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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【オフィス街】逃げろ!

ライター:燈


【0.幕開け】

 おい、下手な所に触るなよ。ここは、元々会社関係のビルなんでな、セキュリティシステムが完備されていたらしいんだ。
 もっとも、長い間放っておかれたせいで、たいがい壊れちまってるんだが、時々セキュリティがまだ生きてる事が‥‥
 て、鳴り始めたな。お前か?
 まあ良い、逃げるぞ。この警報に呼ばれて、すぐにタクトニムがうじゃうじゃやってくるって寸法だ。
 良いから走れ! こうなったらもう、部品回収なんて後回しだ。敵はもうすぐ其処まで来てるぞ!


【1.罠】

 オフィス街……とは言え、とうにその意味を捨ててしまった廃ビルの並ぶ区画は灯りもなく、常に薄暗い。活発な往来の失せた通りは肌寒く、剣人は身震いしてジャケットの襟を掴んだ。
「うー…結構冷えるな。コートでも持ってくりゃ良かったか?」
 斜め後方を振り返ってみたが、ヒカルは涼しい顔である。彼女は周囲の気配に気を配りつつ、剣人の問いかけに律儀に答えた。「今それを言っても、どうにもならんよ」
「ちっ。ならとっとと終わらせるぞ!」小さくぼやきながら足下の瓦礫を蹴る真似をして、剣人は足を止めた。「ここらでいいんじゃないか?」
 ヒカルも立ち止まり、もう1度辺りに視線を走らせた。――どうやら、タクトニムはまだこちらの動向には気付いていないらしい。彼女は剣人の方に向き直って小さく頷き、目の前のビルを見上げた。恐らく、ずっと以前は大層繁栄していただろう類の、ガラス張りの商業ビル……。
「しっかし妙な話だな」剣人も同じくそのビルの様相を見上げつつ、呟くように言った。「ここはまだセフィロトの一階だってのに、こんなにでかいビルがあるなんて」
 ヒカルはその言葉にまた小さく頷きながらも、微かに口角を上げた。「だがそのお蔭で私達の生活が成り立っている」言い置いて、彼女は先に半開きの状態で止まっている自動ドアの間を通った。こういうオフィスの正面玄関には警備員を置いていただろうから、案外監視カメラだけで済ましているものだ。
 思った通り警報はならず、それを確かめてから剣人も後に続いた。


 暗い廊下には2人分の微かな足音だけが響いていた。
 布で覆うことで光を弱めたペンライトで足元を注意深く照らしながら、階段を上る。耳鳴りがしそうな程の静寂に、自分たちが発する靴音はむしろ安堵を呼ぶ。
 それでもでき得る限り音を忍ばせて、10階の踊り場を踏んだ。1度立ち止まり、呼吸さえ止めて辺りの様子を伺う。――大丈夫だ。恐らくここにはまだ何もいない。
 別に怯えているわけではなかった。戦闘には慣れている。が、狭い所では避けたいのが事実。
 それに、何が出てくるかなんてわかったもんじゃないのだ。
「これ以上うえの階には行かぬほうが良いのではないかな?」
「だな。セキュリティが厳しくなってそうだ」
 ヒカルの発言に了解の意を示して、剣人は先に廊下を奥へと進み始めた。何気なく歩いているように思えるが、足音はほとんど消えている。セフィロトの塔にいるビジター達が生き残るために何よりも先に覚えることに、この足音を消す、という項目があった。
 廊下を奥へと進んでいた足が、ぴたりと止まった。「広いな」確認するような独り言に、ヒカルはその扉をさっと調べた後、銀色の冷えたレバーを引いた。さしたる抵抗もなく開いたドアの向こうには、整然とオフィス用のデスクが並んでいる。一見何の変哲もないその部屋に、しかし剣人とヒカルは違和感に眉を上げた。
 隣りの部屋との間隔と、部屋の広さが一致していないのだ。
 2人は無言で頷き合うと、それぞれ部屋の左右の壁を調べ始めた。

「あった」暫くしてヒカルが小声で告げた。
 壁際にピッタリとくっつけられたデスクの脚の間、ほとんど壁と見分けがつかないような60センチ四方のパネルが嵌め込まれていた。「どれ」と剣人も机の下を覗き込む。
 パネルを外すと人一人がぎりぎり這って通れるぐらいの通路に繋がっていた。ここは任せることにしたヒカルは後ろへ下がり、剣人も心得たようにIRゴーグルを装着し、通路の内部に入り込んだ。赤外線によるセンサーは仕掛けられていないらしく、ゴーグルにはただ剥き出しの鉄筋コンクリートが映るだけだ。通路もそう長くはなく、すぐに少し広い空間に出ることが出来た。
「センサーが切れてるのか…?」
 その場所には小振りの金庫が一つあった。階数、発見の容易さからいって金庫の大きさは妥当なように思えるが、何も仕掛けがない、というのは怪しい。しかし頭上のコンクリートと左右の壁の隅に赤外線照射用と思われる小さな穴を見つけ、剣人は緊張を解いた。やはりセンサーが切れているだけなのか、と。
 そして手袋を装着した右手を金庫へと伸ばし――。
「しまった」
 コンクリートに反響して届いた声に、ヒカルが「何だ」と問おうとした時だった。

 けたたましい警報が、ビル全体を支配した。


 【2.遭遇】

「どうかしら?上手く行きそう?」
 ジェミリアスは息子の肩に手を置いて、パソコンの画面を覗きこんだ。
「さあな。大体俺が普段使ってるようなやつとは年代が違うし……」
 互換性がな。と口にしつつも、アルベルトの手元は軽快に動いていた。真っ黒な画面に流れていく数字とアルファベットの羅列を手元の小さなパソコンで記録と解析を同時に行っていく。暫くして表れたパスワード画面に、アルベルトはふぅっと息を吐いた。
「第一関門突破、ってところかな」目頭を揉み解しながらアルベルトは天上を仰いだ。「それよりさ」次いで母親を振り返る。「なんか最近、おふくろ力入ってない?」
「折角のチャンスだもの……2mmレーザー銃なんて、人には見せられないじゃない?ここなら試し撃ちができるし、万が一にでも地図が手に入れられれば一石二鳥。それにあなたもパソコンの基盤とか調達できるでしょう」
 悪びれない母親の台詞に、無理やり付き合わされた息子はがっくりと肩を落とした。「まぁ、いいけどさ…」それにしても人が真剣且つ必死で試みていることを、万が一って言うのはどうなんだろう。
 溜息を吐いたアルベルトが再び画面に向き直った時に、耳を劈くような警報が鳴り響いた。
「誰か他にいるみたいね」動じないジェミリアスの言葉に、アルベルトは思わず机の上に突っ伏す。
「最悪だ……折角ここまで来たのに……」午前中から少なく見積もっても3時間を棒に振ったことになったアルベルトが、疲れ果てたように零した。
「なら最後までやってしまったら?」
「あと半日はかかる!」タクトニムなんぞに囲まれたくない、と息子は猛然と抗議する。
「じゃあ早く逃げましょう。上の方が騒々しいから、今からなら逃げ切れるわ」
「今接続ぶった切ったら、中央警察方面からもタクトニムが押し寄せて来る!」
 板ばさみ状態の息子に、ジェミリアスは呆れたように言った。「ならどうしたいの?」
「くそっ!ちゃんとした手順踏んで接続切るしかないだろ!」宣言して、憤然とした勢いでキーボードを叩き始めたアルベルトに、ジェミリアスは一つ息を吐いて、自分はドアの外の様子を探ることにした。息子を守るのは結局は母親の仕事なのである。
 耳を扉へそっと寄せて、外の様子を探る。――と、ジェミリアスは聞き覚えのある声に思わずドアを開け放った。
 部屋の正面に位置する階段の上の階から、銃撃音と共に話し声(というには叫び合っているのに近かったが)が聞こえて来る。それが止んだかと思うと慌しく階段を駆け下りてくる靴音が大きくなり――。
「ヒカルさん?」
 過ぎ去って行こうとする黒い影を呼び止めると、影は足を止めてこちらを振り返った。案の定それは知った顔で、わかってはいたがジェミリアスは少し驚きを隠し切れない表情で彼女を見つめた。そうは言っても、相手の方も自分をそういう顔でじっと見てはいたのだが。
 逃げ出す準備を終えたらしいアルベルトが、訝しげに母親の側へ寄り、その肩越しに見えた人物に彼もまた声を上げた。但し、その視線は母親とは同じ位置ではなく、そこを通り過ぎた辺りだ。
「よう、奇遇だな。アール」2人並んだそっくりな顔の内、髪の短い方に剣人は声を掛けた。
「……もしかしてこの騒ぎ、あんたらのせいなのか?」アルベルトの顔が不穏に歪む。
 剣人は気まずげに頬を掻き、言葉を濁した。確かに自分のせいではあるが、あれは仕方ないんじゃないだろうか、なんて心の中で言い訳をする。まぁ、実際のところここへやって来たビジターの過半数はあの仕掛けに躓いているのだが(残りは金庫自体に気付かなかった人間がほとんどだ)。
 上の階から再びタクトニムのたてる機械音を察知したジェミリアスは、冷静を取り戻して扉から半歩引いた。
「とりあえず、すぐに逃げ切れる可能性はもうないでしょうし、作戦を立てましょうか」
 果たして2組は合流し、いかにしてここから逃げ切るかを相談することになったのだった。


 【3.発見】

 作戦を立てる、といっても敵の数もわからず(わからないぐらい多い、ということは確かだが)、どこに潜んでいるかさえ予測出来ない状況で話し合うことといえば、誰が先頭で誰が後方かを決めるぐらいだった。そもそもチーム戦を計るには、お互いのことを知らなさ過ぎるだろう。
 結局根っからの攻撃型である剣人と、2mmレーザー銃を試してみたいというジェミリアスが前方で、ヒカルとアルベルトが援護にまわることを決めてしまうと、すっかり暇になった各人は、それぞれ部屋の中を物色し始めるのだった。来たからには何が何でも手ぶらでは帰りたくない、というのがビジターの信条だ。
 アルベルトはさっきまで触っていたパソコンを手馴れた様子で解体し、中から部品を抜き取っている。ヒカルは壁際に並べられた戸棚から、特に興味もなさそうに日常必需品や文房具やらを弄っていた。ジェミリアスはその隣りで何か貴重な資料はないかと本棚を漁っている。
「こ、これは」
 デスクの引出しを引っ掻きまわしていた剣人が声を上げ、3人は振り返った。
「珍しい物でもあったのかな?」退屈そうにしていたヒカルが、手を止めて問う。
「過去一世を風靡したという、α−watchじゃないかー!」上がった声に、女性2人はすっかり興味を無くしてさっさと作業に戻ってしまった。
 一方、一応彼と友人として付き合っているアルベルトは、その務めとして仕方無しに質問を向ける。「何。何かすごい機能でもついてんの?」とはいえ上げた顔の関心度の低さは否めない。
 取り敢えずめぼしい物が見つかって喜びを表してみただけの剣人は、3人の対応を特に気にした風でもなく、その時計を腕に嵌めながら答えた。
「いや、俺もよくは知らんが…限定品だったらしいぞ」そう言って剣人は腕時計と一緒に入っていた広告をアルベルトに手渡した。もちろんそんなものどうでもいいアルベルトは、広告を丸めて部屋の隅のダストボックスへ投げ込んだのだが。
「それじゃあもうこれ以上ここにいてもしょうがなさそうですし」これといって良い資料を見つけられなかったジェミリアスが、落胆したように呟いた。「行きましょうか」


「ヒュー♪ゾロゾロ出て来るね」軽く口笛を鳴らした剣人は、左手に召喚した心霊銃から発せられる青い光線で前方の敵を次々と薙ぎ払った。ヒカルとアルベルトは後方から新たに追ってくる敵を確実に仕留めつつ、通りを出口へ向かって走る。ジェミリアスは難しい顔で隊の半ば辺りを走っていた。どうも、2mmレーザー銃は走りながら撃つのには適さない。結構な重量がある上に、撃つ時には光を遮断出来るゴーグルをつけるか、目を瞑るかしなければならない。目を瞑る時間はほんのコンマ2、3秒でいいのだが、逃げている今の状況ではそれもちょっと難しいことだった。
「粗方片付いたようだが」ボディESPの能力を使って周囲を確認したヒカルが告げた。「…問題はアレをどうするかだろう」全員の目が、正面にに立ちはだかるそれを見る。
 それは1体のケイブマンと十数匹のイーターバグが争っている光景だった。食欲旺盛で知能の低いイーターバグは互いの肉を貪ろうとしたり、ケイブマンに襲いかかっている。ケイブマンもイーターバグを食いこそしないが、同じく知能が低いため襲ってくるイーターバグを容赦なく叩き潰していた。既にそれらの周辺には、イーターバグの残骸が散らばっている。
「ちょっと皆さん、目を閉じていただけないかしら」ジェミリアスがレーザー銃を構えて前に出た。「こちらに気付かれる前に、せめてケイブマンぐらいは倒しておきたいもの」言われたとおり他の3人は瞼を閉じる。ジェミリアスはケイブマンの頭に照準を合わせて引き金に指を置いた。引く直前に自らも目を瞑る。
 瞼の裏側に強い閃光が走って眼球がちりりと痛んだ。威力が強い物ほどレーザー銃は反射光も恐ろしい。ジェミリアスが目を開けるのと、ケイブマンが地に伏していくのはほとんど同時だった。恐らく、2度とは立ち上がれまい。
「もう構いません。…それにしても、これはちょっと扱いにくいようだわ」銃撃の反動でびりびりと痺れの残った肩を確かめながらジェミリアスは独り言ちた。これほど強力なレーザー銃だと、狭い所での戦闘は味方側にも被害が出るだろう。それも死といった形で。
 こちらに気付いたイーターバグが向かって来ると、4人は一斉に出口へ向かって駆け出した。剣人は召喚していた心霊銃を消し、新たに炎の聖剣を召喚する。「くらえ高温3千度、ファイアーーッ!」叫びつつ炎に包まれた刀身を火炎放射器代りに使って敵を威嚇した。ジェミリアス、アルベルトはそれぞれ38口径の拳銃に切り替えて射撃し、ヒカルはライフルで応戦した。どれも威嚇目的であるため、可能な限りの速射を重視する。外骨格の固いイーターバグを一匹ずつ相手にしている余裕はないのだ。
 砂埃の目立つコンクリートの道を、4人は出口に向かって必死に駆けた。


【4.戦績】

「怪我もなく、無事でなにより」ビジターズギルドの換金屋による薄笑いの混じった応答に、アルベルトは青筋を立てつつその手から金を引っ手繰った。ジェミリアスがそれを受け取り、カウンターで4等分に分ける。ヒカルは何やら格闘している剣人を振り返って声をかけた。
「剣人殿は換金を行わないのか?」
「いや…くっ!何だコイツ!」
 剣人は腕に嵌めたままの時計を壁に乱暴に叩きつけている。が、衝撃に強いのか時計はびくともしていなかった。細かい傷はいくものの、決定的ダメージを与えられない。
「……呪われてんじゃないの、ソレ」アルベルトが呆れたように目を細めて言った。
「あら、じゃあお金は伊達さんの分を抜いて3等分ね」限定品らしいし、それが売れれば高値がついたでしょうから、としっかり聞いていたジェミリアスが宣告する。綺麗に3等分し終わった紙幣をヒカルとアルベルトに渡すと、「それではまた、機会がありましたら」と彼女は息子と共にさっさと帰ってしまった。
「…まあ、そういうことだから」ヒカルも手を挙げて別れの挨拶とし、ビジターズギルドを後にする。
「くそ!何であの時嵌めちまったんだ俺ーー!?」
 人のごった返すビジターズギルドで、後悔の叫びが木霊した。


 >>END

(※伊達・剣人はα−watch B12を取得)



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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名/性別/年齢/クラス
【0351】 伊達・剣人(だて・けんと)/男/23才/エスパー
【0541】 ヒカル・スローター(ひかる・すろーたー)/女/63才/エスパー
【0544】 ジェミリアス・ボナパルト(じぇみりあす・ぼなぱると)/女/38才/エスパー
【0552】 アルベルト・ルール(あるべると・るーる)/男/20才/エスパー


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして。この度パーティーノベル『第一階層【オフィス街】逃げろ!』を書かせていただいたライターの燈です。
 何分サイコマ及びセフィロトは始めてで、少々勝手がわからなかったりもしたのですが……(間違い等ありましたら申し訳ありません(汗))プレイング、魅力溢れるキャラクターさん達の会話(ヘブンズドアでの遣り取りを覗かせて頂きました)を参考に、楽しく書かせていただきました。人称や話し方など調査不充分な点もあるかも知れませんが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
 プレイングを盛り込み切れず、その上千字程度オーバーしてしまいましたが……よろしければ、またの機会に。
 それでは、失礼致しました。