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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【ショッピングセンター】救援

ライター:燈


【0.オープニング】

 ラジオビジターを聴取中の皆さん、番組の途中ですけど、ここでレアに緊急通信が来てますよ〜
 報告者はラジオネーム『恋するビジター』さん。えーと・・・・ショッピングセンターで偶然、救難信号をキャッチ? 救援に行きたいけど、弾薬がもう少ないから自分は行けないと。
 ふみふみ、リスナーの皆さん、ショッピングセンターから救難信号の発振を確認しました。
 余裕のある方は、救援に向かってくれると、レアは嬉しいです。
 敵の罠って事もあるし、助けに行ったら大戦力がって事も有り得るから、十分に注意してね?
 では、救援に向かう皆さんへ、レア一押しの曲をプレゼント。
 と、その前に、救援に向かう皆さんは、今から言う周波数に通信機をあわせてね? それで、救難信号をキャッチできるはず。


【1.救援部隊】

「ショッピングセンターか……」
 ザ、ザーというノイズ音。ムツキは手元の無線機を例の周波数に合わせながら、傍らのティディを見た。ティディは普段通りに微笑を浮かべてムツキの視線に小首を傾げている。
「救援に向かおうと思うんですが、ついて来ていただけますか?」
 問うたムツキに対して、ティディは勿論ですと笑みを深くした。

 食料品を買い込んだ帰り道、アルベルトは耳にしていたラジオの内容に軽く眉を顰めた。ショッピングセンターならここから行けない距離ではない。幸い自分はバイクで来ていたし、同行のシュワルツに至っては、もしかしたらそれ以上速く走れるかもしれない。救難信号が出ていたら出来るだけ救援に向かう、というのがならず者も多いビジター間での道義だし、行ってやりたいとは思うのだが――。
「この荷物じゃなあ……」
 斜め3歩後ろをゆっくりとした歩調で歩いていたシュワルツを振り返り、アルベルトは足を止めた。少し遅れて、だが距離はしっかり一定のままでシュワルツも足を止める。
「どうかなさいましたか?」
「いや、ショッピングセンターから救難信号が出てるらしいんだけど……」
「あなた方も救援に?」
 唐突に下方から掛けられた声に、アルベルトは反射的に振り返り、ついで徐々に視線を下ろしていった。そこには10歳前後と思しき少女が2人。それからMSらしき戦闘マシンと、よくわからないが熊の形の乗り物があった。
「あなた方もって……まさかあんたら2人で救援に向かう気だったのか!?」
「ええ。他に行く方がいないのであればそうしようかと」
 驚いた様子のアルベルトにムツキは淡々と答えた。口調だけは大人びているが、アルベルトの目からすればどうしたって子供にしか見えない。彼はちっと舌打ちをすると、持っていたコンビニ袋をシュワルツの方へ押し遣った。
「しょうがねぇ。俺達も救援に行くぞ」
「承知致しました」
 ぶっきらぼうに告げてさっさとバイクに跨ったアルベルトに、シュワルツは小さく微笑を浮かべると、深々と腰を折って荷物を背中にしょった。


【2.救助活動】

「1番乗りのようですが……」
 リュイは荒廃したショッピングセンターの1画に一人佇んでいた。その手には治療道具や武器の詰った鞄が握られている。
 彼は辺りを素早く見回して、敵が近くにいないことを確認すると、そっと足を踏み入れた。

 遠くで爆音が聞こえる――ケヴィンは痛む右肩を押さえつつ壁に半ば凭れ掛かった状態のまま通路を移動していた。彼の後ろには点々と血痕が続いている。朦朧とした意識のまま、何とはなしに頭に手をやって、そこがぬるりと湿っていることに気がついた。
「何だ……?」
 掌1面に付着しているものを確認して、ケヴィンはどこか他人事のようにああ、血か。と考えた。途端に足の裏から力が抜けていく。最早立ちあがることさえ適わずに、そのままずりずりと床へ座り込んでしまうと、彼は口元に自嘲の笑みを浮かべた。
「……こんな場所で死ぬ気はなかったんだが……これも運命、か。結局記憶は戻らず終い……おまけに妙な医者とも知り合って、挙句の果てに誰にも見つからないような場所で野垂れ死に……」
 走馬灯のように短い過去の回想をしながら悲しくなって来たケヴィンは、顔を伏せてしくしくと泣き始めた。運命の馬鹿……と小さく呟くと、あなたも大概だと思いますよと聞き慣れた声で返って来る。
 反射的に顔を上げると、そこには見知った医者の姿があった。
「あんた……」
「じっとしていた方がいい。結構失血してるようですしね」
 言うなりリュイはケヴィンの前にしゃがみ込むと、手にしていた鞄を広げて着々と怪我の治療を行った。表情は硬いままだが口からは休むことなく嫌味が吐きつづけられている。曰く、最近治したばかりなのに死んでなくてよかっただとか、もう少し己の分というものをわきまえた方がいいだとか、こんなに出血していて動き回るなんて馬鹿としか言いようがないだとか。言葉だけならもっと丁寧な物言いだったが、内容は大体こんなものだった。
「……俺、死んでた方が良かったかもな……」
 ぐったりとしたケヴィンが遠い目をして言うと、リュイは無表情のまま彼の肩に巻いていた包帯をぎゅっと強く引いた。声にはならない声を上げて、ケヴィンは冷たいタイルの上に沈没する。
「取り敢えず死ぬ心配はなくなりましたよ。……おや、誰か他にも来たようだ」
 体を起こしたリュイにつられてケヴィンが顔を上げると、人影らしきものが4つこちらに近付いてきていた。


【3.敵】

 人影……のあとに続いて来た大きな熊の機械の背に乗って揺られながら、ケヴィンは金髪の少女の質問に答えていた。酷い貧血に相俟って、あまりにもあまりな事態を上手く飲み込むことが出来ずに頭の中は疑問符でいっぱいだったが、答えが勝手に口を突いて出たことに感謝する。
「それであなた以外にどれぐらいの方がここにいらっしゃるのですか?」
「討伐隊の人数はざっと2、30人だったが――半分は、恐らく……」
 最初の爆発で5人吹っ飛んだ。それから襲って来たビジターキラーに4人が。次いで大量になだれ込んで来たイーターバグに陣形を崩され散り散りになり、地獄絵図のような戦闘へと移行していった。敵に囲まれて銃弾も切れ成す術がなくなった仲間が殺されていくのを救うこともできず、目の前の敵を切り伏せてただひたすらに走る――たったひとつ、仲間の為にできたことといえば、救難信号を発振したことだけだ。
 ケヴィンが強く唇を噛み締めたのを見て、ティディはそこで質問を打ち切った。ちらりと前方を見ると、表情を消したムツキがティンダロスを従えて先頭を走っている。その後に先程知り合ったばかりのアルベルト、シュワルツが続き、自分とケヴィン、リュイを乗せたアルカスは一行の最後尾を走っていた。

 轟音が近付いてきている。

 灰を巻き込んだ煙と焦げた臭いが辺り1面に広がっていた。むせ返るような、死臭。敵も味方も何もなく、ただ屍が累々と山を成し、礫片が雑草のように転がっている。
 リュイが真っ先にアルカスを飛び降りて駆けて行った。一瞬目の前の光景に圧倒されていた者も、我に返って生者を捜し始めた。単独行動は危険だということで、2人1組に別れる。アルベルトに言われてシュワルツはリュイの後を追い、怪我人であるケヴィンはアルカスを操るティディと、そしてムツキとアルベルトが共に行動する。ことは一刻を争う。誰しもの額に汗が滲んだ。
「いた……!」
 声を上げたムツキに一斉に視線が集まった。膝を突いて手を差し延べた彼女の先には若い女性が瓦礫の上に力なく身を横たえていた。だが、その姿を確認したケヴィンが顔色を変える――。
「そいつは敵だ!」
 え?と思った時には既に機械の腕の先に埋め込まれた銃口がムツキの正面を捕えていた。驚きもあったがそれ以上の覚悟が彼女の瞼を閉じさせる。この距離ではティンダロスは間に合わない。
 だが彼女を襲ったのは銃による衝撃ではなく、突き飛ばされて硬いコンクリートに強かに身を打ったそれであった。見れば自分に圧し掛かっているのはアルベルトで、彼は秀麗な眉をきつく顰めて後方を睨んでいる。
 後方――ムツキが上体を起こして覗き込むと、そちらでは先程の女がシュワルツを相手に肉弾戦を繰り広げている。
「おかしいと思ったんだ。ここへ来るまであれだけ五月蝿かったってのに……ここには何もなかった」
「でも、あの人は……」
 困惑の表情で立ち上がったムツキの疑問に答えたのは、突然走り出したシュワルツを追って来たリュイだった。
「サイバーでしょうね。見た目にはほとんど普通の人間と変わりませんが、金属探知機に反応がありましたし。……どういうことなんでしょうか?」
 リュイはアルカスに乗せられたままの男に話を振った。ケヴィンはよくわからないが、と前置きをしてから話し出す。
「あれがタクトニムどもの指揮を取ってるみたいだった。……とは言っても、ビジターキラー以外は知能の低いやつばっかりだったから……多分、指揮官というよりここのボスみたいな感じなんだろう」
 話している間にシュワルツの鎌が女によって弾かれ、彼がバランスを崩したと同時にキーンと耳鳴りのするような音が響き渡った。どうやら潜んでいたタクトニムを呼び寄せる合図みたいなものだったようで、圧倒的な数をもってして四方を取り囲まれてしまう。
「くそっ!おい、荷物はいいから全力出せ!」
 アルベルトはシュワルツに向かって叫ぶと拳銃を構えて次々に敵を打ち抜いた。ムツキもティンダロスを使って一気に敵を薙ぎ払って行く。怪我人であるケヴィンを乗せたアルカスはティディの特殊能力によって光学迷彩で姿を隠しつつ場を離れ、それを援護するようにリュイが続いた。
「恐らく、ケヴィンさん以外に助かった人はいないでしょう」
 冷徹な眼差しで攻撃を続けながらムツキが言った。
「……でしたら、ここから脱出することが最優先事項ですわ」
 ティディが指先をシュワルツに向けて念じると、あっという間にシュワルツはこちら側へテレポートした。女と戦っていた反動で振った腕が眼前にいたケイブマンを殴り倒す。
 全員揃ったところで一同は全速力を上げてヘルズゲートへと向かった。足の速いケイブマンがいくらか後を追って来たが、ティンダロスやシュワルツが防ぎアルベルトとリュイがそれを援護する。時にはティディのテレパス能力を使って、一行は何とかゲートを無事に越えた。間一髪の所で閉まったゲートの向こう側で、女が狂気染みた声を上げたのが聞こえた。

「……一部では望まずにサイバーとなった――いえ、ならされた方もいると聞きます。彼女は人間を恨んでいるのかもしれません」
 苦い顔でシュワルツが溢した言葉に、皆が顔を上げた。シュワルツは固く握った拳を体の脇に垂らしている。
「あの方は私と同じオールサイバーでした。私は今この姿であれることを感謝しておりますが、あの方はそうではない……」
 悲しそうに眉を下げたシュワルツの背を、アルベルトが優しく叩いた。彼女がどんな仕打ちを受けたのかは誰にもわからないが――恐らく、シュワルツの言う通り人間を恨んでいることに間違いはないのだろう。
 ムツキは先程の女に自分の生立ちを重ねてしまい、ぎゅっと服の胸元を握った。それに気付いたティディが、安心させるように彼女の肩に手を置く。
「必ずしも個人の意思が尊重されるとは限らない、ということを反省しなければいけませんね」
 そうして胸に一抹のやり切れなさを抱たまま、今回の救助活動は終わりを迎えたのだった。


 >>END



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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名/性別/年齢/クラス
【0511】 ミワ・ムツキ(ミワ・ムツキ)/女/10才/エスパー
【0486】 ケヴィン・フレッチャー(けう゛ぃん・ふれっちゃー)/男/20才/エスパー
【0487】 リュイ・ユウ(りゅい・ゆう)/男/28才/エキスパート
【0495】 ティディ・ウォレス(てぃでぃ・うぉれす)/女/9才/エスパー
【0552】 アルベルト・ルール(あるべると・るーる)/男/20才/エスパー
【0607】 シュワルツ・ゼーベア(しゅわるつ・せーべあ)/男/24才/オールサイバー


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして、こんにちわ。この度パーティーノベル『第一階層【ショッピングセンター】救援』を書かせていただいたライターの燈です。
 大変お待たせいたしましたわりに、それほど長い文章でもなく、また少しもやもや感が残る仕上がりとなっていますが……今回は敢えてここで終わらせていただきました。後味悪い方がドラマ性があるかと思いまして。ハッピーエンドでもバッドエンドでもないエンディングですが、このお話はこれで終了です。
 ところで毎度毎度プレイングを反映させていただくのに苦労するのですが……今回はいつも以上に難しく、纏めるのに時間がかかってしまいました(汗)結果的にばっさりどのPCさんもプレイングの一部をばっさり切り落とさせていただいているのですが、ご了承ください……。

 それでは、長々と失礼致しました。皆さんに少しでも楽しんでいただけることを祈って。