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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【ショッピングセンター】救援


ライター:有馬秋人







ラジオビジターを聴取中の皆さん、番組の途中ですけど、ここでレアに緊急通信が来てますよ〜
報告者はラジオネーム『恋するビジター』さん。えーと‥‥ショッピングセンターで偶然、救難信号をキャッチ? 救援に行きたいけど、弾薬がもう少ないから自分は行けないと。
ふみふみ、リスナーの皆さん、ショッピングセンターから救難信号の発振を確認しました。
余裕のある方は、救援に向かってくれると、レアは嬉しいです。
敵の罠って事もあるし、助けに行ったら大戦力がって事も有り得るから、十分に注意してね?
では、救援に向かう皆さんへ、レア一押しの曲をプレゼント。
と、その前に、救援に向かう皆さんは、今から言う周波数に通信機をあわせてね? それで、救難信号をキャッチできるはず。



 ***



「死んだと思ったよ」
語る口調は静かだった。静かだが、出来事への興奮が僅かに滲んだ声、それをうけたヒカルは仕方がないと言うように肩を竦め、親友の体を庇い引き寄せる。
銃把を握る手に力を込めて、執拗に狙ってくるシンクタンクの射撃に先んじた。










何気なく聞いていたラジオの誘導に従って、通信機の周波数を合わせると確かに救援信号が届いた。
ショッピングセンター前で自分の装備を確認して、足りないものがないのを確認するとレオナは顔を上げる。首元の鈴がリンと鳴った。
「私は反対」
「何、ヒカルはあの噂気にしているの?」
「気にする以前の問題でしょう。このセフィロトで噂になるというのは事実無根では起こりえぬ現象。あなたとて思い出さなかったわけではないはず」
渋面のヒカルに反して、レオナはあっけらかんとしている。
「思い過ごしだよ…それにさ、そうじゃくて本当に誰かが助けを求めてるなら助けたいじゃない」
見捨てられた心細いし、と続けたレオナは横で黙々と装備を確認している白玲を振りかえった。
「それで君はどうする、ボクと行く?」
「もちろんだ。救難信号を見過ごすのは義に反するし、たとえ罠だとしても打ち破ればいいだけのこと」
これも修行の一環だと肯いた白玲に、ヒカルは物憂げな目を向けた。罠だとしたら打ち破ればいいなどど、随分簡単に言ってくれるものだ。
「私は、反対」
「ボクは行く」
「レオナ、現状をよく考えてものを言いなさい」
「よく考える必要なんてない。行くったら行くんだよ!」
「腕の立つのが最低限の条件のビジターが救援信号を受けた後に未帰還になる…警戒するべきでしょう」
淡々と窘めていたはずのヒカルの口調にも熱がこもり、諍いの装丁をなしていく。白玲は珍しい現状に少し目を丸くしたが肩を竦めて沈黙を選択した。この二人の喧嘩の仲裁を買って出るほど命知らずではないし、おせっかいでもない。白玲にとって重要なのは行くか行かないか、それだけだ。
「それで、行くのか、行かないのか?」
「行くったら行くっ、ぜったいにどうしても必ずっ」
「……多数の意見を尊重しましょう、それがどんなに不本意でも」
意見が違うからとって別行動をとるほど子供じゃないとつけたした口調に反して、憮然とした顔はずいぶんと感情に正直だったのだが、白玲は何も言わず「そうか」と肯いた。
「ヒカル?」
いざ出陣、とレオナが先陣を切ろうとした矢先に軽快な男性の声が響いた。反射的に銃口を向けたヒカルと矢を番えた白玲に両手を上げてみせた相手は、ダークスーツにソフト帽の出で立ちで気負う事無くそこに居る。
「あんた達も救援に行くのか?」
「もっちろん!」
「ええ、気の乗らないことに」
拳を作って行く気を示すレナオと、銃口を下げたヒカルの対比に大まかなやりとりを察したのか、相手は快活に笑う。
「確かに「恋するビジター」なんてのはナンセンスなペンネームだが、罠と決め付けるのも不味いだろう」
「私はペンネームを問題にしているわけじゃないわ、伊達」
「冗談だ」
伊達は軽口に反応しないヒカルに軽く首を振って、先頭に立つレオナの横によった。
「友人も来るはずたったんだが、どうにも間に合わないらしい。一緒にいこうじゃないか」
「よし、じゃあ一緒に行こうっ。戦力はいくらあってもいいし、あったらヒカルも安心するだろうしね」
心配しすぎなんだと思うけど、とからから笑うレオナに、ヒカルはじっとりと目を向けた。
「行きましょう、白玲」
「ああ」
先に進む二人の背中に処置なし、という感想を抱いたのがわかったのか、白玲は少しばかりひいた顔で肯いた。
廃墟と化して久しい元ショッピングセンターは、場所によっては足場の確認を必要とするほど崩れていた。倒壊した壁からむき出しの鋼材がのぞきあちら側が見える。わざわざ角まで行くのが面倒だと、崩れた壁をまたごうとすれば、向こう側の床がないなんて事もざらで。
「にしても、本当にこの方向であってるんだよねぇ?」
「馬鹿にするな」
自分の遠隔視が違えるはずがないだろう、と睨む白玲に、レオナははいはいと相槌をうつ。どんなに相手が視線をきつくしても、服の裾を掴まれている状態では迫力に乏しい。下手にからかえばあっさりとキレてくれるのは確実なので、さすがのレオナもそれについては突っ込まずふんふんと鼻歌交じりで奥へと進む。臨戦態勢に入っている為、抜き身のまま握られた刃がぶんぶん唸っているが、慣れている白玲は何も言わなかった。
苦笑して二人のやり取りを聞いていた伊達は、ちょいと帽子のつばに指をかけた体勢であたりをざっと薙ぐ。
「かくして運命に選ばれた、4人の勇者がここに集ったわけだが……俺の見た感じ救助よりは弔いだな」
「何か見えるの?」
「ああ」
視線をふらふらと流したあとにきっぱり肯いた伊達は、何箇所か指で示したあと肩を竦めた。
「破損の著しい幽霊がもっさりと」
「破損っていうと…」
「無理に裂かれた後が目立つから、まぁタクトニウムあたりにやられたんじゃないか?」
「それがこの辺りにいるんだ」
「この区画に入ってからやけに目に付く」
その言葉に、白玲が目を鋭くして対装甲目標用の矢に手を伸ばした。ヒカルも少し離れた場所に立ったまま銃弾の確認をする。
「それってさぁ、つまりこの近くに」
「いるって事だ!!」
科白の途中で半身を捻ったレオナはそのまま腕を振りぬいた。涼しげな鈴の音と、金属が弾かれる音が重なる。ブレードは奥から突進してきたモンスターの体に触れたが、入った角度が悪かったのか刃が滑っていた。
着地と同時に離脱を試みるが、それより先に伊達が刀炎の聖剣を召喚し、薙ぎ払っていた。
「火葬してやる、成仏しろ…」
一気に燃え上がるシンクタンクの後ろの敵は、構えてから放つまで少しもずれのない動きで迎撃したヒカルと白玲によって倒れている。
「っとぉ……ヒカルっ」
レオナは振動をオフにしたままのブレードを繰って、タクトニウムの一体を潰すように打撃する。そのせいでがら空きになった胴体に、ヒカルの射撃が入った。幸いというか、遭遇したのは狭い廊下だ。一体ずつ倒していけば苦労しない。
前衛二人が息を切らすよりも先に、全滅させることに成功した。
パンと手を払って一息つくと、レオナは親友にちらと目を向ける。その視線に気づいたはずなのに、相手は何も言わなかった。
辺りを探っていた伊達は、使えるものを見つけたのかやけに神妙な顔で「俺が輪廻させてやる」とのたまい、懐に何かを仕舞っている。呆れた顔の白玲がその様子を見ているのにも構わずだ。
「行こうか」
何か話しかけたそうな顔で、それでも結局は話しかけず、レオナは白玲を促す。君がいないと場所がわかんないんだよ、と茶化す口調で、迷子防止に差し出された手を、白玲は疑問も持たず握り返したが、すぐに服の裾に切り替える。手を塞ぐのは良くない、急襲に対処できなくなるからだ。
「白玲、この方向だと地下みたいだけど」
「なら地下なんだろう」
「いや灯りがね…しまったなぁ、電灯かなにか持ってきたら良かったや」
戦闘ならば、見えなくても多少の支障で済むが救出だと見えたほうがいい。そんなぼやきに反応した伊達がすいっと前にで、手を翳した。ぼぅと華やかな炎が滲むように生まれた。
「照明代わりにはなるだろ」
「おー、有難うっ。じゃ先頭お願い」
ボクは後ろから付いていくよ、と朗らかに告げられて、伊達は頬をかいた。先に進むのは構わないが、何かしら押し付けられた気分が強い。階段を慎重な足取りで下りながら、その点を口にすると意外な答えが返って来た。
「シンクタンクってのは、倒してもしばらくするとまたどこからか出で来るじゃないか。まぁ場所にもよるけど」
「ここは出でくるみたいだな」
「うん。でも出て来るには一定の期間がどうしたって必要なわけで……」
「おい」
レオナの言いたいことに気づいた伊達は顔をひずませて苦く笑う。まだ気づいていない白玲は、二人の会話に首をかしげ、とうに同じ結論に達していたヒカルはそれでも引き返さないレオナの強情さに呆れているようだった。
「救援を必要とするようなビジターが、一度通ったならあのタクトニウムは倒されていたはずだな。それが、ああもわらわらでて来たってことは、ほとんど罠じゃないか」
「万が一、上手くあれに遭遇しないで進んだ人かもしれないよ」
「でもあんたは罠の確率が高いから、俺を前にしたんだろ?」
「うんそう」
「………」
悪びれなく肯いたレオナにため息をついて、それでも照明代わりをかってでた手前今更引けない。背後警戒しながら離れて付いて来ているヒカルがこの相手とコンビを組める理由がよくわからんとぼやきかけ、この悪びれのなさがむしろツボだったんだろうかと奇妙に納得した。
罠の可能性が強くなったということだけ理解した白玲はより感覚を凝らして、救援相手を探す。そのアンテナに何かしらひっかかるものを感じ、レオナの裾を引いた。
「どうかした?」
「この先に何かあるぞ」
「いる? ある?」
生きているものか、そうでないものなのか問うが、そこまでは分からないと首をふる。どちらにしても到達地点は判明したのだと結論付けると、レオナは破顔した。
元々何かしらを収納するスペースだったのか、やけにだだっ広い印象の見える空間が地下には広がっていた。そのやや左よりの地点にすり鉢上のくぼ地が出来ている。何がどうやってこんな現状を作ったのかなんていう疑問はここにおいて無駄に等しい。
「あ、MS?」
「のようだな。凄まじく壊れているが」
「その辺に彷徨ってはいないから、まだ生きているか成仏しているか…」
白玲と伊達の同意を得た後、レオナはふむ、と腕を組みほんの数秒思案する。そして縁に手をかけた。
「じゃ、ちょっと見てくるから」
「ま、待てっ」
「駄目。君はロングレンジなんだから万が一の場合に備えてここに居ること。他に何かないか警戒しててくれるかな?」
「おいおい、せめてヒカルがくるまで待ったらどうだ?」
一緒に行くと裾を掴みなおした白玲の手を解いたレオナに伊達は進言するが、こちらも片手をひらひら振られて終わった。そのまま腰を落とした体勢でずざざざっと滑り落ちていく。少しばかりの土煙を巻き上げてくぼ地の底に到達したレオナは、一応の警戒はするものの大破しているMS相手に大仰なことはできないと気軽く近づいた。
「振動音はナシ、完全に停止しているか、な」
稼動しているならば水素燃料を消化する音が聞こえるはずだと呟きながら、前面に回る。操縦者が生きているなら引きずり出す必要があるし、死んでいるならせめて外へ連れ出すべきだろう。そんな思考で覗き込んだレオナは咄嗟に飛びのこうとして、舌打ちをした。胴体がきちりと捕獲されている。
「なんでっ、動くんだよ!」
「レオナっ」
上部でレオナの動きを見ていた二人が叫んだようだが、それよりも先に見えたものが脳裏に焼きついた。無理に捻った視線が、反対の縁しかも白玲たちから死角になっている柱の影で待ち伏せていたと思しきシンクタンクの姿があった。
「ああもうっ、ボクのばかばかぁぁぁぁっ」
何でこんな油断するかなぁ、と自棄気味の口調でなんとか抜け出そうと試みる。しかしレオナを捉えているシンクタンクは大破しているように見せかけて案外元気だった。自由な足で蹴りに蹴っても怯まない。下りてこようとする伊達を制して、白玲に遠隔視で敵捕捉させようと口に仕掛けた刹那、30ミリ機関砲二門が自分を狙っているのが見えた。舌打ちする暇すらなく、渾身の力を込めてシンクタンクを蹴り上げる。が、かわす努力は半分しか報われなかった。
「――――ァァァァァっ」
半身が吹き飛ばされ、激痛が脳内に走る。咄嗟に神経系の接続をきった。そうでなくてはこの痛みに耐えることなど不可能だ。破損した体を少しでも最善へ戻そうと、動いているが全快するには専用の医師に見せる必要がある。
まだ残っている痛みの名残に顔を歪ませて、これ以上の破損を避けようとするが、千切れてしまった体半分の分だけ戦力は落ちている。否、今のレオナでは戦力と数えることすらできないだろう。
あと一撃でも食らえばお陀仏だ、と心の中で覚悟を決めたタイミングで傍らに誰かが下りてきた。レオナを捉えているシンクタンクの関節の継ぎ目に弾丸を撃ち込み、無理に外してしまう。
「ぬかったわね」
「死んだと思ったよ」
語る口調は静かだった。静かだが、出来事への興奮が僅かに滲んだ声、それをうけたヒカルは仕方がないと言うように肩を竦め、親友の体を庇い引き寄せる。
銃把を握る手に力を込めて、執拗に狙ってくるシンクタンクの射撃に先んじた。
「やはり罠だったでしょう」
「うん、でもねぇ…ほんとに救援呼んでいる人じゃなくて良かったじゃないか」
「……」
返事をする代わりに元々壊れかけていたシンクタンクを徹底的に破壊する。駆動音が綺麗に消えたのを確認して、くぼ地の縁のシンクタンクを見上げると、咄嗟に指示してきた通りに白玲が伊達を援護しながら奮闘していた。この場にいるタクトニウムの数は多くない、あのシンクタンクさえ破壊できれば脱出は容易いだろう。
「あなたは、本当に…」
「君さ、さっき怒っていたでしょ」
「ええ」
「やっぱり」
くすりと笑ったレオナは、残っている右腕でヒカルの額を弾いた。
「いつもよりちょっと反応が遅かった」
「ええ」
分かっている。そんな返答が可笑しかったのかまた笑ったレオナにヒカルはため息をつく。とりあえず敵の方は上の二人にまかせても平気だろう判断し、救急セット開いた。破損の状態を深くしない程度の手当てならばできるのだ。
吹き飛ばされたせいで綺麗でない傷口をコーティングしていく。
「ヒカル。ボクはね、助けて欲しいときに……助けてもらえないのはずいぶんと悲しいと思うんだ。だから君がいくら怒ってもこれからもこんなことをするし、もしかしたらもっと呆れられることをするかもしれない」
それは経験からくる言葉なのかとは聞けないことだ。ヒカルは手を止めずに淡々とレオナの声を受け止める。
「ごめんね。それと、さっき君が助けてにきてくれて嬉しかった」
にっと笑う相手にヒカルは深々と、それこそ今までの比ではないくらいに深く息をつく。上着を脱ぐとレオナの体を覆った。
「白玲にはあまり見せたくない傷ね」
「ああ、お子様だからなぁ」
本人が聞いていたら激怒すること間違いなしの言葉をへろりと吐く様子に、危機は何一つないのだと感じる。上部の抗争も終わりを告げたようで「安らかに眠れ」と告げる超えが聞こえた。同時に縁から白玲が顔をのぞかせた。
「大丈夫か? 人手が足りないなら一人叩き込むが」
「叩き込まれるのはもしかして俺か?」
ソフト帽を被りなおした伊達が、敵わないという調子で突っ込むが誰も相手にしていない。ヒカルは改めてレナオの体を抱え上げた。いくらサイバーが重量があるとはいえ、今の状態ならば背負っていける。
「平気でしょう。それより、またタクトニウムが出てこないか索敵の方お願い」
「わかった」
こくんと肯いて、遠隔視用の矢を手にした白玲は立ち上がった。彼女の方向を把握する能力が乏しいのを知っているのか居ないのか、伊達は再び照明係に徹することにしたらしい、華やかな炎の気配も遠のいていく。
「行きましょう」
「うん、お願い」
大人しく背負われたレオナは上機嫌だ。そんな相手をこれ以上付け上がらせたくはないのだけれど、と内心ぼやきながらヒカルは渋々口を開く。
「……私は、私の意見を言う。あなたはあなたの主張をする。それが違えたからと言って、私があなたを見捨てることはないわ」
当たり前のことだけど、と付け足したヒカルは予想以上に喜んだレオナに頭をこすり付けれ懐かれて、やはり言わなければ良かったと後悔した。






2005/03

■参加人物一覧

0536 / 兵藤レオナ / 女性 /オールサイバー
0351 / 伊達剣人 / 男性 / エスパー
0529 / 呂白玲 / 女性 / エスパー
0541 / ヒカル・スローター / 女性 / エスパー


■ライター雑記

ご注文有難うございました。有馬秋人です。
元気な印象の強い彼女が怪我(というか重傷・汗)をするという形だったので、上手く彼女らしさを無理なくアピールできたかちょっとだけ不安です。
相棒さんとのちょっとした諍いも話に織り交ぜるよう努力したのですが、ご期待に添えられたことを願っています。
この文が、娯楽となりえますよう切に願っています!
ご依頼、本当に有難う御座いましたっ。