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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


ビジターズギルド。ゲートの前のでかい建物だと言えば、その辺の婆ちゃんだって教えてくれる。
中に入っても迷う必要はないぞ。上のフロアにお偉方の仕事場があるんだろうが、用があるのは一階の受付ロビーだけだ。階段昇らずまっすぐそっちに行けばいい。
軌道エレベーター『セフィロト』探索を行う者達は、まずここで自らを登録し、ビジターとなる。書類の記載事項は余さず書いたか? 書きたく無い事があったら、適当に書いて埋めておけ、どうせ誰も気にしちゃ居ない。
役所そのまんまで、窓口ごとに担当が別れている。お前が行くのは1番の会員登録窓口だ。
並んで待つ事になったり、待合い席に追いやられる事もあるが、気長に待つんだな。
同じような新人を探して、話なんかしてるのもいいだろう。つまらない事で喧嘩をふっかけるのも、ふっかけられた喧嘩を買うのも悪かない。
まあ何にせよ、書類を出せば今日からお前はビジターだ。よろしく頼むぜ。





■ 都市マルクト【ビジターズギルド】初めての会員登録 ■





仕事でなければこういった場所に来ることはなかっただろう、そんなことを漠然と考えていたキリルは書類を渡され軽く息をついた。再生紙を利用していると思しき紙は、作りが荒く繊細なペン先であれば駄目になるだろうざらつきを備えている。もっとも、ここでは繊細なペンなどあろうはずもなく、そんな心配はあくまでも杞憂に過ぎない。指定されている記入場所に備え付けられてたペンを見ればやはり作りは粗雑、けれど長持ちしそうなタイプだった。
「わからんでもないな」
視線をわざわざ巡らさずとも打ちっぱなし状態の壁にヒヒが入り、物騒な弾痕が見えてくる。固いはずの壁がそうなる危険のある場所には、多少でも高価なものは置けないということなのだろう。紙にしてもペンにしてもタダではないのだ。頻繁に使えなくなるだろう現実を考えると、どうしたってこういう結論に至るだけで。
筆圧を強くすると破れそうなほど粗悪な紙に丁寧に文字を記す。必要事項と印された幾つかの部分ほ一旦保留にすると、こめかみを叩きながら思案する。何も馬鹿正直に記載せずとも支障はないだろうが、全てがすべて嘘だと後々面倒な可能性も否めない。ふっと目を伏せたキリルはペンを持ち直し、淡々と空欄を埋める。あと一箇所で提出できるという頃合に足音が近づいてくるのに気づいた。同様に登録用紙を記入しにきた相手だろうかと目を上げずに考える。警戒を兼ねて、極自然に相手の思考を読み取ろうとするが寸前で思いとどまった。ここはあのセフィロトを探索するべく訪れる者たちの巣窟だ。自分のようにESPを使える者もいるだろう。今近づいている相手がそうでない保証はどこにもなく、またそういう人間がこちらを注視していない確証もない。手の内を早々にばらすのは得策ではない上、任務上目立つ行為は避けたい。結論は一瞬で出、キリルは空欄を埋め終えた書類から目を離し、自然な動作で振り返った。
すると自分と同じように粗雑な紙に視線を落として立っている。とくに警戒する必要はなかったらしいと思いとどまった自分を少しばかり褒めながら場所を譲り、窓口に書類を提出した。
「順番に登録作業を行っておりますので、あちらお待ちください」
丁寧な口調で示されたのは、待ちくたびれた顔の面々が集っている空間だ。浅く顎を引いて首肯する。
書類を提出したせいか、先よりも視界がクリアになっている。どうやら初めての場所、しかもセフィロトの足元ということで若干緊張していたらしい。緊迫感がないのはマイナスだが、緊張しすぎるのも不味い。丁度良い精神状態に落ち着いたようだとどこか他人事のように笑った。
改めて見てみるとこのビジターズギルトという建物は様々な喧騒に包まれている。会員登録しに来たものは特有の、おそらくは先の自分も纏っていたであろう緊張、高揚を漂わせている。仕事漁りに来ているらしい者たちは、少しでも条件をよくしようと躍起になっている。さすがに苦情処理の場所だけは、活気というよりも殺気が漂っているようだが、それも味といえば味。この場で働くには随分な根性が必要そうだと軽く受付嬢を賞賛してしまった。
「楽しそうだな」
人間観察のごとく視線を静かに流しているキリルに、先ほど記入場所ですれ違った青年が話しかけてきた。キリルは軽く目を開いて話しかけられたことに対する驚愕を示すと、相手は肩を竦めてため息をついた。
「仲間と来るつもりだったんだか、土壇場で断られてな。一人で暇なんだよ」
「俺は話し相手には向かないと思いますが」
「……話してくれないか」
年上の人間に敬語を使われて、突き放されたと解釈したのか顔を曇らせた相手にキリルは軽く首を振る。
「これは単なる癖なので気にせずに。ただ、この場で世間話も難でしょう。話すことといえばここに心得、ですが私もあなたも新規登録待ちです」
ここまで言えばいいだろう、そんな目で相手をみれば青年は納得したと肯いた。その癖すぐに口を開く。
「いや、俺もそういう話が聞ける相手を探そうと思いました」
キリルにつられたのか微妙な敬語になっている。それにも気づかず青年はつぃっと視線を流した。キリルもその先を見る。
「…あれに巻き込まれたくないんで、巻き込まれそうにもないあんたと話していたくて」
「なるほど……」
キリルの視線の先には何が原因なのか互いの武器を手に向き合っている男たちが複数。体格差が大きく違う組み合わせもあるが、オールサイバーの場合そんなサイズの問題は瑣末な事だ。
待ち疲れて鬱憤が溜まっていたのか、大半の人間が無神経に囃し立てている。これではいつこちらに飛び火するのか分かったものではなくて。青年の焦燥も理解できるというものだ。キリルは若干視線をそらして眉を顰める。数分後の未来予測であまり考えたくない事態が見えたのだ。
ふぅ、と息をつき自分の武器に手をあてる。登録作業だけの予定だった本日は、あまり目立ちたくないという理由から38口径オートと高周波ナイフしか持ってきていない。もっとも、この建物に入った途端に自分の配慮は無駄だと思うほどに、堂々と大型武器を所有している者たちが居たのだか、やはりそういう手合いは注目されやすく、配慮もあながち無駄とは言い切れない。
黙りこくったキリルの横で青年も同様に息をついていた。ギルトにとってこの程度の揉め事なぞ日常茶飯事なのは、受付嬢らの冷静な視線からも推測できる。これに巻き込まれたくないと嘆息するということは、この青年ビジター登録したのは探索が主目的というわけではないようだ。
キリルは少し迷った後に銃把ではなく、樹脂でコーティング済の柄を選び、気負いなく引き抜いた。
「危ないですから、後ろに」
青年に告げて、実際相手の体を自分の斜め後ろに突き飛ばすと、流れてきた弾を刃で受けた。キン、と硬い音がして、金属が二つに裂け壁にめり込む。予測していた未来に到達した瞬間だ。弾道も誤差なくぴたりと同じで、狙ったとおりにブレードで割けた。
自分らの撃った弾の行き先も気にせずに暴れ続けるのはほんの数人で、残りは周りに怒鳴られて我に返った。キリルは十数歩先で銃を突きつけあっている二人組みを見据える。
「目立つ行動は避けたいのだが……」
どうしてくれる、とぼやきながらそれでも手にした刃を迷わず投擲した。真っ直ぐにまっすぐに、至近距離にまで詰めた二人の間を縫うように飛んだブレードは、さくりと壁に突き刺さり制止した。いがみ合っていた二人も目の前を高速で突き抜けた刃に思考停止して、構えていた銃から手を離す。
「やれやれ」
ため息をついて歩き出し、壁からブレードを抜くと、キリルの後ろでばつが悪そうにしている二人には目もくれず元の場所に戻った。注目はもちろん浴びてしまった。けれどその視線を全てなかったことにして、キリルは自分の名前が呼ばれるのを辛抱強く待つことにする。その計算は大半は正しく、若干外していた。キリルが視線に答えず半眼閉じて沈黙したことで、喧嘩していた者も囃し立てた者も迷惑そう見ていた者も、近づく、あるいは話しかけようとするの諦めたが、ただ一人、キリルが後ろに突き飛ばした青年だけは感嘆の目で見つめてくる。
「すげぇ…」
そんな言葉を皮切りに、庇ってくれて感謝するやらいい武器持っているねやらそういえば名前は、などと止め処なく話しかけてくる。始めに口を利いてしまった手前、邪険にすることも出来ずに適当に対応するが、ため息が零れるのを止められなかった。
「……テロリストより、始末が悪い」
戦闘目的金稼ぎ目的でもその他なんでもいいが、叩きのめしてそれで終わり、にならないビジターというものは得てして始末が悪い、と興奮して話しかけ続ける青年を他所にぼそりと零した。





2005/03 by.有馬秋人

■参加人物一覧

0634/キリル・アブラハム


■ライター雑記

はじめまして、有馬秋人と申します。
「お任せ」と言うお言葉に甘えまして、若干好き勝手してしまった嫌いがありますが、如何でしたでしょうか。
頂いたキリル氏のデータを上手く反映出来ていること、並びにこの話が楽しんでいただけますよう祈っています。

発注依頼を有難う御座いましたっ。