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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【ビジターズギルド】初めての会員登録
アンチ・グラヴィティ

千秋志庵

 ビジターズギルド。ゲートの前のでかい建物だと言えば、その辺の婆ちゃんだって教えてくれる。
 中に入っても迷う必要はないぞ。上のフロアにお偉方の仕事場があるんだろうが、用があるのは一階の受付ロビーだけだ。階段昇らずまっすぐそっちに行けばいい。
 軌道エレベーター『セフィロト』探索を行う者達は、まずここで自らを登録し、ビジターとなる。書類の記載事項は余さず書いたか? 書きたく無い事があったら、適当に書いて埋めておけ、どうせ誰も気にしちゃ居ない。
 役所そのまんまで、窓口ごとに担当が別れている。お前が行くのは1番の会員登録窓口だ。
 並んで待つ事になったり、待合い席に追いやられる事もあるが、気長に待つんだな。
 同じような新人を探して、話なんかしてるのもいいだろう。つまらない事で喧嘩をふっかけるのも、ふっかけられた喧嘩を買うのも悪かない。
 まあ何にせよ、書類を出せば今日からお前はビジターだ。よろしく頼むぜ。

「……五月蝿い」
 一言、言い放った。
 金髪緑眼、身長もそこそこ高い細身の女性が目の前にいれば、人間としては声を掛けずにはいられないらしい。普段よりも少ないものの人で溢れているビジター登録所なら尚更で、登録ついでに仲間を求める人間も少なくはない。とはいえ、これは別だな、などと冷静に判断しながら女性はぼうと正面を見据える。
 正面を見ていても、愉しいことは何もない。前の人間は隣とのおしゃべりに興じているし、聞き耳を澄ましてみても話している内容は次元の異なる話。愉しいはずもない。首を動かして視線を巡らすも、然して興味を惹かれる行為は見当たらない。
 仕方なしに、話しかける男達へと軽く話に耳を傾けてやる。話は主に自慢。その内容も飽き飽きするような低レベルで苦笑を禁じえないが、それすらも相手を喜ばす結果を招くことが故に彼女は無表情を装い続けていた。
 しかし、それすら限界に近かった。限界に近いということはまだ許容量はあり、幾分かは耐えうるという結論が導かれるが、彼女の場合は安易にそれを肯定も出来ない。
 無言で立ち上がりつつも先程の男達に視線をやる。誘っていると思っているのか、或いは今迄シカトを決め込んでいた彼女に一矢報いたいのか。
 男達は無言で、だが厭な笑みを浮かべながら大人しく彼女についてきた。小声で話しているつもりなのだろうが、彼女を査定しているとしか思えない会話は全て筒抜けだった。彼女は悪態をつく代わりに、ただ小さく溜息をついた。
「席、取られるだろうな」
 人は次第に増えていく。偶然取れた席が他人に取られるのは然程問題ではないが、それでも多少は気になる。彼女に取っては、それだけが唯一の気がかりだった。
 ギルドの外に出ると、女性は無言で素早く銃器を構えた。男達の下卑た笑いに顔を顰めながらも、躊躇いもなく引き金を引く。その一瞬後に気付いたのだが、男の防具は銃程度の衝撃には容易に耐えうる構造をしていた。最近開発された新製品……の一代前。所詮、どこかの処分品を買い漁ったというところだろう。名匠の防具であれば何年も持つが、ビギナー用の大量生産品は数年ももたない。故に安いのだが、毎年買い換えねばならないという欠点がある。それでも、銃弾くらいは弾けるのが売りだったりする。体に弾丸が触れても尚残る笑みは、それ故の余裕だったのだろうか。
「……甘いな」
 銃弾が男の一人にめり込み、すぐさま女は銃口の向きを他のターゲットへと変えてぶっ放す。着弾確認と同時にターゲットを変更していき、やはり躊躇いもなく撃ち続ける。狙いは狙撃者がプロならば、当たっても死にはしない足や手だ。気絶する程度のショックは与えるが、殺しはしない。余裕に満ちた顔が恐怖へと変わる瞬間を与えはしない。
「そういえば、自己紹介がまだだったな」
 白煙舞う銃をホルスターに仕舞い、女性はギルドに向けて再度足を進める。
「レイン・シルフィード。ま、今になっては聞こえちゃいないだろうがな」
 レインの歩く後ろには何人もの息のある“死体”が横たわっており、つまらなそうに軽く一瞥しただけですぐに目を逸らした。
 彼らが生きていることは明白。だが目覚めるときに、レインはビジター登録を既に終えている。……復讐でも何でも、いつでも待っている。勝てるかどうかは保障しないけどな。
「席、ないだろうな」
 一つだけ溜息をつき、レインはあのまま話を聞き続けていた方が良かったかどうか、騒音をもっと早くに排除にかかった方が良かったのかどうか。定まらぬ天秤に数度掛けては、苦笑を漏らしていた。

 受付ロビーに戻ると、待合席は一つを除いて人で埋まっていた。好都合なことにも、空いている席は先程レインは座っていた席だ。駆け足で席に寄ると、席には大量の折鶴が積み重なっている。
「……ここ、空いているか」
「空いてはおらぬな」
 その横で戯れに折鶴を折り続けている女性は、静かに言った。
「でも、これは……」
 ただの荷物置きだ、と言おうとレインは口を開き、
「鶴の席。ではまずいというのか?」
 眉根を寄せる女性にレインは困惑した。
「まずくない」
 言って、レインは女性の横の壁に寄りかかった。
「ところで、なのだが」
 ふいに女性が口を開く。鶴を折る手は全く止まらない。
「何故ただの銃弾が人の腹を喰らう?」
「……さっきのを観ていたのか? いい目をしている。だが銃弾は元よりそういうものだろう?」
「ああ、確かに喰らうものだ。しかしここにいるのは一介の旅人ではあらぬ、実力ありしビジター候補だ。そう易々と喰い破れるものだとは思わなんだが」
 鶴を折る手が止まる。女性は眼鏡の奥から鋭い視線をレインに送り、言を続ける。
「いかにしてそのまやかしを成しえたのか、ちと興味をおぼえてな。席はその代償と言ったら如何?」
 レインは笑った。見下されたと思った故の反応ではなく、女性の提案内容とその代償の具合にである。
「構わない」
 答え、レインは軽く辺りを見回す。誰かの靴にでも挟んであったのが落ちたのだろうか、小石を一つ拾い上げると上空へと放り投げ、掴んでみせた。再び投げ上げると、今度は石は地面へ向け落下していった。衝撃は落下時間に関係するとはいえ、数メートル程度、加えて軽い小石ではさしたる衝撃にはならない。だが、反して落下地点には小さきながらも深い穴が掘られていた。
「石に人工的に重力をかけた。要はそういうことだ。衝撃が大きければ小さな一打でも脅威。納得したか?」
 女性は肯いた。
「面白いな。それ」
「面白い、で片付けられても困るんだけどな」
 呆れたように笑うレインの前で、折鶴が女性の膝の上に片付けられていく。
「報酬」
 笑う女性に促され、レインはつられて微笑みながら席に腰を下ろした。
「中々に興味ある話だった。礼を言う」
 そうして、女性は名乗った。
「今度は間近で見てみたいものだな」
 何気なく発したヒカル・スローターの言葉にレインは笑い、
「それは僕と闘いたいってことか?」
「いや、違う意味でだ」
 ヒカルは再び折り鶴を折り始める。
 その姿をぼうと眺めながら、レインは幾度目かになる言葉を口にした。眺める顔はどことなく愉しそうで、耳にする言葉もレインにとっては不快なものではなかった。
「構わない」
 言葉にヒカルは微笑み、
「光栄だ」
 聞こえぬように呟き、手元の作業へと没頭をした。
 桜の模様が描かれた千代紙はゆっくりと鶴の形を成していき、膝の上で小さな山を作っていった。





【END】

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名
【0620】レイン・シルフィード
【0541】ヒカル・スローター

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。

クールな口調、古風な佇まい……熱い女性も好きですが、日本独特(?)な雰囲気の女性がとても好きです。
静かに銃を構え、無言で放つ。
ある種、知的な女性の必須アイテムではないかと思っています。
銃に関しての知識はまだ“豊富”と呼ばれるほど多いわけではないので、より一層精進して知識を得なければいけないと実感させられました。
一発で相手の命を奪えるだけに、銃弾の一つ一つの重みを少しでも込めていけたらよいなと思っています。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。

千秋志庵 拝