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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【アルバイト】フライドチキンの配達人



「おーい!そこのバイト!ちょっとこっちへ来てくれ!」

 ここはアマゾナスフライドチキン・セフィロト店。「いつでもどこでも熱々を」というのが売りの、とても有名な店舗である。
 その厨房で、ちょうど新しいフライドチキンを揚げ終わったアルベルト・ルールは、店長に呼び出された。顔を上げてそちらを見ると、数人の見知った顔がある。
 返事をしてから、呼ばれた方へと向かう。そこには、同じようにして店長に集められたのだろう、同時期に入ったシオン・レ・ハイ、エリア・スチール、大道寺・是緒羅の三人が居た。
 アルベルトが到着してから、店長が厳かに口を開く。

「揃ったな。では、これから君達に特別任務を与える。突然で悪いのが、先程新たな注文が入った。しかし、配達担当の者が逃走してしまってな。悪いのだが、君達に行ってもらう事にした。給料はその分色を付けておこう。ちなみに拒否権はないし、断ったりフライドチキンを冷めさせてしまったりしたら減給ものではない。もはや無くなると思ってくれたまえ」

 有無を言わせない強い口調。流石に唖然としている四人だったが、いち早くシオンが復活し、店長に聞いた。

「配達は良いのですが、配達先は何処なのですか?配達係が逃走する程のところとは……」
「中央病院だ。ただ、何故逃げたのかは分からないが、まぁ、いつもの事だから気にするな。さぁ、これが君達が配達するフライドチキンだ!!」

 追求を逃れるかのように、一番近くにいたエリアに、フライドチキンが入ったバスケットを押しつけた。そしてそれから、キッ!と四人を睨みつける。

「さぁ、それを冷めないうちに届けるのだ。……当店のキャッチフレーズを言ってみろ!」
「「「「いつでも何処でも熱々を!!」」」」
「よろしい!さぁ走れ!!」

 店長の掛け声で、反射的に四人は走り出した。途中でエリアが古典と転んでいるが、是緒羅が素早く抱き留めて運んでいく。そして素早く店の車庫へと向かい、配達用の簡素な、しかし丈夫なバギーに乗り込む。
 走り行くバギーを眺めながら、店長は戦場へと旅だった戦士達に十字を切った……





「しかし突然すぎるな」

 シオンが、バギーに揺られながら言った。その言葉に、是緒羅がウンウンと頷いた。エリアも追随する。

「ですよね。それに、給料に色を付けるって言ってましたけど、そんなに上がるんでしょうか?」
「外勤の仕事は、内勤よりも時給が5レアル上だ。聞いた話だと、本当にやばい時には相当な額が付く……もっとも、給料が無くなる云々は本当の事らしいがな。っと、早速来たぜ!」

 エリアに答えるアルベルト。だが、その声は前に出現したタクトニウムを見て舌打ちに変わる。寄りにも寄って、食べる事が売りのイーターバグだ!
 武器を構えるエリア達、だが、アルベルトはそれを制して叫んだ。

「ここで時間食ってる暇はねぇ!舌噛むなよ!」

 言うや否や、アルベルトはハンドルを勢いよく切った。イーターバグの横を素早く走り抜ける。イータバグがすぐに後を追ってくるが、アクセル全開で飛ばすバギーには追いつけないようだ。すぐに建物の陰に隠れて見えなくなった。
 いつの間にか、当たりは背の高い建物ばかりになっている。こういう場所は、様々なタクトニウムが姿を隠している可能性が高く(何処でも一緒な気がするが)、危険である。しかし、運転手のアルベルトは、中央病院までの近道として、少々タクトニウムが多い場所を全速力で突っ切ろうというのだ。確かに、フライドチキンが冷めないうちに届けるという時間制限付きならば、多少のリスクを背負ってでも、少しでも近い道程を言った方が良いだろう。

「だが、これでは………」
「また来ましたよ!」

 ビルの上からワラワラと跳びかかって来たイーターバグの群れを、バギーのスピードを落とさないように、出来るだけ対空迎撃する。銃器がメインな為、エリアは対地迎撃として、弾幕を抜けてきたタクトニウムだけを相手にしている。その分、シオンと是緒羅の二人は射撃に集中していた。
 だが、襲ってくるイーターバグの数は相当に多い。やはりフライドチキンが目的なのか、真っ直ぐに助手席に固定してあるフライドチキンに向かって跳びかかってくる。まるで磁石に引き付けられる砂鉄だ。
 アルベルトは何とかスピードを上げて、前方に現れるイーターバグを躱していく。どうしても避けられない奴らは、PK能力で弾き飛ばしてやった。
 だが、それでも限界はある。いくらこの四人でも、フライドチキンの魅力に見せられているイーターバグの群れを迎撃し続けるのは困難を極め、疲労を溜め続ける結果となった。

「病院まではどれぐらいですか!?」
「このビル群を抜けたらすぐだ!もう少し持ち堪えろ!」

 是緒羅が叫ぶと、アルベルトも負けじと返してきた。四人の顔には、疲労の色が濃い。対して、全く間断なく攻め込んでくるイーターバグ達は、ハッキリ言って底なしの生命力と言えた。中には傷を負って倒れた者も、その箇所を引きずって追い掛けてきていたりする。
 恐るべき食への執念!もはやこいつ等の食欲は、自身の命の保護よりも優先らしい。恐るべき執念!!

「よっしゃ!抜けたぞ!!」

 バギーがビル群を勢いよく抜ける。イーターバグは、潜む場所を無くし、しばらくは後ろから追い掛けていたが、やがて諦めたのか、渋々とビル群へと戻っていった。
 バギーの荷台に乗って迎撃していた三人は、それを見てホッとする。しかし、運転していたアルベルトは、「なっ!?」と声を上げた。同時に鋭く、激しい銃撃音が響いてバギーの車輪が弾け飛ぶ。バギーは壮絶に騒々しい音を立てて横転し、四人は慌てて飛び降りた。

「何が起こったんです!」
「聞いてのとおり銃撃だ!くそっ、よりにもよってこんな時に!?」

 チキンを抱えて脱出したアルベルトは、銃撃の主を睨みつけた。こいつもチキンを狙ってきたとはとても思えないが………そこには、腕を大型のライフルに改造したビジターキラーが立っていた。何度も戦って勝っているが、それでも会いたくない敵ナンバーワンである事には変わりない。

「最悪……」

 エリアが呟く。そのエリアに、アルベルトはチキンの入ったバスケットを投げて寄越した。アルベルトは、シオンと一緒にバギーを盾にしてビジターキラーに銃を向ける。

「エリアと是緒羅は、それを届けてくれ!あいつは俺達が引き付ける!!」
「!? 二人だけじゃ無茶だよ!」
「だが、こうでもしない限りはあいつから逃れられない!!」
「でも!」
「急いで下さい。奴が、こっちに来ます!」

 シオンが切羽詰まった様子で、行こうとしないエリアに言う。踏ん切りが付かないのか、なかなか行こうとしないエリアの体を、是緒羅が無理矢理抱え上げた。

「きゃっ!大道寺様!」
「失礼します。このまま行きますよ」
「で、でも!」

 なお躊躇うエリア。そのエリアを抱えている是緒羅に、アルベルトは有無を言わせぬ口調で強く言った。

「行けっ!是緒羅!そのチキンが冷めないうちに!!」
「………では!!」

 是緒羅が、エリアを抱えて走り出す。チキンを持ったまま抱えられているエリアは暴れるわけにもいかず、必死にアルベルトとシオンの二人に向かって喚いていた。
 残った二人は、そんなエリア達を見送ってから、自分達の敵を見据える。
 ビジターキラーは、逃げたエリア達よりも残った二人を相手にするつもりになってくれているらしく、相変わらず二人に向かってゆっくりと近付いてきていた。

「損な方に残っち待ったな」
「気にしても仕方ないでしょう。それより………」
「ああ。来る!!」

 ビジターキラーが、腕に装着されている大型ライフルを倒れたバギーに向けた。そのまま発砲。大きな発射音が空気を揺らすと同時に、二人は左右バラバラになって飛びだした。バギーに大きな穴が開き、爆発が起こる。
 その爆発に紛れ込んで、アルベルトはPK能力を発動させ、シオンはグレネードランチャーを構えた。
 ビジターキラーの咆吼が響き、戦闘が始まった……







 その頃、注文先の中央病院では……

「たぁぁ!」
「喰らえい!」
「頑張って下さいね〜」

 注文客である、兵藤・レオナ、ナンナ・トレーズ、J・B・ハート・Jrの三人が、必死(?)になって群がるケイブマン達を迎撃していた。
 レオナがケイブマンを単分子高周波ブレードで切り裂く。二刀のブレードは、糸も容易くケイブマンを退けて除けた。何体目になるケイブマンなのかはもはや分からないが、レオナの周りには相当な数の死骸が転がっていた。まさに死屍累々………病院周りの光景としては最悪である。
 J.Bは、38口径リボルバー式拳銃を使ってケイブマン達を射撃する。近付く端から撃っているが、弾を籠める間逃げ回っているせいか、端から見ていると追い掛けっこをしているように見えた。体のあちこちに包帯を巻いているが、人一倍の生命力の御陰で、自慢の逃げ足には全く衰えが見えない。
 最後になったが、ナンナは………隠れていた。容赦なく隠れていた。
 中央病院の前で行われている戦闘を、扉の影からこっそりと顔を覗かせて見ている。もはや隠れていると言えないような気もするが、本人は至ってほのぼのと……いや真面目に応援していた。彼女の周りにケイブマン達が来ないのは(来ても、何故か素通りしていた)不思議な光景だが、たぶんこれも世界の最後の良心なのだろう。とりあえず、彼女は笑顔でいる限り(ある意味)無敵だった。

「応援はまだ来んのか!?」
「呼んでから随分経つんだけど……」

 応援部隊を呼んだレオナは、J.Bの問いに自信なさげに答えた。ケイブマン達を払いながら、少しだけ思案顔になってボソリと呟いた。

「やっぱり準備に時間が掛かってるのかな?スペシャルボックスを頼んだから………チキンを揚げるのに時間も掛かるかな」
「待て」
「とおりゃああ!!」
「話を強引に逸らすな!一体どこに連絡したぁ!?」

 J.Bが叫ぶ。そこで気が逸れたのがいけなかった。あっと言う間にケイブマン達に捕まり…………

「のああああああああ!!!!!!!!!!」

 悲鳴とも怒号とも付かない声を上げ、J.Bは………………

「ああ!待ってて!すぐ助けるから!!」
「あ〜!J.Bさんが大変な事に……!」

 慌てて救出に向かうレオナ。ナンナは、相変わらず微笑んでいたが、流石に大変だと思ったのか、治療のためにと小走りになって走り寄った。ケイブマンの群れを切っては投げ切っては投げを繰り返して、必死に救出にJ.Bを成功するレオナ。そして、その群れの中から揉みくちゃになり何だかどう表現したらいいか本気で分からない状態になったJ.Bが現れる。レオナは、とりあえずそのJ.Bを掴んで、ナンナに向かって思いっきり放り投げた。
 ナンナは、呻き声を出す(生きてます)J.Bに触れて、治療を開始する。そこに襲いかかろうとするケイブマンは、レオナが必死になって迎撃した。
 だが、それもそう長く続くはずがない。ナンナは戦闘には不向きだし、J.Bは治療中。そして自分達は囲まれている……
 時間が経てば経つ程、どんどん状況が悪化していくのが目に見えていた。

「……? 今、一瞬声が…」

 レオナが、ブレードを振るいながら呟く。どこからか自分を呼ぶ声が聞こえたような気がしたのだが、気のせいだったのか、今は周りのケイブマン達の咆吼で聞こえない。
 次々にケイブマン達を払っていたレオナは、もう一度声を聞こうと耳を澄ませた。すると、確かに自分を呼ぶ声が聞こえて来る。
 前に聞いたものよりも、明らかにハッキリと聞こえた。声の主が近付いてきているのだ。

「いったい……」
「あら?」

 レオナが、後ろで治療しながらあっちこっちキョロキョロと見渡していたナンナを見る。ナンナは、ブンブンと明後日の方向に手を振っていた。つられてそっちの方を見る。

「な、なにあれ!」

 驚愕の声を出すレオナ。見る先には、何と土煙を上げて迫り来る謎の制服姿の二人組(しかし一方(女性)は担がれていた)が見えた。

「退いて退いて退いてぇ!!」

 二人組の一方……エリアが、チキンの入ったバスケットを抱えたままで叫んだ。是緒羅にも余裕がないのか、息を切らせて走っている。そして、とんでもない勢いを付けて、レオナ達の方へと突っ込んできた。周りにいるケイブマン達も反応するが、尽く弾き飛ばされる。そして、レオナ達の前に来て、二人は急ブレーキを掛けて立ち止まった。素早く是緒羅がPKバリアーを張り、息を整えてから、二人声を揃えて言う。

「「アマゾナスフライドチキン・セフィロト店!ご注文の品を……お届けに参りました!」」
「とんでもないタイミングで来たね!君達!」
「ある意味グッドタイミングですわ」

 汗だくでチキンを差し出してくる二人に、レオナは声を上げた。ナンナだけは全く動じずに、勝手に「これが配達というものなんですわね」などと感動していた。
 物凄い剣幕でチキンがてんこ盛りになっているバスケットを差し出してくるエリアに押されて、レオナがそれを受け取った。間髪入れずに差し出される手を見て、訝しげにエリア達を見る。

「えっと………何?」
「お金下さい。35レアルになります」

 疲れながらも真顔で言ってくるエリア。レオナは、慌ててバスケットをナンナに手渡して、手持ちのお金の入った袋を取り出す。そして、中から代金を引っ張り出して渡した。バリアーが張られているとは言え、とても敵に囲まれている状況のやり取りには見えない。
 ナンナはバスケットの蓋を開けて、中のチキンにカプリ、と齧り付いた。そのまま咀嚼して「美味しい」と微笑んでいる。
 レオナは何とも気が抜けそうになるが、まだ戦闘中と言う事もあり、すぐに気を引き締めた。

「悪いけど、もうちょっとバリアー張ってて」
「は、はい」

 是緒羅が返事するよりも早く、レオナはチキンにかぶりついた。肉からまだ湯気が立っているのを見て、エリアと是緒羅は安堵の溜息を吐く。
 どうやら、『冷める前に届ける』の任務は果たせたようだ。給料も無事に貰う事が出来るという事だ。
 ………これで、アルベルトとシオンの犠牲も報われる事だろう(死んでません)。
 レオナとナンナが、チキンを一通り食べ終わると(J.Bは失神していた)、是緒羅が言う。

「これで配達終了です。このバリアー、もう解いても良いですか?」
「良いよ。でも、アフターサービスって事で、ちょっとだけ手伝って。もう仕上げの段階だから」
「……そうですね。これぐらいはお手伝いします」

 そう言い、エリアがPKで武器を作り出す。レオナもチキンを食べて回復したのか、二振りのブレードをブン!と振り上げる。
 ナンナは、チキンの入ったバスケットを邪魔にならないように置いて、J.Bを持ち上げて病院の方へ駆け出す準備をする。何げに腕力には自身のあるお嬢様だった。

「いきますよ?せーの!」

 PKバリアーが突如として消え去る。バリアーの外で待機していたケイブマン達は、援軍を迎えて攻守逆転した戦いに挑む事になり、長く掛からずに、退却していった………





■エピローグ■

「ただいま〜!」
「戻りました」

 エリアと是緒羅の二人が、店の裏口から店内に入った。帰りは病院で借りたバギーを使っていたが、流石に帰りもあんな大騒動になるのは懲り懲りだったため、ビル群を回避し、時間を掛けての期間だった。
 エリア達は、先に戻っているであろうアルベルトとシオンを探した。そして、ロッカールーム前で、真っ白に燃え尽きている二人を発見して後退った。何だか二人とも、「燃え尽きたぜ………」という感じに、いい感じで魂が抜けている。ロッカーに背中を預けて、床にへたり込んでいた。

「ど、どうしたんですか?!」
「ああ、エリア達か…………生きて帰って来れてよかったな」
「はぁ、それはそちらこそ……ってどうしてそんな風に燃え尽きてるんですか?」
「ふん。これを見るが良い」

 そう言って、アルベルトが給料明細書を差し出す。今日の分も記載されているはずだが、ちゃんとチキンは温かいままで届けて………



―――バギー弁償代―――



「?!?!?!?!?!??!?!?!?!」
「そう言う事だ。四等分されているが………これなら内勤の方が給料が良かったな」

 遠い目をするアルベルト。シオンも、普段からの冷静さが災いしてか、ただでさえ財布の中が乏しいと言ってこの店にアルバイトに来たのに、グレネード弾などの出費がかさんで来ている事を分析してしまい、まるでこの世の終わりであるかのように落ち込んでいる。
 エリアと是緒羅も、呆然と今日の苦労を思い出し、ズーンと肩が重くなった。




 命がけで熱々のチキンを配達するのが売りのアマゾナスフライドチキン・セフィロト店………果たして、この店の配達員に幸福が訪れる日は来るのだろうか?
 それは、本当に誰にも分からない事だった………












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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0375  シオン・レ・ハイ 男 46歳 オールサイバー
0552  アルベルト・ルール 男 20歳 エスパー
0536  兵藤・レオナ 女 20歳 オールサイバー
0579  ナンナ・トレーズ 女 22歳 エスパー
0592  エリア・スチール  女 16歳 エスパー
0593  大道寺・是緒羅 男 20歳 エスパーハーフサイバー


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 ■         ライター通信         ■
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 こんにちは、メビオス零です。今回のご依頼、本当にありがとうございました。
 何度も私のようなものに(そうでない肩もおりますが)書かせて頂きまして、誠にありがとうございます。そして、毎回期限ギリギリ(公開時には納品日時オーバー)で
すみません。
 シナリオの感想や要望などをお送り頂けたら幸いです。自分でも反省点を抜き出したりとかしているんですが………たぶん抜き出せ切れてないです。いえ、たぶんじゃないです(涙)
 まだまだ未熟者ですので、なにとぞ、よろしくお願いします。(・_・)(._.)