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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【都市中央病院】突入! 強奪!
ジゲンバクダン

千秋志庵

 病院‥‥医薬品の類は高く売れるし、必要としている奴らも多い。ついでに言えば、サイバーパーツも有るかもしれない。
 宝の山だが、それだけ敵の数も多いって訳だ。
 病院にいるくらいだから、怪我してたり、故障してたりって奴らだろうが‥‥いや、医者や修理工みたいな連中もいるか。何にしても、油断の出来ない場所である事に違いはねぇ。
 突入。お宝を手に入れて、素早く逃げる。
 良いか、敵を倒そうなんて考えるな、お宝を奪って逃げる事だけを考えろ。

 コンマ以下単位の誤差すら許されない。

「……計画は先程話したとおり。後はその時折の状況に従っての判断をお願い致します」
 ジェミリアス・ボナパルトは声を潜めて指示を行う。
「その際には、時間との勝負が主になります。黒丸ちゃんとキリルが引き付けておいてくれていますが、あまり悠長にはしていられないと思います」
「精一杯努めさせていただきます」
 シュワルツ・ゼーベアは恭しく礼をする。
「同じく、後方支援だが出来る限りの協力は惜しみません。ですが、俺の分の分け前も宜しくお願いします」
 キリル・アブラハムは手を挙げ、早々にシュワルツと視線を重ねてその場を去っていった。
「病院内の様子は極めて穏やかだな。いつでも突入の準備は良さそうだ」
 予め放っていた矢から知覚した周囲の景色から、呂白玲は状況を簡易に口にした。計画開始の合図である爆破ボタンはジェミリアスの手にあるからして、その気になればいつでも行動は起こせるということだろう。
「私の方はいつでも準備は出来ている。後は、そなた次第ということだな」
 ヒカル・スローターは手にライフルを持ち、侵入口の真下へと移動した。
「任せたぞ」
「……スピード勝負、か。場所の大方の目星は付いてるのか?」
「勿論。図面は丁度手に入れたから」
 ジェミリアスの微笑に、ゼクス・エーレンベルクも冷笑に近い笑みを返す。
「上等」
 背筋に走るのは昂揚にも近い、沸々と湧き上がる生への実感。死を望む訳ではないのだが、敢えて危険な場に立つことによって、自分自身の生を確かめることがある。
 侵入口は備品管理室へと通じる、小さい窓。割って乗り越えることは不可能だろうが、容易してある道具によって大の大人一人は悠に通れるくらいに破壊することも可能だ。シュワルツらが待機している場に爆発物は多く設置しておいてあるが、この場だけ爆発の規模は最小に納めてある。万が一、この場の爆破が気付かれても、逃げ遂せるだけの時間は既に与えられているはずだ。
 手にした旧式の起爆装置を取り出し、ジェミリアスはそのスイッチを押した。

 時刻はきっかり十五分を経過した。
 ゼクスは薬品保管庫入口で座り込んで、周囲を見渡していた。といっても、光を屈折しているお陰で相手に自分の姿が見えることはない。様子を伺いに出てきた仲間に幾度か足蹴にされながら、彼はひたすら息を殺してその場にいた。
 戦利品の数は、仲間の手に一杯抱えられる程度にまで奪った。あとは幾つかの医薬品を手にし、その場を後にするだけだった。蹴られる回数を二桁にした人間が、それだけ言い残して保管庫へ戻った。ややもせずに、別の人物が姿を現した。
「……ゼクス、タクトニムの動きは大丈夫か?」
 白玲の言葉に、ゼクスは小声で「ああ」と返す。
「それなら、いい。だけどさ、先程からどうも動きが変なんだよな」
「外で二人の陽動が上手くいってるんじゃないのか? 何体かタクトニムが通過はしたが、こちらには監視も心配も全くないといったところだろう」
 その言葉には不安そうな顔を残す白玲に、ゼクスは屈折率を解除して保管室の中へと入った。ジェミリアスとヒカルの方も作業は殆ど完了したらしく、後は少しでも露呈が遅れるようにと細工を施していた。
「見張りは?」
 ヒカルの言葉に、ゼクスは肩をすくめてみせた。呆れたように見える顔のまま、彼女は戦利品を納める作業を終えた。
「これで侵入を開始してから二十分ですね。戻りますよ」
 保管庫には、万が一を想定して窓が一つだけ設けられている。厳重なセキュリティが掛けられているものの、それは「窓が開けられた」ことだけを知らせるものでしかない。数分後に警備のものが確認に訪れるのだろうが、時間はそれで充分だ。数分もあれば、策はなり逃走は充分に果たすことが出来る。
窓は換気のためだけに設けられた施設のようで、網戸のようなものが辛うじて付いている程度だ。中央病院とはいうものの、機械や電子とは無縁の原始的な作りも兼ね備えていることにジェミリアスは軽い感嘆を漏らした。
 今は流石にそういった世ではなくなってしまった。肉体だけで生き残ることは可能ではあるが、定められた枠以上には収まることを許されない。自分が何かを変えるためには、凡人であることは許されない。そのために必用なモノが、所謂“超能力”と呼ばれるもの。
 ジェミリアスは窓に手を掛けると、縁の脆い部位に最低限の爆薬を仕掛け、振り返って仲間を見やった。全員揃っていることを確かめると、微かに微笑む。
「準備はいいかしら」
 声にヒカリは真っ先に異を唱えた。
「何か可笑しくはないか? あくまで感でしかないのだが」
「そうだよな、タクトニムもあまり見かけないし。話だと、この部屋の前を通過したのも極少数みたいだしな」
 白玲の言葉を受けて、ゼクトが同意する。
「だからといって、いつまでもここにいられる訳じゃないだろうがな。外の喧噪も治まってきたみたいだし、判断は早急に頼む」
 ジェミリアスは肯き、親指が起爆ボタンを押した。白煙を僅かに立ち上らせながら、窓は無音の内に綺麗に破壊される。

 センサーの発動を示す赤いランプが付いた。

 先陣を切り飛び降りたジェミリアスを追って、彼らは次々に病院から離脱していく。
「……何も起こらなければ良いのだがな」
 ヒカルは窓の開閉のために光る照明を見つめ、光の溢れる北の空の下へと飛び出した。
 着地の痛みを堪えながら周囲を見渡すと地上にはなぜかシュワルツ、キリルを含めた全員が揃っており、ヒカルは一番後方で苦笑を漏らした。危惧の的中。それは恐らく誰ともなしに思ったことだろう。
 敵の陽動作戦に赴いていた二人と計画外に合流してしまったのは、もはや失敗としか言いようがない。予定ではシュワルツ、キリルの二者を残した他が逃げ切った後に、時間を置いて逃げた彼らと合流するものであった。人数が少なければ逃げることは容易なのだが、ここで合流してしまったら自然と退路は限られてくる。シュワルツとキリルの走ってきた方角には当然ながら敵がいる。逆の道は、唯一の退路なのだが、結果として病院の裏手裏手へと追い込まれていく結果となる。見える高い塀は敵が他の対処へと回っている場合のみ退路へと成りうる。
 シュワルツが試しに塀へと拳を幾度かぶつけてみたのだが、割れるどころかヒビ一つ入らない。そこだけは原始的な仕組みに最新鋭の知識が導入されているらしい。病院出入り口から堂々と逃げるの
も手だが、恐らく既に兵を配置してしまっているに違いない。
 陽動役の二人に聞けば、タクトニムらは意図して“薬品保管庫の窓の真下”以外に見張りやらを配置し、彼らをそこにおいこんでいた気配が強いという。
「どうしたものかしらね」
 ジェミリアスはぼやくが、キリルはあっさりと言い退けた。
「でしたら簡単に結論は導けます。俺達が戦闘を続行。その間に逃げていただく、と」
「確かにそれでしたら有効な手段と言えますね。何せ彼らは“意図的にここに集め”ているのですから、このまま固まって待ち受けるのは分が悪いとしか言いようがありません」
「彼の言う通り。意地悪い知略戦に持ち込む気ですから、逆に少人数の方がどうとでもなるというものです」
 シュワルツの言葉をキリルが継ぎ、再びキリルが継ぐ。ジェミリアスは暫しの間口元に手をやり考えていたが、
「分かりました」
 一言言うと塀へと足を掛けて、ロッククライミングの要領で登り始める。確かにこの格好は敵にとって大きな好機に間違いないだろう。
 その背が消えぬ内に、シュワルツとキリルは自分らが逃げてきた場へと駆け戻っていく。
「また気に食わないネチネチとした攻撃をやるんでしょうね」
 キリルが苦笑混じりに呟く。
「でも、やるしかないでしょう」
 シュワルツが少し疲弊した声で応じる。前方には敵が整った陣形のまま、こちらへと近付いてくる様子が視認出来た。壁に身を隠して、息を潜める。
「……分け前、多くしていただかないと」
 キリルが装備を整えながら、冗談交じりに呟く。
「私は先程のジェミリアス様の言葉で充分です」
 何を言われたのか問おうとするキリルの口を静止し、シュワルツは戦闘モードへと移行していた。こうなってしまった以上、二人の間には会話は存在しない。戦闘の場においては、息一つで全てが成り立つ世界へと変貌する。
 息を、一つ。
 静寂へと静まる世界の中、地を蹴って彼らは飛び出した。

 ただ、相手が拳を振るうその一瞬先へと駆けだして行った。





【END】

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0544】ジェミリアス・ボナパルト
【0529】呂白玲
【0541】ヒカル・スローター
【0607】シュワルツ・ゼーベア
【0634】キリル・アブラハム
【0641】ゼクス・エーレンベルク

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、或いはお久し振りです、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。

病院のシステムは少し複雑な設定になっています。
基本的には現実世界で私達が使っているのと同じ構築になっていますが、警備システムに関してはタクトニムらの手に委ねられています。
かといって、全てに配置するのは効率が悪いので、侵入が確認された場を遠隔操作で警備員に連絡するという形式を取っています。
扉の開閉を侵入と取るのではなく、窓の開閉を侵入と取る当たり、かなりずさんさを感じてしまいますが。
警備員は兵隊と同じ以上の統率力があり、真正面から立ち向かうのは恐らく難しいと思います。
そのような裏設定がありました。
裏、と呼べるものではないかもしれませんが。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。

千秋志庵 拝