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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【ショッピングセンター】もう新人じゃない
いつか見た、ユメ

千秋志庵

 よし、お前さんがルーキーじゃないって所を見せる機会が来たぞ。
 目差すのはショッピングセンター。過去に大量の商品が詰め込まれた宝箱。だが、同時にタクトニム共の巣でもある。
 ショッピングセンターは巨大な建物だ。道に迷う事だって有る。
 生きて帰ってこれれば一人前だ。帰ってきたら、とっておきの一杯を御馳走してやる。

 広場には椅子は何脚か置かれていたが、一つだけ明らかに素材が違うのか、全く錆付いていないものが一つだけぽつんと離れた場所に置かれていた。どうしてなのだろうかと思い、椅子の後ろに掘られていた文字を見て納得した。この椅子は他の椅子と比べて、一年以上もあとに設置されていたのだ。材質も異なり、錆びにくい特殊なもので作られている。
 ジェミリアス・ボナパルトは広場を一瞥して誰もいないことを確かめると、その比較的新しい椅子に腰掛けた。
 タクトニウムの一行は、今のところまだ見えない。
 ジェミリアスは遠視を行い、広場よりも離れた一辺を窺う。腕におぼえのあるビジターが戦闘を行っているようだが、戦闘は人間側に有利らしい。援護する必要もないということで興味が失せたのか、ジェミリアスは別へと遠視を移動させた。
「……見つけました、ね」
 口端を僅かに上げさせて、ジェミリアスは光悦そうに微笑む。見つけたというケイブマン数体の対処に暫し考え、すぐに行動を開始させる。
 “それ”を彼女は嫌ってはいるが、既に切り離せない以上は共存をしていかねばならない。故にパワーアップしたそれがどれほどの威力を持つのかは知っておかねばならないのだった。義務として、よりもむしろ、使命として。
 サングラスにしか見えないアイマスクの奥で、二つの眼が怪しい光を放つ。
 行動を起こすのは簡単だ。
 念じるだけ。
 強く、思うだけ。
 それだけで人が強くなれるといったら言い過ぎなのだろうが、それでも念というものもあながち甘く見てはいけないのだということに最近気付いた。
 ESP。その種類は多種あるが、ジェミリアスのは一種変わったものだった。
 念で人に影響をもたらす能力。
 人の自我、或いは他人の自身をのっとるという能力。
 “それ”の能力の開花した理由については、彼女はあまり話したがらない。
 ジェミリアスはESP――行動操作能力を発動させ、ケイブマンの行動を支配し始めた。普通の人間の行為ならば、自分の身を護るためにケイブマンら敵を遠ざけることに“それ”を行使しに走ることは確かである。しかし、彼女は敢えて彼らを自分のいる広場へと集結させた。
 これを幸運と呼ぶのかどうかは定かではないが、呼び寄せたケイブマンは数体程。いざとなればジェミリアス一人で対処出来る数であったことに軽い失念をおぼえながら、彼女は彼らを見据えた。膝の上には2mmレーザー銃が置かれていたが、恐らく一度しか使用することはないだろう。そう、上の空で思いながら。
 皮膚のない体を現し、彼らはジェミリアスの正面でぴたりと動きを止めた。暫し、ジェミリアスは彼らと対峙し、
「始めようかしら」
 小さな呟きに突き動かされたように、ケイブマン達は痙攣するかのように体を振るわせて動きを止めた。止め、僅かにだがそれらに動きがあった。
 一体だけが、動きを開始したのだった。それは既に人の血にまみれている手を、何かに抗うかのように震わせながら仲間の一体へと突き出した。元よりマスタースレイブの装甲を引き剥がせるだけの力を持つ生き物だ。腕は肘――と呼ばれるものが存在するとしたのならばの話だが、体を突き破った腕に、それこそケイブマン自身が驚いたように体を強張らせた。引き抜いた腕は肉片を飛び散らせる。再び伸ばした腕は頭を鷲掴みにし、
「……ばいばい」
 ジェミリアスの呟きと共に、塵屑でも扱うかのように潰し去った。同胞殺しを行ったケイブマンはそのまま方向を転換させると、金縛りに囚われ続けている他の同胞へと矛先を向けていく。手には先程のケイブマンの体液が付着していたが、構わずに手を伸ばした。呆気なくその手は、それこそ易々と命を奪い取り続けていく。
 ふと、ジェミリアスは殺戮を続けていくケイブマンへと視線をやる。何を思っているのだろうか、と。そういった感情は関係ないし、必要ない。ただ本能に従ってことを進めているだけの存在だ。それに情けを掛ける必要は存在しない。だから、だ。
「私も、これが『本能』なのかしら」
 ケイブマンが最後の一体を殺した。
 目標物を失ったそれは、ジェミリアスへと対象を定めようとする。それもまた愚かで仕方のない行為だというように、本能の一部であるかのように。
「お別れですね」
 銃をそれの額へとポイントした。一瞬の躊躇を与えずに引き金を引き、体は呆気なくも地上へ叩きつけられる。上空から見下ろしながら、ジェミリアスは小さく溜息をついた。それが一体何の意味を持つのか。懺悔すら、一切の感情のこもらない視線が広場に横たわる亡骸に向けられる。大して強くもない風が彼女の鼻孔に異臭を感じさせ、僅かに顔を曇らせる。それが唯一の感情であるかのように、ジェミリアスは帰路へつく間、全く表情を変えようとしなかった。
 日常。
 そう呼ばれるものを得ることの難しさに、保つことの難しさに。

 それでも、何かを求めている。
 自分の、なにものにも代えがたい存在を護るための手段を。





【END】

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0544】ジェミリアス・ボナパルト

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お久し振りです、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。

他とは一風変わった話です。
同時期に執筆をしていた話に影響を受け、終始血生臭い感が拭えません。
どうしたら護りたいものを護れるのか。
一時的ではなく、恒久的に。
何を代償にすれば、それに見合うだけのものを与えられるのだろうか。
命には命を、という考えもありますが、或いは「魂」なのかな、と。
並行して書いていると、色々と内容も変化していまいます。
それが時には良い影響もあったり。
内容の変化自体に愉しんでいる私自身もいたり。
文面から僅かでも感じ取っていただけると嬉しく思います。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。

千秋志庵 拝