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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【サンバカーニバル】ダンス・ダンス・ダンス
サンバのリズムは妖し気に

ライター:高原恵

 外が賑やかになってきたな、そろそろ外をカーニバル隊が通る頃合いかな?
 ああ、別に毎日やってる訳じゃないけどな。結構、良くやってるよ。
 何だかんだあって暗くなりがちだから、明るくって事だろうな、実際、あれ見てるとどうにも心が浮かれて仕方ねぇし。
 お前さん、外に行って踊ってきたらどうだい? 飛び入り大歓迎だ。きっと、楽しいと思うがね。

●マルクト、別の一面
 セフィロトの第1フロア――都市マルクト。無骨で頑丈一辺倒な外壁が取り囲み、タクトニムの侵入を阻んでいるビジターの街である。
 頭上を見上げても空は見えない、街並は(ビジターたちが入ってきて多少は手が入ったとはいえ)廃虚同然、そしていつ侵入してくるか分からないタクトニム。これら暗い条件が色々あるが、それを吹き飛ばすようなお祭り事も時折行われたりしている訳で――。

●サンバが来たりて踊り出す
「話には聞いてたけど……」
 と言い、それに続く言葉が咄嗟に出てこなかった黒髪の青年――神代秀流。それなりに凄いらしいと聞いて頭では理解していても、こうして実際にカーニバル隊を目の当たりにするとまた違った思いが出てくるのが不思議である。
「踊りまくってるわねぇ。ほら今通った子なんて頑張ってるじゃないの♪」
 派手な羽根飾りを背中に背負い肌の露出度高い衣装で左右に激しく腰を振っている女性を指差し、スレンダーな赤髪の女性――ヘルヴォール・ルディアが同意を求めるように隣に居た銀髪チャイナドレスの女性に言った。
「そうねぇ……可愛らしい顔して頑張ってるわよね。肌も綺麗だし」
 チャイナドレスに身を包んだ女性――メティス・ステンノーはそうヘルヴォールに言い、くすりと笑みを浮かべた。ちなみにこの2人、腐れ縁だったりするのだが……同じ女性について語っているのに、微妙に視点が違うような気がするのが何だか面白い。
「ふむ、ずいぶんと熱気があるのだな」
 感心したように言ったのは、濃紺のライダースーツを身にまとっているポニーテールの女性――柊神祢亞だ。興味深気な視線を、やってきたカーニバル隊の方へと向けていた。
「……見えん」
 ぼそりとつぶやきを漏らしたのは、着物をまとった小柄な少年――虐師小刃峰である。メティス、ヘルヴォール、祢亞の3人がちょうど小刃峰の前で壁の役割を果たす形となっていて、カーニバル隊の様子がよく見えないのだ。
 仕方ないので場所を変え、前に人が居ない所からどうにかカーニバル隊の姿を小刃峰は見ることが出来た。何故だか小刃峰は、姿を見るなり眉を少しひそめていたけれども。
「んー、なるほどなあ」
 素っ気無いつぶやきを漏らしていたのは、2メートル以上あると思われる巨大な日本刀を携えた青年、七枷誠である。
 誠としては、別にサンバに興味があってこの場に居る訳ではない。友人やら知り合いやらが見に行くというので、女性陣の護衛代わりになればいいかと思って一緒に来てみたのである。実際問題、こういうお祭り騒ぎの時には血気盛んな輩が小競合いを起こすという話はよくある訳で。
「きゃっ……」
 その時、秀流は女性の短い叫び声を耳にした。秀流がとってもよく知っている声だ。ふっと振り返る秀流。そこには恋人である高桐璃菜が、人と人とに挟まれて後方に流されそうになっている姿があった。
「璃菜!」
 慌てて手を伸ばし、秀流は璃菜が前に出していた右手をしっかとつかんだ。そして一歩前に出て、璃菜の身体を自らの方へと引き寄せた。
 けんけんをするような形で前に出てくる璃菜。勢い余って、そのまま秀流の胸元へ行ってしまう。
「まぁ♪ 大胆ねぇ、こんな所で」
 その光景を見たヘルヴォールが2人を煽る。取りあえず、何が大胆で、何がこんな所なのかはあえて触れないけれども。
「あっ、その、これは……!」
 しどろもどろになる秀流。璃菜は顔を真っ赤にして慌てて体勢を整え直した。いやいや、恋人たちの初々しい反応ですな。
「ふっ……」
 そんなやり取りを耳にして、秀流の近くに居たがっしりとして背丈の高い銀髪の青年が不敵な笑みを浮かべた。
「サンバ!」
 そして、右手をぐっと握っておもむろに叫ぶ銀髪で小麦色の肌の青年――アルゴス・ウォーリ。アルゴスはそのまま、右手のこぶしを突き上げて頭上を仰いだ。
「真夏の太陽!」
 いやアルゴスさん、都市マルクトに空はありませんから。あるのは天井な訳で。
「……は、まあどうでもいい」
 どうでもいいんかいっ!
「ふうむ」
 アルゴスは秀流の方を振り向き、少し思案をしてからこう言った。
「どうやら初歩の知識は持ち合わせているようだな」
「はあ?」
 思わず聞き返す秀流。だがアルゴスはそれに答えず、また不敵な笑みを浮かべるだけだった。秀流はきつねに摘まれたような表情を見せていた……。

●あなた踊りませんか
 最初にそれを言い出したのは、メティスだったろうか?
「私たちも飛び入り参加しましょ」
 このサンバカーニバル、飛び入り大歓迎である。貸し衣裳屋で衣装を調達して着替えを済ませれば、あなたも私もサンバダンサー、私もあなたもカーニバル隊の一員だ。
「あら、いいわねー! たまには踊りまくってストレス発散しなきゃねぇ♪」
 真っ先に賛同したのはやはり腐れ縁、ヘルヴォールである。カーニバル隊の踊りを見ていて、身体がうずうずとしていたのであろう。非常にノリノリだ。
「面白そうだな。私も参加しよう」
 カーニバル隊にずっと興味深気な視線を向けていた祢亞も、メティスの言葉に賛同した。が、祢亞のサンバ参加が不本意らしい小刃峰が口を挟んできた。
「いや、祢亞。それはどうかと思う……そもそも今の旅は、柊神家次期頭首としての見聞を拡げ……」
「だからこそだ」
 ずいと小刃峰に顔を近付け、反論を開始する祢亞。
「ただ見ているだけで、この身に付くというのか? 私が頭でっかちな頭首となってもよいのだな」
 極めて至近距離、小刃峰に息がかかるくらいの所で祢亞はそう言った。小刃峰は色々な意味でたじたじである。で、結局――。
「たまの、息抜きならば……」
 そんな理由をつけて、小刃峰が折れて祢亞のサンバ参加を認めることとなったのだった。
 女性陣4人中3人までが参加に傾いた以上、璃菜が1人だけ不参加ではちと寂しい。もっとも璃菜もサンバに興味はあったため、飛び入り参加することに別段抵抗はなかった。
 それでは、残された男性陣4人はどうするというのだろう。
「警備だな」
 アルゴスが他の男性陣3人に言った。
「ああ、不埒な者が居ないとも限らんしね?」
 同意する誠。まあ、誰かに言われなくともそのつもりであったのだが。
「見張るか……」
 それは小刃峰も同様。自らには、そうする責務があるのだから。
「だったら俺も見張るよ」
 他の3人が警備するというのに、秀流1人だけのほほんとカーニバル隊を見ている訳にはゆかない。それにあれだ、恋人の璃菜もサンバに参加するというのだからなおさらで。
「そうと決まれば、早く衣装を借りに行きましょ」
 メティスが他の女性陣3人を促して、貸し衣裳屋のある方へと歩き出す。ヘルヴォールや璃菜もそれに続く。祢亞も一番最後に歩き出したかと思いきや、急にぴたりと足を止めた。
「ああ、そうだ」
 小刃峰の方へと振り返る祢亞。そして――。
「覗いたら、分かってるな?」
 と言った時の祢亞の微笑みは、怖気の震うものであった。な……何する気なんだろう……。

●衣装選び
 女性陣4人揃って、一番近い貸し衣裳屋に足を踏み入れた。店にはスパンコールの衣装が多く所狭しと並んでいる。
「あい、いらっしゃい。あんたたちも飛び入り参加かい?」
 この貸し衣裳屋を仕切っているらしき中年女性が、愛想いい笑顔を4人に向けてきた。
「ええ、もちろん。今から混じって踊るのよ」
 外をくいと指差し、ヘルヴォールが言った。
「そうかいそうかい。だったら早く選んだ方がいいね。ぼやぼやしてっと、ろくな衣装が残りやしないよ」
 中年女性がそんなアドバイスを送ってくる。が、アドバイスを聞く前からメティスが熱心に衣装候補を選んでいた。
「これよし、これダメ、これも、これいい、これもいい、うんうん、違うこれ、ダメ、よし、ダメダメ、却下、承認、オッケー……」
 並んでいる衣装をパパパと選別し、棚の上へと積み重ねてゆくメティス。璃菜がそれをちらっと見て、驚きの表情を見せた。
「えっ……! こ、こんなの着るの!?」
 璃菜のそんな戸惑いを他所に、ヘルヴォールがその中から自分に相応しそうな物を選ぼうとしていた。
「ちょっとこれは地味ね」
 衣装の1つを手に取り、不満げな様子のヘルヴォール。いやヘルヴォールさん、結構露出度高めでしたよ、それ?
「組み合わせてもいいのか?」
 独自に衣装を見繕っていた祢亞が、中年女性にそう尋ねていた。はて、今一瞬だけれども、革素材を手にしているのが見えたような気が……?
「そりゃ構わないさ。こっちは払うもんさえきっちり払ってもらえりゃ、文句なんかありゃしないよ」
 さすが年季の入った商売人。儲けに繋がると判断すれば、多少なりとも融通が利くものだ。
「何ぼうっとしてるの? もう着る物選んであげたわよ」
 メティスのその言葉に、璃菜がはっと我に返った。
「そ、そんな……」
 あろうことか、璃菜は自分で衣装を選ぶ前に他人に決められてしまった。ぼやぼやしてる間に、メティスが璃菜の腕に自らの腕を絡めてきた。
「さ、着替えに行きましょ……ふふっ」
 吐息が璃菜の髪に触れるくらいの距離まで顔を近付け、メティスが囁く。璃菜としてはもう、こっくりと頷くしかなく。
「あー……っと、どこで着替えればいいのかしら?」
 ぐるりと店内を見回し、ヘルヴォールが中年女性に尋ねた。
「このドアくぐったら、着替える場所に繋がってるよ。着替えが済んだら、そのまま外に出られるんだよ」
 どうやら扉の向こうが、隣の建物に通じているらしい。で、着替えが済んだら貸し衣裳屋の中をまた通ることなく外へ出られるような造りになっているようだ。
「こんな賑やかな時さ、ちまちました更衣室なんか作ってらんないだろ?」
 何か納得出来る中年女性の言葉だった。
「なら、これを開けると先客が」
「それなりにね」
 祢亞の問いかけに、中年女性がニカッと笑って答えた。一気に客を捌くには、こういう豪快な方法が手っ取り早いのだろう……きっと。
 ともあれ、4人は扉をくぐって着替え場所である隣の建物へ移動することにした。……気のせいか、璃菜1人だけは連行されているように見えなくもなかったけれども。

●分担
「それじゃあ俺は、裏手を見てくるな」
 秀流とアルゴスにそう言って、誠は1人すたすたと着替え場所である建物の裏手の方へ向かって歩き出した。もちろん不埒な輩対策である。だいたいの場合、真正面から来るような奴など居ないのだからその行動は正しいといえよう。
 秀流は着替え場所の建物の入口に目を向けた。入口のそばでは、小刃峰が仁王立ちして見張っていた。今の小刃峰だったら、雨が降ろうが槍が降ろうがてこでも動かないことだろう。ああ、都市マルクトに雨は降らないのだけれども、事の例えであるので、念のため。
「表と裏に1人ずつ、か」
 アルゴスがぼそっとつぶやいた。
「ならば、残るは巡回だろうな」
 それは確かに。建物の周囲を巡回する役目の者は必要かもしれない。
「なるほど。それなら……」
 頷き、さっそく巡回を始めようとする秀流。けれどもその肩を、アルゴスがぐっとつかんで止めた。
「はい?」
「一緒に行くとしよう。……非常に大切な話もあるからな」
 神妙な表情で、アルゴスが言った。その顔に、秀流は同行を断ることなど出来るはずもなかった――。

●品評会
「あまり長く待たせるのもあれだし、早く着替えを済ませちゃいましょうか」
 などと言って、ちゃっちゃと着ている衣服を脱ぎ出すヘルヴォール。スレンダーであるけれども、衣服の下から出てきた肉体はグラビアモデル並みのスタイルである。
「待たせちゃダメでしょ……踊りをね♪」
 そっちかいっ!
「まあ、待つのは当然だろうからいいとして」
 誰に向けての言葉かは明白だが、祢亞はライダースーツのジッパーに手をかけた。チー……ッと一気に引き降ろすと、中から祢亞の白い肌が姿を現した。豊満な2つの胸の膨らみとともに。ライダースーツの上からでも分かる物だったが、こうしてダイレクトに現れるとまた違う。
「…………」
 そんな祢亞に視線を向けたまま、メティスも無言で着替えを始める。チャイナドレスの下からは、祢亞に劣らぬ胸の膨らみが待ち受けていた。
 そして、全裸になるとすすっと祢亞のそばへやってきた。視線は先程から大きく変わっていない。時折舐めるように上下に移動するが、最後にはデフォルト位置であるらしい胸元の所へ戻ってきていた。
「……さすがにいいスタイルしてるわねぇ」
 ごく自然に祢亞の腰の辺りに自らの手を持ってゆくメティス。すぅ……っと、祢亞の腰のラインに沿って下から上へと指先を滑らせた。
「わあ……」
 璃菜は他3人の裸体を目の当たりにし、衣服を脱いでいる途中で小さな溜息を吐いていた。
(皆、スタイルよくていいなぁ)
 3人の裸体の前に、自信喪失の璃菜。しかし、璃菜が決してスタイルよくない訳ではない。実際、璃菜のスタイルも結構な物なのだ。
 けれども、トップ級が目の前に並んでいると、自分が相対的に低く感じられてしまうのである。上位グループとトップグループの微妙な差とでもいいますか。
「どうしたの? 表情が暗いわよ♪」
「ひぁっ!?」
 突然に背後から胸元に手が回ってきて、璃菜が驚きの声を発した。気付かぬうちに、ヘルヴォールが背後に回り込んでいたのである。
「……あらぁ? 少し大きくなった?」
 ふにふにと胸元にある手を動かし、くすっと笑うヘルヴォール。璃菜の顔が真っ赤になる。
「ね、毎日?」
 ヘルヴォールのその言葉に、ぶんぶんと頭を振る璃菜。
「そ、そんなにしてないですっ……!」
 真っ赤な顔のまま、璃菜がヘルヴォールに言った。
「何言ってるの? 牛乳は飲む物であって、する物じゃないわよ? 何と勘違いしたの、んー?」
 ヘルヴォールがくすくすと笑う。璃菜の顔がいっそう真っ赤になった。こういうのをあれだ、きっと『墓穴を掘る』というのだろう。恐らく、盛大に。
 まあこの会話、女性陣だけしか聞いていないのであればまだ問題ないのだが――実は違う。
 外で見張っていた小刃峰のサイバーの聴覚が、女性陣の会話をしっかりと拾っていたのである。
(……非常時のためだ……何か事が起こってからでは遅いのだ……)
 自らにそう言い聞かせ無理矢理納得させる小刃峰。でも、まだよかったかもしれない。もし男性陣がそばに居たならば、小刃峰は完全に上の空で会話をするはめになっていただろうから。

●ああ勘違い
 ヘルヴォールとの会話が途切れた所へ、すっ……とメティスが璃菜の左腕に自らの腕を絡め、身体をくっつけてきた。
「こっちもいいスタイルしてるわねぇ……」
 などと言いながら、璃菜の左頬を左手の人さし指でぷにぷにと突くメティス。
「ほんと……食べちゃいたいくらいに……」
 璃菜の耳元に唇を寄せ、メティスが囁く。やがてメティスの指先が、璃菜の唇に触れた。
「独占させておくなんて……もったいないわね……ふふっ……」
「あ、あのっ! 私……着替えないと……!」
 慌てて璃菜が言った。それを聞いて、メティスは璃菜から離れた。
「ああ……そうね。着替えないといけないわよね。せっかく選んであげたんだもの」
 メティスが、璃菜用に選んだ衣装を持ってきた。
「一番凄いのじゃないですかっ!?」
 衣装をまじまじと見て、困惑する璃菜。先程見た衣装の中で、一番凄い衣装だと璃菜が感じた奴だった。
「……透けてる……」
 何か透けてる部分もあるみたいです、この衣装。それも1ケ所だけではなく複数の箇所で。
「でも、秀流が気に入るんじゃない? きっと見たいと思ってるんじゃないかしらねえ……」
 ヘルヴォールが何気なく璃菜に言う。その言葉に気持ちが揺れ動いたか、思案顔になる璃菜。
「……そ、そうよね。秀流は優しいもんね、うん……」
 自らにそう言い聞かせ、璃菜は気持ちを入れ替えようとした。少しずつ、その気になってきているようである。
「きゃっ!!」
 突然ヘルヴォールが驚きの声を上げた。後ろから祢亞がおもむろに胸をつかんできたのだ。
「油断大敵」
 ぼそっと祢亞が言った。少し笑っていたかもしれない。
「や……やったわねぇっ♪」
 口では怒ってるように聞こえるが、ヘルヴォールは楽し気に祢亞に襲いかかった。
「きゃあっ!」
 ふにふにふにと、ヘルヴォールの3倍返し。何だか指先が別の生き物のように見えてきましたが、ヘルヴォールさん。
「何事かっ!!」
 そこへ飛び込んできた者が1人。外で見張っていた小刃峰である。飛び込んできたのは祢亞の悲鳴が聞こえ、異常事態と思ってのことだったのだが――目の前にある光景は、ある意味では異常事態であるのかもしれないが、小刃峰が思ういわゆる異常事態では決してなかった。
 その場の空気が、固まったような気がした――。

●大切な話
「しかしまあ、こういうロジック重視で動かせる身体は楽でいいなあ」
 建物の裏手でそんなことを言いながら、誠は泡喰って逃げてゆく男の背中を見つめていた。
 逃げてゆく男は、こっそりと建物に忍び込もうとしていたのだった。それを誠が見付けて、追い払ったという訳だ。ちなみに、今のでちょうど5人目だ。
「どうしてこう、予想通りの行動をするもんかねー」
 呆れるというか、不思議に思う誠。まあ裏手に回ってそれほど時間が経っていないのに5人ということを考えれば、ここは着替えを覗くのが容易い場所であるのだろう。
 と、そこへ巡回中の秀流とアルゴスがやってきた。
「どうだい?」
 秀流が先に誠に声をかけてきた。
「あれで5人目だよ」
 まだ秀流たちの視界にも見える男を指差す誠。
「意外と多いなあ。こっちは1人もさ」
 巡回していた2人は、不埒な輩を1人も見ることはなかった。やはり裏手が特異点であるようだ。
「よし、ちょうどいい。今から、年長者として2人に非常に大切な話をしたいと思う」
 それまで黙っていたアルゴスが、不意に口を開いた。秀流と誠の表情が引き締まり、アルゴスの次の言葉を待っていた。
「大切な話……それは、男女の機微についてだ」
 アルゴスは、極めて真剣な表情で2人に言った。
「……はい?」
 秀流の目が点になっていた。誠は誠でどういうことかと首を傾げる。
「いや、それだけではない。……実戦についての知識もなければ、後悔するはずだ」
「ええと……」
 ますます困惑する秀流。アルゴスは構わず自分の世界へ入ってゆく。
「いざ事の時に、どちらが傷付くのも避けなければいけない! ゆえに俺は……年長者として、前途を祈って知識を授けなければならないのだ!!」
 何か力説してます、アルゴスさん。
「……特に神代は、生徒の高桐の恋人だそうじゃないか。それゆえ、特に念入りに教え込まないと、な」
 璃菜が何の生徒なのかはよく分からないが、アルゴスはがしっと秀流の肩をつかんだ。
「まずは単刀直入に聞こう」
「な、何ですか」
「高桐とはどうなのだ。……よもや無体なことをしているのではないだろうな!」
 アルゴスさん、直球過ぎます。
「いやいやいやいやいやいやっ!!」
 ぶんぶんと秀流は頭を振った。
「璃菜とはその、ごく普通に……」
「普通とは曖昧な言い方だろう! 人によって、普通の基準は違うのだぞ!!」
 何だか今の言葉だけ取り出すと、アルゴスが立派なことを言っているような気がするが、流れを考えると決してそうではない。
「普通とは何だ! 毎日なのかっ! 己だけをぶつけているのかっ!! アフターフォローに気を配っているのかっ!!!」
「ふ、2日に1回ですよ! ちゃんとぎゅっと抱き締めてます!!」
 アルゴスの気迫に対し、思わずそう答える秀流。直後――絶句した。
「うあ……」
 秀流が頭を抱える。こういうのをあれだ、きっと『墓穴を掘る』というのだろう。恐らく、盛大に。……似た者カップル?
 誠は2人に背を向けて、肩を震わせていた。ひょっとして……笑いを堪えてますか?
「巡回続けますよ!!」
 顔を真っ赤にし、すたすたと先に歩き出す秀流。今の心境は推して知るべし。
 さて――一足先に秀流が表に戻ってくると、そこにはぼろぼろになった小刃峰が吊るされていた。秀流が理由を聞いても、小刃峰は黙して語らなかった……。

●衣装披露
 ようやく女性陣の着替えが終わり、1人ずつ順番に外へ姿を現した。
「お待たせ♪」
 最初に姿を見せたのはヘルヴォールだった。どこがどうとは言わないが際どい角度、非常に高い肌の露出度、それでいてきらきらと豪華な衣装に身を包んでいた。いわゆる一般的なサンバの衣装である。
 思わず目をそらす秀流。それを見て、ヘルヴォールが少し残念そうに言った。
「あら、これでもまだ地味な方なのよ? ちょっとサイズがねえ……」
 もっと露出度高い過激な(今でも十分過激な範疇なのだが)衣装もあったが、サイズが合わなくて断念したのだった。
「お手入れはしてるから、角度は問題ないんだけど。サイズだけはねー」
 つくづく残念そうであった。
 次に出てきたのは祢亞だった。祢亞はというと、お腹と両サイドが丸空きで胸元にある丸い輪っかに通した紐を首にかけて固定するタイプの衣装に身を包んでいた。そして、両方の太ももが黒革で包まれていた。何となく、女王様ぽくも見えるような……。
「!?」
 復活した小刃峰が、祢亞のあまりにもの格好に駆け寄ってきた。
「ね、祢亞っ!!」
「え、何?」
 祢亞はその場にぺたんと膝を突くように座り込み、両手を前方に突いて小刃峰の顔を見上げた。その姿に戸惑いを見せる小刃峰。
「そ、その格好は、その……ひ、柊神家の……」
「何が?」
 さらに前に出て、ちょうど猫のような体勢になる祢亞。小刃峰の視界には、祢亞の胸の谷間がしっかり入っていた。
「じ……次期頭首としてはっ、どうかと……思……う……」
 あ、何か葛藤してます、小刃峰さん。まあ故意か無意識か偶然か、こんなポーズを取られたらそうなってしまうのも理解は出来なくもない。
 その次に出てきたのはメティスであった。秀流が慌てて目を背ける。というのもだ、メティスの衣装はもはや面でなく線だったのだ。
 どこを見ても線、線、線。胸元も、ふもとの辺りから覆われているような形でなく、頂上付近だけが覆われているような状態であった。きっと普段こういう格好で歩いていたなら、自警団に問答無用で勾留されても文句は言えないかもしれない。
 秀流が鼻の辺りを手で押さえていた。女性陣の過激な衣装3連発に、だいぶダメージが蓄積しているようだった。
「次、来るわよ」
 メティスがそう言うと、ヘルヴォールが無理矢理秀流の顔を入口の方へ動かした。そして最後に、璃菜が姿を現した。
 その姿は、天使風の衣装。けれども、布は多く使われているのだが隠されている部分は最小限。他の所は布があっても全部シースルー状態なのだ。
「ど、どう……?」
 恥ずかしそうに尋ねる璃菜。でもそれは、秀流の耳には届かなかっただろう。何故なら――盛大に鼻血を噴き出して、後ろに倒れてしまったのだから。

●伝えたい言葉
 秀流が次に目を覚ました時、後頭部に柔らかい感触があった。目の前には、心配そうに秀流を見つめる璃菜の顔。
「……大丈夫?」
 璃菜の言葉に、秀流はこくりと頷いた。
「ここは?」
 秀流の問いかけに、璃菜は路地だと答える。邪魔にならないよう、倒れた秀流を路地へ連れてきたのである。
「どうして鼻血なんか」
「それは……その、よく知ってる訳だし……」
 ごにょごにょと言葉を濁す秀流。その途端、璃菜が秀流の耳をぎゅっとつねった。恥ずかしさで、ちと怒りの感情が出てしまったのかもしれない。
「痛っ!」
 秀流ががばっと跳ね起きた。そして、璃菜の方へと向き直る。けれども、なかなか正視は出来ない。それでも何とか、秀流は璃菜にこう言った。
「似合ってるよ……」
 正視は出来ないが嘘ではない。心からの言葉であった。
「あ……ええと……ありがと……ね」
 こくん、と頷く璃菜。その秀流の一言が、とっても嬉しく思えた――。

●何でこうなるの?
 さて、秀流が路地で璃菜に介抱されていた頃、他の女性陣3人はカーニバル隊に加わって踊っていた。一番踊りに熱が入っているのは、もちろんヘルヴォールだ。
 祢亞も楽しそうに踊っている。手には何故かモーゼルを持って……って、どこから取り出したんだ、どこから。
 それを遠巻きに追いかけているのが小刃峰である。まあ、視線は祢亞からそらしているけれども。
 ともあれ、カーニバル隊は楽しそうに踊り続けている。一方、近くの屋根の上では――。
「逃げるな!!」
 誠が、屋根の上から盗撮していた男を追いかけていた。角度的に可能性があるのではないかと思っていたのだが、まさしくビンゴであった。
 少しずつ誠と男との距離が詰まってゆく。そのうち男は、屋根から飛び降りて逃げようとした。が、何故か飛び降りずにぴたりと足を止めた。しかも、両手を挙げて。
 こうなれば、誠が男の身柄を確保するのは簡単な話だった。男を確保して誠が下を見ると、そこには拳銃の銃口を男の方へ向けたアルゴスの姿があった。……そりゃ止まるわな。
 カメラなども押収し、アルゴスとともに男を女性スタッフにでも引き渡そうと探し歩く誠。ちょうど踊っていたメティスの近くを通りがかる形となった。
 と、その時だ。メティスの衣装が、ぴしっと切れてしまったのは。それも上半身の方ではなく……。
 沸き上がる観客たち。そして、誰かが言った。
「盗撮だ!!」
 誠とアルゴスは、視線が一斉に自分たちの方へ向いたのを感じていた。誠の手には、押収したカメラがある訳で……。
 この後どうなったのか、それはもうご想像にお任せすることにしよう。

【END】


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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名:クラス

【0577】 神代・秀流:エキスパート
【0481】 柊神・祢亞:エキスパート
【0489】 ヘルヴォール・ルディア:エスパー
【0522】 虐師・小刃峰:エスパーハーフサイバー
【0524】 メティス・ステンノー:エスパー
【0580】 高桐・璃菜:エスパー
【0606】 七枷・誠:オールサイバー
【0611】 アルゴス・ウォーリ:オールサイバー


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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・『サイコマスターズ・アナザーレポート PCパーティノベル・セフィロトの塔』へのご参加ありがとうございます。本パーティノベルの担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・大変お待たせさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。ここにようやく、サンバカーニバルの模様をお届けいたします。
・今回高原は、少しリミッターを外してみましたが、どのような塩梅だったでしょうか。とりあえず、フルでリミッターを外すことは洒落にならないのでやりませんけれども。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。