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資材獲得依頼
ライター:燈
【0.オープニング】
「銅板が足りねぇな……」
溶接作業をしていたゼトは、そう呟くと手を止めてゴーグルをはずし、灰色混じりの白髪頭をわしわしと掻いた。図面をチェックしていたバルグが、それに気付いて顔を上げる。ゼトは渋い顔つきで金属板を入れている棚を漁っていた。
「切れてやがる」
ちっと舌打ちをして乱暴に棚を閉める。バルグは立ち上がって、今も部屋の隅に立て掛けてある自分が昔使っていた銃剣を取り上げた。
「取って来ようか」
「いや、お前はいい。…昨日もヘマしただろうが」
確かにバルグは昨日オフィス街まで行ってラグ板を取って来るという仕事を引き受けていた。その際、義足である左足がセンサーにうっかり引っ掛かって大量のソーサーを呼び出してしまい、苦戦を強いられたばかりだった。しかし結果的にはきちんとラグ板を持ち帰ったのだ。少々時間がかかってしまったが、あれをヘマと評するのは些か厳しいのではないだろうか。
だがバルグはというと、大人しく銃剣を元に戻して図面のチェック作業を再開した。彼にはわかっているのだ。これは不器用なゼトなりの気遣いだということを。
「なら、誰かに頼むか」
「そうするか……おい、張り紙出しとけ」
言われてバルグは今し方確認していた図面を破り、その裏に資材獲得依頼を書き始めた。図面の内容はもう頭に入っている。ゼトはこれを書いている時でさえ頭にある内容の確認作業でしかなかったのだろう。
……かくして、機械屋 『ENGRENAGEM』 の前に銅板獲得の依頼書が張り出されたのだった。
【1.訪問者】
「すみません」
凛とした声が打ちっぱなしのコンクリートの店内に響いた。奥で作業をしていたバルグが出て来て、彼はまず店の入り口に立つ巨体に些か目を見張った。自分より大きい人間というのは、かなり久々にお目に掛かる。
「どうかしたのか」
倉庫の扉を中途半端に開いてゼトが顔だけ覗かせた。見知らぬ客の姿を頭の天辺からつま先まで見遣って、ふん、と鼻を鳴らす。
「張り紙のか」
問われて…というか既に確信を持っているような響きだったが、シュワルツはこくりと頷いた。ゼトはもう1度素っ気無くふん、と鼻を鳴らすと、顎をしゃくって中に入るように促す。
「そこに立っとくんじゃねぇ。客の邪魔になるだろうが」
言われて慌てる素振りもなく「申し訳ありません」と丁寧に謝ったシュワルツは、倉庫へと戻って行ったゼトを追った。
「コイツが銅板だ。大抵のコンピュータの中に入ってる。板じゃなくても銅部品だったら持って帰って来い。溶かしゃなんとかなるからな」
早口に説明をしながらゼトは現物を持ち出してきた。シュワルツは説明を受けなくとも銅板がどのような物かぐらい知っていたが、律儀にそれを聞いている。
「…おやっさん、仕事詰ってんぞ」
顔を覗かせたバルグに舌打ちをして、ゼトは立ちあがった。大き目の麻袋を引っ張り出してきてシュワルツに渡すと、作業場の方に向かいながら言葉を繋ぐ。
「夕方までにその袋に出きるだけ集めて来てくれ」
シュワルツが「かしこまりました」と腰を折ると、ゼトの眉間の皺が増えた。
【2.VSソーサー】
運が良いのか悪いのか。シュワルツが潜入したビルの中にはコンピューターが豊富にあり、さらに銅管などの銅製品が豊富にあったが、近くを徘徊していたらしいソーサーに見つかって、只今戦闘の真っ最中だった。ソーサーはタクトニムの中では比較的小型で自爆さえ免れればそうダメージは受けないが、奈何せん、数が半端ではなかった。
最初の方こそ鎌を使って闘っていたシュワルツだったが、今はほとんど素手での攻撃に切り替わっていた。ただでさえ2メートルを越える巨漢が、2メートルある鎌を振り回すのにはビルの通路というのは不向きな場所だ。それにソーサーが連続して発砲してくる38口径の弾丸を思えば、鎌で薙ぎ払って引き戻すまでの隙を作るより、習得した格闘技の技を2、3発決めた方が隙が少なく、効率的なように思えた。
…とはいえ引っ切り無しに現れるソーサーのせいで時間は瞬く間に過ぎて行く。なるほど、御主人様の言っていた通りヘブンズゲートのこちら側はなかなか難しいところだ、とシュワルツは思った。そういえばあと1時間ほどで約束の時間になりそうだが…まだ銅材のほうは袋の3分の1程度しか集まっていない。
「弱りました…」
項垂れた感じで呟きながらも鋭い突きを食らわすことを忘れない。ヘブンズゲートを越えての初のお仕事だといいますのに、こんな所で梃子摺っているようでは御主人様もがっかりなされるのでしょうか…などとうっかり考えが及んだ時に、シュワルツは恐るべき力を――というか速度を――発揮した。
「御主人様をがっかりさせるわけにはまいりません!」
オールサイバーの特性、高機動運動が作動したらしい。
長時間の戦闘で付近のソーサーの数も大分減っていたのか、シュワルツが上段蹴りを決めたソーサーが最後の敵だった。ひとまず収まった事態にそっと息を吐く。それにしても10分も経ってしまった。店に戻ることを考えて、回収時間は精々20分程度。なるべく沢山集めたいが、うろうろしてまたソーサーの相手をすることになっても厄介だ。
どうしましょうか…とシュワルツは暫く考えていたが、ふと地に視線を落として気付いた。
ソーサーが機械兵器であるなら、もしかすると銅板が組み込まれているかもしれない、ということに――。
【3.報酬】
倒して来たソーサーの内部から奪取して来た物も合わせると、シュワルツが取って来た銅板は相当な数になった。ゼトは少し驚いた、というか意外だという感じに片眉を上げつつ銅板の入った袋を受け取る。
「…報酬はどうする」
ゼトが問うと、シュワルツは一瞬躊躇ってからおずおずと2メートルはある巨大な鎌を差し出した。テーブルに座って図面を書いていたバルグがまた目を見開いている。鎌自体目にする事は珍しいというのに、その上こんなに巨大な物など見たことがなかった。
「御主人様がこれを強化してもらえ、と」
ずっしりと圧し掛かる鎌に眉を顰めて、ゼトは言った。
「MS用高周波ブレードを使った鎌か…コイツはコイツで完成品なんだが」
シュワルツは困ったように首を傾げる。顔と仕草が合わない奴だな、と密かにバルグは思った。
「…まぁ、HBのセット数を増やして電池が切れたら順に自動交換される機能ぐらいなら付けれる。但し刃の強度から考えて3本が限度だ。つまり15回使用で刃の修理と手動での電池交換が必要になる」
言うが早いかゼトは奥に引っ込んで作業を始めたようだった。シュワルツが振り返るとバルグが心配は要らない、とでも言うように頷いてみせる。
暫しの間コーヒーを飲みつつ(ちなみにシュワルツが淹れた。いつも自分が淹れる物との味の違いに、再三バルグは驚かされた)談話していると、小1時間ほどでゼトが作業を終えて戻って来た。
「有り難う御座います」
改造と共に刃の修理の行われた大鎌を受け取り、丁寧に頭を下げたシュワルツに面倒臭そうに手を振って、それからゼトは左手に手にしていた物を差し出した。
「ついでに持ってけ。…大事にしろよ」
その手には何故か黒いボディのモーターカーが載っていて、訝しんでシュワルツが顔を上げるとゼトはまた鼻を鳴らして、モーターカーをシュワルツに押しつけるとさっさと奥に引っ込んでしまった。
飲み干したマグカップを片付けるために立ちあがったバルグは、助かった、と礼を告げてシュワルツを店先で見送った。まだ手の中のモーターカーを不思議そうに眺めているシュワルツを少し笑って、バルグ自分の憶測を述べる。
「ちょっとは気に入られたってことだ。おやっさんは普段はおまけなんてしない人だから」
苦笑混じりにけれども何だか穏やかな調子で告げたバルグもよくわからなくて、シュワルツは家路を辿りながら少し考え込む。
…人間とは難しいようです。
そう思いながらも彼の表情もまた、穏やかなものになっていた。
>>END
(※シュワルツ・ゼーベアはモーターカーを取得)
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名/性別/年齢/クラス
【0607】 シュワルツ・ゼーベア(しゅわるつ・ぜーべあ)/男/24才/オールサイバー
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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして。この度パーティーノベル専用オープニング『資材獲得依頼』を書かせていただいたライターの燈です。
プレイングから大分かけ離れたものとなってしまい、その上PCさんのことが掴み切れていないかもしれませんが…(汗)
実は最初は大鎌を取得させようと思っていたのですが、勉強不足で大鎌のフォルムがいまいちわからず、結局機械屋特製モーターカーをプレゼントしてしまいました。何の役にも立たないようなおもちゃですが…その内、真価を発揮(というか進化)することがあるかもしれませんので。
高周波で振動する製品はどうも電池によって使用回数が定められているようなので、強化の方は使用回数増加ということにしておきました。
それでは、失礼致しました。
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