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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【サンバカーニバル】ダンス・ダンス・ダンス

ライター:燈


【0.オープニング】

 外が賑やかになってきたな、そろそろ外をカーニバル隊が通る頃合いかな?
 ああ、別に毎日やってる訳じゃないけどな。結構、良くやってるよ。
 何だかんだあって暗くなりがちだから、明るくって事だろうな、実際、あれ見てるとどうにも心が浮かれて仕方ねぇし。
 お前さん、外に行って踊ってきたらどうだい?飛び入り大歓迎だ。きっと、楽しいと思うがね。


【1.前菜】

 いつもはひびだらけの壁が原色の布でカラフルに彩られていたり、小さな穴には花を挿して隠れるようにしてあった。心なしか住民達も浮かれているような感じに陽気で、J・Bは酒場に向かう途中でどうも変だと首を傾げた。
 そしてその変だという思いは酒場に入った途端確信に変わった。いつもはそれこそ昼間から、若いだの年寄りだの関りなく賑わっているはずのそこは、夜の7時を回っているというのにやけにがらりとしていて、J・Bは目を丸くした。
「お、J・Bじゃねぇか」
 店の奥のテーブルで飲んでいた剣人が、J・Bに気付いてグラスを持ち上げた。席には既に何人か集まっているらしく、J・Bは近くにいたウェイターに注文してからそちらへ向かう。
「あら。J・Bさんもいらしたのね」
 カクテルグラスを傾けていたエクセラが艶やかに微笑む。隣の誰もいないテーブルから椅子を引っ張ってくると、J・Bはいそいそと彼女の隣に陣取った。彼は外見年齢より遥かに年をとっているが、その外見の年齢よりさらに精神年齢は若い。女性や酒、ゴシップなどの娯楽に関することなら尚更だ。
「あんたはまたすぐそうやって…」
 向かい側の席ではぁ、とアルベルトが溜息を吐いて額を押さえた。その隣ではシュワルツが心配そうに項垂れて丸くなってしまった主人の背中を擦っている。本人に言ったら怒り出すだろうが、見た目が美人なアルベルトとちょっと強面のシュワルツがそうやっている光景は、赤の他人から見ると遠ざかりたくなるような代物だった。
「今日はボクもご一緒させてもらってるんです」
 そう言ってシュワルツの向こうからひょっこり顔を覗かせたのは鈴音だった。こちらは見た目12、3歳にしか見えない体格なので、隣にシュワルツが座っていると丁度対角線上になるJ・Bの席からでは彼女の姿は見えにくい。
「ああ、そうじゃ。うっかり忘れるところじゃったが何でこんなに人が…」
 そう問い掛けようとしたところへ、J・Bが注文した酒がトン、とテーブルの上に置かれた。見るとこの酒場の女将さんが、自分の分のグラスも持って椅子をずずっと足で引き寄せた。
「何だいアンタ達は。もしかして今日がサンバカーニバルだってこと知らないのかい?」
 とぷとぷと注がれていく琥珀色の液体を見るとはなしに見ていた6人は、女将さんの言葉に一斉に「は?」と顔を上げた。
「何、本気で見たことがないってのかい?…別にしょっちゅうやってるってわけでもないけど、年に何回かはやってただろう?」
 生憎だが誰一人としてそんな覚えはなかった。ある時はタクトニムを相手に大暴れし、ある時はタクトニムを相手に大逃走劇を繰り広げ、ある時は道に迷い、ある時は狭い所に這いつくばったり、ある時は街中で妙な連中に絡まれたり、ある時は――。
「……ロクな人生送ってねぇな…」
 暗い調子でぽつりと呟いたアルベルトの台詞に、皆の間に重苦しい沈黙が下りた。
 注いだ酒に口をつけようとしていた女将は慌ててグラスをテーブルに戻すと、何とかみんなを元気付けようと身振り手振りをしながらビジターの素晴らしさを語った。ただでさえ自分は店があってカーニバルにいけずに面白くない思いをしているというのに、その上店の中に暗い雰囲気が漂うなどと最悪なことにはしたくないから、女将も必死だ。
「それにカーニバルだってまだ始まってやしないし!折角ブラジルにいるってのにサンバを見ないなんてバカのすることだよ!!アンタ達バカじゃないのかい!?」
 女将さんは何だか追い出す方向に切り替えたようだった。いきなり逆ギレ寸前だ。いつもは気の良い女将さんの鬼のような形相に、みんなちょっとびくっとした。
 ……酒のせいだと思いたい。(まだ飲んでないみたいだけど)
「あー!もー!他の奴らも出ていきな!あたしだって今日はストレス発散しにカーニバルに参加したいんだよ!!」
 女将はついに立ち上がって、他にもぽつぽついた客達に怒鳴り散らした。キー!とか猿みたいに甲高い声を上げて、近くの客の椅子を蹴倒している。それが本音かよ、と思わないでもなかったが、いつもは温和な一般人がキレる時ほど危ないものはないので、6人はそれぞれそっと酒代をテーブルの上に置いて店を出た。
「…折角じゃし行ってみるかの〜?」
 J・Bの問いに頷いたみんなの笑顔が、ちょっと引き攣っていた。


【2.ダンス・ダンス・ダンス!】

「わぁ、結構本格的なんですね〜」
 派手な色の羽飾りをふんだんに身につけている人々を眺めながら、鈴音は喚声を上げた。そのすぐ側では剣人とJ・Bが落ち着きなく辺りをきょろきょろと見回している。
「ヒュー♪綺麗なお姉さんがいっぱいだな!」
「開始時間っていつなのかしら?」
「あちらの方に伺いましたところ、後2、3分で始まるそうですよ」
 シュワルツの答えにエクセラは「あら、有り難う」とにっこりと微笑んだ。いいえ、とシュワルツもにっこり微笑む。彼は人間が大好きだが、中でも美人にはよく懐く。
「お、始まるみたいだぜ」
 アルベルトが促した方を見遣ると、ちょっとしたステージに置かれたマイクスタンドの前に男が一人立った。開会の儀でもあるのだろうか。それにしては鼻眼鏡はいただけないが。
「アレグリア ケ パッサ〜〜〜〜〜ル〜〜……」
 え、歌うの!?と思ったら、辺りはしんと静まり返っていた。やっぱり歌うのかと男を見るが、彼もさきほどの短いフレーズを歌っただけで、口をつぐんで黙り込んでいる。
 酒場逆戻りの居心地の悪さに体をむずむずさせていると、すぐさま大音量でバテリアがリズムを刻み始める。重低音が響き渡る独特な二拍子のリズムは、自然と体を揺り動かしたくなるようなものだった。見物客の頭も上下に揺れ、足先が小さくリズムを刻んでいる。
 現れたダンサーの集団に周囲からの喚声が大きくなった。最早隣の距離でも会話が出来ない状態だ。
 近くを通ったセクシーなダンサーの一人に誘われて、J・Bはあれよあれよという間にサンバ隊の中に飛び入りしていた。いつの間にかアロハに短パンというラフな格好に着替えていた剣人はコーラを片手に女性ダンサーをナンパ中だったのだが、既に踊り始めているJ・Bを見つけて、その女性ダンサーの手を引いて自分も飛び入りの仲間入りを果たす。
 少し離れた所でその様子を見ていたシュワルツも、アルベルトの腕を引っ張って半ば強引に参加した。無理矢理参加させられた、という風を装ってはいるが、実はアルベルトも結構乗り気なようで、脚は軽快にリズムを刻んでいる。
「…最近ストレス溜まってるのよねぇ。私も踊っちゃおうかしら」
 どんどんと参加していく連れの姿を眺めながら、エクセラはぼそりと独り言ちた。そうして少し辺りを見回すと、楽しそうに踊っている男連中を羨ましそうに見ている鈴音の姿を発見する。どうやら彼女もふんぎりがつかなかったらしい。
「ね、鈴音ちゃん。一緒に踊らない?」
 肩を叩かれて鈴音は驚いたようで勢い良く振り返った。微笑んでいるエクセラを見て、鈴音も大きく頷いた。
「はい!折角ですもんね」

 赤、青、黄色。緑、紫、オレンジ。様々な色が飛び交い、老いも若きも男も女も踊り明かすカーニバルの夜。例え踊ってるのがフォークダンスに近かろうが、ただ体を大きくシェイクしているだけだろうが、太鼓のリズムに合わせて踊ればサンバを上手に踊れているような気になれる。
 …多分に酔いが手伝ってのこともあるのだろうが(激しく体を動かしたことで、アルコールが回りやすかった)、とにかく6人はそれぞれ楽しく踊り捲った。


【3.ハプニング】

「ふうっ、本場のサンバは激しいぜ」
 剣人が額の汗を拭いながら戻ると、他の5人も休憩しているところだった。酒場であまり飲まなかったJ・Bはまだまだ元気そうだが(そしてオールサイバーの2人も)、エクセラとアルベルトは隅に積んであったブロックの上に座り込んでいる。
「お、あれはこの商店街の山車ではないかのー?」
「…あっ!おいJ・B!あんたは色々と面倒を起こすのが得意なんだからあんまりそういうのには…!」
 人込みの少し向こう側に止まった山車に嬉しそうに駆けて行くJ・Bに気が付いて、アルベルトは“近付くな”と言おうとしたのだが――その先には準備で使われたらしきカラーテープがJ・Bの足元に何故だかぴんと張られていて、例によって例の如く見事に引っ掛かって山車に向かって大きく転倒したJ・Bの姿に。
 皆の顔が、一斉に、蒼褪めた。


「ギャーーーーー!!どうしてくれんのさ!?一体これの制作に何時間掛かったとぅーーー!?」というヒステリックな抗議の声を聞くこと2時間。いい加減鼓膜が溶けて流れ出しそうだという頃に、さっきまでずっと耳栓をしてヒステリック青年の横に立っていた男が、彼の肩をぽんと叩いて助け舟を出してくれた。
「まあまあ。そんなお前が怒っててもウルサイし時間の無駄だし。オレ等でなんとかするから、取り敢えずお前あっち行け」
 耳栓をしていた男はしっしっとヒステリック青年に手を払う仕草を繰り返し、軽く彼を凹ませた。それから怒られて小さくなっている6人に笑顔を向ける。
「でさ、まだカーニバル続いてるわけだし、ちょっと協力してもらいたいんだけど」
 あ、今何かビビッと来た。とJ・Bが呟いた。それって悪い予感なんじゃないのかとアルベルトが彼の胸倉を掴んで問質したそうにしているのを、シュワルツがまた主人の背を擦って宥めようとしている。私も嫌な予感がするわ、と言って腕を抱き込んだエクセラに、鈴音は心配そうな眼差しを向けた。剣人は企んでそうな男の様子に小さく舌打ちをする。
「何、簡単なことさ。ちょっとこいつをつけて、ちょっと連携プレーを見せてくれりゃいいんだから」
 そう言って男がびらりと広げて見せたのは、孔雀もかくやというような、異様にド派手な蛍光緑の羽根がびっしり縫い付けられた服だった。


 容赦なく浴びせられる視線、くすくす笑い、はっきりとした爆笑の数の多さに常識人チームはくらりと眩暈がするのを感じた。有り得ない。何で自分たちまでこんな目に。
 商店街チームの山車を無残にも大破させてしまったJ・Bのフォローのために、6人に課せられた仕事は『人間山車』だった。羽飾りだらけ派手だらけの中にいてさえ目立つあの服を着せられて、顔にも紅を訳がわからないほど塗りたくられて、土台だけとなった山車の上で、所謂『組体操』のアーチとしゃちほこの合体版みたいなポーズを取らされている。
「…やっぱりJ・Bと来るとこういうことになるんだな…」
 口裂け女みたいな顔になっているアルベルトが悟ったような遠い目をして言った。「元気を出して下さい」とこれまたピエロのように目の周りを真っ赤に塗られたシュワルツが激励の言葉を掛ける。
 はっきり言ってちっとも慰められなかった。
「…私も流石にこれはちょっと、ね……もし誰か知ってる人に気付かれたら、って考えると、余計ストレスが溜まってきたわ…」
 鼻の頭を赤く塗られて、頬に髭まで描かれたエクセラが溜息を吐いた。彼女の脚を持ち上げている剣人は、俺のイメージじゃない…と項垂れている。そんな彼の額には何故か肉という文字が。
「でもいい土産話にはなりそうじゃないですか?」
 苦笑しながらフォローを入れた鈴音の目の周りには、意味もなく唐草模様がぎっしり描かれていた。
 その顔で見られるとちょっと怖い。と密かにエクセラは思った。
「いやーしかし一時はどうなることかと思ったんじゃが、まさかこんなことで許してくれるとはのー」
 当の本人だけちっとも堪えていない様子で豪快に笑った。J・Bの顔にはステージに立っている男と似た感じの鼻眼鏡が、わざわざ紅で描かれている。

 …こうして6人の初めてのサンバカーニバルは、最終的に生き恥を晒すという、封印しておきたい思い出の一つとして幕を閉じて行くのだった。



 >>END



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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名/性別/年齢/クラス
【0599】 J・B・ハート・Jr.(じぇい・びー・はーと・じゅにあ)/男/78才/エキスパート
【0351】 伊達・剣人(だて・けんと)/男/23才/エスパー
【0499】 響月・鈴音(きょうげつ・すずね)/女/21才/オールサイバー
【0552】 アルベルト・ルール(あるべると・るーる)/男/20才/エスパー
【0598】 エクセラ・フォース(えくせら・ふぉーす)/女/25才/エキスパート
【0607】 シュワルツ・セーベア(しゅわるつ・せーべあ)/男/24才/オールサイバー


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして。この度パーティーノベル『都市マルクト【サンバカーニバル】ダンス・ダンス・ダンス』を書かせていただいたライターの燈です。
 馬鹿は風邪ひかないと言いますが、自己管理のできない馬鹿のため、うっかりインフルエンザにかかってしまい、大分お待たせ致しましたが…(汗)
 よくよく考えたら土・日はOMCさんが休みなんですよね…ということはこれが皆さんのお目に掛かれるのは月曜以降ということですね…(滝汗)のろまでその上計画性がなく、大変申し訳ありません…<(_ _)>
 さて、都市マルクトで行われるサンバカーニバルですが。
 私はブラジルでのカーニバルがどんなものかすらわかってなかったので、ネット検索した所、本場は夜に開始されるようで(多分)。現代と時代が随分違うし、そもそもカーニバルを行う意味も違うんですが…まあ折角のブラジル、ということで一部準拠させていただきました。
 というわけで酒が入った後ですので、PCの皆さんはやけにテンションにムラがあります。…酔わない&飲めないという隠し設定が!ということは書いている時には考慮にいれていなかったので…すみません。今夜ばかりは飲んで酔って下さい(笑)!

 それでは、失礼致しました。皆さんに少しでも楽しんでいただけることを祈って。