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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【都市中央病院】突入! 強奪!
目標は薬剤室

ライター:高原恵

 病院‥‥医薬品の類は高く売れるし、必要としている奴らも多い。ついでに言えば、サイバーパーツも有るかもしれない。
 宝の山だが、それだけ敵の数も多いって訳だ。
 病院にいるくらいだから、怪我してたり、故障してたりって奴らだろうが‥‥いや、医者や修理工みたいな連中もいるか。何にしても、油断の出来ない場所である事に違いはねぇ。
 突入。お宝を手に入れて、素早く逃げる。
 良いか、敵を倒そうなんて考えるな、お宝を奪って逃げる事だけを考えろ。

●人だけが集うにあらず
 都市マルクト――酒場ヘブンズドア。改めて説明するまでもなく、ビジターたちが集う酒場である。
 相変わらず今日も、ビジターたちの姿は多く見られる。酒をただ楽しみに来た年輩の男性、ヘルズゲートをくぐってきたものの逃げ帰ることしか出来なかった悔しさを酒で紛らわそうとする駆け出しビジターの青年、一夜の恋の相手でも探しに来たのか男たちに熱い視線を送っている露出過多な女性ビジター……エトセトラ、エトセトラ。
 とにもかくにも、様々な目的でビジターたちはこの酒場へ足を運ぶ。だが、それだけビジターたちが集まってくるということは、大なり小なり何らかな情報も集まってくるということでもある。
 機会があれば、よく注意して店内を見てみればいい。近くのテーブルで話しているビジターたちの会話に、カウンターで黙ってグラスを傾けている別のビジターが耳を傾けている……なんて光景を目にすることが出来るかもしれない。もっとも、聞いている側が集音センサー搭載のサイバーだったり、センサリティ系のエスパーだったりしたらそんな光景すらない訳だが。
 また、そういったのとは違って、実際に他のビジターに声をかけて目に見える形で情報収集を行っているビジターだって居る。酒の1杯でも奢れば、よっぽどの美味しい情報じゃなかったら口の方も滑らかになるというものだ。
 まあ、他のビジター連中からの印象として反感を買わないのは後者の方法であろう。少なくとも、真正面から動いている訳だから。
 今日だって、その方法で情報収集を行っている者が居た――今日も都市マルクトまで兄に送ってもらってきた森杜彩である。
「おう、もう1杯おかわり!」
 話を聞こうとした相手から、空になったグラスが目の前に差し出された。彩は微笑みを浮かべて、少し申し訳なさげに言った。
「いえ。少々、お話をお伺いしたく思ったのですけれど……」
「あぁ? ……んだよ、ウェイトレスじゃねぇのか」
 結構酔ってるらしい相手の男は、ぶつくさ言いながら空のグラスをテーブルに戻した。男が勘違いしたのも無理はない。何しろ今の彩は、メイド服に身を包んでいたのだから。ちなみに、ビジター登録の時もこの格好だ。
「で、俺に何の用だい、嬢ちゃん。まさかご主人様になってくれとか言うんじゃないだろうなぁ? ……んなわきゃ、ねぇって!!」
 自分で自分に突っ込みを入れ、うひゃうひゃと笑う男。訂正します、結構ではなくだいぶ酔っているかもしれない。
「ええと、そうではなくってですね。『病院』について、何かご存知ではないかと」
 彩が『病院』という単語を口にした途端、男の顔付きが変わった。男は眉をひそめ、彩に聞き返す。
「『病院』たぁまさか……ゲートの向こうの、あれか?」
「はい。都市中央病院のことです」
 彩はこくんと頷いた。
「自殺する気か、嬢ちゃん」
 先程までの酔いはどこへやら、険しい表情で男が喋り出した。
「言っとくがな、あそこはタクトニムの多く集まる場所の1つだぞ。奴らも負傷したら一丁前に病院に行くらしくてな……手負いだが、数は半端じゃねぇ。見た所、嬢ちゃんビジターとして駆け出しもいいとこだろ。やめとけやめとけ! 行くんなら居住区の方がまだましだ」
「行きませんよ」
「……へ?」
 彩の言葉に、男がきょとんとなった。
「話には聞くのですが、どういった場所かよく分からないので、お聞きしてみようと思ったんです。経験豊富そうな方にお見受けいたしましたから」
 にっこり笑う彩。男はそれを聞いて表情がまた一変、顔をふにゃっと緩ませた。
「お、何だ嬢ちゃん。見る目あるじゃねぇかよ。よしよし、だったら知ってる限りのこと話して聞かせてやらぁ。自慢じゃねぇが、俺は仲間と組んで3度ほど病院に向かってな……」
 嬉々として喋り出す男。彩は男の話を相槌を打ちながら聞いていた。
 しかし、彩は男に半分嘘を吐いていた。病院がどういった場所か分からないので知りたいというのは本当だが、行かないというのは全くの嘘だ。行くのだ――それも1人きりで。
 病院にあるというある薬を入手し持ち帰ること、それが兄より言われたことだった。1人きりで向かうのは、それが極秘の依頼であったからだ。詳細な依頼内容および依頼人のことは聞いていない。彩が教えられたのは、遂行する目的のみである。
 彩自身、いつかはタクトニムと対峙することがあると思っていたが、まさか初遭遇がこのような所になるとは予想外であった。危険な場所だと、耳にしていた所だったのだから。
 それゆえ、少しでも可能な限りの情報を得ようと、彩は酒場で聞き込みを行っているという訳だ。作戦のリスクを少しでも軽減するために。
 男は、なおも饒舌に話し続けていた。

●初遭遇
都市中央病院――第一階層の中央にある都市中央警察署に隣接した建物である。したがって、中央部から少しずれた場所に位置するのだが、第一階層全体から見ればここも中央部と言ってもいいかもしれない。
 建物自体はまるで廃虚のようである。所々壁が崩れていたり、区画自体が崩れ落ちていたりするのは、ビジターとタクトニムの戦闘の跡であるのだろうか。
 そんな建物に、1匹の白銀の仔猫が忍び込んでいった。……はて、猫? 妙な話だ。ヘルズゲートの向こう側は、タクトニムが徘徊する世界ではなかったか?
(慎重に……慎重に、です)
 仔猫は――いや、仔猫に変化した彩は、周囲の様子に気を配りながら病院の侵入へ成功した。壁が崩れて穴が開いている所から、ひょいと入り込んだのである。
 ヘルズゲートをくぐってすぐ仔猫に変化し、門番から聞いた道順を一目散に駆けてきた彩。運がよかったのか、その間にタクトニムと遭遇することはなかった。
 けれども、ここでもその幸運が続くとは限らない。事実どこから侵入するか建物の周囲を窺っていた最中に、何か中へ入っていった気配があったのだから。
 物陰に隠れながら、彩は廊下へと出てきた。そこはしんとしてはいたが、空気が外とはまるで違う。改めて危険な場所であると、彩は肌で感じていた。
(ええと、この場所はどこでしょう)
 まずは現在位置の把握に努める彩。その結果を、酒場で男から聞いた院内の間取り図と頭の中で照らし合わせる。
 男によると、3度目にして薬剤部があると思しき場所の直前までは行ったそうなのだが、タクトニムが集まり過ぎて宝を目前に脱出したのだという。
 男はその時の経路を詳しく喋ってくれた。つまり、彩も同じ経路を行けば薬剤室へ辿り着けるかもしれないという訳だ。もっとも、確実にその先にあるとは言い切れないのだけれども。
 ともかく階段を駆け上がり、男と同じ経路を進んでみる。途中の階で別の階段に向かうため、病室であったろうその階を縦断する必要があった。彩は物陰に隠れつつ、少しずつ移動をしていた。
 と、そんな時である。病室の扉の1つが不意に開き、何か姿を現したのは。
(あれがタクトニムの1つなのですね……)
 物陰から現れたタクトニムの様子を窺う彩。それは、皮膚を剥がされて筋肉が剥き出しになったかのような外見のモンスターだった。
(ケイブマンというのでしょうか)
 確か、男の話にも出てきていたような気がする。話と外見の様子が同じだから、ケイブマンで間違いないのだろう。
 ケイブマンは彩の隠れている方向へと歩いてきた。彩は身を出来る限り小さくし、ケイブマンをやり過ごすことにした。今回の目的は薬であり、戦闘ではない。知らん振り出来るなら、それに越したことはなかった。
 どんどん近付いてくるケイブマン。そして彩のすぐ近くまで来た時、ぴたっと足を止めた。彩が息を飲む。
 だが、ケイブマンは2度3度と辺りを見回しただけで、彩には気付くことなく通り過ぎていってしまった……。
(……見付かりませんでしたね)
 安堵する彩。とことん今日は運がいいようだ。願わくば、薬剤室に着いて目的の薬を手に入れるまでそれが続いてほしいものである。
 彩はケイブマンが居なくなったことを確かめてから、階段へ向かって駆け出していった。

●それは、奇妙な光景
 それから彩は、男が言っていた通りの経路を進んで無事に薬剤室に着くことが出来た。
 目的の薬を探し出すのはちと手間取ったが、それもどうにか見付けて帰路についた。
 その途中、また病室のある階を縦断した際に、彩は不思議な光景を目にすることとなった。
 病室の扉が少し開いていたのでちょこっと覗いてみたら、ケイブマンに別のタクトニムがどうも治療行為らしきことを行っていたように見えたのだ。そこに長居することも出来ず、ほんの一瞬見た光景だけれども。
(タクトニム……いったいどのような存在なのでしょうか)
 また別の意味でタクトニムに対する謎を抱える彩。いやはや、何とも謎が多い存在だ――。

【END】


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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名:クラス

【0284】 森杜・彩:一般人


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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・『サイコマスターズ・アナザーレポート PCパーティノベル・セフィロトの塔』へのご参加ありがとうございます。本パーティノベルの担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・大変お待たせさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。ここに、病院への侵入の模様をお届けいたします。
・さてさて、目的は無事に果たすことが出来ました。正面突破の正攻法よりも、こういった方法の方がピンポイントな目的の場合はよいのかもしれませんね。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。