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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


ブラジル【アマゾン川】楽しい水辺遊び

ライター:燈


【0.オープニング】

 赤道直下のブラジルは暑い。セフィロトの中は空調が効いているけどな。まあ、たまには水遊びってのも悪くはないわな。
 外国人には茶色の水で泳ぐのは抵抗があるかも知れないが、こっちの人間は気にせず泳いでいる。泳がないにしても、釣りだとか何だとか、色々遊べるだろう。
 ああ、ピラニアとかも普通にいるが、あいつ等は血を流してでもいないかぎり、襲いかかっては来ない。むしろ、人間様の方が奴らを食いまくってるくらいだ。生肉を餌にしたら、面白い様に釣れるぞ。針から外す時、指を噛まれない様に注意は必要だけどな。
 そうそう、体内に潜り込んで中から食い荒らす、カンディルって魚がいるから、絶対に裸で泳ごうなんて考えない事だ。いいな?


【1.魚捕り】

 緩やかな川の流れ、茶褐色の水と黒色の水が交じり合うことなく風に揺れている。この水の温度がそれぞれ異なるというのは地元の人間にとっては常識内のことだ。
 基礎体力を高めるため、という目的でこの地を訪れていた空は、片手に銛を握って茶色く温度の低い方の川にゆっくりと沈んで行った。腰まである長い銀色の髪が、水面でゆらりと涼しげに揺蕩う――。
 空はざらりとした水底の砂を蹴って、暗い川へと潜り込んだ。軽く水飛沫が立って波紋が水面に広がる。皮膚の表面を一瞬寒気が走ったが、すぐに水温は肌に馴染んだ。川の表面辺りでは温く感じられた水温も、底に潜れば潜るほどひんやりとしていて気持ち良い。
 この茶褐色の川――ソリモイス川は黒色のネグロ川よりも水温が5度ほど低く、ネグロ川とは違い然程酸性度も有機質も高くなく、約2500種もの魚が住んでいる。内7割はうろこのない魚で、中には果物を食べる魚も存在する。勿論反対に、肉を餌とするものも。
 空は目を閉じたまま手足の動きを止めると、辺りの生き物の気配を探った。視界が利かない代わりに肌に触れる水の流れを敏感に感じ取れるように集中する。ゆったりと泳いでいる魚の動きを予測して、逃さないように素早く銛を突き出し――!
 ぷはっと顔を上げた水面には、今し方仕留めた魚の血液が滲んでいた。直にピラニアが集まって来るだろうと考えて、空は錆掛けの銛を持ったまま川岸を目指す。3本の歯の先にはしっかりと魚の白い腹が捕えられていた。ひげの長い、ナマズに似たペラブターバという魚だ。身はやわらかすぎるが脂の載った白身は美味である。
 持ってきたアルミバケツに魚を放り込むと、空は少し下流へと移動して似たような魚をもう1匹捕まえた。昼食には十分過ぎる収穫に――アマゾン川で捕れる魚は同じ種でも他の生息地で捕れるものより大きい――満足して岸辺に上がると、幾らか離れた場所で先程まではいなかった少年が釣りをしているのが見えた。健康的な褐色の肌に、すっと通った鼻筋。まだ年齢的には幼い、と言っていいぐらいの年頃だったが、それはなかなかに顔立ちの整った美少年だった。
 空は中身が2匹に増えたアルミバケツを持ったまま僅かに笑みを唇に乗せ、少年の方へと歩み寄った。近くに寄って見ると離れて見た時よりもずっと大人びて見える。多分意志の強そうな黒色の瞳がそう見せているのだろう少年は、恐らく12、3才ぐらいの年頃だった。
「何を釣っているのかな」
 声を掛けると少年は驚いた風に肩を跳ね上げた。集中していて少しもこちらの気配に気付かなかったらしい。
 だが少年は警戒心をあらわすことなく年相応のはにかんだような笑みを浮かべると、照れた仕草で頭を掻きながら視線を空から水面へと戻した。
「魚を釣りに来たんだけど、どうもこのポイントは駄目みたい。さっきからピラニアばっかり釣れるんだ」
 少年は竿の先で水面をぱしゃりと叩き、それが軽くしなったのを見計らって思いきりよく引き上げた。簡素な釣り道具の先には腹の赤いピラニアが、口を開けたまま歯を見せてぶら下がっている。
 少年はほらね、とでもいう風に肩を竦めてみせると、慣れた手つきでピラニアの顎から針を抜き取った。草履のつま先で軽く蹴ってピラニアを川へ戻した少年の横顔を眺めながら、空は適当な場所に腰を下ろす。
「ごめんなさい。それってきっとあたしのせいだね」
 アルミバケツをぶらぶらと揺らしている空を、不思議そうに少年が振り返った。
「どうして?」
「この魚を捕る時に少し血が流れたみたいだったから」
 そう言ってバケツを持ち上げて見せた空に、少年はいぶかしんだ様子でバケツの中身を覗き込んだ。腹を見せて息絶えている2匹の魚に少年は目を丸くする。
「これ、おねえさんが捕ったの?」
「まあ、ね。これでも運動神経には自信があるの」
 にっこりと笑った空に、少年は顔を赤くした。
「……ねえ、よかったら一緒に食べない?」
「え、でもおねえさんが捕ったんでしょ?」
「いいの。一人で食べたって味気ないし、ね?」
 遠慮して手を振った少年の手をとって、空は尚にこりと笑う。困ったように眉尻を下げていた少年は、説得されて戸惑いながらも小さく頷いた。それからせめて食事の準備は自分がすると言い張って、駆け足に薪を探しに行ってしまう。
 空は少年の水色のパーカーの後姿を眺めながらくすりと笑うと、鉄製の串で魚を貫いて石をどけた土の上にそれを突き刺した。


「あ……」
 ぽつりと頬を打った雨に、少年が小さく声を上げて曇天を見上げた。空もつられて上を見上げる。再び頬を打った雨粒にあ、と声を上げる間も無く、雨はスコールへと変わって行った。
「おねえさん、これ使って」
 少年が差し出したのは今まで彼が来ていた長袖のパーカーだった。それを脱いだ少年の格好は薄いTシャツ一枚で、いくらなんでも雨の中では寒そうな格好に空が躊躇した顔を見せると、少年はにこりと笑う。
「うち、すぐ近くなんだ。魚のお礼に――傘代りに使って」
 言って少年は半ば無理やりにパーカーを空に押し付けると、雨の中を都市部とは反対方向に走り出した。空が呆然とその様子を眺めていると、彼はふいに振り返って大きく手を振る。
「おねえさん、運動神経はよくっても風邪は避けられないよ!」
 白い歯を覗かせて笑った少年が、またこちらに背中を向けるまでじっとその顔を見つめて、それから空は手元のパーカーへと視線を落とした。
「……ここら辺に家なんてないと思うんだけど、ね」
 苦笑して水色のパーカーを広げると、結局傘代りにはせずに少し小さいパーカーを羽織って、空は雨の降らないセフィロトへと戻って行くのだった。


 >>END



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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名/性別/年齢/クラス
【0233】 白神・空(しらがみ・くう)/女/24才/エスパー


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして。この度パーティーノベル『ブラジル【アマゾン川】楽しい水辺遊び』を書かせていただいたライターの燈です。
 浅学故にターザンビキニがどのようなものかわからずに、描写せずにすましてしまいましたが……(汗)ワイルドに銛で魚を突いてもらいました。私も昔国内でやったことがあるのですが、魚ってすばしっこくてなかなか捕れませんでした。そう考えると某お笑い芸人さんは凄いんだなぁなんて思ったり(笑)
 ……それにしても今回納品がギリギリになってしまい申し訳ありません<(_ _)>最近どうもなかなか時間がとれない上に、ひとつの作品に時間を掛けてしまいがちなので……。お待たせしてしまいましたが、呆れられずに最後まで読んでいただければ、と願ってます。

 それでは、失礼致しました。少しでも楽しんでいただけることを祈って。