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<ホワイトデー・恋人達の物語2005>


【ホワイトデー】日帰りツアーに行こう!



 ☆オープニング★

 とある町のレストランで食べ放題付『ホワイトデー限定・日帰りツアー』が行われる事になった。恋人や友人、家族と一緒に、このツアーに参加してみませんか?

 ◆

「『ホワイトデー限定・日帰りツアー』ですって?何だか楽しそう!」
 とある町にある小さなレストラン。そのレストランにある掲示板に張られているチラシの文字に、そばを通りかかったエリア・スチールは目を留めていた。
「公園に遊びに行くのも楽しそうだし、その中で食事をすればきっといい思い出になりそう。だけど」
 エリアは心の中で、もうすぐホワイトデーという事を意識していた。ホワイトデーに開かれるイベントだからと言って、今回のこのツアーは何も恋人限定の参加、とは書かれていない。家族や友人同士、どのように参加するかはそれぞれの自由なのだから、一人遊びに行っても構わないのだろう。
「でも、一人で行くのはちょっと淋しいですし」
 エリアは頭の中で、知人や友人の顔を思い浮かべていた。今年のホワイトデー、この公園で楽しい一日を一緒に過ごすのに必要な友人、知人。あれこれと考えるうちに、エリアの中に一人の男性の顔が思い浮かんだ。
「大道寺・是緒羅様!あの方と一緒なら、きっと楽しい一日を過ごす事が出来ますね!」
 そう決めると、エリアは自分が親分と認めている、大道寺・是緒羅に連絡をし、ホワイトデーに開催されるこのイベントの事を伝える事にした。



 数日後、いよいよ今年のホワイトデーがやってきた。バレンタインに比べると、ホワイトデーはそこまで大きく騒がれはしないが、それでも記念の日に良い思い出を作りたいと思う人が多いのだろう。
 エリアが集合場所であるレストランの前に着いた時には、すでに何人かのグループがレストランの前に集まっていた。家族連れや友人同士だろうと思うグループもいる事はいるが、やはり男女ペアでの参加者の数の方が他よりも多い。
「あ、是緒羅様!先に来ていたのですね。おはようございます!」
 人ごみの奥に、がっしりとした体型の男、大道寺・是緒羅を見つけ、エリアはすぐに駆け寄った。
「おはようエリアさん。思ったよりも人がいるな。やはり、カップルが目立つが」
 そう言って、是緒羅がまわりの人々へと視線を流す。
「そのようですね。でも、ホワイトデーですしね」
「ま、そんな事には関係なく、今日は二人で楽しもう。ちょっと前に誘いの連絡をくれてから、結構楽しみにしていたんだ」
 是緒羅がそう言うと、エリアもにこりとしてそれに答えた。
「私もですよ。どんな公園に行くのでしょうね。とても楽しみです」
 エリアがそう言った時、レストランの裏口からスタッフらしき人物が出てきて、そこいらにいる人々に呼びかける。
「皆様、ようこそ『ホワイトデー限定・日帰りツアー』に起こし下さいました。これから順番にバスにご乗車頂き、公園まで移動いたします。参加の方はお連れ様と一緒に、こちらへお並びください」
 人々がスタッフの誘導により、ひとつの列を作り始めたので、エリアと是緒羅もその後へと続き、参加費用をスタッフへ渡すと、バスへと乗り込んだ。エリア達の後もツアーへ参加する人は増えて、バスは補助席を使うほど満員になった。
 エリアと是緒羅は隣同士に座り、エリアはバレンタインで友人と行った場所での思い出などを話しながら公園に到着するのを楽しみにしていたのだった。



「この公園だな。思ったより広い公園じゃないか」
 是緒羅が窓の外を見つめながら言ったので、エリアも窓の外をのぞいてみた。
 見渡す限り、芝生が広がっており、公園の中央に噴水のある池があり、そのまわりに動物の形にカットされた植物が並べられ、今は何もない花壇も置かれており、もう少し暖かくなればイギリスの庭園のような風景が楽しめるかもしれない。
 バスが進むにつれて、遊戯施設も見え、子供が駆け回っているアスレチックや、ポコンパコンと良い音を弾ませているテニスコート、今は誰もいないがプールなど、沢山の施設があった。
「テニスコートもあるんだな!後でやらないか、テニスは得意なんだ」
 すでに荷物に中にテニスラケットを用意している是緒羅が、テニスコートを見て顔を輝かせている。
「そうですね、それは楽しそうです。ランチまでは自由にしていいと聞きましたので、早速行きましょう」
 バスが到着すると、エリア達は早速テニスコートに向かって歩き出した。



「くっ!また点入れられた!」
 サーブを決められたエリアに、是緒羅が苦笑してみせる。
「相手がエリアだから油断出来ないと思ったのだが、本当に油断出来ないな」
「テニスもなかなか楽しいですね。あまり得意ではないのですが、やっているうちに慣れて来ました」
 最初はエリアの体の動きにキレがなかったが、ゲームを続けているうちに、テニスボールの動きを目で追いかけ、それに合わせて体も自然と動くようになってくる。
 是緒羅はテニスが得意だから、どこまでやれるだろうと思っていたのだが、サーブ・レシーブとボールを打ち返していくうちに、ポコンというテニスボール独特の音と感触を楽しめるようになってきた。
「これでどうだっ!」
 ラリーに終止符を打つかのように、是緒羅が目つきを鋭くして、激しいスマッシュを打ち込んでくる。
「あっ!」
 エリアはそれを打ち返そうとコートを走ったが、さすがにこのボールの叩き付けには体が間に合わず、エリアは是緒羅に見事に点数を入れられた。
「今のは凄かったですね。さすがは是緒羅様です」
「まあ、本気を出せばこんなものさ」
 是緒羅が得意げに笑って見せた。
「さて、もう1ゲームやるか?」
「あ、そろそろランチの時間じゃないでしょうか?」
 テニスコートの脇にある時計に目をやり、エリアはそろそろランチの集合時間である事に気がついた。
「もうそんな時間か?あっという間だったなー。じゃあ、行くか?」
「ええ、そうしましょう。お腹、空いてきましたしね」



 レストラン『ハート・シェフ』は、その名の通りハート模様の椅子やテーブルが設置された可愛らしい店で、運ばれてくる食器までもがハートの模様や装飾品がついていた。
「カップル向けの店のような気もしますが、御伽噺に出てくるような店にも見えますよね」
 店の様子を見ながら、エリアが言う。
「どこかの遊園地のレストランみたいだな。で、食べ放題なんだろ?もう取りにいっていいんじゃないのか?」
 すでに他の参加者もレストランに来ており、食べ物が置いてあるテーブルに人が殺到していた。
「俺は肉が食いたいな。エリアは何を食べるんだ?」
「そうですね、私はサンドイッチみたいな軽食がいいでしょうか」
「じゃあ、一緒に取ってきてやるよ」
 是緒羅が席を立ったので、エリアも同時に立ち上がった。
「では、私は飲み物を用意しますね」
 エリアはサンドイッチと紅茶、是緒羅は出来上がったばかりのステーキを取り、冷たい緑茶とライスとセットにして食事を楽しんだ。
 食べ放題なので、料理は次々と色々なものが運ばれてきたが、楽しい話をしながら調子にのって食べていると、すぐに満腹になってしまった。
「ちょっと食べ過ぎたかな」
「食べ放題だと、元とろうとして食べ過ぎる人っていますよね」
 是緒羅の様子を見て、クスクスとエリアは笑う。
「次はおやつですね。それまで、どうしましょうか?」
「そうだな、さっきバスでここを通った時、湖があったよな?そこへ行かないか?」
「湖ですね!私、ボートに乗ってみたいです!」
 エリア達は店を出ると、美味しい料理に満足をしながら湖へと向かうことにした。



「なかなか大きな湖だな。じゃ、早速ボートを借りてこようか」
 是緒羅が料金所へ向かい、二人用のボートを出してもらうと、エリアは桟橋からそっとボートに乗り込んだ。
「あの、是緒羅様」
「わかっているよ、俺が漕ぎ手をやるよ」
 エリアのその一言だけ聞き、是緒羅はボートを漕ぎ始める。
「あの、なかなか進まないみたいですが」
「何だか難しいな、ボート漕ぐのは」
 ゆっくりゆっくりと進むボートだけれど、エリアはそのゆっくり流れてゆく景色を楽しんでいた。
「是緒羅様、ほら、あそこ!」
 エリアの視線の先に、白鳥が優雅に水面を漂っている。
「おー、白鳥だ。すいぶん慣れているんだな、ほら、あんなに人がそばに来ているのにちっとも逃げない」
「この湖に住んでいるのかもしれないですね、あの白鳥達。ところで、是緒羅様、それって釣り道具ですか?」
 是緒羅の足元に置かれている釣り道具に気づき、エリアは是緒羅に尋ねる。
「あ、ああ、そうだとも。釣りも好きだからな」
「どうせだから少しやってみてはどうですか?あまり水鳥がいないあたりで」
「そうか?じゃあ」
 エリア達は、ボートで移動して釣りを試みたが、ちっとも魚は釣れない。やっとかかったと思えばガラクタばかりで、1時間ほどかかって、是緒羅はやっと小さな鯉みたいな魚を釣り上げただけであった。
「だめだなー、この池」
「魚があまりいないのでしょうか?そういえば、そんなに釣りやっている人もいないような気も」
「ま、少し釣りも出来たからいいかな。この魚は帰してやろう。こんな小さいの持ち帰ってもなあ。ところで、今何時だ?」
 是緒羅がつり道具を片付けながら言う。
「あと20分ほどで3時ですね」
「そうか、ちょうどいいな。おやつの時間だ」



 再びレストラン『ハート・シェフ』に戻ってきたエリア達は、今度はケーキ、ゼリー、アイスクリーム、プティングやようかんなどの色々なお菓子を楽しんだ。
 ランチの時よりはやや空き気味だが、おやつを食べているのはほとんどが女性で、男性の方はお菓子をつつきながらコーヒーを飲んだりしている。
「このチーズケーキが美味しいですよ」
「アイスは、変り種があるな。ビールにきなこ、日本酒アイスなんてのもある」
 こんな公園の施設で、よくここまでの種類を用意出来たなと思いつつ、おやつを食べ終わったエリア達は、最後に植物園に向かう事にした。
 巨大ドーム型のその植物園には、エリアごとに各国の植物を展示していた。何十メートルにもなる熱帯の植物や、背を低くして葉を広げた高山の植物。薄暗い部屋に置かれたキノコは見ているだけで異様で、中には珍しい光るキノコまであった。
「このキノコは猛毒らしいな、そう書いてあるぞ」
 それぞれの植物には、そばにあるプレートに名前と説明が書かれている。
「こっちの草は、山菜に似ているけど間違って食べると大変な事になるみたいです。全然わからないですけど」
 終わりに世界最大の花・ラフレシアのあまり心地よくない香りと大きな花びらを眺め、エリア達は植物園の外へ出た。
「さてと、そろそろ解散の時刻だな。このまま帰って良かったんだよな」
「そうですね、それぞれで解散していいみたいです」
「じゃあ、家まで送っていくよ。行こうか」
 エリアもう一度公園を振り返ると、楽しい思い出と是緒羅と共に帰途へとついた。
 シティのバスを使い、自宅についたエリアはにこりと笑い、是緒羅に言った。
「今日は無理を言って付き合って頂いてありがとうございます。おかげで、とても良いホワイトデーを過ごす事が出来ました」
「こちらこそ、誘ってもらって楽しかった。また来ような、まだ行ってないところもあるしな、あの公園は」
 それぞれの公園での出来事を思い返しながら、エリアは是緒羅に軽く手を振り、帰ってゆく是緒羅の姿が見えなくなるまで見送ったのであった。(終)

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

◆登場人物一覧◇


【0592 / エリア・スチール / 女性 / 16歳 / エスパー】
【0593 / 大道寺・是緒羅 / 男性 / 20歳 / エスパーハーフサイバー】

◆ライター通信◇

 エリア・スチール様

 初めまして。新人ライターの朝霧・青海です。今回は朝霧のホワイトデー限定ノベルに参加下さり、本当に有難うございました!サイコマでの執筆は初めてになりますので、世界観など色々な物を調べているうちに、納期いっぱいになってしまいました、お待たせして申し訳ありません(汗)
 今回はサイコマの物語の流れに関係なく、ほのぼのとしたデート依頼を書かせて頂きました。是緒羅さんとの関係が親分、とありましたので、恋人や友人とちょっと違う流れを意識して執筆してみました。ちなみに、テニスシーンの描写は、私があまりテニスに詳しくない為、ネットで調べたりしました。ゲームの流れに間違いがなければいいのですが(どきどき)。
 同参加者の是緒羅さんとは視点別になっておりますので、そちらもご覧になるとまた違った方向から楽しめるかもしれません(笑)それでは、今回はどうも有難うございました!