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<ホワイトデー・恋人達の物語2005>


【ホワイトデー】日帰りツアーに行こう!



 ☆オープニング★

 とある町のレストランで食べ放題付『ホワイトデー限定・日帰りツアー』が行われる事になった。恋人や友人、家族と一緒に、このツアーに参加してみませんか?

 ◆

 「彼女を誘ったんだけど、仕事で来れなくなったんだよ。だからおふくろを誘おうと思ってさ」
 ジェミリアス・ボナパルトは、息子のアルベルト・ルールからの電話を受けた。
「街中で、ホワイトデーツアーの張り紙を見たんで、予約だけしたんだけど。チケット余っても勿体無いだろ」
「なるほどね。それはとても楽しそうね。明日を楽しみにしているわよ?」
 ジェミリアスは心が躍るほどに、明日のツアーが楽しみになったのだ。ホワイトデー、息子からのお返しのつもりなのかしらと思いながら、ジェミリアスは明日の支度を整えるのであった。



 翌日、ジェミリアスは息子のアルベルトと一緒に集合場所であるレストラン前に向かう事となった。
 細身のアルベルトに対して、ジェミリアスはふくよかな肉付き、しかし親子揃って背がスラリと高いものだから、まるでモデルが撮影でも兼ねてやってきたかのようだ。
 おまけに大きなサングラスを着用しているジェミリアスは、子供を産んでても崩れない見事なプロポーション、どう見ても20歳そこそこにしか見えず、二人で並んでいればカップルと思われても不思議はないのであった。
「結構参加者いるじゃないの。さすがはホワイトデーよね」
 まるで子供のような笑顔を浮かべて、ジェミリアスがまわりの人々を見回した。
 息子からツアーのお誘いを受けて本当に良かったわ。普段出来ないような事をここでやらせてもらおうかしら、せっかくだからとジェミリアスは思っていた。
 やがてレストランの前に送迎バスがやってきた。レストランの中からスタッフと思われる人物が出て来て、すでに溢れるほどになったツアー参加者へと声をかけた。
「お集まりの皆様、今回は当レストランのホワイトデー・ツアーに参加下さり、誠に有難うございます。これからバスで公園へ向かいますので、順番にご乗車下さい!」
「あのバスで連れて行ってくれるのね。どんな公園に行くのかしら、楽しみだわ」
「おふくろ、昨日から何でそんなに乗り気なんだ」
 バスに乗り込みながら、アルベルトが顔をしかめていた。
「あら、息子と出かけるのよ、それがつまらないなんて事はないでしょう?」
 ジェミリアスはにこやかにそう答えたが、アルベルトがまだ不思議がっているような顔をしていた。
 レストラン前にいた人々が全員乗り込むと、バスはゆっくりと出発した。ジェミリアスが思ってた以上に参加者がいるようで、バスは補助席までもがいっぱいになっている。家族連れや友人同士で参加している者もいることはいるが、やはり男女カップルがほとんどであった。そして、公園についたらどんな事をしようかとか、食事は何が出るだろうなど、様々な話をしているのである。
 次々に流れていく街の景色を見つめていると、大きな建物が見えてきた。おそらくはどこかの学校なのであろうが、その建物の前にテニスコートがあった。それを見てジェミリアスは、公園での自由行動、息子とテニスをやったら楽しいかもしれないと、思いついたのであった。
「自由行動の時にテニスをやらない?」
 ジェミリアスはすっきりしない表情で隣りに座っているアルベルトに、自分のアイディアを口にする。
「テニスか?俺は構わないけど」
「それなら決まりね。だけど、ただテニスをするのもつまらないわよね?負けた方が隠し事を言うってのはどう?」
 そう言うと、アルベルトはますます顔をしかめ、口には出さないがそんな賭けやりたくない、という表情をしていた。アルベルトぐらいの年齢ともなれば、隠し事ぐらいあるだろうと、ジェミリアスも感じるところがあったが、アルベルトが黙ったまま頷いたので、公園についたら早速テニスコートに向かおうとジェミリアスは思った。
 本当は自分にだって隠し事がある、ジェミリアスはアルベルトの表情を見つめながらそう思ったが、この場ではあえて言わず、楽しそうな笑顔を浮かべている事にしたのであった。


 公園に到着した二人は、レストランの場所を確認した後、すぐにテニスコートへと向かった。
 公園は思っていたよりも大きな場所で、公園の中央には湖のように大きな池があり、人々がボートに乗って楽しんでいる。ランチやおやつを摂るレストランはその湖から少し離れたところにあり、さらに奥にはドーム型の植物園も見えている。
 テニスコートはレストランから歩いてすぐのところにあり、すでに先客がテニスを楽しんでいるのであった。
「結構混んでいるのね。順番を待ちましょうか」
 ジェミリアスとアルベルトは、先にラケットやボールを借りてきて、コートが空くのを待っていた。テニスボール独特の、軽快な音がコート中に響き渡っており、アルベルトはどんなテニスを楽しませてくれるかしらと、ジェミリアスは順番がくるのを楽しみにしていた。
 やがて、3つあるうちの真ん中のコートのグループが帰る支度を始めた。やっと空いたわね、さて相手は息子といえども強敵ね、油断しないようにしなきゃと、ラケットを手にしながらジェミリアスは思った。
「手加減はなしでいくわよ?」
 不安そうなアルベルトに、ジェミリアスは挑戦的な視線を送る。
「俺だって本気でいくぜ?何しろ賭けがあるんだからな」
 アルベルトは運動神経はかなりいいということを、ジェミリアスは昔から知っている。だがジェミリアスも、アルベルトにひけを取らない運動神経を持ち、しかも高いIQの持ち主だ。ジェミリアスにとっては、ボールを追いかけながら、次の作戦を考えることなど、簡単な事なのだ。
 アルベルトの動きの隙を見て、ジェミリアスは思い切りスマッシュを叩き付けた。
「考えてばかりじゃ勝てないわよ」
「んな事わかってる!」
 ラケットを握り締めながら、アルベルトは言い返してくる。まったく無駄の無い動きで、アルベルトはサーブを打つのだが、ジェミリアスはさらに計算され尽くしたような動きで、アルベルトの打った球に見事なレシーブをいとも簡単に決めたのだ。
 そうしてまるでプロテニスのようなラリーが続くのだが、結局最後にはアルベルトが予測もつかないような動きの球を入れられてしまう。いや、アルベルトだって負けてはいられないのだろう、ジェミリアスの動きを計算したのか、ジェミリアスの裏の裏をかいたスマッシュを決めたりしてくるのだ。
 コートにはいつのまにか、二人のゲームを観戦している人で溢れていた。ジェミリアス達の両サイドでゲームをしているグループまでもが、自分達の方を見ている。
「何時の間にこんなに!これはますます負けられない」
 アルベルトが点数の書かれた板に目をやっている。ジェミリアスも点数を見るが、明らかにジェミリアスが押している。アルベルトは目を真剣にして、ジェミリアスの攻撃に必死で対抗した。
「ゲームセット!残念ね、私の勝ちよ!」
 わずかな点数差まで追い上げたものの、今一歩届かず、結局賭けはジェミリアスの勝ちとなった。それと同時に、まわりの観客が二人に拍手を送る。
「ずいぶん人が増えていたのね。ねえ、アルベルト」
 ラケットを片付けながら、先ほどまで楽しそうにはしゃいでいたが、今は真面目な表情になって、ジェミリアスはアルベルトを見つめた。
「どう…したんだ、おふくろ?」
「ちょうど良い機会だと思ったの。聞きたい事が色々あるのよ」
 ジェミリアスはそう言って、まわりに視線を走らせる。
「でも、ここでは無理ね。何時の間にか観客が増えたし」



 やがてランチの時間がやってきた。ジェミリアスとアルベルトはレストランに入り、窓側の一番隅の方にある席に座った。
 「レストラン・ハートシェフ」は、その名の通りハートの模様が店内に散りばめられており、食器や皿までもがハートの模様で飾られており、カップル向けというよりもどこかの遊園地のレストランのようであった。
 ランチはバイキングなので、ひとまずジェミリアスもアルベルトも普通にランチを楽しんだ。
「なかなか美味しい食事ね」
「そうだな、これで食べ放題なんだからお徳だな」
 やがて腹も満たされた二人は、食後のデザートを取りながらさきほどのテニスの話などを交わしていた。
「さてと、アルベルト。私が賭けに勝ったわけなんだけど、この機会に聞いてみるわ」
 秘密と言っても何を言えばいいのやらと、あれこれ迷っているうちに、ジェミリアスの方から言葉が発せられる。
「聞くって、何を」
「心当たりがない?あなた、以前に連邦のデーターベースにハッキングしたでしょう?」
 ジェミリアスはしっかりとした視線で、言葉を続ける。
「しっかり問い合わせがきていたわ、しかもテロリストに関する事が」
 アルベルトが少々驚きの表情を見せたのを、ジェミリアスは見逃さない。
「彼…貴方の父親の事を調べようとしたのよね?貴方ももう20歳だし、そろそろ全部話した方がいいわよね」
 ジェミリアスはコーヒーを一口飲み、話を続けた。
「貴方は気づいてないかもしれないけど、追尾システムは、この私が作ったのよ」
「えっ!?」
 それだけ言ったアルベルトの顔は静止画のようにこわばったままであった。
「結論を先に言うとね、遺伝子が私と息子で全く同じなの」
「それはどういう事なんだ?」
「ここからは私の推測も入るのだけどね。私は軍に入った時、遺伝子を登録しているのだけど、貴方を出産した後に遺伝子の型を調べたのよ。そうしたら、型が変わっていたわ。『神』の遺伝子が、私にも影響が出たんじゃないかと思う」
「それはつまり」
 やっとの事でアルベルトが返事をする。
「俺とおふくろは『神』半身で、遺伝子が同じって事は俺とおふくろは2人で、1人って事になるってことか?」
「そういう事ね。ついでに謹慎中に、連邦のデーターを改ざんしておいたわ。あら、どうしたの目を開いたまま固まっちゃって。情けないわね」
 目を見開いたまま、銅像の様に身動きひとつしないアルベルトに、ジェミリアスは小さくため息をつく。しかし、そのあとすぐに真剣な表情をほぐして。硬直しているアルベルトに言う。
「事実がわかったところで、現状は変わらないでしょう?」
 アルベルトはかなり混乱しているのだろう。色々と思うところがあるかもしれない。普通に考えても、こんな事実を、はい、そうですか、と受け止められるはずもないのだから。どうしていいかわからないのか、アルベルトは窓の外を眺めていた。ジェミリアスも息子と同じ景色を、言いたい事を言ったと言う清清しい気分で眺めていた。
「夕日が綺麗ね」
 食事も美味しかったしねと、ジェミリアスは満足していた。
 その後アルベルトもジェミリアスも、言葉の無いまま、オレンジの夕日が沈んでいくのを見つめているのであった。(終)

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◆登場人物一覧◇

【0544 / ジェミリアス・ボナパルト / 女性 / 38歳 / エスパー】
【0552 / アルベルト・ルール / 男性 / 20歳 / エスパー】

◆ライター通信◇

 ジェミリアス・ボナパルト様

 初めまして。新人ライターの朝霧・青海です。今回は朝霧のホワイトデー限定ノベルに参加下さり、本当に有難うございました!

 ジェミリアスさんとアルベルトさんと、親子の会話に多少頭をひねったところもありますが、ジェミリアスさんの設定がかなり素晴らしいもの(スタイルも知能も運動神経も抜群などなど)かっこいいお母さんを描いてみました(笑)後半の衝撃の告白の部分が全体の中で一番重要と思いましたので、そのあたりはプレイングにあった内容をきちんと読まれる方に伝わるよう、何度も内容を読んで、書いてある事をきちんと理解して、書かせて頂きました。
 それでは、今回はどうも有り難うございました!