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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


§〜A success accessories〜§


 【PK(サイコキネシス)】
念動力とも呼ばれるそれは、個々の精神エネルギーを対象となる物質に働きかけあらゆる物理的現象を起こす能力。
自らの肉体や他者、物質を浮かすことの出来る浮遊・飛行能力、衝撃波を生み出し、バリアを張り巡らす能力、
そして、電や炎といったものを生み出す能力、あるいはテレポートや治癒能力と多種多様の能力があり、
個人の特性によって、得意なものやそうでないものが存在する。
PK能力者の中にはいかに自分の特性を生かすか、あるいは苦手なものを克服するかと日夜修行を積む者も多い。

―――そして、能力に目覚めて浅く、それを使いこなす為に修行をする者も…。

「いい年した男がビーズ遊びかよ?!」
 アルベルト・ルールは、母親から渡されたあるものを手に叫ぶ。
それは、よく女性がアクセサリーを作って楽しんでいるようなビーズが半分ほど入った小瓶と、その小瓶と同じの空のビン。
この上にテグスやペンチでも渡されれば、それこそビーズ遊びだろうが、しかし渡されたのはスプーンと漏斗。
 『どんな方法を使ってもいいから、手を使わずに、ビーズを空のビンに移動させなさい』
それが、それらを渡された際に母親から言われた一言だった。
 突然呼び出されて言われ、少々不満に思ったアルベルトではあったのだが、数日前に、少々失敗して、
仲間の髪を少々あぶってしまった…いや、燃やしてしまった事実もあるわけで、それがおそらく母親の耳に入ったのだろう。
まあ、そうでなくても自分自身でもさすがにコントロールが出来ないままではまずいだろうと思っていたとろこだった。
 アルベルトは一式を手に、部屋に戻るとそれらをテーブルの上に置く。
単純に考えて、ビーズを空ビンへと移動させるには…。
「要するにビーズを空ビンの方へテレポートさせるって事だろ…」
 アルベルトは椅子に座り、深呼吸をしてふっと目を閉じる。
集中して、意識をビーズへと移して空ビンへと移動するように念じる。
…数十秒ほどで、カタカタッと小瓶が動き、中のビーズが共鳴するように振動を開始する。
意外と早い段階で動いたのを感じ、アルベルトは「おっ」と心の中で呟いた。
 その瞬間…。
ザーっと音をたてて、ビーズが一気にあふれ出るように小瓶からこぼれる。
「っておいっ!なんでだよっ?!」
 球体な上に小さくザラザラとしたビーズは、机の上を転がり広がって、おさまりきらなかったいくつかが床へと落ちる。
慌てて立ち上がって手で止める姿は、なんとも情けなく虚しく思えてくる。
 投げ出したくなる気持ちをぐっとおさえ、散らばっていたビーズを拾い集め、漏斗を使って小瓶に戻す。
「今のやり方じゃ駄目って事なのか…?」
 手についたビーズに目を向けながら、アルベルトは独り呟く。
テレポートでは無いとすれば、小瓶ごと浮かせて傾け、空ビンへ中身を移すと言う手段がある。
次はとりあえずそれでやってみる事にして、再び特訓を開始したのだが…。
 ザーッ…。
「マジかよっ!?またか…」
 小瓶は浮いたものの、空ビンへと傾けると言う細かな動きの制御がきかずにまたしても中身をぶちまけてしまう。
そんな事が、それから何回も何回も繰り返される。
 最初は真剣にチャレンジしていたアルベルトも、ここまで失敗が重なるといいかげんがっくり来てしまう。
「くそっ…!無理だっての…!別に今やらなくてもいいだろ…」
 バン!と机を叩いて、その場から逃げ去ろうと立ち上がり部屋のドアへと向かった。
…と、アルベルトがドアノブに手をかけるより先に、カチャリと音をたてて静かに向こう側からドアが開かれる。
一歩後退して自分の目線で開いたドアの向こう側を見ると、そこには誰も居ない。
「アール?」
「………なんだ、ピンクか…」
 しかし、少し下の方で自分の名を呼ぶ声を聞いて、アルベルトは視線を落とした。
そこにはぬいぐるみを抱いて、にこっと微笑みながら自分を見上げている少女がひとり。
アルベルトが養女として引き取り、ピンク・リップと名付けたその少女は少しその頬をぷうっと膨らませた。
「なんだとは何よぅ…!探したんだよー!」
「俺を?なんで?」
「…アールに会いたかったから」
「そんな理由でかよ」
「ダメなの?!会いたいから探したんじゃダメ?!」
「い、いや、そんな事は言ってねーって…」
 頭をかきながら慌てて訂正するアルベルト。
ピンクはほっとしたように笑みを浮かべ、そして不意に、背後の机の上にあるものに視線が止まる。
キラキラと輝くビーズがあり、ピンクの興味をそそった。
「ねえねえ、アール。ビーズで何作ってたの?あたしもやりたい!」
「あ…?いや、それはその…ビーズ遊びってワケじゃなくって…」
 アルベルトは机の上に倒れたままの空ビンを起こしながら、改めて椅子に座る。
ピンクもちょっと高めの椅子によじ登るように上がり、ちょこんとその隣に並んだ。
「おふくろにさ…ちったぁ能力の訓練しろって言われて…」
「あー!わかった!ビーズの移動!」
「………知ってんのか?」
「うん!あたし、やったことあるもん!」
「………できるのか…?」
「もちろんだよぉー!見ててねっ!」
 ピンクはお気に入りのぬいぐるみをアールに手渡すと、ビーズの瓶と空ビンを自分の目の前に並べる。
両目を閉じ、そして小さくかわいらしい両腕を伸ばし手の平を二つのビンへと向けた。
じっとアルベルトが見守る中、ビーズの入った瓶が薄っすらと光を放ち始める。
 これは安定した精神エネルギーの波動が空気中の物質と反応を起こして起こる現象らしいのだが…
その現象が起こるということは、ピンクの力が安定して作用しているということになる。
「……おっ…」
 それを実証するように、アルベルトがじっと見つめる中、
ビーズは次々に浮かび上がって、隣に置いている空のビンの中へと移動していく。
途中で落ちることも、移動先を外してしまう事もなく、小さなビーズ達はしっかりと空だったビンへと納まった。
「……スゲー…」
 思わず、素で呟いてしまい、アルベルトは慌てて少しぽかんとしていた自分の顔を引き締める。
ピンクはその小さな呟きすら嬉しくて、キラキラと目を輝かせてアルベルトの顔を見上げた。
「えへへっ!簡単だよー!アールもできるよっ♪」
「いや…それができねーからさっきから悩んでるんだけどな…」
「あのね、えーっとね…大好きなアールにだけ、あたしの”コツ”を教えてあげるっ」
 ピンクはよほど嬉しかったのか、自慢げに小さな胸を張って反り返る。
ちょっと反り返りすぎて椅子から転げ落ちそうになるのを、アルベルトが慌てて支えて止めた。
「気をつけろよ?怪我したらどうすんだ」
「ゴメンなさい…え、えっとね…ビーズを移動する時にね…
頭の中で、全部のビースが紐とか糸で一本に繋がってるのを考えるの」
「一本の?」
「うん!ビーズの真ん中に糸が通ってるのを思い浮かべて、
そのはしっこを持ち上げるようにして…もう一つのビンの中へと落とすの」
「―――なるほどな…そういう手もあるのか…」
 感心して、アルベルトは二つのビンを見つめる。
今の説明を聞いて、とりあえずし”やり方のコツ”と言うものは理解できた。
あとは、上手く力をコントロールしてそれを実践してみるだけだ。
 アルベルトはピンクに倣うように、目を閉じて片手をビンの前にかざす。
ピンクの場合、手が小さいので両手を必要としたが、アルベルトの場合は片手で充分カバーできるからだ。
そして、ピンクのアドバイス通りに、頭の中に”糸でつながった一本のビーズ”を頭の中に形作る。
止め具のついていないビーズネックレスのようなものが脳裏に浮かび、アルベルトはその端を持ち上げるよう”力”を送る。
 ビーズは静かにするすると持ち上がって瓶の中から隣のビンへ向けて動いていく。
意外と、あっさりと出来るか…?!と言う期待もあったのだが、なかなか動きのコントロールが思い通りにいかず、
外に向けて出て行くはずのビーズたちは、何故かまた瓶の中へと舞い戻ってきてしまったのだった。
「あ―――っ!くそっ!なんでだよっ…!」
「大丈夫っ!こうやるんだよー!ちゃんとピンク先生のお手本を見ててね〜…!」
「ぴ、ピンク先生って…」
 苦笑しながら頭を抱えるアルベルトの横で、ピンクは器用にあっと言う間にビーズを移動させる。
必至の特訓な彼と違って、もうほとんどビーズを移動する遊びのような感覚だ。
しかし、そんな遊び感覚なのにきっちりこなしている姿は…アルベルトにしてみれば目を見張るものがある。
「おまえさ…改めて言うけど…凄いな…」
「えへへへっ…ピンク先生だもん♪でも練習すれば誰にでもできるんだから!」
「はいはい。じゃあピンク先生、俺にも出来ますか…?」
「出来るよ!アールだもん!あたしがついてるから頑張るのよぉ〜っ!」
 5歳の女の子に励まされる20歳の男の図と言うものは、ちょっと情けない気がするアール。
もしこんなところを友達にでも見られてしまったら、絶対後々何度もからかいのネタにでもされるだろう。
「よっし!誰かに見られないうちにとっととクリアしちまおう…」
「頑張れ頑張れアール♪」
 ぐっと気合いを入れなおし、ビンに向き直ったアルベルトに、
ピンクはお気に入りのぬいぐるみの手を動かしながら、楽しげにエールを送ったのだった。

 それからも、ピンクの声援を受けながら特訓を続けたアルベルトは、なんとかビーズ移動をクリアする事はできるようになった。
自分に付き合ってくれた…いや、まあ本人は楽しんでいただけと言うのもあるが…”ピンク先生”へのお礼と言うわけではないのだが、
特訓に使ったビーズで出来たちょっと不細工なネックレスが数日後にはピンクの首にかかっていた。
しかし2人の特訓を知らぬ周囲の者にしてみれば、その製作者が誰であるかはまったく想像すらつかないのだった。
 ただ、そのビーズネックレスは、その後もピンクにとっての宝物になったと言う。





§§§END§§§



※この度は誠にありがとうございました。
※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますがもしありましたら申し訳ありません。