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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


記憶の再生


□オープニング

 ふらりとジャンクケーブを彷徨っていると、目の前に〈サファイラ劇場〉と書かれた看板があった。
 こんな所なんて、あったかしら・・?
 ジェミリアス ボナパルトは僅かに小首を傾げると・・・そっと、扉を開いた。
 中は真っ白な礼拝堂だった。
 確かに看板は劇場だったはずなのに・・・。
 ジェミリアスの視線が、礼拝堂の中央で止まった。
 そこにいたのは、朽ちかけた聖母の前で佇む1人の少女。
 「あら、貴方・・。」
 少女はそう言うと、振り返った。
 銀の髪が大きく弧を描き、青の瞳をじっとこちらに向ける。
 「“彼”の・・護りたかった人ね。」
 少女は柔らかく微笑んで言うと、すっとこちらに近寄ってきた。
 「え・・?あの・・?」
 手を引っ張り、礼拝堂の中へ入って行き・・・長椅子に座るように目で合図してきた。
 なんだか分らないが、とにかく座るほかないだろう。
 「貴方は護ってるわ。彼を。そして、護られているの。彼に。」
 「彼って・・?」
 「近いけれど、遠い。遠いけれど、近い。貴方と彼は、触れそうで触れない関係。」
 少女はそう言うと、そっとジェミリアスの手の上に手を重ねた。
 「彼の思いは見たわ。けれど、貴方の思いも見たい。あの時、貴方がどう考えていたのかを・・・見せて。」
 「えっ・・?」
 混乱する頭の中を見透かしているかのように、少女はクスリと微笑むとジェミリアスの目の前に手をかざした。
 ・・・それを視界の端に認めた途端、目の前はブラックアウトした。


■記憶の泉

 車が滑るように地面を走り、ほんの微かな振動だけをジェミリアスに与える。
 ジェミリアスはぼんやりと窓の外を眺めていた。
 左に流れる風景は殺風景で、どこか味気なく・・それでもジェミリアスは窓の外を眺め続けた。
 25年・・たった25年の中で、彼女の体験してきた事は壮絶だった。
 その一つ一つを紐解いていく。
 18歳の誕生日の時、婚約者に呼び出され・・薬を盛られた挙句、遺伝子操作と怪しげなウィルス感染をさせた受精卵を移植され・・処女妊娠をした。
 卵子は自分のもの・・精子は婚約者のものだったが・・・。
 目覚めた時、婚約者は17の犯罪の首謀者として指名手配を受けていて・・・その時担当していたテロ組織の首謀者だった・・・。
 それが、一番壮絶だったかしら?
 ジェミリアスはそう思うと、ふっと笑みをこぼした。
 その他にもいろいろあった。
 軍でも・・色々と苦労もした。
 けれど今年、死亡時に爆発する爆弾を頭に埋め込むと言う条件で、やっと軍を辞める事ができた・・・。
 ずっと構ってあげられなかったあの時の息子。
 その子と、これからは一緒にいれる・・・。
 ジェミリアスが息子に思いを馳せた時、突然脇に置いてあったバッグからコール音がなった。
 誰かしら・・?
 「はい・・ジェミリアス・・・」
 「久しぶりだね。ジェミリアス。元気にしていましたか?」
 聞き覚えのある声が、直接鼓膜を揺らし・・・ジェミリアスを凍りつかせる。
 「あなた・・・。」
 「そう言えばジェミリアス、アルベルトは大きくなりましたね。」
 穏やかな物言いとは違い、声は鋭かった。
 「どうしてアルベルトの事を・・?」
 「どうしてもこうしても、私の隣にいるからですよ。ぐっすりと眠ってね・・。」
 自発的に眠ったのではない。眠らされたのだ!
 「今からメールを送ります。その場所に来てください。無論・・ジェミリアス、貴方の気持ち次第ですけどね。」
 妙に引っかかる物言いの後に、電話はプツリと途切れた。
 そして直ぐにメールが送られてくる・・・。
 運転手に行き先変更の旨を伝え、ジェミリアスはぎゅっと手を握った。
 どうか、どうか無事でいてほしい・・・。
 あの子は大切な宝物だから・・・!!


 着いた先、案内されて通された部屋は殺風景な部屋だった。
 病室のような場所で・・アルベルトが青い顔をしてベッドに力なく倒れている。
 ジェミリアスは思わず駆け寄った。
 少し冷たいながらも・・温かな頬に、そっと触れる。
 「さぁ、感動のご対面の所悪いのですが・・そろそろ良いですか?」
 彼はそう言うと、小さく奥に合図をした。
 白衣に身を包んだ男達がジェミリアスの身体を抑え、アルベルトの隣のベッドに寝かせる。
 「なにをっ・・・!!」
 きっと向けた視線は、冷たい視線に一蹴される。
 「こんな事して、許されると思ってるの!?」
 「アルベルトは私の子供だ。」
 「そう言う事じゃないでしょう!?」
 「それじゃぁ、どう言う事なんだ?ジェミリアス?」
 本当に、冷たい瞳。
 実験動物でも見るみたいに、突き放したような、冷酷な感情の浮かぶ瞳・・・。 
 「おか・・さ・・?」
 苦しげな声が聞こえ、ジェミリアスは思わずそちらに顔を向けた。
 「アルベルト!!?」
 「おや、気がついてしまいましたか。」
 冷たく言い放つ彼の言葉の底に、残酷な感情が見え隠れする。
 それは全てアルベルトに・・・!!
 白い手術台に横たわるアルベルトの目と視線が合う。
 困惑したような、それでいておびえているような瞳。
 「さぁ、始めましょうか。」
 彼がそう冷たく言い放った時、白衣を着た男達がメスを持ってこちらに近づいてきた・・・。
 “私はもうどうなっても良い。でも、アルベルトだけは・・アルベルトだけは絶対に助けないと・・!!”
 “どうやったらアルベルトを助けられるの・・?”
 必死に考える頭に、アルベルトの叫び声が聞こえてきた。
 

 『お母さんに触るな!!!』


 そして、燃え上がる部屋。
 舞う火の粉は恐ろしいほどに妖艶だった。
 その中心で、彼は笑っていた。
 楽しそうに。本当に、楽しそうに・・・。

 

□白の礼拝堂

 ズキンと鈍い痛みが体中に走り、ジェミリアスは顔をしかめた。
 目の前に広がるのは、白の礼拝堂・・。
 「ここは・・。」
 「貴方の記憶、見させてもらったわ。・・・ありがとう。」
 少女はそう言うと、ジェミリアスの瞳をじっと見つめた。
 吸い込まれそうな青の瞳・・。
 「彼と一緒ね。貴方は・・とっても綺麗な人。」
 ジェミリアスはしっかりと少女の瞳を見つめた。
 少女の瞳は様々な感情が渦巻いていて、その真意は見えない。
 「彼って、誰の事なの・・?」
 「貴方の・・大切な人よ。」
 「大切な・・・。」
 ふっと思い出す、記憶の映像に、ジェミリアスは唇を噛んだ。
 「これは、独り言なのだけど・・。」
 どうしても言いたくなって、今まで不安に思っていた事を吐き出したくて。それを、誰かに聞いてほしくて・・。
 自分でもどうかしていると思いつつ、目の前にいるこの少女に向かってソレを言ってしまった。
 「遺伝子チェックは受けているけれど・・不安は拭いきれないわ。あの子は・・身長が190cmにもなった・・。お父様もお祖父様も小さい方ではなかったのだけれど・・幾らなんでも大きすぎだわ。」
 言ってすぐに後悔する。
 こんな事を少女に言ってどうなるのだと言うのだろうか・・・?けれど、どこかではこうも思っていた。
 この不思議な少女だったら、その全てを受け止めてくれそうだと・・・。
 「全ての要素は貴方の元へ。そして・・彼の要素は全て彼の元へ。彼は彼であって、他の誰でもないわ。私が私であるのと同じように、彼は彼で、貴方は貴方。心のどこかが繋がっていれば、その2人は“通じ合えている”と言う事。貴方を構成する全てのものが、彼を受け入れられているのならば・・彼は彼であって、貴方は貴方よ。」
 少女の言う事は、遠まわしで難しい言葉だった。
 こんがらがりそうになる単語単語を、再度接続させてみるものの・・やはりよく分からない。
 「つまり、何処へ行こうと、何をしていようと、どんな事を思っていようと、貴方は貴方で彼は彼だって言う事よ。私は、貴方を認識しているし、貴方も私を認識している。彼は貴方を認識しているし、貴方も彼を認識している。」
 少女はそう言うと、クスリと小さく微笑んだ。
 どこか分かるようで分からない言葉選びの仕方だった。
 「それじゃぁ、しばらく眠って。記憶を人に見せると言う事は、酷く疲れるものだから。さぁ、眠って・・・。」
 少女のささやきが、全身を甘く柔らかく包み込む。
 そして再び、闇の世界へ・・・。




 「あ・・気が付いた??」
 ゆっくりと目を開けた先・・一番最初に飛び込んできたのは紫色の瞳だった。
 ぼやける視界が段々とクリアになって行き・・・ジェミリアスは思わず固まってしまった。
 覗きこむ金色の髪と紫の瞳を持つ少年。
 その顔は、この世のものとは思えないほどに美しく整っている。
 それこそ・・思わず言葉を忘れてしまうほどに・・。
 「大ジョーブ?どっか痛いとことかナイ??」
 少年が優しくジェミリアスの身体を起こし、心配顔で首をひねる。
 「えぇ・・大丈夫よ・・。」
 ジェミリアスはこくりと頷くと、周りを見た。
 いつの間にかジェミリアスの身体は木の椅子の上に寝かされていた・・。
 この少年がジェミリアスをここまで運んだのだろうか・・??
 「そ。それなら良かった。それより・・お美しいおねぇー様、思い出した事、思い出せない事、なんかあります??」
 「え・・・なにかしら?」
 「あ〜オーケーオーケー!わかった。それで・・疲れたでしょ?」
 「そうね・・。」
 全身を重苦しく包み込む疲労に、ジェミリアスは小首をかしげた。
 何故こんなにも疲れているのか・・・思い出せない。
 「ふ〜ん、そっかぁ・・・。おねぇー様、アルベルトちゃんの・・・。」
 「アルベルトを知っているの?」
 「うん、ついこの間・・ね。」
 少年はそう言うと、ニカっと笑って右手を差し出した。
 「初めまして、お美しいおネェー様。俺の名前はカイル。カイル セラウス。カイルでも、カイちゃんでも、セラリンでも、カイリュンでも、何とでも呼んじゃって!」
 「私は、ジェミリアス ボナパルト。」
 ジェミリアスはカイルの手をとり、軽く握手をした。
 「んで、あっちの無愛想な女の子・・ジェミリアスちゃんの記憶をっとっと、覚えてないんだったな。え〜っと、とりあえず、あれがセシリア。・・っつっても、なんてーの?カッコ仮名ってやつ??」
 「そうなの・・・?」
 「ん〜、そう。んでぇ、ジェミリアスちゃんをココまで運んだのは、ルシアちゃんっつー美少女顔の俺様男なんだけど・・ちょっとねぇ、不良ネコちゃんだからすぅ〜っぐ家を抜け出しちゃうんだよねぇ〜。」
 「・・それ、ルシアに言っておくわ。」
 「うぇぇぇぇ〜!!セシリアちゃんの意地悪っ!」
 言いながらしょぼ〜んと地面にのの字を書くカイルは、かなり外見とのギャップがあった。
 「えぇっと・・カイル君・・だったかしら・・?大丈夫・・??」
 「あぁぁ〜、ジェミリアスちゃんがなんか天使様みたいに見えてくる〜!」
 カイルがそう言って、ジェミリアスを拝む。
 ジェミリアスはその光景に思わず笑みをこぼすと、朽ちかけた聖母を見つめた。
 その瞳はなぜか穏やかで、心地良かった。
 「ジェミリアスちゃん、よかったらお茶してかない??ちょっとさー、美味しそうなお菓子もらっちゃったんだよねぇ〜。」
 「そうね。ご一緒させてもらおうかしら。」
 ジェミリアスは小さく微笑むと、カイルの後について行った・・・。

       〈END〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】


  0552/アルベルト ルール/男性/20歳/エスパー

  0544/ジェミリアス ボナパルト/女性/38歳/エスパー

  0627/クラウス ローゼンドルフ/男性/56歳/エキスパート


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 ■         ライター通信          ■
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 初めまして、この度は『記憶の再生』へのご参加ありがとう御座いました。
 ライターの宮瀬です。
 アルベルト様が訪れてから数日後に白の礼拝堂に訪れたと言う設定でお話を進行させていただきましたが、如何でしたでしょうか?
 こちらもアルベルト様同様、心情表現に気を使いながら執筆いたしました。


  それでは、まだどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。