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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


ブラジル【アマゾン川】楽しい水辺遊び
条件:赤褌

千秋志庵

 赤道直下のブラジルは暑い。セフィロトの中は空調が効いているけどな。まあ、たまには水遊びってのも悪くはないわな。
 外国人には茶色の水で泳ぐのは抵抗があるかも知れないが、こっちの人間は気にせず泳いでいる。泳がないにしても、釣りだとか何だとか、色々遊べるだろう。
 ああ、ピラニアとかも普通にいるが、あいつ等は血を流してでもいないかぎり、襲いかかっては来ない。むしろ、人間様の方が奴らを食いまくってるくらいだ。生肉を餌にしたら、面白い様に釣れるぞ。針から外す時、指を噛まれない様に注意は必要だけどな。
 そうそう、体内に潜り込んで中から食い荒らす、カンディルって魚がいるから、絶対に裸で泳ごうなんて考えない事だ。いいな?

 水着【みずぎ(ミヅギ)】
 水泳の時に着るもの。水泳着。海水着。
 素肌を覆い隠す申し訳程度の布。

「……目の保養、だよな、これも」
 アマゾン川の岸に座り、泳ぐこともせずに釣りを愉しむ。視界に写るのは、出るトコの出て引っ込むトコの引っ込んだ形の水着達……もとい、水着姿の女性達。静かに垂れる釣り糸の先には、殆ど餌の役割を果たしていない死んだミミズが刺さっている。岸周辺には魚はいないというから然したる期待は元よりしてなく、ただそうしていること事態に軽い満足感を得ているのかもしれないと。脳裏に浮かんだ厭な思いを打ち消すかのように頭を振り、視線を女性の方へと向けた。
 まず一人目、エクセラ・フォース。彼女は木陰で水遊びをしている。焼けたくない、というからの理由だろうが、凶暴な日光の下では彼女の白い肌は妙に目立つ。少しは焼けた方が良いのではないか、というのが目下の意見だ。まあ別に、言えた義理ではないが。
 問題はその水着。青いワンピースタイプ。
「その体でその顔で、ワンピースってのは色気ないんじゃねえか?」
 希望を申せば、彼女の横で日光浴をしているジェミリアス・ボナパルトの如くの赤いビキニだが、彼女は彼女で出し惜しみもなく露出度が高い。実母に下心を持つのもどうかとも思うが、いやらしさのない艶めかしさも男としては憧れの一つだったりする。
 とは言うものの、露出は露出でも男のそれは別だ。腹筋が割れていたり、上腕筋やら大胸筋の筋肉が剥き出しになっているのは、まあそういう趣向の人間には堪らないのだろうが、正直あまり耐えられたものじゃない。だが同様に貧弱な男の上半身というものも、それはそれで哀しいものがある。人目から見て、というよりもむしろ自分自身が。
 赤褌。
 赤い褌。近頃では別称で販売されることもあるというそれを、J・B・ハート・Jr.は惜しげもなく披露してくれている。ティンガロンハットを片手で抑えながらターザンごっこをして、女性らの頭上にある蔦を手に一際高い崖から飛び立った。……やはりというか何と言うか、お約束通り蔦は彼の重さに耐えられずに切れ、重力に逆らうことなくにJ・Bは落下した。その瞬間、真下にいた女性陣は何の躊躇もなく避けたように見えたのは、恐らく気のせいではないはずだ。
 別の一角から聞こえるのは、歓声。視線をそちらへと移動させると、間違った戦闘風景が展開されていた。
 女性三人 v.s. ワニ(通称・大将、性別不詳)・ピラニア群(性別不詳)連合軍。
「……同じもの、だよな」
 自身の釣竿と見比べて、首を一つ捻る。しなりはこちらのと比較して多少なりともあるのだろうが、強度はあまり差異のないはずだ。はず、なのだが……そもそも、この風景に常識という規則を適応させるという行為が愚行なのかもしれない。そう結論を一つ導き出し、視線の真ん中に彼らを収め始める。
 ヒカル・スローターは釣竿を薙刀の如く構え、切っ先を敵の大将へと向ける。大将はその体の殆どを水の中に沈めていたが、俄かに顔を水上に出しては口を大きく開いて牙を彼女らへと向ける。エクセラ・フォース、エリア・スチールの二名は大将をヒカル一人に任せると、釣竿をピラニアらの真ん前へと垂らした。餌に何が使われているのかは全くもって不明だが、ピラニアらは我先にへと群がって食いついてくる。
 ……フツーの餌だといいんだけどな。きっと、先に“毒見”させられるのは俺だろうし。形状からして何かの生物のようだが、分かっているのが生物だけだというのも気味が悪くてしようがない。下手に食することを断ろうとするものなら、きっとジェミリアスかJ・Bあたりにでも無理矢理押し込められてしまう結果になるだろう。毒を食らうか、食らわされるか。どちらにせよ、厭な二者択一には違いない。
 エクセラは一度川岸に戻るとクーラーボックスを手に戻ってくる。エリアの投げるピラニアを器用に受け取ると、慣れた仕草で仕舞い込む。と、その口元があまり宜しくない笑みを形作る。唇が何かを呟くが、残念ながらこちらからは聞き取れるほど近い距離にいない。
「死人、出ないといいんだけどね」
 だが何故かその声は聞こえた。不明の餌を食べたピラニアではなく別の魚を食べるためにも、今は一刻も早く多くの魚を釣り上げる必要がある。竿には未だに何もかかっていないのが焦燥感を募らせるが、そもそものんびりと釣竿を垂れているだけというものが遅い行為であるのかもしれない。いっそ川に入って直々に捕まえるのも手だろうが、何せそういう経験は無いに等しい。それこそ無駄、というべきなのかもしてない。
 諦念のこもった視線が、愉しそうなエクセラを通り越してエリアの視線とぶつかる。一瞬きょとんとした顔を見せた後、エリアは手を振って笑いかけた。魚は任せて、とでも言わんばかりの笑みに、無理矢理顔を背けてヒカルの方へと視線を動かす。
 大将はまだ生きていた。否、生かされていると言った方がより適切な表現なのかもしれない。ひょっとしたら、彼女は生焼きと所望しているのかもしれない。
「ワニは美味」
 とはJ・Bの言だが、いつの間にか「ナマ」であることが条件になってしまったのかもしれない。或いは活け作り。踊り食いは流石に勘弁したい、と思いつつ一人と一匹のやり取りを見ていると、ヒカルが大将に止めを差していた。相乗効果で血の匂いに誘われ、ピラニアが一層群がってくる。それらをエクセラが取り、エリアがクーラーボックスの中へと詰め込む。
 そんな光景を心のどこかで日常と判断している自分に辟易しつつ、川から釣竿を上げると日陰へと避難を開始する。日光は次第に強くなってきており、フードをすっぽり被っている身にとっては辛い。おろしたての水着をどこかの赤褌老人に奪われてしまったことが原因ではあるのだが、
「ならばおそろいじゃ!」
 と差し出された赤褌をはいてまでして入るしか手段しか残されていないのも、それはそれで惨めではあった。惨め、ではあるのだが、折角エクセラに誘われてやってきたアマゾン川をこうして暑い格好で釣りをするだけというのも惨めであるには変わりない。どちらの惨めを選ぶか。……厭な二者択一だ。
「……それでも、赤褌は厭だ」
 アルベルト・ルールは自分に言い聞かせるように何度も何度も繰り返し、川の中で愉しそうに遊んでいる一行を眺めては、幾度となく溜息を繰り返していた。





【END】


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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0598】エクセラ・フォース
【0541】ヒカル・スローター
【0544】ジェミリアス・ボナパルト
【0552】アルベルト・ルール
【0592】エリア・スチール
【0599】J・B・ハート・Jr.

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、或いはお久し振りです、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。

今回は一人の視線から見た、一行の川遊びを描かせていただきました。
キーワードは「赤褌」です。
深くは何も語りません。
「赤褌」が全ての解決のキーワードになっています。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。

千秋志庵 拝