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<アナザーレポート・PCゲームノベル>



深海樹林探索任務・初級編


〜シュバルツバルト前〜

「む?もしかして、あの変な娘が今回の依頼主か……?」

伊達 剣人が、パブの掲示板に貼ってあった依頼書が指定していた場所に行くと、そこには全身を迷彩服で包み、大きなザックを背負った少女がいた。
辺りをキョロキョロと見渡し、時々時計を見ている。背景にはとてつもなく深そうな森が、視界の端から端までを余裕で包んでいた。
剣人は、その少女に近付いて、「ようっ、あんたが依頼主か?」と言った。

「フニャ?君は誰にゃ?」
「伊達剣人、霊能者だ。よろしくな嬢ちゃん。今回の探索任務に参加するぜ」
「ボクの名前は『鳴海 鳴門』、人呼んで『なるなる』だにゃ。参加を感謝するにゃ」

剣人が手を差し出すと、鳴門がそれを手にとってブンブンと振りまくった。しばらくそうしていると、満足したのか手を離し、剣人に言った。

「でも、来てくれてよかったにゃ。実は他の人達はみんな帰っちゃったにゃ」
「何?…………薄々思っていたのだが、もしかして俺一人か?」

剣人が周りを見ながら言った。周囲には一人もいない。広告が出ていたにもかかわらず、これは少なすぎではないだろうか………

「みんな帰っちゃったにゃ。やっぱり給料が少なすぎたみたいにゃ」
「広告に書いてあった額ならまぁまぁだろ?」
「あれを更に分配するんだにゃ」
「いや、それだったら確かに少ないだろ」

ポリポリと、剣人が頬を掻く。確かに、報酬は中堅程度の額が出る。しかしそれを更に分配してしまえば、実際に貰えるのは【元の報酬÷参加人数】となるわけだから、非常に少なくなるという事もあるわけだ。

「にゃにゃ?もしかしてお兄さんもキャンセルかにゃ?」
「いや、俺一人なら分配する必要もないだろ。それなら十分だ」

「弾薬費も掛からないからな」と言って、剣人は頷いた。

「じゃぁ、もうそろそろ時間だからにゃ、この足で行くにゃ。OKかにゃ?」
「当然だ。もうそのつもりで用意もしてあるんだからな」
「それならGOだにゃ〜〜♪」

鳴門が先導する。集合場所自体が、既に森の手前だったため、すぐに森の中に入る事になる。剣人は、鳴門についてその森まで歩いていくが、不意に何かを感じて立ち止まり、森をジッと見つめた………

「………なるほど、ちょっとお亡くなりになっている人が多い仕事場だな、二桁は幽霊さんだ。これなら確かに、女の子一人で入って行くのは危険すぎるな」

剣人は、森の方向を向けば見える範囲だけでも軽く二桁はいくであろう幽霊さんを見ながら、森の入り口でこっちに手を振っている鳴門の元へと走った………






〜森の中〜

「ボクは勝手にどんどんマッピングデータを記録して行くにゃ、だからその間のガードをよろしくお願いするにゃ」
「おう、任せろ」

剣人が炎の聖剣を召還する。鳴門は、「火事は起こさないように頼むにゃ」と言って、両手に持った測定機器を操り始めた。時々紙の資料も使い、地形を少しずつ記録していく。

剣人は、その鳴門の少し離れたところを歩いていた。炎を纏った聖剣を持ち、木々の間を凝視する。その中で、草木の合間の微妙な動きを察知し、剣を構えた。

「んじゃまずは軽く行きますか。伊達剣人、行くぞ!」

剣人が言うと同時に、草木の合間から虫が飛び出した。人の拳大の羽虫が五〜六匹。それらは、まるで蚊のようにブーーンと羽音を立てて鳴門へと迫った。蚊の伸縮自在のクチバシが、鳴門へと殺到する。剣人へ手出しする気はないようだ。たぶん、虫としての本能で、炎を嫌っているのだろう。
剣人が踏み込んだ。炎の聖剣を振るい、大蚊を一閃する。一匹の蚊を切り裂いたあと、そのまま剣の軌道を曲げ、炎の出力を上げて他の蚊を焼き消した。
鳴門は、「ほほぉ」と感心したように声を上げると、さり気なく後ろから来た蚊をナイフで一突きして黙らせた。

「大丈夫か?」
「問題なしにゃ。でもその炎は便利だにゃ」
「自慢の聖剣だからな」
「これなら安心にゃ。どんどん奥まで行くにゃ〜〜!」

鳴門が測定データを次々に更新しながら、周囲の地形を記録して地図を完成させていく。剣人は、その鳴門へと襲いかかる羽虫達を次々に墜としていった。蚊、蠅、蜻蛉、時々蝶々のようなモノまでいた。どの虫も大きさは最低で拳大で、それ以上の大きさにもなると、もはや常人ではその姿を見ただけでも悲鳴を上げそうだ。
この森は、気候的にはジャングルに近いだけあって、様々な種類の虫達で溢れていた。そのため虫の種類が非情に豊富で、中には勿論強敵もいた。
特に………

「こいつ……隙がないな……」

剣人は、その羽虫達よりも遙かに強いモノと対峙する事になった。
鳴門を自分の背に隠し、炎の聖剣を全く恐れようとしない自分の背丈と同じぐらいの巨大な蟷螂は、虫の中の狩人だけあって、剣人でも苦戦させる程であった。
ユラユラと左右に揺れる蟷螂……剣人は、汗を流しながら剣を構えていた。
蟷螂の“攻撃の速さ”は、小さな時でも肉眼で捉えるのは難しい。それをこの大きさで放たれれば、多少のスピードダウンはあっても受けきれるかどうか………

(しょうがないな。ここは一つ賭になるが……)

剣人は、聖剣を自分の身に引きよせた。炎の勢いを弱め、体にほとんど密着させる。

「おおお!」

そして、そのまま蟷螂の懐にまで飛び込んだ。
しかし、蟷螂の反応速度は、人等とは比べられないところまで達している。突っ込んだところで、捕まるのは必至……それに違わず、剣人は蟷螂の両の鎌に捕まり、体を引きよせられた。そして、蟷螂の頭部がすぐに剣人の方へと向き、喰らい付こうとした。

「はぁ!」

剣人が気合いを入れると、蟷螂と自分の間に挟まっていた聖剣の炎が燃え上がった。その炎は蟷螂の方向へと火炎放射のように放たれ、蟷螂を焼き尽くす。

「GRIRIRIRIRIIR!!」

蟷螂が炎の勢いと熱度で焼き切られていく。剣人がその蟷螂の胴を蹴って離脱している数秒で、完全に灰となって崩れ落ちた…………
ほんの少しでも炎が放たれるのが遅かったら、頭を噛み砕かれていたのかも知れない。本当に、それぐらい危険な賭であった………

「ま、普通に放ってたら躱されてたかも知れんが、これで十分だろ」
「よくこんな事出来るにゃ〜……」
「まぁ、こういう事には慣れてるからな……しっかし、本当に節操ないなぁ、この森は」

剣人が、森の一角に向かって剣を振るった。剣から飛び出た炎が草木を焼くと、その中から数匹の羽虫が悲鳴を上げて出てきて、燃え尽きた。
剣人も、次から次へと襲いかかってくる虫達にウンザリしてきた時、鳴門が測定端末を仕舞いながら言った。

「もうそろそろ良いにゃ。これ以上、二人だけで進むのは危険にゃ」
「戻るのか?」
「ここでセーブポイントを作るにゃ」

そう言うと、鳴門はザックの中から、水色の水晶玉を取りだした。辺りを見渡し、近くの木を見繕う。その中で、木の幹に穴が開いた物を見つけた。その穴の中に、水晶玉を押し込む。

「これでこの水晶玉が壊れない限り、この場所にテレポート出来るにゃ」
「便利な能力だなぁ………」
「次に来る時には、もっと装備と人を揃えてから来るにゃ」

鳴門はそう言うと、剣人の手をぎゅっと握った。

「それじゃ、テレポートするにゃ。気分が悪くなるけど、用意は良いかにゃ?」
「やってくれ」

剣人が返事をすると、剣人の視界がグニャッと歪み、思わず目を瞑ってしまった………

……………………
……………
………




「給料にゃ。安いけど、また頼むにゃ」
「ああ、気が向いたらな」
「お願いにゃ〜〜」

鳴門が手を振って見送った。剣人は、手をヒラヒラと振りながら歩き出し、給料の入った袋をとりあえずポケットに突っ込んで、パブへと足を運ぶ。
 今回の仕事は、給料は良かったが、それでも少しだけ辛かった。一体あの森の中で、どれだけの人達が入り込んで幽霊になっていったのか…………





ここの酒は安くて美味い。また次の仕事に出かける前に、少しだけ飲んでいこう…………










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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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整理番号 0351:伊達・剣人

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 ■         ライター通信         ■
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初めまして、メビオス零です。今回のご参加、誠にありがとうございます。
今回のお話は、楽しんで頂けたでしょうか?まだサイコマには慣れていないんで(と言うか初めての作品)、おかしいところがあったら遠慮無く言って下さい。
ファンレターなどで、この物語の感想などを頂けたら幸いです。勿論苦情や、「こうした方が良いんじゃないか」といった要請も受け付けます。なにぶんまだまだ半人前なので……
よろしかったら、これからもよろしくお願いします。(・_・)(._.)
追伸:今回の探索での出来た地図等は、少ししたら【戦場の森】に載ります。敵データも少しだけ………気が向いたら見てみて下され