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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【オフィス街】逃げろ!





「う〜ん、これは動くかな?何処かにスイッチは……」

 ギルハルト・バーナードは、ガラクタの山から出てきたケースのような物を丹念に撫で回し、探っていた。すぐ近くで探索をしていたシーム・アレクトは、その光景を見て慌てて忠告する。

「あ!おじさん、丁寧に扱ってよ!もし警報が鳴ったらどうするのさ!?」
「大丈夫だよ、シームちゃん。こんな事は何回も何回もやってるんだから……」

 そう言いながら、ケースをひっくり返したり殴ったり、蓋を強引に開けようとしている。とてもではないが“丁寧”な調べ方とは言えず、見ている側としてはハラハラさせられる。そして……

ビーーーーーーーーーーー!!!

 鳴った。容赦なく。このオフィス街ではもっとも鳴ってはいけない警報の音が鳴ってしまった。それと共に、ずっと遠くの方からガシャンという金属的な音まで響き始める。探索の過程で、このビルが軍事関係の“開発”をしていたことが分かっていた。そんな場所だ、ケース一つにでも警報が鳴るような仕掛けがあっても、そうおかしい事ではない。
 ついでに、軍事系の警備システムは特に厳しい。シンクタンク系の機械類だろうが、何にせよ、出てこられると厄介だ。何せ、侵入者を“鎮圧”するのが目的である他のビル(会社)と比べると、確実に相手を打ち倒すのが目的にされているのだから………

「わー!鳴っちゃってるよ!?」
「あはは。ごめんね〜」
「『ねー』じゃないから!そのまま動かないで!」

 シームが、笑って後頭部を掻いているギルハルトに言ってから、手近な端末に走った。まだ端末が生きているのを確認してガッツポーズを極めると、すぐに操作を開始する。
 素早く手を動かすシームによって、警報はすぐに止まった。しかし、一時でも鳴った警報を無かった事には出来ない。既にビル内には、何体ものシンクタンクが出て来てしまっているのが、端末で調べるまでもなく音で読み取れた。既に耳で聞き取れる範囲にいるのだ。ガチャンガチャンと金属的な、昔のロボットのような、静音性を考えていない音が響く。そして、それはすぐに姿を現した。
 カニともサソリとも付かないシルエット。強いて言えば蜘蛛か……どちらにせよ、なかなか独特な外見だ。胴は二つに分かれていて蟻を連想させる。両腕は四本指の砲になっており、真ん中に黒い穴が開いている。口に相当する所にはマシンガンの銃身がハッキリと見えている。目の部分は真っ赤なスリット、全身のほとんどが暗褐色な為、その目が異様に目立っている。尻尾はない。X-AMI38スコーピオンには似ていないが、もしかしたらそれよりも旧式なのかも知れない。または室内戦に特化したバージョンとか……
 どちらにせよ、初めて見るタイプのシンクタンクに、ギルハルトとシームが目を見開いた。その隙に、シンクタンクがこちらを素早くスキャンし、判別する。

『ターゲット識別。社員該当者無し。侵入者と認識。攻撃レベル。ターゲット確認。排除開始』

 止める暇もなく、自分達は敵と認識されてしまった。現れたシンクタンクは、二人に向かって左右の腕を振った。
 咄嗟にその場を跳ぶギルハルト。標的にされているシームの手を強引に引っ張って、シンクタンクの腕から放たれる大きな光線を回避する。工学系兵器が内蔵されているのだ。ギルハルトは、この時点で明らかにスコーピオンよりも攻撃に特化したタイプだと判断した。シームの後ろにあった端末は、膨大な熱量であっと言う間に焼き切られて、拉げるように凹んでいる。一撃でも当たったら重傷は避けられそうにない。
 ギルハルトに抱えられたシームは、光線が放ちたれ、そして消えると同時に懐から銃を取り出した。素早くカートリッジを電磁戦用に入れ替えてシンクタンクに標準、発砲する。
 この距離なら自慢のゴーグルに頼る必要もない。弾丸はシンクタンクの中枢……後頭部に当たる部分に叩き込まれた。何発も撃ち込まれたために、特に厳重に守られているはずの中枢部に、弾丸が到達する。弾丸は電子回路を狂わせ、瞬く間にバグを引き起こした。
 バグを引き起こして動きがぎこちなくなるシンクタンクを置いて、二人はすぐにその部屋を後にした。あまりグズグズしていると、他のシンクタンク達がやって来てしまう。あんな敵を一々相手にしていたら、いくら対機械専用の弾丸を持っていても、いつかはやられてしまうだろう。

「だから言ったのに!」
「うん。これは俺が悪いな。ごめんねー。返ったらケーキでも奢るから」
「子供扱いしないでよ!ってまた来た!」

 疾走しながら言い合っていたが、シンクタンクが目の前に現れた事でそれを止めた。狭い通路でも、さほど大きい型ではないシンクタンクは、人と同じ感覚で、こちらに迫ってくる。
 中枢部にピンポイントは無理だろうが(見える範囲にない)、それでも当たり所が良ければ効くバズだ。
 特製の銃を構えるシーム。だが目前のシンクタンクは、いざトリガーを引こうとする所で、真っ二つに断ち切られた。二つに割れたシンクタンクの向こう側から、一緒に来ていたもう一人の仲間が現れる。

「レオナちゃん良い所に!!」
「何処に行ってたのさ、キミ!」

 正反対の反応を示す二人に、兵藤・レオナは苦笑を漏らした。手にはMS用単分子高周波ブレードが握られている。レオナはあちこちに小さな傷を作っていた。どうやら、警報が鳴ってからすぐに二人の元へと戻ろうとして、シンクタンク達と遭遇していたらしい。既に自動修復が始まっており、少しずつ傷が塞がっていっていた。
 そんなレオナの後ろから、今度は来る時にはいなかった男が現れた。
 シオン・レ・ハイである。彼は、単独でここに侵入していたのだが、突如として鳴った警報を止めるために、端末のある部屋を探していてレオナと出会ったのだ。

「まぁまぁ。ぁ、彼には、すぐそこで会ったんだ。この際だから、全員でサッサと逃げようよ」

 レオナがそう言って、詰め寄る二人を押しとどめた。なんせ“護衛”………つまり戦闘担当が、単独でどっかに行ってしまっていたのだ。怒っても仕方ない事である。

「そこまでにしておきましょう。また来ますよ」
「「う……分かった」」
「それじゃ、早く行こう!」

 シオンに仲裁されて、ギルハルトとシームの二人が渋々引き下がってくれた。確かに、今は争っている場合ではない。こうしている間にも、どんどん敵が集まってくる。
 こんな所にいつまでもいるのは危険だ。警報が鳴った以上、探索は中止。すぐに逃げるに限るのである。
 決して納得したわけではないが、しかしそれ以上の追求をする暇もなく、追いついてきたシンクタンク達によって、四人は否応なく逃走せざるを得ない状況に追い込まれていった…………








 一時間が経過した。
 しかし、それでもまだ四人はビルから脱出出来ないでいた。原因は二つあり、シンクタンクが特に念入りに出入り口を固めているという事。
 そしてもう一つは………
 超重量級であろう、シンクタンク達の親玉が、ズッシリといるためである。ただ単に大きくしただけのように思えるが、しかしそれでも、その装甲の頑丈さが窺える。一体どこから出て来たのかがすごく気になるが、気にしている余裕はありそうにない。でかいだけあって、内蔵兵器の威力もダンチだと思って良さそうだ。
 一体、このビルはここまでの警備システムで何を守っていたのだろうか?

「厄介な物ばかり置いてあるね。ここ」
「入る所を間違えましたか………どうします?」
「どうするもこうするも、こんな固い壁を破って脱出するわけにも行かないし………やっぱり一点突破?」
「あの防衛網を抜けるの?言っておくけど、ボクの特製弾丸は、後五発しか残ってないよ?」
「それならボクが突っ込んでいこうか。まだまだ行けるよ」

 隠れてコソコソと相談していた四人。自信満々にブレードを振るレオナ。それを見て、「突貫させちゃおうかなー」なんてギルハルトが呟くのを、シーマが小突いた。
 シオンはシンクタンク達の方を窺いながら、三人の方へと向き直った。

「何にせよ。あまりここにジッとしていられません。もうそろそろ、ここにも捜索が来るでしょう」
「まぁ、機械だからね。それこそ隅々まで侵入者がいない事を調べるだろうさ・・・ッてもしかして、もう来る?」
「はい。こちらにソーサーが来ます」

 揃って顔を、壁から少しだけ覗かせてみた。確かに、円盤型のタクトニウムのソーサーが、こちらへとフワフワ浮かびながら迫ってくる。敏捷的な動きではないが、少しずつ迫ってくるというのが、むしろメンバーを焦らせた。
 もうあまり時間はない。

「仕方ないね。じゃ、シオンさんとレオナさんで先陣を切って、ボクとギルハルトさんで後方支援って事で良い?」
「異議無し……行くぞ!」

 即座にやる事を割り当て、ダッ!と全員で威勢に壁から飛びだした。空を浮いていたソーサーを、シオンが叩き切る。レオナがシンクタンク達の中へと飛び込んで大暴れを始めた。シンクタンク達は、味方にレーザーが当たっても構わないのか、通常サイズのシンクタンク達は、ところ構わずに撃ちまくってきた。
 唯一親玉だけが何もしてこないが、四人の方向へと素早く方向転換している。鈍重そうに見えても、かなりの敏捷性だ。
 火線を潜り抜けて、一体一体確実に切り裂いて仕留めていくシオンとレオナ。その二人を、シームとギルハルトの二人が援護する。
 部下(?)のシンクタンク達を破壊されたためか、親玉が壮絶な金切り音を立てて四人に向かって、腕に内蔵されたレーザー砲を向ける。そしてそのままチャージ……

(ま、まずい!)

 すぐ傍にまで切り込んでいたレオナとシオンの二人は、ほとんど反射的に頭上に全力で飛んだ。レーザーがあちこちに当たっていた御陰で、頭上にあるはずの天井は吹き飛んで穴になっている。

「ギルハルトさんシーム君!避けて!」

 その声が聞こえていたのかどうかは分からない。しかし二人は咄嗟に先程まで隠れていた壁に走り、入り込んで身を隠した。勿論そんなのバレバレなのだが、真っ直ぐな廊下でレーザーの砲撃を喰らうよりかはマシだ。
 チャージが完了すると同時に、レーザーは、敵味方の区別無く薙ぎ払われた……








 周囲は見渡す限り瓦礫の山だった。廊下の壁は、膨大な熱で強引に焼き切られてほとんど無くなっている。様々な場所で、パチパチと火の手が上がっていた。廊下の壁という壁は貫かれ、シンクタンク達すら、その直撃を受け……いや、余波だけで溶解していた。設計者は何を考えていたのか…………こんな物、いくら何でも侵入者の排除にも過ぎている物だ!

「これは……すごい」

 咄嗟に二階に向かって跳んだシオンが呟く。余波で自分の体も少し焦げていたが、これならば後で修復すれば問題ないだろう。レオナは、二階に跳んだ後もう一歩分後方へ跳んで、余波を回避していた。そのため体に傷は負っていない。しかし、そのあまりにも強い威力に愕然としていた。流石に今のレーザーは連射出来ないらしく、放った本人(?)も怪音を発している。

(ギルハルトとシームは!?)

 レオナがハッとして二人を捜して辺りを見渡した。だが二階の壁までは熱くなっているだけで溶けているわけではないため、見渡しても二人を視認する事は出来なかった。
 だが、一階下……天井(レオナにとっては床)に阻まれて見えなかった死角から、跳びだしてくる人影があった。

「ギルハルトさん!?」

 飛び出すギルハルトを見て、シオンは柄にもなく声を上げた。ギルハルトは、親玉シンクタンクの関節部に、拳大の真っ黒な球体を押し込んだ。その球体は、カチカチと音を立てて光っている。ギルハルトは、シンクタンクを跳び越えてその反対側……つまり外へと飛び出した。
 続いて、シームも後に続く。シームは、何やら酷く急ぎながらも、思い出したかのようにレオナ達を振り仰いだ。

「今の内に急いで脱出するよ!!早くしないと、こいつが動き出すからね!」

 その声を聞いて、ハッとしてレオナとシオンが下に降りる。そして間髪入れずに走った。怪音を発しているシンクタンクは、動きが酷く鈍い。たぶん、腕のレーザーだけでなく、このシンクタンク自体が試作段階で警備に回されていたのだ。このレーザーの威力も、要するに調整がされていないのだ。だから機体の限界温度を超えてしまい、自身の作動不良を起こしてしまっている。
 機械系に強い下の二人はいち早くその事に気が付き、素早く行動したのだ。あの球体は……

(爆弾だ!)

 シンクタンクを踏みつけて跳び越えた。レオナに僅かに遅れてシオンが飛び出すと、同時に、タイミングを合わせたかのようにシンクタンクが方向転換を開始した。ガチャガチャと騒がしい音を立てて方向転換する様は、先程までの敏捷性を感じさせなかった。
 そのシンクタンクをほとんど無視して、四人は走った。シームとギルハルトを先頭に少しでも遠くへ行こうと全力疾走する。あの爆弾はそれ程強力な物だのだろうか……?
 親玉シンクタンクは、こちらに走り寄るような事はせず、遠くへ走っていく四人に対して、再びレーザー砲を構えた。チャージを開始する。

「またチャージを始めたよ!」
「大丈夫!このまま走って!」

 レオナが言うと、シームがすぐに叫んだ。全力疾走な為、自然と声が強めになる。
 どんどんチャージが貯まっていく。背後に感じる重圧が強くなっていくの感じながら、四人は必死に走り続けた。そして……
 レーザーのチャージが臨界に達し、膨大な熱量が……

バジッ!

 その時、シンクタンクに異変が起こった。突如としてシンクタンクの周りに電気を帯びたバリアーのような物が発生し、その動きを強制的に停止させる。
 そして、次の瞬間、鼓膜を吹き飛ばさんとするかのような、とんでもない爆発音と爆風が、四人を襲った。

「っ!?!?!?」
「うわぁっ!」
「くっ…」
「むぅっ」

 かなりの距離を離れていたはずなのだが、それでも四人は爆風で吹っ飛ばされた。ギルハルトが尻餅を着きながら言う。

「いやはや……説明書通りの威力だね。『ご使用の際は、爆弾から500メートル以上、必ず離れて下さい』……鼓膜が破れるかと思ったよ」
「そんな物、一体どこにあっの?」
「最初に警報をならしちゃった所にあったケース。さっきのレーザーを喰らった時に、ロックが壊れて開いたんだ。いやぁ、危ない危ない。こんな爆弾の入ったケース振り回しながら持ってて、良く今まで無事だったね!!」

 豪快に笑ってやり過ごそうとするギルハルト。だが残った三人は、黙ってその後頭部を小突いた。ギルハルトは「ごめんごめん」と笑いながら、動かなくなったシンクタンクに走り寄る。それを見て、三人も何をしようとしているのかを思い至って、後に続く。

「まさかこんな事をする事になるなんてね……」
「でも、このシンクタンクの部品、まだ直せば使えますよ。売っても金属が良い物ですから、期待出来ます」
「今日の収入は、このガラクタと言う事ですか……」
「この爆弾欲しい?」
「「「いりません!!」」」

 ギルハルトが差し出してくる、残りの爆弾から慌てて距離を取る三人。
 その後、原形を全く留めずに破壊されたシンクタンクの部品を回収して、四人はその場を後にした……