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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


□■□■ はじめてのせふぃろと! ■□■□



 ずり……ずり……ずり……

「……腹、減ったよー……」
「ひもじい、なー」

 ずり……ずり……ずり……

「メシ、奢ってー」
「奢ってー、おかーさーん」
「……誰がお母さんなんだ誰が!!」

 ジャンクケーブの一角、人通りの少ない道の上、足元に二人の男を引き摺りながら葬師が絶叫する声が響いた。

 伊達剣人がマルクトに入ったのは、昼間の事だった。もっともセフィロト内はいつも一定の光量が保たれているので、時間の感覚と言うのは非常に曖昧である。繁華街は何時でもどこかの店が開いているし、ゲートにも見張りが一日中立っている。人通りは途切れることなく、真昼も真夜中も内部に入って行こうとするビジターが必ず数人は居た。
 外の時間感覚でそろそろ昼食にするか、と歩いていた彼は、いつの間にかジャンクケーブに入っていた。どうにも方向感覚が狂わされるのか、少し迷ってしまったらしい。早く人通りの多い方へ戻っておいたほうが無難だろう、荒れた場所には自然と不逞の輩が溜まるものなのだし。あまり最初から騒ぎを起こすのも、少々面倒だった。

 くるりと踵を返したその脚を、ガシ、と掴まれる。

「ッすわ、どこの地縛霊だ、こんなところに!?」
「…………」
「ん? 生身……か? おいあんた、生きてるか、おーい?」
「…………」

 地面にべったりと張り付くように長い身体を横たえているのは、金髪に青いコートを羽織った男だった。一瞬物の怪の類を連想した自分を職業病だと苦笑し、剣人はしゃがみ込む。一瞬死人かとも思ったが、自分の脚を握っている手の様子からして生きてはいるだろう――ぷるぷると顔を上げた男のずれたサングラス、その向こうにある金色掛かった緑の眼を見ながら、おーい、と彼は声を掛ける。

「……腹が減ったのでご飯を下さい……」

 どこの浮浪者ですか。
 小動物的な視線を向けるキース・ローディーに、剣人はブッと噴出した。

■□■□■

「つってもなぁ、俺もこの辺りがどこなんだかよく判んねぇし……むしろあんた、立てよ」
「無理。ご飯がないと動けません……電池を交換して下さい、充電して下さい……」
「いや、じゃあ何か買ってくるから取り敢えず脚を離せ」
「やだ。置いてかれたら困る……この辺り人通り殆ど無いし。一日待ってやっと捕まえた人間だし」
「いつから倒れてんだよ!!」

 ビシッと空気突っ込みをする剣人をぼんやりとした眼で見上げながら、キースはぎゅるるっと小さく鳴る腹の音を鑑賞していた。住んでいた町を何かよく判らないけれど追われた感じになって、当てもないから取り敢えず面白そうな無法地帯に来てみて、それがこのセフィロトで――入ってきたのは、三日前だったか。
 元々あまり持っていなかった金銭は、旅費で殆どが飛んでしまっていた。取り敢えず腹ごしらえをしたいと思っても、繁華街の食堂はどうも割高だし、金は無いし。ギルドに向かえば少しは世話をしてくれるかも知れないと思いつつも、そのギルドの位置がわからないまま、気が付くと倒れていた。空腹は何よりも強い敵である、ううん困ったとぼんやり丸一日転がっていた所でやっと発見したのが、剣人だった。

 取り敢えずここで逃げられたら死ぬ、確実に死ぬ、餓死は嫌だ。腹が減って死ぬのだけは嫌だ。人生の数少ない幸福を奪われて死ぬなんてゾッとしない、だから絶対にこの脚は離さない。ぎゅぅぅー、と舟幽霊のようにしがみ付く彼に、剣人は巨大な溜息を吐いた。

「あのなあ、あんた……ここで脚掴まれると俺だって動けないんだって。どーしろってんだよ」
「ご飯下さいー……」
「だから、買って来てやるから手を離せ」
「逃げられるー……」
「あんた身体長いんだよ! 担いで歩けるか!」

 見上げている状態なので判りづらいが、確かに剣人はそれほど大柄というわけではなさそうだった。キースが長身であるが故に、それは少し強調されて映る。黄色人種の悲しい特徴だった。脚を振ってどうにかキースの腕を振り解こうとするも、がっしと掴まれてはそれも不可能に近い――まさか道連れかやっぱり地縛霊の類なのか、ぶつぶつ言い始める彼の身体に、影が掛かる。

 二人で視線を向ければ、そこには白いコートを羽織った男が立っていた。
 じぃ、っと二人を見下ろしている。金色の眼は色素が薄すぎて一瞬虹彩が判らず、瞳孔だけが見えた。白に近い銀の髪は肩口まで伸び、綺麗に梳かされている。二人を見下ろして凝視する彼は――
 そのままくるりと踵を返して立ち去ろうとした。

「ストップ・ザ・ドラッグ!」
「ストンプー……」
「ッんな!?」

 何か謎の言葉と共に、二人は絶妙のタイミングで彼の脚にしがみ付く。前のめりに倒れれそうになったその隙に、二人はガッシとコアラのように男の脚にしがみ付いた。よし、ロックオン。もう離さん、道連れだ。食糧だ。キラリン、と光る二人の眼に見上げられ、うっと男が声を漏らす。

「おう兄さん丁度良いところで通り掛った、行き倒れが居るんだよ、助けてやってくんねぇ? なんかメシ食いたいらしいからさ、ちょっと世話してくれれば良いから」
「ご飯下さいー、食糧下さいー、ひもじいですよー」
「ほらほらこんなに鳴いてるし! むしろ俺が困ってるし! 人助け、素晴らしいな、無償でしたいと思う素敵な行為! かっこいー!」
「ごはんー」
「は、離せッ俺は関係ない、何だお前らは追い剥ぎか餓鬼か地縛霊か舟幽霊か!?」
「そんなこと言わず、な! ここは一つ正義の味方気分でGO!」
「ままー、お腹空いたー」
「誰がママなんだ誰がぁあぁあああ!!」

 通り掛かり、ゲット。

■□■□■

「ほれ、餌」

 ぐったりとしているキースをリングで縛りながらずるずると引き摺って繁華街まで連れて来た葬師は、屋台で買ったドネルケバブ(ちなみに自腹)を差し出していた。自分の分に齧り付きながら、剣人は町の様子を眺める。どうやら入って来た最初の分かれ道で方向を間違えたらしい、人通りの少ない方に向かって歩いてしまっていたのか――世情を知るにはまず繁華街に行くのが良いと言ったのは入り口にいた隻眼の女性だったのだが、簡単な案内ぐらいはしておいて欲しかったかもしれない。硬い肉を食い千切れず、咀嚼を繰り返しながら、彼は軽く上方を見上げた。
 明かりは全て地上にある。灯された街灯やネオンサインでどこか幻想的な風景が作り出されているそこは、祖国の夜の街を髣髴とさせた。繁華街や歓楽街にはそれほど国柄も無いのかもしれない、串を喉に刺さないようにしながら、暗い天井を見上げる。高く、広い、それでもここは室内――なのに、開放感はある。矛盾が少しだけ、面白い。

「ふーむ……まあ、日本とそうは変わらないもんだねぇ。いや、こっちの方が外人のお姉さん多くてむちむちだけど」
「ん? ああ、お前は日本人なのか……俺もここに来るまでは向こうにいたからな。あまりこういう街には近付かなかったが、そうそう変わるものでもないだろう。むしろキース、お前自分で串を持て自分で」
「あむあむー……肉美味いー」
「ちっちっち、キース、これはただの肉ではない。ドネルケバブだ、ちゃんと憶えろよー、世界共通の食い物だからな。どこに行ってもこれはあるんだ」
「おお、そうなのか……でも俺は初めて食ったかも」
「食え食え、目覚めろ焼肉パワー。んで葬師、あんた日本人なのか? それっぽい色には見えねぇけど」

 言って剣人は葬師をまじまじと眺める。眼は金色、髪は銀。この辺りは染めたりカラーコンタクトでも入れているのかもしれないが、肌も異様な白さだった。薄暗いセフィロトの中では、光でも発しているように目立つ。おまけに纏っているのが白いコートなのだから尚更だった。黒髪に黒目、ダークスーツ姿の剣人とは、面白いほどに対極である。いっそ眼に痛いほどの白に、ああ、と葬師は頷いた。どこか曖昧な煮え切らない生返事に、彼は少し首を傾げる。キースにケバブを食わせている姿は、公園のハトにパン屑を与えている老人のような印象だった。言ったら怒られそうだけれど。

「少し探し物――探し者、か。それをしていて、日本にいた事があるというだけだ。お前が日本人なら、知らないか? 系列的にはこんな感じだ」

 ちょい、と指を差されたキースは、二本目の串に手を付けていた。まだ充電不足なのか、葬師のESP媒体であるリングに体重を預けている。歩行機に掴まってちょこちょこ歩く幼児を一瞬連想しながら、剣人はふむと息を吐いた。彼の手にも、二本目の串が持たれている。

 祖国では探偵業を生業としていたので、そこそこ色々な人種と係わり合いにはなってきた。エスパーやサイバーといった分け目から、何処の国の人間、善人悪人、生者死者。死人の思念を追うエスパー能力は霊能者とされて、そちらでもやはり数々の人間を見て来た。キースのような系列と言うとマイペースか、スローテンポか、ボケ属性か、小動物属性か、迷うところはあるが――心当たりは無くもない。だがそれが葬師の探し人と合致しているかどうかは別問題だ。

「名前とか、特徴は? 機会があったら探してやっても良いぜ、俺って探偵やってるからな。どの辺りに住んでたはず、とかさ……国内も結構広いし」
「……いや、結構だ。自分で探す」
「割引しとくぞー?」
「自分で捕まえたいからな」

 ふぅん、と剣人は息を吐き、三本目の串を取る。
 キースはうまうまと、五本目に手を付けていた。

「……お客さん、いい加減清算して欲しいんですけどねぇ」
「ッて、お前ら何を次々食っている!? キース、お前それ何本目だ!?」
「んー、これで六本目ー」
「あ、俺は四本目で食い収めにしとくかな」
「むしろ屋台から奪い取って食うな、ちゃんと買ってからにしろ!」
「へいへい……あ、やっべー円の換金してねーや」
「俺は文無しー」
「ゴチだ、葬師!」
「ごちそうさまー」
「俺は一本も食ってないのに!?」

 貧乏籤万歳。

■□■□■

 満腹になって一息吐き、キースはぽむぽむと自分の腹を撫でていた。その前方では葬師がぴきぴきと今にも切れそうな血管を浮かべている。ううむ、若いのに脳溢血は危険だろう……思いながら、彼らは裏通りを歩いていた。ところどころに不逞の輩と思しき連中が歩いている、あまり治安の良くなさそうな一角。
 腹が膨れたら次は装備の強化をしておきたかった。ものはついでとガンスミスの紹介を頼んだ結果、葬師はブツブツ言いながらも彼らを連れて歩いている。短気で発火点は低そうだが、基本的には良い人属性なのかもしれない、ご飯もくれたし。出世払いは忘れなかったらするつもりだが、三倍返しを要求されたらどうしようか。むぅー、と葬師の背中を見る。すると、もこ、と言う奇妙な動きがそこにあった。

「…………」
「…………」
「ったく、なんで俺が……ああくそ腹減ってきたし」

 剣人を見れば、彼もキースを見上げている。見た、らしい。なんだ今のは、人面疽か?

「(今絶対何か動いたよな、背中)」
「(見た、思いっきり……なんだろう)」
「(九十九蟲か? あいつ怒りっぽいの案外その所為かも)」
「(…………)」
「え、おいキースッ」

 少し歩調を速め、キースは前を歩く葬師に追い付く。そして、その脇腹をぐわしっと強引に掴んだ。当然葬師の足は止まる、そしてその隙にボディーチェック……と思った瞬間、コートの中が再びもぞもぞと動く。ざわざわと背中を昇って行き、それは、項からぴょこりと飛び出した。
 すんすん、と鼻を鳴らすそれは、赤いイタチ。
 キースの神経回路が、ぷちんとどこかで切れた。

「……何、これ、愛い、欲しい」
「ッだ、何をするんだお前は一体、むしろ出すな抱くな捕まえるな、赤薙も懐くなッ!」
「おお、すりすり指に……葬師、これちょーだい?」
「やれるか! むしろ返せ!」
「うわー、見掛けに寄らずメルヘンなヤツだなあんた……可愛い可愛い、こしょこしょー?」
「むずがっている……可愛い、ぬくいー……小動物びばー。欲しい……は、まさかこれは非常食……?」
「え、イタチって食えるわけ? どれ、ちょっと焼いてみるか」
「焼くなぁあぁぁああ!!」
「どうでも良いんですが貴方達、人の店の前でコントを繰り広げられるのは迷惑なんですが。退いて頂けませんか?」

 ぴきーん、と氷の微笑を浮かべながら佇んでいたのは、背の高い東洋人の男だった。
 見れば彼らが騒いでいたのは、何かの店の真正面である。暗いショウウィンドウを覗けば、そこには古めかしい銃や武器が展示されていた。古美術商なのかと看板を見れば、『SHOPsクロウ』と看板が出ている。だが、但し書きには武器屋と記されてあった。
 ふむ、とキースは自分の銃を取り出す。随分な年代物のため、下手なガンスミスに掛かるとすぐに暴発してしまうそれ。思えば住んでいた町を出る嵌めになったのもこれの所為だ。武器屋を標榜し、古いものを扱うのならば、案外と、もしかしたら。

「失礼なことを言うなクロウ、客を連れて来たんだ俺は」
「客? どこにです?」
「そこの金髪だ。ガンスミスを探しているんだが、お前だって銃の手入れは出来るだろう?」
「……見たところ文無しの気配ですが?」
「あー……葬師に、ツケといてー」
「はい了解致しました、どうぞ店内でお待ち下さい。すぐに調整致しましょう」
「待て、俺か!?」

 すりすりと赤薙を撫でながら、良い人に拾われたと、キースは笑う。葬師の律儀な突っ込みに、剣人はくくくっと声を漏らし続けていた。

■□■□■

「おー、ぴかぴかー……」

 勝手な料金追加ついでに磨かれた銃を眺めるキースを見上げ、剣人は葬師の様子を伺う。突っ込み疲れのためか心なしか落ちた肩の上を、ちょろちょろと赤薙が走り回っていた。どうやら財布の中身を見て溜息を吐いているらしい、随分集ったからな、とは思うが反省はしない。
 繁華街と裏通りとでなんとなくマルクトの地形や空気は把握出来ていたが、ここ一番の醍醐味にはまだ遭遇していない。たまに行き交うビジター達がタクトニムの残骸を抱えているのを見ていると、ここがただの街ではないのだという認識が強まっていく。セフィロトの塔――その内部に幾つものロストテクノロジーを持つ、宝の山。
 巨大な溜息を吐く葬師の背中を、剣人はぺいッと叩く。

「さて懐の寒そうなところで、俺にはちっとばかり行きたい場所があるんだけどな、葬師?」
「奢らんぞ。絶対もう奢らんからな。びた一文貸さないんだからな」
「あー、大丈夫大丈夫、多分今日はもうたからないって。やっぱセフィロトっつったら、ゲートの向こう側が一番の見所だろ? 俺達もビジターとして、それが目当てで来たんだしさ…なあ、キース?」
「んー……ああ、ご飯のためには、ねー」
「で、先達ビジターとして、俺達を案内して欲しいなーと? ライセンスぐらい持ってるだろ、ここに住んでるならさ」
「無い、そんなもん」
「…………」
「…………」
「面倒臭いからな。いつも裏ルートで換金だし、ゲートは強行突破だ」

 はっちゃけてるなあ、見掛けに寄らず。
 くくく、と苦笑を漏らし、剣人は葬師の背中をべしべしと叩く。

「んじゃそれでも良いや、取り敢えずゲートの内部に案内してくれよ。むしろゲートの場所教えてくれるとありがたいな。地図より脚で憶えた方が判りやすいんだ」
「もう見えている」
「へ?」
「今から消えた生活費を取りに行く所だったんだ」

 葬師は通りの先を指差す。そこは突き当たりになり、巨大な壁が聳え立っていた。MSと思しき巨大な人影が二つ、その中央に設えられたドアの両脇に佇んでいる。数名のビジターがそこに寄り、何事か問答を交わした後で、扉が開かれた。それはすぐに閉じられ、遠くから戦闘音が響く。ヘルズゲート、地獄の門、マルクトを守る防壁。そしてその向こう側こそが、セフィロトの塔の本分。
 かすかな武者震いが、剣人の脚を震わせる。浮かんだのは笑みだった。モンスターを倒してお宝の略奪、単純明快なロジカルに守られた無法地帯。まるで古いRPGのような世界が、目の前の門の向こうには広がっている。

 強行突破、その響きも中々に、楽しそうだ。彼は軽く眼を閉じて意識を集中させる。空中に向けて手を差し出せば、そこには、剣が生まれた。
 葬師とキースがほう、と息を吐く。物質の召喚は中々見ないタイプの能力だった。呼び出された剣は、剣人に握られた瞬間に炎を纏う。幾度かの軽い素振りと共にそれは大きさを増し、そして――

「んじゃあいっちょ、行きますかッ」

 剣人が駆け出した途端に、炎は長く伸びた。ゲートのMSからもそれが確認出来たらしく、戦闘態勢に入るためモードを変える動作に移る。だが、リーチの長い炎が一気にその装甲を舐め上げた。叫び声の中を剣人は走る、その後ろには、葬師とキースが続いている。プログラムの誤作動か、単に不穏分子排出のためにか、ゲートが開いた。ニィッと笑い、剣人は炎を振るう。

「さあて、焼け死にたくないヤツは失せな!!」
「……こんなにド派手なもんなんだー、ゲート破りって……ギルドでライセンス取った方が、楽そうだなー……」
「普通はここまで大々的にやらんぞ、勘違いするな、もっとこっそりかつ強引に行くものだ」
「よく判んない、ねー?」
「…………」

 そして彼らはゲートを潜る。
 ギルドのMS乗りは、また豪いのが増えたと溜息を吐いた。

■□■□■

「ッだぁあー……案外てこずるもんなんだな、タクトニムってのは」
「お前はゲート突破の時点で無駄に力を使い過ぎたのが敗因だ。ともかく、これで当面の生活費は戻ったな……危なかった、まったく」
「……葬師、ってー……赤貧……?」
「煩い黙れやかましい、別に生活費に困ってなんかいない!」
「(困ってるんだ)」
「(困ってるんだな)」

 ぱたぱたと服の埃を払いながら、キースは肩を怒らせて前を行く葬師の背中を見る。中々に派手な戦闘になり、相手のタクトニムのオイルやらも飛び散った。町全体に埃っぽさもあったから、随分と自分達の服は汚れてしまっていたのだが――葬師の白い装束はまるで汚れた気配が無い。
 テフロン加工で汚れが付き難いのかもしれない、もしくは本人自体が漂白剤か。戦い方の差と言われればそれまでだが、遠距離からの攻撃ならば銃を扱う彼にも同じ事が言える。つまりは、案外能力の差があるのかもしれない。どの程度かは、判らないが。

「……ほら、ここがギルドだ。これからは普通にライセンスを取ってセフィロトに入れば良い。それじゃあ俺は行くぞ、ここに長居するとしょっぴかれる立場なんでな。ちゃんと金返せよお前ら」
「おう、ゴチでしたー」
「でしたー……」
「だからちゃんと金返せって!!」

 最後まで突っ込みを入れながら去っていく葬師を見送り、ふぅっと剣人は溜息を吐いた。そんな彼を見下ろして、キースは首を傾げる。二人の肩には、倒したタクトニムから奪い取った精密部品や使えそうな装甲板の入った袋が提げられていた。身体を揺らすと、それが音を立てる。

「なんつーか、中々に、面白そうなところだな? セフィロトってのも」
「んー……まあ、食いッ逸れはなさそうな感じ、だけどー……」
「だけど?」
「……ぶっちゃけ、内部、迷いそう」
「……あそこで行き倒れると洒落になんねーな」
「いや、本当にな……確実に、逝くし……」

 ふ、っと二人は笑い合い、
 ギルドのドアを開けた。



■□■□■ 参加PC一覧 ■□■□■

0351 / 伊達剣人      / 二十三歳 / 男性 / エスパー
0105 / キース・ローディー / 二十三歳 / 男性 / エスパー

<受付順>


■□■□■ ライター戯言 ■□■□■

 こんにちは、または初めまして、ライターの哉色です。この度はご参加頂きありがとうございました、早速お届け致しますっ。初めてのセフィロトツアーと言うことで、アテンダントが無駄に突っ込みを張り切っている様子ですが……少しでも笑って、いやいや楽しんで頂けていれば幸いです。それでは失礼致しますっ。