であった。
 壊れて、或いは、修理という表現は、
 ……あまり好きでは、ないのですけれども。
 でもまあ、今日のところはそのようなこともなさそうですからね、と、ふと思い返したように安心したキウィの横から、
「それにしても、人手が足りないって……たった部屋一つを片付けるのにか」
 相変わらずの仏頂面で言い放ったのは、カヤ・カズオミであった。
 あまり見た目に拘らない性質であるのか、機械の剥き出しとなっている右腕を全く隠そうともせずに両腕を組みながら、
「教会の中は、こんなに綺麗なのにな」
 すっきりと片付いた周囲に視線をやり、そのままフォルに、無言のままで問いかける。
 で、片付けるのはどこなんだ?
「だって……僕の部屋なんですもの。カタリナは僕の部屋は片付けてくれないから」
「まるでそれでは、神父様は片付けをなさったことがないみたいですね」
 プーとの感動の再会を終えたその後は、礼拝室の椅子に腰掛け、黙々と本を読み続けていたカタリナを一瞥して苦笑したのは、クレイン・ガーランド――色素の薄い外見が、そこはかとなく儚くも見えるスーツ姿の青年であった。
 神父様のお仕事は大変そうですね、と。
 少しご挨拶でも、と思いまして――と教会にやってきていたクレインは、たまたまフォルの片付けを手伝うことになってしまっていた。
 ふ、とカタリナが、そんな人の善いクレインへと一言、二言。
「フォルは片付けなんてしたことがありませんわ。イタリアにいた頃からこうでしたもの」
 本から少し顔を上げて、冷ややかな声音で言い放つ。
 フォルは一瞬、ぞっと背筋が凍りつくのを感じていたが、
「……あ、じゃあ、――早速、皆さんには片付けを手伝ってもらえたらなぁ、と……」
「あ、ちょっと待って!」
 そこに慌てて待ったをかけたのは、フォルったら相変わらず駄目神父だあ……とにこにこ笑っていた、プーであった。
 プーはじぃ、と銀色の瞳でフォルを見上げると、
「左遷おめでとうっ!」
「左遷じゃなああああああああああああああい!」
 刹那、ここが神の御前であることも忘れ、フォルが絶叫する。
 左遷、左遷、左遷って!!
「僕は左遷されたんじゃないのっ! きっとそうだよ、そうなんだからっ!」
「あー、フォルったらきっと、って言った! ってことは、確信は無いんだ?」
「左遷じゃないんですからっ!」
 フォルは床に屈みこむと、がっくりと項垂れてのの字を書きながら、そのまま黙り込んでしまう。
 フォルも思い返せば、確かにイタリアにいた頃から、散々そう言われてきたのだ。自分のセフィロト行きが決まった頃から、カタリナ、チェーザレをはじめとして、信者の人や、町中の人、
 それから、それから……、
「フォル。このような場所で叫ばないでください」
「あ、プーね、カタリナにお土産持ってきたの。クッキー!」
 さらりとフォルを窘めたカタリナの傍に駆け寄ると、プーは小さな鞄の中から、愛らしい包みを取り出して見せた。
「引越しのお祝いに買ってきたの」
「まあ、……ありがとうございます」
「左遷されたんじゃあなくて――きっと左遷なんかじゃないわけで……」
 笑い合う二人には、フォルの言い訳など欠片ほども聞えてはいなかった。
 そうして、暫く。
 カタリナの笑顔を嬉しく見ていたプーが、踵を返してフォルへと向き直る。
「あ、それからフォルにはこれ」
 顔を上げたフォルの目の前に、茶色く干からびたものをちらつかせる。
「セミの抜け殻!」
「空を飛ぶのはイヤなんだああああああああああああああああっ!!」
「相変わらず高い所が苦手なんですね」
 苦笑しつつ言うシオンに、
「えー、プーはとっても面白かったよ。鳥さんとこんにちはしたりとか……」
「僕はもう二度と飛行艇になんて乗りたくないし、」
「でも乗らないと、イタリアに帰れないよね! 一生ここにいるつもりなのっ?」
「それもイヤぁあああああっ?!」
「じゃあねっ、これをお守りにするといーよっ!」
「どうしてそういう話になるのっ!」
「だってセミって、空飛ぶし」
 だから、無事に空の旅ができますよーに、っていうお守り!
「そんな……プーちゃん酷い……!」
「神父、そろそろ落ち着かないと、カタリナが怒っていますよ」
 二重の意味で見かねたキウィが、ひそりとフォルに耳打ちする。
 フォルはそこで、ようやく我を取り戻したかのようにして立ち上がり、
「……とにかく、手伝ってください。宜しくお願いします」
 こほん、と今までの流れを誤魔化すかのように、一つ咳払いをする。
「まあまずは、状況を見て、だな」
「そうですね。それからでないと、話にはなりませんから」
 カヤとクレインとが場を纏めた途端、何の前触れも無くカタリナが本を閉ざし、その場にすっくと立ち上がると、
「それでは、フォルのことは宜しくお願い致しますわね。――きっちりしばいてくださってかまいませんので」
「しばくって……」
「あ、それから、プーちゃんには、ちょっと手伝ってほしいことがあるんです」
「うんわかった! じゃあプーは、カタリナのお手伝いしてからそっちに行くねっ」
 やはり、フォルの抗議など欠片ほども気にしていないカタリナから手招きされると、すぐさま皆に向かってバイバイ、と両手を大きく振り、プーがカタリナの後に続く。
 ――五人が片付けるべき部屋へと向かったのも、もう間も無くのことであった。


II

「人手が足りないというのも、無理は無い……な」
 曰く、フォルの部屋≠フ戸を開けた瞬間、その動きをぴたり、と止めてカヤが言う。
「それにしても、どうやったらこんなに散らかるんだ?」
 ――人手が足りないんですっ!
 そう呼ばれてここへとやって来ていたカヤではあったが、部屋の惨状を一目見るなり、心底その言葉に納得してしまう。
 その部屋は、もはや部屋というよりも、地震の起こった後の倉庫とでもいった方が似つかわしいような状況であった。
 散乱する本、その合間に器用に埋もれる様々な物達。部屋の隅には積み上げられたダンボールがあり、適当に設置されている本棚は全く意味を成していない。
 フォルは、絶句する四人を微苦笑しながら見遣り、
「どうやってって、それは、普通に生活していたら、」
「こうは、なりませんでしょうね」
 クレインの静かな一言に、フォルがもういいです……と項垂れていたのは皆で無視することとして、
「まずは、全て外に出してしまいませんか?」
 ざっと部屋を見回し、一体ここはどこの異次元でしょう……と苦笑しつつも一番初めにそう提案したのは、シオンであった。
「ざっと物を分類しながら、ですね」
「本も後ほど、種類毎に分けて整理してゆくのが良いでしょうね。このままでは、何が何だかわかりませんから」
 散らかるのも、無理はありません。
 ぱっと見ただけでも様々な分野の本がありますからね、と、クレインがぐるり、部屋の中を一望した。
 それからやおら、フォルに視線で入室許可を貰うと、床に落ちている物達を踏まないようにと細心の注意を払いながら、部屋の奥へと入って行く。
 それに無言で、カヤが続いた。
 シオンは、颯爽と本の片付けに取り掛かった二人の背を見つめながら、
「どうします? 壁紙は張り替えましょうか?」
 大掃除はこの前したばっかりなのに……と、溜息を吐くフォルへと問いかける。
 が、
「イタリアの方の聖堂の修理費と、こっちの礼拝所の整備で、そんな余裕がないんです……」
 フォルが即答で断ると、ぎくり、と思わず視線を泳がせていた。
 あれはいつであったか、暫く前に、フォルがまだイタリアの教会にいた頃。シオンには、襲撃をかけてきた一人の少女から、フォルの教会を守ったことがあった。
 しかし、その襲撃によって破壊された聖堂に関しては、
「結局僕もローンを組むことになって……経理担当の枢機卿猊下からはお叱りを受けるし……教皇庁も、修理費は出してくれないって言うし……」
『いえ、椅子代ですとかはともあれ、あの床代だけは、払っていただけると嬉しいかなぁ、と……』
 指折り数えるフォルの姿を横目にしながら、彼の過去の言葉を思い出し、シオンは背中に、冷汗が流れてゆくのを感じていた。
 わ、私だって、好きで滞納しているわけではないのだよ……!
 そのシオンの内心に気付いたキウィが、こっそりと彼の肩をぽむり、と叩く。
 ……シオンもシオンで、人が善過ぎるところがありますから。
 断ることもできた支払いを、わざわざこうして請け負っている父親へと、
「シオン、払い終わるまでもう少しです……元気出してください」
「キウィっ! 私はっ、私はだねっ……!!」
「ええっと、どうか、しましたか?」
「「いいえ、何でもありませんっ」」
 フォルが振り返ると、シオンとキウィとが同時に首を横に振る。
「まぁとりあえず、先に全て物を出してしまいましょう、ね?」
 慌てて笑顔を取り繕うと、床の上の物を跨ぎながら、シオンがフォルを横切り部屋の奥へと入って行く。
「あ、シオン、待って――、」
 その後に続こうと、キウィが長めの上着をたくし上げて一歩を踏み出した、その途端であった。
「うわっ」
 部屋の中に、どんっ、と空気を揺るがせる鈍い音が響き渡ったのは。
「き、キウィ……!」
 慌てて振り返った四人の視線の真ん中で、本の山の上にいるキウィが、その場に手をついてゆっくりと立ちあろうとしていた。
 シオンは足下に気を使うことも忘れ、がらがらと上着の裾で様々なものを巻き込みながら、
「大丈夫かっ?!」
「……油断してました。でも、大丈夫です」
 戻ってきてくれたシオンへと照れたように笑うと、キウィは差し伸べられた手をゆっくりと取った。
 ――そうしてようやく全員が思い思いの場所に座り、部屋の中に聳える山の解体に取り掛かり始めた頃。
 それにしても、と。
「『ミトラ神学』に『憑物呪法全書』……だと?」
 手元にあった書類と思しき紙を大量に纏めた後、その下から出てきた書名を見、カヤは思わず呟きを洩らしていた。
「しーっ、あまり題名を読まないでくださいよっ!!」
 フォルの慌てた言葉も虚しく、
「『死の呪法』に『陰陽道の本』……おや、『新約聖書』がこのようなところに」
 ようやくまともな書物が出てきましたね。
 やたらと大量のオカルト本に埋もれていたためか、そこにあって当然の書物が、妙に珍しいものに見える。
 カヤの傍で本を纏めていたクレインは、聖書の表紙の埃を右手の人差し指ですっと拭いながら、
「これでは、カタリナさんもお怒りになって、当然でしょう」
「えっ?! や、やっぱりそう思……い、ます?」
 クレインに指摘され、フォルがぎくり、と身を竦ませる。
「そこにあるのはロザリオですね? それから、あそこにありますのはメダイでしょう。御絵に聖像も……」
 クレインの視線のその先で、本の合間合間から助けを求めるかのように顔を出している、信者の信仰を助けるはずの道具達。
 ……あなたは神父様でいらっしゃるのですよね?
 口には、出さずに、
「とりあえず、新しくお部屋のレイアウトを決めた後に、片付けながらどこに何があるのかを紙に記録していくことに致しましょう。そうすれば、神父様お一人ででも、片付けることがおできになるでしょうから」
「え……、僕が、片付け……?」
「できますよね?」
「……はい」
 何か言いた気であったフォルをクレインが優しく一瞥すると、しかしフォルは口を閉ざし、本の散らばる床の上へと視線を落としていた。

 廊下にはずらりと、部屋から引っ張り出された物達が並べられていた。
 大量の本達に、様々な書類らしき紙束。そうして、小物、等々。それほど量があるはずでもないのだが、なぜだかあれほどにまで不規則に部屋を狭く見せていた物達が、今はすっきりとして見える。
「へぇ、フォルって意外と勤勉なんだねっ。プー知らなかった」
 ぜーんぶ荷物、出し終わったんだね! と、カタリナの手伝いの暇を見てやって来ていたプーは、何気無く手近にあった分厚い本を二冊纏めて抱えあげるなり、くるり、とフォルを振り返る。
 それから、わざとらしく書物の表紙に視線を落とし、大声で一言、
「『黄金の夜明け魔術全書』に『法の書』……?」
「ちょっとっ! 声に出したら駄目っ! しーっ!! カタリナに聞えたらどうするのっ!!」
「まぁいいや。ところでこれ、全部処分?」
「まさか!」
 弾かれたように、フォルが答えを返す。
「わざわざイタリアから持ってきたんだからっ! 運ぶのも大変だったんだから……」
「ウソ、ウソだって!」
 えへへと笑って、プーはもう一度本へと視線を投げかけた。
 ……暫くして、
「でもやっぱ処分でいいかも」
「何でえっ?!」
「フォルって、神父様なんでしょ? どうしてこんな如何わしい本ばっかりあるの?」
 プーの的を射た一言に、周囲の皆がうんうんと頷く。
「確かにざっと見たところ、本当にオカルト関係の本ばかりでしたね。それに、ですね。このようなものまで……、」
 例えばこれです、
 クレインが手近から一冊の本を取り上げ、
「『死刑大全集』――」
「それはカタリナの本なんですっ!」
 誤解しないでくださいよっ!
 慌ててクレインからその本を奪い取ると、フォルはぼすり、と後ろ手にその本を本の山の上へと落とし置いた。
「あ、プーも知ってるよ! それね、チェーザレちゃんがカタリナに持ってきたヤツだもん。……だよね、シオンちゃん、キウィちゃん?」
「ええ、確かそうでしたよね。神父が大騒ぎしていたの、私もまだ覚えていますよ」
「『チェーザレも又、変な物持ってきてくれちゃって……!』」
 チェーザレ――フォルの宿敵にしてカタリナの親友でもある古本屋の店主でもあるのだが――からカタリナがこの本を受取っていた時のことを思い返し、その時のフォルの物真似をして見せたシオンへと、
「シオンちゃん、さすが! 似てる!」
 ありがとうございます、と笑ったシオンに、プーがぱちぱちと小さな手を叩いた。
「……それでは、隠す必要もないのではありませんか?」
「どういうことですか?」
 微苦笑を浮かべたクレインへと、キウィが問い返す。
 クレインはもう一度、ざっと本の山を見遣ると、
「先ほどから神父様、一々慌てていらっしゃるようですから。書名がカタリナさんにばれてしまってはまずいまずいとですね」
「確かに、よく考えてみますと、もう既にカタリナは、神父の蔵書くらい把握しているのでは?」
 神父、あんなに堂々と部屋に本を散らばして置いているわけですし。
 キウィの言葉に、クレインが頷く。
「やはり今更、という感じがしてしまいますね」
「その辺りどうなんですか? 神父?」
 唐突に、キウィに話を振られ、
「――え?」
 いつの間にか本の山の上へと腰掛け、手近にあった一冊を読み始めていたフォルが、慌てて顔を上げる。
 フォルは、手元の書物をちらりちらりと気にしながら、
「で、何の話でしたっけ?」
「本の上に座るのは、お行儀の宜しいことではありませんね」
「……すみませんっ」
 クレインの一言で、すっくと立ち上がる。
 キウィは、隣で頭を押さえて溜息を吐いているクレインを気にしながらも、
「カタリナは、神父の蔵書を知っているのでしょう?」
「あ……うん、多分そうだと、思います」
「多分って」
「カタリナは、そういうところにはあまり関与してこないから……でも、引越しの時とかには本の箱詰めを手伝ってもらったりとかしてますから、きっとやっぱり知っているとは思います」
 照れたように、フォルが笑う。
「でも、改めて知られたら、やっぱり何だか気まずいような気がしてしまって」
「よいのではありませんか? もし本当にまずいと思っているのでしたら、カタリナさんでしたら、神父さんのこと教会から追い出してそうですし」
 ……と、いうのは、言い過ぎかも知れませんが。
 うーん、と悩むフォルへと言ったシオンが、こっそり彼が手に持つ本を覗き込んだ。
 ――『コーラン』。
 それもまた別の宗教の聖典では……? と、シオンが密やかに頭を悩ませる。
「それにしても、キリスト教関係の本はあまり無いのだな」
 そこで、間合い良く、シオンの心の中を代弁する声音があった。
「オカルト、異教、哲学関係。小説も、結構あるみたいだが」
 今まで本の山に頭を突っ込んでいたカヤが、ようやくそこから顔を上げた。
「その本は何なんです?」
 カヤの手にある書物に気が惹かれ、クレインがふ、と問いかけると、カヤがそれを掲げて答えを返す。
「ああ、『純粋理性批判』だ」
 大哲学者・イマヌエル・カントによる、難解だとしても有名な哲学書。
「それってアレ? 散歩する人の本?」
 そーいう話を聞いたことがあるよ、と、プーが下からカヤを覗き込む。
「む、まあそうだ、な。毎日一分の狂いも無く決まった時間に散歩をするものだから、町の人がカントが散歩に来るのを見て、自分の時計を合わせた、という話は確かにある」
「本当に毎日?」
「だったと言われている」
「……それって、凄いんじゃない? 普通だったら、絶対サボったりとかするよね!」
 カントといえば、まるで自身が時計であるかのように規則正しい生活を送っていた、としても名前が知られているのだ。
 カヤの話を聞き、驚くプーの様子に、好奇心を認めたのか、
「でも、一日だけ、時間になってもカントが散歩に来なかった日があったそうですよ」
「何で?」
 そっと話を始めたクレインに、プーが小首を傾げて問い返す。
 クレインは少しだけ楽しそうに口元をうっすらと綻ばせると、
「『エミール』という本を読んで、甚く感動してしまっていたから、だそうです。その日ばかりは町の人達の心配も他所に、時間も忘れて、その本に読み耽ってしまっていたそうですよ」
 ジャン・ジャック・ルソーによる、架空の孤児を主人公として書かれた教育論。その『エミール』を、カントはそれほどにまで面白いと感じたのだという。
「そーんなに、面白い本なの?」
「きっと、読んでいるうちに、心地よく眠れると思います」
「それって、面白くないってことだよね……じゃあプーはいいや」
 そーいう人達の考えてるコトって、すっごく難しいことばっかだったりするし。
 プーには難しいことはわかんないもん、と笑うと、周囲もそれにつられて、雰囲気を暖かくする。
 そうして、暫く。
 ようやく談笑にも、一区切りがついた頃。
「それでは私は、本の分類別けを致しましょう」
 そろそろ片づけを始めましょうか、と、クレインが本を軽く手で示しながら言う。
 それを受けたキウィとシオンとの二人が、
「私達は、まずは部屋のレイアウトですね。神父に相談しないと、家具は動かせないわけですが――ね、シオン」
「そうですね。でもその前に、まずは箒や雑巾で、お部屋の中を大掃除するとしましょう。それから神父さんに色々聞きながら、棚を動かしたりなんだりしなくてはなりませんね」
「じゃあプーは、そろそろ戻って、カタリナのお洗濯手伝ってくるね! それから、あ、シオンちゃんにキウィちゃん、それから、カヤちゃんも。後でフォルのお布団、玄関に持って来てほしいな。全部台車に乗せて、カタリナのお布団と一緒に、お外に干しに行くから!」
 お日様の匂いがすると、気持ちいいもんねっ。
 今日くらいはいいよねっ、とプーが付け加えると、
「それでは俺は、人の足りないところを手伝うとしよう」
 わかった、とカヤが一つ頷いた。
「ええっと、じゃあ、……僕は」
「キミは引っ張りだこだろう。悩むまでも無く、やることは沢山ある」
 本の整理もキミがいなければできないし、部屋のレイアウトもキミがいなければできないわけだからな。
 カヤの指摘に、フォルが深く溜息を吐く。
 ――かくてようやく、フォルの部屋の再構築が始まったのであった。


III

「……すまない」
「ごめんなさい」
 本日三度目の注意に、二人揃って顔を上げたのも、また三度目であった。
 綺麗に掃除と模様替えとを終えられた部屋の中、今、五人は、あの大量にある本から片づけを始めている――はずであった。
 しかし。
「珍しい、」
「懐かしい、」
「「本があったから、つい……」」
 カヤとフォルとが、全く同時に、今まで自分が目を落としていた本を閉ざす。
 その一方で、呆れに呆れたキウィとシオン、クレインとが静かに溜息を吐いていた。
 部屋に物を搬入し始めてからというもの、カヤとフォルとの二人は、ずっとこの調子であった。
 手に持った本の中に面白いものがあれば、ぱらりと開いてそのままその場で読み始めてしまう。或いは、棚に納めるはずの本を何気無く開けば、そのまま時間を忘れて読み耽ってしまう。
 二人曰く、
 本があると、だから片付けがはかどらないんだ――。
「いっそのこと、お二人には本には触れないでいただいた方が、宜しいのかも知れませんね」
「そんなっ……小物の片付けなんて、それこそつまらないじゃないですか」
 クレインの一言に、子どものようなフォルの抗議が飛ぶ。
 しかし、流石にその一言には呆れたカヤが、手近にあった台を本棚の方へと寄せながら、
「誰の部屋の片付けだと思ってるんだ、キミは」
 やれやれ、と呟きながら、何冊かの本を拾い上げて台の上へと上る。
 そうして、それらを一番上の本棚に納めようとした、その途端であった。
「カヤさんっ、お願いだからっ! 僕の手の届かない所に本は置かないでっ!」
「この台を使え、台を」
 カヤが足で軽く、自分の乗る台を打つ。
「僕はそんな台なんて使いませんよっ! カタリナが使ってるヤツだし……第一、僕が高い所苦手だって知っているじゃないですかっ!」
「このくらいの高さなら大丈夫だろう。精々階段五段分くらいだ。……キミね、そんなこと言ってるけど、じゃあ階段とかはどうやって上がっているんだ?」
 刹那、フォルが凍りついたかのように動きを止める。
 そのまま、がくりぶるりと大きく身を震わせると、
「目、とか、瞑って、とか、……カタリナに引っ張られて、とか、……あ、後ろは見ないようにしてます。怖いから」
 ……駄目だこれは。
 成人した一青年が、年下のシスターに手を引いてもらって階段を上っているなどと。
 カヤはとりあえず何も聞かなかったことにすると、もう一度一番上の段に本を納め、
「駄目だってばっ! もっと下!」
「すまなかった」
 うっかりしていたんだ、と、もう一段下にその本を納めなおす。
「あ、そういえば神父、」
 と、不意に、キウィがフォルのことを呼びつける。
 振り返ってきたフォルへと、
「こんなに本ばっかりあって、いらないものは、無いのですか?」
「んー……探せばまあ、出てくるとは思いますけど……、」
「ふと思ったのですけれど、いらない本でしたら、チェーザレの所に売りに行けばよいのではありませんか? きっと引き取ってくれますよ」
 隣にいるのですし、チェーザレ。
 こんなに本ばっかりあっても困るでしょうし、呼んで来ましょうか? と、キウィがぽん、と一つ手を打つ。
 しかし、フォルは瞳を大きく見開いて首をぶんぶか横に振ると、
「駄目っ! アイツに売るくらいなら焼き芋の火の元にした方が絶対マシだし!」
「そこまで……」
「大体! 何でアイツがセフィロトにいるのさっ! ようやくアイツから離れて、カタリナと二人きりになれたって思ったのに……!!」
「神父、本音が出てますよ」
 キウィの指摘に、慌ててフォルが自分の口を塞ぐ。
 フォルは、こほん、と咳払いを一つ、
「あの、聞かなかったことに……」
「別に私はかまわないのですけれどもね」
 くすり、とキウィが忍び笑いを洩らす。
「その代わり、カタリナの膝枕を――、」
「駄目っ! 駄目ですっ! それは駄目っ!」
「冗談ですって」
「どこまで冗談なんですかっ……」
 信用できませんね、とフォルがぽつり、と付け加えるなり、
「おや、神父は流石に勘が鋭いのですね?」
「えっ」
「いえいえ、こちらの話です」
 にっこりと、キウィが言葉を返した。
 その様子を少しばかり遠巻きに見つめながら、シオンが小さく溜息を吐く。
「キウィ……膝枕なら、わたしがやると……、」
 どうして私じゃあ駄目なんだ……! 愛が足りないというのかっ、愛がっ!
 瞳にうっすらと涙すら浮かべそうになりながらも、持ち上げた本を、本棚へと納めてゆく。
 私はキウィの父親なのに……、と、思いながらも後ろに向かって手を伸ばせば、その手に二冊ほど薄い書物が手渡された。
「その本は、下の段にお願いいたしますね。上はユダヤ教系で、下はキリスト教系で統一したいと思っておりますので」
「はいっ、わかりました……」
 分類分けされた本と、本棚の大きさとの均衡具合を考えて、クレインがシオンに後ろから指示を出す。
 先ほど、カタリナからこっそり借りておいたメモ帳に本の分類を記しながら、
「ところで、どうかなさったのですか?」
「はいっ?」
「声、揺れていらっしゃるので」
 クレインに問いかけられ、本を納めたシオンがふと振り返る。
 ……も、もしかしてクレインさんには、私の悲しみが、
「わかりますかっ?!」
「ええ、それは、まあ……」
 唐突に顔を目の前に、肩をがっちり掴まれたクレインが、少々引いた様子で小さく頷く。
 それは、まあ、
 今にも鼻をすすりそうな声でいらっしゃるのですもの。何かあったのではないかと、察しはつくわけですが……。
「私は父親なんですよっ?!」
「……はい?」
 何の話です?
 クレインにとってみれば何の脈絡も無い言葉に、彼は思わず間の抜けた返事を返してしまう。
 しかし、シオンは唐突にクレインにぎゅっと抱きつくと、
「私はキウィを愛しているのですよっ!」
「いえ、……あの、」
「だからキウィっ、不甲斐無い父親かも知れないが、私を捨てないでくれっ!!」
「あのその――放して、いただきたいのですけれども……、」
「キウィは私の大事な息子なのだよっ……!」
「シオン、何をやっているんですか?」
 と、そこに。
 不意に、キウィがひょっこりと、顔を覗かせてくる。
 シオンは視界に入り込んできた白い髪に、ぎくり、とクレインを解放すると、
「……いや、その、」
「あまり人に迷惑をかけてはいけませんよ?」
 さながら、父と子との立場が逆転したかのように、しゅん、とシオンが静かに俯き、ふわり、とキウィがそんな彼に微笑みかける。
 それに、と、
 キウィはやおら一息置くと、
「シオンが私のお父さんだってことは、今更言うまでも無いことではありませんか」
「キウィ……!」
 シオンの瞳には、うっすらと涙が滲んでいた。
 すぐさま、大事な息子を閉じ込めるかのようにぎゅっと抱きしめると、
「キウィっ! 私は嬉しいぞっ!」
「シオン、ちょっと苦しい……」
「可愛い息子のためだったら、後で膝枕ならいくらでもするからなっ!」
「それはイヤ!」
「なぜだああああああっ! キウィっ!」
「いや、シオン、ちょっ、苦し……」
 そのまま同じようなやり取りが、二人の間で何度も続く。
「……相変わらず、仲の良い親子ですよね」
 ふと、その様子を片付ける手を止めて見ていたフォルが、クレインに呟きかける。
「ええ、そうですね」
 クレインはフォルを一瞥して頷くと、そのすぐ後に二人の方へと、惹き付けられるかのように視線を戻していた。

 カタリナの手伝いを終えたプーも合流して、六人がかりで更に部屋を片付けてゆく。
 本の収納が終ると、小物は主にキウィが、洋服棚の中の服は主にクレインが改めて収納しなおしてゆく。
 ――しかし当のフォルはといえば、その様子を、ぼんやりと見つめるのみであった。
「……少しは手伝ったらどうだ」
 飾り物等を整理して棚に納めていたカヤが、細かく仕切られた箱の中にロザリオやメダイといったものを整理し終えたキウィがシオンと共に書類の整理に取り掛かったのを横目に、静かに呟いた。
 フォルは思わず、びくっと肩を震わせて振り返ると、
「あ、いや、……僕がいたら邪魔になるかなぁ、なんて」
「まぁ確かにそれは言えてるかもね」
 年齢にしては整った字で綴りの間違いも無く、シオンから指示された通りにテーブルの上でラベルに書類の分類を書き記していたプーが、洋服棚の前に立つクレインを一瞥し、
「絶対クレインちゃんだって、呆れてるんだと思うよ」
 いつの間にか、黙々と作業をするのみになっていたクレイン。
 彼がいよいよ、片付けても片付けてもなかなか片付かないことと、フォルがあまりにも片付け下手なことに対して諦めを感じているのに、プーは何気無く気がついていた。
「でもさ、ここまでくると才能だよね、才能。ここまで片付けのできない人、プー、見たことないもん」
「確かにそうかも知れないな」
 至極当然のことを言っているかのようにさらりと言ってのけたカヤへと、
「カヤさんだって、結局本の片付けはちっともできなかったくせに……」
「それはキミも同じだろう」
 片付けの最中、ついに五度目の注意を受けて、カヤとフォルとの二人は本の片付けから外されていた。
 今こうして本棚の中に本が納まっているのは、他の三人によるてきりぱきりとした作業のおかげであった。
「それにしても、久々に見たんだ、『パンセ』は。昔読んだきりになっていたからな」
 ふ、と、カヤが、五度目に声をかけられた時、手に持っていた本を思い返す。
 数学者・物理学者でもあり、哲学者・宗教思想家でもあったブレーズ・パスカルによる主著『パンセ』。
「『クレオパトラの鼻、それがもう少し低かったら、大地の全表面は変わっていたであろう』ってね。確かにあれが出てきた時は僕も懐かしいなぁって思ってしまいました。久しく、本棚の奥の方だったから」
「……普通思い出すなら『人間は考える葦である』の方だと思うのだが。それにしても、懐かしくてつい俺も――、」
「ほら、手が止まってる」
 プーの指摘に、二人がはっと顔を見合わせて作業を再開する。
 ようやく黙々と棚と向き合った二人の横を、
「キウィっ! 危ないぞっ!」
「大丈夫ですよ、シオン……」
 よたりよたり、と、ラベルの貼られたバインダーに綴じられた書類の山を持ったキウィが通りかかる。
 彼はふらつきながらも、危なっかしい足取りで何とか本棚まで辿り着くと、
「神父、書類の類はこの辺りに置いておきますからね」
「あ、テーブルの上でかまわない――、」
「「「駄目です」」」
 瞬時にキウィとシオン、クレインとが反射的に言い放つ。
「そのような考え方ですから、散らかるのですよ。物は、使ったら元の所に戻す。これが基本ではありませんか」
「でもやっぱり……その、面倒だ、ってわけじゃあないけれど、忘れちゃう、って言いますか……」
「ですから今、よく使う物をこうして取り出し易い所に入れておいたり、季節季節に使う物は戸棚などに入れてすぐに取り出すことのできるようにしておいたりするのですよ。使用順番の頻度に合わせて収納をしておけば、片付けやすくなりますから、散らかることも少なくなるでしょう」
 ……おそらくは。
 言葉の後半は飲み込むこととして、クレインが洋服棚を閉めながらフォルへと言葉を続ける。
「ほら、大分綺麗になりましたでしょう」
「うん……」
「そうだよ、皆のおかげできちんと片付いたんだからっ! もう絶対に散らかさないでよねっ」
「そうですね、一週間後にまた元の状態に戻っていなければ良いのですが」
 フォルの頷きに、プーとキウィとがそれぞれ言う。
「ああ、それから神父、手紙の類はここに入れておきますからね」
 キウィが、先ほどシオンがフォルが着れないのに捨てられずに取っておいた服を利用し、作ったばかりの壁掛けを指し示す。
 書類の一番上に積んでおいた手紙類をその中に納めると、
「キウィさんも、シオンさんも、家庭的なんですね……」
 その様子を見ていたフォルが苦笑する。
「そうやって収納スペースを広げておけば、わざわざ床に何でも置いておかなくて済みますからね」
 よし、と手元の書類の整理を終えたシオンが、プーからバインダーのラベルを受取りつつ言い放った。
 そうして、六人がかりで暫く、棚の中にてきりぱきり、或いはのたりくたりと様々な物を納め続け――、
「さ、これで一息、だな」
 見違えるほど整理整頓された部屋の中をぐるりと一望し、ふぅ、とカヤが溜息を吐いたのは、全員が、そろそろ疲れた、と感じ始めた丁度その頃であった。
「そうですね、私の方も終わりましたし」
「私達も終わりました。ね、シオン」
 クレインとキウィとが次いで答え、
「それじゃあ、お茶しよ! 皆で手を洗って、ね?」
 かるく手を払いながら、プーがよっこらせ、と立ち上がる。
「丁度カタリナがね、ケーキを焼いてるの。プーもさっき準備手伝ってきたんだ」
 材料をね、まぜまぜしてきたの。
 確かにプーの言うとおり、際ほどから周囲には、甘い香りがうっすらと広がっていた。
 それは良いですね、と頷いて、キウィがシオンの方へと向き直る。
「それでは私達は、お茶会の準備の間、アレを組み立てることにしましょうか」
「そうだな」
「アレ、ですか?」
 フォルがきょとん、と問いかけると、二人が全く同時に首を縦に振り、
「折角なんです。勿体ないって、ずっと思っていたんですよ。ね、シオン」
「そう、キウィの言う通りでしてね。今日は一つ、いいものを持ってきたんですよ」
「いい物……?」
 全く検討がつかないんですけど、と、更に頭を悩ませる神父へと、
「オルガン、持ってきたんです。簡単な作りの電子オルガンで、その上捨てられていた物なのですけれど……」
 礼拝室に、オルガンが無かったようですから。
 無いよりマシ、くらいにでも思っていただけたら、と思いまして、
「バラバラにして、壊れている所の部品も取り換えたり直したりしましてね。ある程度こちらで組み立てなくてはならないわけですけれども、おそらくちゃんと動くようになっていますから」
 キウィの言葉を引き継いで、シオンが説明を付け加える。
「――必要、無かったですか?」
「いえっ!」
 シオンの問いかけを慌てて否定すると、
「やっぱり、小さなキーボードなりオルガンなりがあったらなぁ、って、丁度思っていたところですから。……いくら聖堂が無くたって、大きなお部屋でミサを挙げられないからって、それにしたって音楽が無いと、寂しかったですし」
「それは良かったです」
 ほっと胸を撫で下ろすと、シオンは早速荷物を取りに行くべく、息子のことを手招きで呼び寄せるのであった。


IV

 決して大きいとは言えない、礼拝室。
 どうしても礼拝室って言い方が一番しっくりくるような気がしてしまって、と、苦笑していたフォルの気持ちが、まるで実感できてしまうかのような気がしてしまう。
 クレインとしても、元々そのような用途でなかった場所に、無理やり祈りの場を造ってしまったかのような印象を、やはり拭うことができなかった。
 ――しかし、それでも。
 そこには微かに、けれども確かに、
 荘厳な雰囲気が、あるような気がしますね。
 思い、赤子を抱える聖母の像を何気無く見遣ったクレインであったが、やがて間も無く、くるりともう一度、キウィとシオンとの方に向き直る。
 クレインの視線のその先では、キウィとシオンとの手によって、電子オルガンが着々と組み立てられている最中であった。
 何となく、クレインとしては、そのオルガンがどのようなものであるのか、気になってしまったのだ。
 ……それにしても、鍵盤、ですか。
 不意に、今は黒い手袋で覆われている自分の指へと目が行った。
「よし、後はこれとこれとを繋げば完成、だな」
「意外と早かったですね」
「まあ、私とキウィとの手にかかれば、このようなものでしょうね」
「それじゃあ、音の確認でもしてみましょうか」
 キウィの言葉を受け、シオンがオルガンから伸びるプラグをコンセントに差し込んだ。
 ぷっ……と軽く、たった今組み立てられたばかりの楽器に、電気の通る音が響き渡る。
「クレイン、下から順に押してもらえますか?」
「ええ、わかりました」
 頷いて、クレインが左手の手袋を外す。
 そのまま指先を、まだ少し埃っぽい鍵盤の上にそっと添えた。
 少しばかり安っぽいプラスチックの光の反射と、思い返せば思い返すほど自分の記憶する昔とは違う指先の感覚に、クレインは黙ったままでじっとオルガンを見つめ続ける。
 が、
 La Ti Do Re... と一息置いて指先で鍵盤を辿れば、どこか無機質な音が、つ……と空間に響き渡った。
 鍵盤が、やわらかく粉雪が降り注ぐように押されても、激しく豪雨が降り注ぐように押されても、そのオルガンの奏でる音色は全く変わらない。音量も、音高も、全く変わらなかった。
 足下にあるペダルを踏んでようやく、音に強弱が現れる。
 ――本当に基本の機能しか備えていない、電子オルガンなのですね。
 鍵盤を押される時の強弱を、感じ取ることすらできない。ピアノとは違って、
 ……違って、ある意味では無粋な、けれどもだからこそ、
 優しい楽器――ですか。
 クレインは、自分の考えにうっすらと微苦笑を浮かべながらも、操作ボタンの並ぶ中から一つのつまみを選び出し、適当に選んだDoの音を押したままで、オルガンの音高を調節した。
 それからは、今までよりも少しばかり美しく、オルガンが再びMi Fa Sol... と、クレインの指の動きに合わせ、鍵盤の並びの通りに歌を歌い始める。
 Mi Fa Sol... と、しかし、それだけであった。
 クレインにとっては、音を確認するだけの、単純な作業。
「少し、こことここのピッチが狂っているような気がしますね」
 クレインの指摘に、
「本当ですね――あ、シオン、そこネジ一つ忘れてる……」
「あぁっ?!」
 慌ててシオンが、キウィの手を借りてオルガンの本体にドライバーを伸ばした。
「ぁ、接続もちょっとおかしかったようだな……」
「繋ぐ線が違ったみたいですね」
 キウィがプラグをコンセントから抜くと、シオンと共にぎゅうぎゅうになりながら、オルガンの本体に頭を突っ込む。
 それから、暫く。
 同じようなことを、三人で数度繰り返して――、

「『月光』……?」
 カヤが、ふ、と礼拝室の方を振り返る。
「あっ、オルガンできたんだ!」
 カヤの隣にいたプーも、お菓子の盛られた盆を手に、やったぁ、とにっこり微笑んだ。
 礼拝室の方から、音一つ一つとしては表情の無い、しかし、各々の音が合わさって初めて憂いを奏でている、オルガンの音色が聞えてくる。
「キウィちゃんかな?」
 プーは盆をカヤへと押し付けると、とたとたと部屋を出て廊下を横切り、礼拝室を覗きに行く。
 それから、暫くして、
「やっぱりキウィちゃんだったっ。キウィちゃん、オルガン上手だから」
 プーもね、キウィちゃんにはオルガン教えてもらうんだよ、と、大きな瞳でカヤを見上げる。
「でもこの曲、なぁに?」
「『幻想風ソナタ』、もとい、『月光』、だな。その、第一楽章。ベートーヴェンの曲だ」
「へぇ……、」
 プーが、改めて耳を澄ませて、その音色を聞く。
 何だか少し、寂しい曲、なんだね。
 静謐。
 月の光をただひたすらに見上げ続け、ふわりと揺れる、誰にも知られていない夜の湖のような。
「月の光?」
「『ルツェルン湖の月光の波間に揺れる小舟』――と、レルシュターブがこの曲について言ったそうだ」
「れるしゅたーぶ……?」
「ドイツの詩人だ」
 答えたカヤが、テーブルの上に先ほどの盆を置きに行く。
「この頃ベートーヴェンは、とある伯爵令嬢に恋をしていたらしい。教え子の、な」
「叶わない恋ってやつ? だからこんなに悲しい曲なの?」
「さあ。それは本人にしかわからない、だろうな」
「うん……」
 何気無く頷いて、プーは礼拝室のある方を見遣った。
 ……聞えてくる旋律が、その話を受けて、何だか余計に寂しく感じられて。
「プーだったら、そんなのは、イヤ」
 寂しいのは、嫌い。美しい曲は大好きだけど、この曲も綺麗だなって思うけど――でも、寂しいのは、イヤ。
 ベートーヴェンなんて、その人がどんな人だったのかなんて、プーはよく知らないけど。
「寂しかったのかな……」
 だってこの人、じゃじゃじゃじゃーん、って音楽、作った人だよね?
 付け加えて、カヤに問いかける。
 カヤは、うむ、と頷くと、
「でも、ベートーヴェンはこの曲の後の楽章を、もっとずっと、情熱的なものに書いているんだ」
「情熱的なの?」
「『交響曲第五番ハ短調』を書いた人だけあってか、な。――プティーラの言う曲は、どこぞの国では『運命』とまで呼ばれていた曲だ」
 ――そうして。
 二人がそう言葉を交わしていた頃、曲も終わり、オルガンの音色がぴたり、と止んだ。
 しかし、その余韻に浸る間も無く、プーの耳が、不意に事件の香りを察知する。
 ……あ。
 フォル、まぁたやらかしたんだ。
 唐突に、励まされたかのように笑顔を取り戻したプーが、カヤの服の裾を引く。
「ねーカヤちゃん、カヤちゃんは、すっかりフォルに気に入られてるみたいだねっ?」
「そうか?」
「うん。だって、ほら」
「ん?」
 カヤが、何だ、突然? と不思議に思った、その瞬間の話であった。
 悪気は無かったんだってばあ! と、カタリナの修道服の裾を踏みつけたフォルが、台所から二人の方へと駆け寄ってきたのは。
「ごめんっ! ごめんってばカタリナっ!! ほら、カヤさんに免じて許して……!!」
「なぜ俺だ」
「何となくだけどっ!」
 盆を縦に掲げて歩み寄ってくるカタリナから身をかわそうと、カヤの後ろにこっそりと隠れたフォルが訴える。
「ね、助けてくださいよ……! どうしよう、僕またカタリナ怒らせちゃった……!!」
「いや、だから何で俺――、」
「昼メロだからだよね!」
「違うっ!!」
 はいっ、と片手を挙げて満面の笑みを浮かべたプーに、フォルがずるりずるりと崩れ落ちる。
「僕そこまで落ちぶれてないしっ!」
「落ちぶれてるだなんて失礼だよね、ねー、カヤちゃん? フォル、ほら、カヤちゃん傷ついたって!」
「いや、別にそんなことを言ってはいないが……、」
「薔薇園っ、薔薇園〜♪ ロマンだよ、ねっ?」
「プーちゃんはそんな言葉をどこで覚えてきたわけっ?!」
「薔薇園……?」
 と。
 丁度カヤが頭に疑問符を浮かべた頃、二人の目の前を無言のままに横切ったカタリナが、フォルの目の前に腰をかがめる。
「ぁ、カタリナ、僕のこと助けてくれるわけ……?」
 眼鏡の向うから、相も変わらず無表情に見つめてくるカタリナに向かって、フォルが無意識の内に片手を差し出した。
 途端、
「「あっ」」
 ごんっ、と。
 プーとカヤの目の前で、フォルがカタリナの盆によってもの見事に轟沈させられる。
 そのまま、床に埋もれてしまうのではないかと見紛う程の無残なフォルの姿に、しかしカタリナはご愁傷様、の一言も無く、やおら立ち上がると、無言のままで台所の方へと戻って行った。
「……災難だな」
 呆れたように呟いたカヤへと、
「でもフォルはこれで幸せなんだって!」
「ん?」
「フォルはカタリナのことがスキなんだって。だから幸せ、ねっ?」
「ぶっ!」
 プーの無邪気な大声での宣言に、フォルが思いきり噴出した。
「ちちちちちちちちょっとっ?!」
「え、だって事実でしょ?」
「じっ、じじ……!!」
「違うの?」
「ち、か、か……」
「違わないけど、カタリナに聞えたらどうするのさっ、て?――いいじゃないっ。カタリナだってきっと、フォルのこと悪くは思ってないよ?」
 ぱたんっ、とそのまま、フォルが再び床へと伏せてしまう。
 顔を真っ赤にしたままで、あ〜う〜と唸っているフォルを横目に、
「……なるほど」
 カヤが、妙に納得したように数度頷いて見せる。
 ――なるほど、な。
「なら、」
「ふえ……?」
「あまりなさけない姿ばかり見せていると、出て行かれても知らないぞ」
 丁度プーがカタリナに呼びつけられた頃合に、ぽつり、とカヤが付け加える。
 カヤは膝を折ると、顔を上げたフォルを真正面から見据えた。
「俺であれば、」
 変な話。
 俺が彼女≠探してここまで来ている以上、こう望むのはおかしいことなのだろう――しかし、
「……いや、普通の人であれば、上から命令されたとしても、相当な理由が無ければこのような場所には来ないだろうな」
 ある意味では、俺は彼女に、この場所にいてほしいとは思わない。
 ――それだけ、危険な場所なのだから。
 だが、逆に言えば、
「カタリナにも、ここに来ないという選択肢があったはずだ」
 こんな危険な場所まで、カタリナは来てくれたのだろう?
 それも、彼女はキミの傍にいる。
「うん……、」
 頷いたフォルの手を取り、しょうもない、と言わんばかりに引っ張り上げる。
 フォルは立ち上がると、ズボンを軽く叩きながら、えへ……とカヤに向かって微笑みを向けた。
「カヤさんって、やっぱり優しいんですね」
「キミがそう思っているだけだろう」
「でもやっぱり、だから僕にとって、カヤさんは優しい人、ね?」
「全く、何が言いたいんだか」
 どこか楽しそうにしているフォルの姿に、思わずカヤも微苦笑をもって応えを返していた。


V

 ようやく。
 全員がテーブルに着いたのは、三時のおやつ、というのには遅すぎる頃であった。
 カタリナが作ったケーキやお菓子、それぞれの思い思いの飲み物を囲みながら、
「それにしても、確かに散々な部屋だったな」
 七人で、一休み、といわんばかりに、ゆったりと椅子に身を預ける。
「散々って……まだ綺麗な方だったのに……」
「本気でそう思っているのだったら、一度病院で診てもらってきた方がよいだろうな」
「カヤさん冷たい……」
 珈琲を一口、表情を変えることも無く言い放ったカヤが、
「ああそうだ、神父、後で例の本を貸してもらいたいわけだが」
 手伝った報酬代わりに、だな。
 唐突に、そういえば、と付け加える。
「……ああ、かまいませんよ?」
 例の本――自分とカヤとの間でしか意味合いを帯びてこない単語に、フォルはこくりと頷くと、
「返してくれるのは、いつでも構いませんから。昔読んで、それきりになっていた本ですし」
 と、そこに、
「そういえば、私も何かありましたら、数冊お貸しいただければ……と」
「かまいませんよ、勿論です」
 ケーキのフォークを置いたクレインに、フォルが笑いかける。
「それは、ありがとうございます」
 クレインも微笑を返すと、それから、と一つ間を置いて、ポケットから白い物を取り出した。
 それをフォルへと差し出すと、
「それから、先ほどこちらに、部屋のどこに何があるのかを記しておきましたので、是非とも参考になさってください」
「あ、はあ……それは、」
 どうもありがとうございます。
 フォルが、僕にはこんなことできないし……と言わんばかりの面持ちで、身を小さくしてクレインから紙を受取る。
 おそるおそるにそれを広げるなり、
「……これからは僕もきちんと片付けます……」
 その紙を手にしたままで、ごん、とテーブルの上に頭を伏せた。
 そっと横から、慣れた手付きでカタリナがその紙を取り上げ、
「こんな馬鹿のためにここまでしていただいてしまって」
「カタリナ、さり気なく酷いこと言ったでしょ……」
 フォルの小声での講義も無視して、じっくりとその紙に視線を落として溜息を吐いた。
 流麗な字体と図形とで、見目も美しく記されたフォルの部屋の物の配置図。
 ――まるで、
 本の挿絵みたいですね。
「いいえ、少々雑で、申し訳ありません」
「そんなことはありません。むしろフォルの部屋の高い所にでも張っておきますわ。そうしたら、なくすることもできないでしょうから」
 この大切な紙が、部屋の樹海に埋もれてしまったとならないように。
 それはありがとうございます、と微笑んだクレインの目の前で、カタリナが修道服のポケットにその紙を折り畳んでしまいこむ。
「でも皆さんにおいては、本当にありがとうございました。こんな馬鹿でヘタレで間抜な駄目神父のお相手をしてくださった上に、わざわざオルガンまでいただいてしまって……」
 そこでふと、改めたようにカタリナがテーブルをぐるりと一望する。
 カタリナの視線を受け、キウィとシオンとが同時にいいえ、と首を振ると、
「先ほど少し弾いてみましたけれども、とりあえず問題は無さそうでした」
「もし必要でしたら、使ってやってください。調子が悪くなれば、私達が見に来ることもできますから」
「さっき弾いたって、キウィさん、それって『月光』のことですか?」
 ようやく痛手から回復したフォルが、チョコレートドリンクを口にしながら、キウィへと問いかける。
「ええ。ご存知でしたか」
「宜しければ、続きもお聞かせ願えませんか?」
「あっ、プーも賛成っ!」
 割り込んだカタリナの言葉に、プーがテーブルの上に身を乗り出した。
「皆まだ時間があるんだったら、いっそのこと、カタリナにお夕食作ってもらうっていうのはどう? キウィちゃんの演奏とかをね、ゆーっくりと聴きながら食べられるし!」
 プーの提案に、
「それは良いですね――僕は賛成!」
 人がいなくなっちゃうと、寂しいですしね。
「……ではフォルが買い物に行ってきてくださるというのであれば」
 考える間も無く、カタリナとフォルとが賛成をする。
「うん、そうしてくれるんだったら僕もカタリナの手伝いするから……ね、皆さんは、お時間はどうなんですか?」
 一番初めにフォルの視線を受けたクレインが、私は構いませんが、と頷いたのを筆頭に、
「プーは構わないよっ。ね、カヤちゃんは?」
「俺も、別にいつまでにここを出なくてはならないということもないが……、」
「私達は構いませんよ? ねえ、シオン?」
「むしろ、カタリナさんのお料理をいただけるのでしたら、是非とも!」
「それでは、一段落つきましたら、もう一仕事ですね」
 かたん、とカタリナがティーカップをソーサの上に添えた。
「それから、お夕食の準備と致しましょう」
「……一仕事?」
 まだ面倒なことがあったっけ……? と首を捻るフォルへと、
「洗濯物、もう少ししたら取り込まなくてはなりませんし」 
 プーちゃんが手伝ってくださったんですよ、と、プーの頭を撫でながらカタリナが付け加える。
 そこに、丁度ケーキを食べ終えたシオンが、
「その時はきちんと、私が服の畳み方をお教えしましょう」
「えっ、……僕に?」
「ええ」
 他に誰がいるというのです?
 苦笑したシオンに、シオンちゃんの言うとおりだよ! とプーが同意する。
「いつまでもカタリナに任せておかないの! もう子どもじゃないんだからっ」
「プーの方が、神父より色々とできますものね?」
 フォークをぴこぴこと振るプーに、軽く笑ってキウィが言う。
 シオンもつられて笑いながら、
「それでは、食べ終わったら、もう一仕事といきましょうか」
「それから、洗濯物は、今度はご自分で片付けていただきましょう。少し片付けというものをお勉強していただくということで」
 宜しいですね?
 クレインがフォルへと優しく問いかけると、
「……はい」
 仕方ない……と言わんばかりに例の部屋の主は、六人がくすりと笑う中、心暗気に深く頷いた。


Finis



 ■□ I caratteri. 〜登場人物  □■ ゜。。°† ゜。。°★ ゜。。°† ゜。。°★ ゜。
======================================================================

<PC>

★ クレイン・ガーランド
整理番号:0474 性別:男 年齢:36歳
クラス:エスパーハーフサイバー

★ プティーラ・ホワイト
整理番号:0026 性別:女 年齢:6歳
クラス:エスパー

★ カヤ・カズオミ
整理番号:0491 性別:男 年齢:24歳
クラス:エスパーハーフサイバー

★ シオン・レ・ハイ
整理番号:0375 性別:男 年齢:36歳
クラス:オールサイバー

★ キウィ・シラト
整理番号:0347  性別:男 年齢:24歳
クラス:エキスパート


<NPC>

☆ フォルトゥナーティ・アルベリオーネ
性別:男 年齢:22歳
クラス:エスパー 職業:旧教司祭

☆ カタリナ・ルイージャ
性別:女 年齢:20歳
クラス:一般人 職業:シスター



 ■□ Dalla scrivente. 〜ライター通信 □■ ゜。。°† ゜。。°★ ゜。。°† ゜。。
======================================================================

 まずは長々と、本当にお疲れ様でございました。
 今晩は、今宵はいかがお過ごしになっていますでしょうか。海月でございます。今回はご発注をくださりまして、本当にありがとうございました。
 またいつものことではありますが、締め切りギリギリのお届けとなってしまいまして、申し訳ございません。

 唐突ですが、今回は自分にとっては、なかなか突き刺さるようなネタで書かせていただきました。
 このような話を書かせていただいたあたしの部屋でございますが、床の上はそれなりに綺麗ではあるのですけれども、机の上には大量の物が積みあがっておりまして、それこそ自分が片付けなきゃあいけないんだよなあ……という感じなのでございます。
 例えば、チョコレートの袋の横にですね、眼鏡がありまして、その上にパソコンのパンフレットにCDなのです。その横の山は、本二冊の上にCD、便箋、パソコンのパンフレットに――(もう馬鹿らしくて数えるのをやめたくなったそうです)。
 駄目です、いい加減にあたしも片付けることに致します……。でもいざとなりますと、重い腰が上がらないのでございますね。

 ともあれ、サイコマで書かせていただくのは、本当に久しぶりのことでございました。
 セフィロトというなかなかシリアスチックなところで、このようなネタを振らせて頂くのもどうかなぁ、とは確かに思ったのでございますが……。
 ――とりあえず、左遷疑惑を疑っていただいて海月はにんまりほほえんでしまったのです、と、こっそり付け加えておくのです。

 それでは、今回はお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。
 なにかありましたら、テラコン等より遠慮無く連絡をしてやってくださいまし。

 それでは、乱文となりましたが、今回はこの辺で失礼致します。
 宜しければ、またどこかでお会いできますことを祈りつつ……。


23 febbraio 2005
Grazie per la vostra lettura !
Lina Umizuki