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ブラジル【都市マナウス】休日はショッピングに
【ライター名】
浅水孝太
【オープニング】
アマゾン川を下ってはるばると。長い船旅だったが、ようやくついたな。
ここがブラジルのアマゾナス州の州都だったマナウスだ。
審判の日の後の一時はかなり荒れたが、今はセフィロトから運び出される部品類の交易で、かつて魔都と呼ばれた時代の様ににぎわっている。
何せ、ここの支配者のマフィア達は金を持ってるからな。金のある所には、何でも勝手に集まってくるものさ。
ここで手に入らない物はない。欲望の赴くまま、何だって手に入る。
もっとも、空の下で思いっきりはしゃげる事の方がありがたいがな。何せ、セフィロトの中じゃあ、空も拝めない。
お前さんもたっぷり楽しんでくると良いぜ。
【本文】
活気という喧騒に包まれた都市マナウス。ビル群が立ち並ぶその中心街の近くにキリル・アブラハムの姿はあった。マスタースレイブの愛機カッツエを受け取りに行くまでにまだ時間がある。この時間を無駄にするわけがなかった。キリルにはやるべきことがあるのだから。
ビジターギルドの案内所から紹介された宿の娘に、マナウス観光を薦められたのだが、観光など悠長なことをするつもりはない。宿敵のマフィアが集まるカジノへ潜入し、その幹部との接触を試みるつもりだ。
カジノはショッピング街に紛れるように建てられてあった。セフィロトから送られる電力を惜しむことなく大量に使っていた。日が良ければ、一つの離村が所有する村費を一日で流通するといわれている。
キリルに一人の浮浪者が近づいた。
「お兄さん、逸品はいらんかね」
浮浪者はコートの中からサブマシンガンを覗かせた。それが9mmサブマシンガンであることはすぐにわかる。キリルは止まらずにカジノへ進むが、浮浪者は足を止めることなくしつこく追ってくる。
「どこで手に入れたのです?」
しょうがなくキリルは立ち止まらずに言葉をかける。
「それは言えないな。こっちのルートでね」
「いい銃ですが、今はお荷物になりますね」
「・・・・・・では“後で”と言うことですか?」
キリルは微笑むとカジノへ入店した。浮浪者はそこまでは追わない。
店内は大勢の客で騒然としている。多くのスロットが囲む舞台の上では、有名なサーカスのショーをしていた。
キリルを見つけた一人の女性が近づき、青いドレスの胸部を少しはべらして、
「いかが?」
と一夜を聞くがキリルは無視して、二人の男がついているブラックジャックのテーブルについた。
準備が整うと、ディーラーが素早くカードを配る。キリルは15、他の二人は10もなかった。
「ヒット」
三人は言い、キリルは20となり、他の二人は、11、19で勝つことができた。キリルはチップを得て、ゲームを続ける。
キリルは連勝だった。すると他の二人の態度が変わり始める。キリルを敵視しはじめたのである。しかし二人がキリルに勝つことはなかった。
そこへ、先ほどの誘惑しようとした女が、二人の男に近づき、その耳元に何かをささやき始めた。するとキリルの隣の男が、キリルに話し掛けた。
「おいお前、俺の女を拒否したそうだな。そんなに俺の女が気に入らないのか?」
「あなたの女には手出しはしませんよ」
キリルは冷静に答える。
だが男は、
「そこが気に食わないんだよ。いい女なら抱くのが常識だろうが」
どうやら男はどうしてもキリルに絡みたいらしい。
するともう一人の男が、
「ちょっと裏で大事な話があるんだ。来いよ」
とキリルを無理やり店外の暗い通路に連れ出した。
だが、ただの不良の二人が、元連邦の対テロ対策特殊部隊「銀狼」のメンバーに勝てるわけがない。キリルは服の中に隠している高周波ナイフも使うことなく、ましてやESPも使うこともなく、二人を動けなくさせた。
「一つ聞きたいことがあるのだが・・・・・・」
キリルはおびえる二人に尋ねる。
「マフィアのことだ。あなたたちが知っていることを洗いざらい話してくれればこれ以上の危害は加えない」
「わ、わかった」
片目でキリルを見上げる一人が話し始めた。その情報はキリルが求めているものだった。
「なぜそんなに詳しい?」
「この土地の者なら誰でも知ってるさ。だがそれを話すことはない。知られれば、奴らなりの制裁を与えられる」
それは都市マルクトからの武器密輸ルートの拠点地の情報だった。知っている者はそこから格安で武器を購入することができるそうだ。時には金や物以外の、ものやことで売ってくれることもあるらしい。
(そこでひと暴れしてみればどうだろうか)
キリルは思い立った。
キリルはカジノへ戻ることもせずにカッツエを取りにいくことにした。
カジノを離れようとしたとき、先ほどの浮浪者がやってきた。
「どうですかい?」
と、またサブマシンガンを見せた。
「それもまた連中から買った物なのですか?」
「う・・・・・・」
どうやらその表情から図星のようである。
街道を歩いていると、道端に座り込んでいる一人の老人がキリルを呼び止めた。
「なんでしょうか?」
「お前は元連邦の者だろう。私にはわかる」
老人は不敵な笑みでキリルを見つめる。
「あなたも・・・・・・」
「わかるのか?」
キリルの目には、その老人も連邦の者に見える。それもサイバー騎士。
「見ての通り、私はお前よりも一昔前の人間さ。だが見ての通り、体がこのザマだ」
老人の半身はすでに動かないらしい。
「もはや動けない追われ者の私には友と死を待つのみだ」
老人の脇には脳保管装置が置かれている。きっとそこに友の脳が大事に保管されているのだろう。
「死を与えられるのなら、せめて名のある者に与えてもらいたいものだな。だがお前ではダメだ」
「・・・・・・言ってくれますね」
「すでに連邦を脱退したお前にはな」
「だがお前には魅力がある。何かは言わない。その年なら自分で見極めろ」
老人は目を閉じたため、キリルは進もうとした。しかし老人は―
「お前に私のブレードを預けたい」
と言い出した。騎士のブレードはその命に匹敵する物だ。
「私が死を免れることはないだろう。しかし私のブレードを路上で拾われたくはない。だからお前に預けるのだ」
と言い、老人は自分のブレードをキリルに手渡した。
「こんな大切な物を私に・・・・・・老人、あならの名は?」
「名は申さぬ。進むが良い」
と言い、老人は口を開くことは二度となかった。
高周波ブレードを手にしたキリルは、愛機カッツエを取るために進む。老人のように命が絶えるまでに宿敵を滅ぼすために―
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号0634】
キリル・アブラハム、男性、45歳、エスパーハーフサイバー
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