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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【オフィス街】逃げろ!




「ろくな物が無いな」
「外れを引いたみたいね。何処もそこも、似たような所よ」
「ふん。これでは来た意味がないな」

 瓦礫だらけのオフィスビルの一角で、レイン・シルフィードがコンピューターの基盤を剥がして取りだしたICチップを放り出しながら言った。隣でヒカル・スローターも、何かしら使えそうな金属を見つけようとガラクタをひっくり返していたが、特にめぼしい物も見つから無かったのか、溜息をついて腰に手を当てていた。ただその横に、銀色の光沢を持つ、人間サイズ程もある石版のような金属が立てかけてあった。

「このレアメタルぐらいしか、価値のある物は無し………でも大きすぎて持てないわね。これ持つと武装が使えないわ」
「砕けないのか?」
「砕くと価値が下がるわよ。出来ればこのまま持っていきたいんだけど……」

 二人がそれぞれの荷物を纏め出す。問題のレアメタルは…………敵に出会わないように祈るしかない。

「今回の収穫、これが一番大きそうね」
「他は?キリル達も、このビルに入っているんだろう?」
「連絡取ってないから何とも………。でも、もう早々に出た方が良さそうね。長居すると危ないから」
「お前はそれ持ったら、もう、物を持てないしな。撤収しよう」

 レインがコンピューターの基盤を閉める。だが、室内から二人が出ようとすると、途端に警報がけたたましく鳴り響き始めた。

「………誰かがヘマをしたようね」

 ヒカルが呟く。レインは黙って近くの、まだ使える端末へと走った。急いで端末を弄くる。ほんの一分程経で、警報は静まった。

「ここもすぐに離れた方が良いわね………外から、タクトニウムが集まってきてるみたいだし」
「当然だろうな。走るぞ」

 ヒカルとレインが走り出す。すぐ傍から聞こえてくる騒々しい獣の声を聞き、二人は同時に得物を引き出した。その時、ヒカルはレアメタルをきちんと背後の壁に立て付けておく。
 二人が廊下を窺うと、すぐに砕けた窓から侵入を試みているケイブマンとばったり遭遇した。ここも地上からは離れているのだが、隣のビルから飛び移ってきたようで、まだほんの一〜二匹しか確認出来ない。
 突然の遭遇に向こうの一瞬だけは虚を突かれたように止まっていたが、二人を敵と認識するや否や、窓枠を蹴りつけて跳びかかってきた。

「くっ!」

 突然の襲撃、そして近距離過ぎたこともあり、ヒカルとレインが咄嗟にその突撃を回避する。
 ケイブマンは二人の間をすり抜け……
 グガシャ!!
 見事なまでにレアメタルの板に体当たりを喰らわし、それを砕いた。ヒカルが「ああっ!」と声を上げ、突っ込んできたケイブマンにサイボーグライフルを数発、間髪入れずに撃ち込む。倒れ込んだケイブマンには目もくれず、ヒカルは素早くレアメタルの欠片を荷物の中に仕舞い込んだ。

「小さくなって、持ち運びやすくなったな」
「イヤミ?」
「第二弾が来たぞ」

 レインはさらっと流し、外から入ってこようとするケイブマン達に向かって銃を撃った。
 奴等の掴んでいる部分を射撃したりして、外の方へと突き落としてやる。
 二人は、他のタクトニウム達が集まらない内にと、すぐにその場を走り、階下へと降りていった………





■□■□

「フン。何処の馬鹿が引っ掛かったか知らないが………一人で来たのは危険だったか」

 ゼクス・エーレンベルクが、止まった警報にに反応し、つまらなさそうに言った。ゼクスは手に持っていた物を荷物の中に仕舞う。出来るだけ必要最低限の物だけに見つけた物を限定し、その場を後にする。

「む?」

 ゼクスは、部屋から出て行こうとするところで身を隠した。ビルの廊下にいた一機のシンクタンクがカメラアイを左右に見渡させ、周囲を簡単に確認してからガシャガシャと移動していった。しばらくそのまま泥、足音が聞こえないようになるまで待つ。聞こえなくなってからすぐにその場からで、廊下の角から顔を少しだけ出した。

「X-AMI38………スコーピオンか、一機だけじゃないようだな。………………集まってくるか」

 あちこちから響き始めたスコーピオンの金属的な足音に眉を顰め、とにかく見つからないように歩を進める。先程の警報に反応したのだろう。このビルの様々な階で、警備用に配置されていたスコーピオンが一斉に活動を始めたようだ。

(厄介な物を配置したものだ)

 心の中で呟きながら、身を隠し隠し、スコーピオンをやり過ごしていく。戦闘に関しては、そんなに自信が無い。戦いになると、特にシンクタンク系の敵ならば逃げた方が無難だろう。幸い、ゼクスは光りの屈折率を変えて身を隠すことが出来る。機械相手では少し心許ないが、無いよりはマシだろう。最悪の場合でも、多少は回避率を高めることが出来る。
 五体目のスコーピオンをやり過ごした時、すぐ階下から爆音が響き渡った。

(戦闘……!派手にやってるみたいだ、な!?)

 ゼクスの足下が砕け散る。戦闘は、本当にすぐ足下で行っていたらしく、流れ弾か故意なのか、どちらにせよ、ゼクスの体が急に足場を失ったことによって階下へと落ちていく。

「ちぃっ!」

 舌打ちしならが落下し、地に足が着くと同時に素早く周囲を見回した。土煙が舞う中、人影がすぐ傍まで迫ってきたのを視認して、反射的に持ってきていた銃を向ける。相手も同時に、ゼクスの喉元へとESPブレードを突きつけていた。

「………敵じゃ無さそうだな」
「何だ、人間でしたか。危ない危ない」

 キリル・アブラハムがESPブレードを引っ込めた。そして、すぐにゼクスに向かって跳びかかる。反射的に振り払おうとしたゼクスだが、二人が飛び退くと同時に無数の弾丸が、二人の向き合っていた場所に突き立ったのを見て息を呑んだ。

「くっ」
「走って下さい!!」

 キリルがゼクスに言い放ち、背後から更に撃ってこようとするスコーピオンの機関銃に45口径の弾丸を叩き込んでやる。ちょうど撃とうとしていた機関銃が爆発し、スコーピオンをたじろがせた。その隙に、ゼクスとキリルが逃走を始める。

「体力には自信がない!」
「堂々と言わないで下さい。命掛かってるんですから!」

 キリルが急いで階下への階段を下る。ゼクスも続くが、どうにも息が上がってきた。ゼクスの腕力と体力は、どう控え目に見ても前方を走るキリルに比べると低レベルだった。懸命に付いていこうとするゼクスを横目で見てから、キリルは「しょうがない」と呟き、テレパスで依頼人に連絡を取った。何処にいるのかがよく解らないため、少し範囲を広く、無差別に送ってやる。

『やって下さい』
『了解。巻き込まれないでね』

 次の瞬間。様々な廊下、室内、あっちこっちで小規模な爆発が連続して起こった。ゼクスが驚いていると、キリルは「急がなくっちゃ、生き埋めになりかねませんよ!!」と、そう言ってゼクスを無理矢理引っ張った。

「この爆発は何だ?」
「まぁ、何と言いますか。今回は爆発物を試してみたいという方がおりまして……」
「爆発物を?」

 ゼクスが怪訝そうな声を出す。ヒョイヒョイと崩れてくる瓦礫を躱しながら、二人は動揺しているのか、カメラを忙しなく動かしているスコーピオン達の合間を縫って走り続けた………………


■□■□


「サンダーボール!!」

 ジェミリアス・ボナパルトの手から放り投げられたサンダーボールが、無数に飛来するソーサー目掛けて飛んでいった。ゆっくりと浮遊するソーサーに当たったサンダーボールは、その名からも分かる通りに電流を迸らせている。当たった瞬間に、ソーサー自体にも電気を伝えた。

「おっ」

 ジェミニアスがすぐに身を伏せた。ソーサーは、電流が伝わると同時に爆発四散し、周囲で同じように飛行していたソーサー達を諸共巻き込んだ。
 次々に誘爆していくソーサーの爆発に巻き込まれないように、身を伏せながら壁を盾に出来るように移動する。やがて爆発が治まる。

「はぁ、これじゃボールの回収は無理でしょうね」

 顔を出して惨状を確認しながらポツリと言い、すぐに階下へと繋がる階段を下りだした。
 ビルの外では、時折ボンボンと爆発音が聞こえる。ソーサーが敵を見つけ、次々に自爆している音だというのが経験ではっきりと分かった。
 と、その音よりもはっきりと、すぐ近くで爆発音が聞こえた。階段を下りきった所で、ジェミリアスは歩を止めて廊下を覗き込む。

「あら、私の仕掛けた罠に引っ掛かったのね」

 鋼線を使った爆弾トラップをビルのあちこちに仕掛けていたのだが、どうやらイーターバグが引っ掛かってくれたようだ。足を砕かれて、手だけで這って移動している。そのイーターバグに、別の奴らが襲いかかった。流石に名前の通り物凄い食欲で、敵味方区別無い。
 そのイーターバグ達の足元を見て、ジェミリアスは荷物から手榴弾を取りだした。ピンを抜き、イーターバグの方へと放ってやる。ゆっくりと軌跡を描いて飛んでいった手榴弾は、コロンカランと少しだけ転がってから爆発した。
 イーターバグの足下から爆音が広がる。その瞬間、ビルの廊下が大きく崩壊するのが透視能力で確認出来た。優に数階分に穴が開いていき、更に下へと落ちていく。先程の、ジェミリアスが仕掛けた爆弾(キリルからのテレパスでスイッチを入れた)によってかなりガタがきていたのは透視能力と経験で分かっていたが、予想以上の落ち方だ。瓦礫とイーターバグの重さで、ヒビが入っている廊下が崩れていっているらしい。
 ようやく落ちるのが終わった時には、何だか大穴が開いてしまった。

「爆弾の火力、大きすぎたかしら」

 ジェミリアスがぼやきながら、開いた大穴に身を投じてトントンとリズム良く跳び
下りていく。穴の続く限り降りていき、最後の階に辿り着くと、先保護のイーターバグが瓦礫に潰されているのを発見した。既に息絶えている。流石に、数階分を瓦礫と激突しなが落下するのは耐えられなかったようだ。

「ここまで来ると、少し可哀想かも知れないけど……」
「別に情けを掛ける必要もないでしょう?」
「わっ!」

 振り向くと、ヒカルとレインが埃を払いながら立っていた。ヒカルはスプリガンを着こんだ上で銃を構えていて、レインは刀身1メートル程の光電池式高周波ブレード『リュイール』を構えていた。
 辺りにはケイブマンとイーターバグの死骸が散らばっている。先に一階にまで下りてきていたレイン達は、外の方から音を聞き付けて集まってきていたケイブマン達と一戦やらかすハメになったらしい。二人で連係していたとしても、相当苛烈な戦いになっていたようで、二人とも肩で息をしている。
 …………ついでに、どうもジェミリアスの爆弾に巻き込まれかけたらしく、深刻な怪我こそしていないものの、二人ともそれなりのダメージを受けているようだ。埃だらけなのは、今ジェミリアスが開けた穴の所為だと思うのだが…………

「もしかして危なかったかしら?」
「目の前に落ちてきたからな。もう少し前に出ていたら危なかった…………ケイブマン達を潰してくれたのは嬉しいが、下に気を遣ってくれ」
「これからは気を付けるわ」

 レインに睨まれ、ジェミリアスは目を反らしながら答えた。キリルを援護するために使った爆弾だが…………正直、瓦礫の落下地点とかの計算まではしてない。何とかテレパスを送ってきたキリルと、そのすぐ近くにいたゼクスなら何とか大丈夫だと踏んでいたが、ヒカルとレインのことは、正直計算外だ。脱出のことを考えて加減していなかったら、皆して危なかったかも知れない……

「ここで話し込んでいる暇はなさそうよ」

 ヒカルが二人に言う。頭上を見ると、ジェミリアスが開けた穴から、数体のケイブマンとイーターバグが顔を出していた。ついでにソーサーも飛行している。

「何だかどんどん出てきたわね」
「節操ないというか………」
「グズグズしてられないわ。行くわよ」

 三人が走り出すのと同時に、数体のケイブマンが跳びかかってきた。そのケイブマン達の頭上の天井を、レインがグラビティブレスで崩して足止めする。ジェミリアスが光を偏向させ、イーターバグやソーサーを次々に打ち落としていく。その合間を縫うように、打ち漏らしたモノをヒカルがサイボーグライフルで射撃する。
 三人が固まって走っていく。前から来るモノ達も分担して撃破することで、疾走するのに全く支障がでない。隠れている奴等も、透視能力を持っているジェミリアスに看破されて手がでなかった。
 追われながらも、三人とも何とか特に大事なくビルから脱出する。さて、ここからはビルからの脱出ではなく、このオフィス街から脱出しなければならないのだが………

「外から入り込んできた奴等であの数だから、外に行けば、もっと居るってのね」
「ウンザリしてきたわ」

 ビルから脱出出来たのは良いとして、当然のように外には数体のタクトニウム達が待ち構えていた。ケイブマン達にそれぞれが攻撃して黙らせるが、先程の警報は相当な範囲に響いていたらしく、まだ集まってくるのは目に見えていた。

「キリル達は?」
「まだ出てきてないんじゃ……」

 レインとヒカルが、武器を構えて警戒しながらビルを振り向くと、途端に隣のビルの一階が爆発した。驚いてそっちに向き直って銃を構えると、そこにはMSと青年の姿………

「キリル、そんな所に隠してたのか?」
「あまり遠くに隠してると、いざというときに使えないですから」
「だが、MSに乗った途端に追い掛けてきていたスコーピオンをランチャーで吹き飛ばすのはどうかと思う」

 キリルの横でゼクスが肩で息をしている。あれからというもの、かなりの全力疾走が連続していたため、体力が底を突いているようだ。無愛想な顔は変わっていないが、結構無理しているようにも見える。
 そうこうしている内に、ビルの中から無数のタクトニウムがこちらに欠けてくる足音が響いてきた。どうやら途中、スコーピオンとケイブマン達が鉢合わせたらしく、時々銃撃音が鳴っている。
 レインは、メンバーにビルから少しだけ遠くに行くように言って、ビルの内部にある空気の分子を高速振動させ、あっと言う間に発火させる。その炎は爆発となり、ジェミリアスの爆弾で既に大ダメージを受けていたビルに止めを刺した。
 盛大に崩れ落ちていくビルを尻目に、五人はすぐに走り出す。

「これであのビルからの追っ手は避けられるけど、油断はしないように」

 レインが言い終わるや否や、早速オフィス街のビルのあちこちから、数体のタクトニウムが顔を出して、五人を窺っていた。こちらの戦闘力を見て怯えているのか、それとも隙を窺っているのか……どちらにせよ、ここにそう長くはいられない。
 五人は、すぐにその場を駆け出し、オフィス街を後にした。





〜エピローグ〜

「結局。手に入った物の中で一番価値がありそうなのは、これぐらいか……」

 ヒカルは、戦闘時に砕け散ったレアメタルを取りだして、今回の報酬として皆に分配した。偶然居合わせたゼクスにも、傷の治療代として均等に配る。こうなったら、レアメタルが砕けたのは、むしろ幸運だったかも知れない。
 しかも、ちょうど拾った分は五等分だった。

「やれやれね……」

 レインは、自分の取り分として回ってきたレアメタルを日に翳して見て見た。まるで矢の鏃のように尖っているそれは、それだけでも十分ナイフの代わりになりそうである。相場なら、これだけでもそれなりの値は付くはずである。
 レインはしばらくそうしていた。その間、他のメンバー達は、それぞれの回収してきた物品を更に分配するか、それとももう個人で持っておくかで議論を始める。



 太陽の光を浴びて光る銀の光沢が眩しくて、レインは目を細めた………





FIN





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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0541  ヒカル・スローター 女 63歳 エスパー
0544  ジェミリアス・ボナパルト 38歳 エスパー
0620  レイン・シルフィード 女 20歳 エスパー
0634  キリル・アブラハム 男 45歳 エスパーハーフサイバー
0641  ゼクス・エーレンベルク 男 22歳 エスパー

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 ■         ライター通信         ■
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今回ご執筆させて頂きました、メビオス零です。
初めまして、……って、中には二回目な人もいますね。
今回のご依頼、誠にありがとうございます。
さて…………今回の内容は、如何でしたでしょうか?最近スランプ気味なため、どうも自信が無いんですが……只今脱しようと奮闘中です。
出来れば、長い目で見てやって下さい。これからも、よろしくお願いします。